福井県立大学地域経済研究所

メールマガジン

  • 能登半島地震への地理学者の対応

     2024年元旦の午後4時10分に、能登半島地震が発生しました。多くの方がお亡くなりになり、焼失・倒壊した家屋は広範囲に及ぶなど、被害は甚大ですが、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。

     私が所属する日本地理学会では、1月6日に災害対応本部を設置し、災害対応委員会のホームページに、会員による調査報告・情報提供を逐次掲載してきている。たとえば、1月14日には変動地形調査グループが、震災直後の航空写真や人工衛星画像をもとに、「令和6年能登半島地震による海岸地形変化の検討結果(第三報)」を公表した。そこでは、能登半島北岸周辺の地盤が隆起したために、北岸に沿って広い範囲で海岸線が沖へ前進したこと、そのため約4.4平方キロメートルの「陸化」が生じたとしている。また、「能登半島北西および北岸では、一部の漁港では海水が入らないほどの隆起が認められ」・・・、「一方、能登半島南部では顕著な変動は認められませんでした」と、隆起域の地域差が指摘されている。こうした地域差の把握は、今後の復興計画を立案する上で、とても重要である。

     1月19日には、断層調査グループの鈴木康弘・渡辺満久両教授が、1月13日~14日の現地調査をもとに、志賀町北部の富来川南岸断層に沿う地震断層を発見したと公表した。1976年に、太田陽子(私の恩師でもある)ほかによる論文「能登半島の活断層」で存在が指摘されていた断層が地表に現れたもので、こうした活断層研究の蓄積を踏まえた対応の必要性を改めて痛感する。

     このように、まずは自然地理学者が活発な対応を示すが、私が専門とする経済地理学を含め人文地理学の研究者はこれからが重要で、「半島部」という過疎地域特有の地震被害への対応の難しさや地震の被害が大きくなった社会・経済的要因を検討したり、支援や復興に向けた計画策定に関わることが求められる。私自身は、東日本大震災から3年半経過した時点で、「東日本大震災後の東北製造業の回復と産業立地政策」と題した共著論文をまとめたことがある。そこでは、内陸部の機械工業に比べ、沿岸部の素材型工業が大きな被害を受け、復旧にも時間がかかったことをデータで示すとともに、広域的観点から地域間の連携を強める政策の重要性を指摘した。

     今回の地震の被害について、経済産業省では、「建物や設備の損傷等の被害が多数発生しているが、被災地域域外のサプライチェーンにも影響を及ぼしうる業種については、約9割が生産を再開又は再開の目処が立っている状況である一方、繊維、工芸品、印刷製造業については、2割強の企業において生産再開の目処が立っていない状況」としている(1月29日時点)。被災状況や今後の回復の見通しに、企業規模や業種の違いが表れていることがわかるが、地域ごとの詳しい実態把握は、まだ先の課題といえそうだ。一方で、鯖江商工会議所による「バーチャルモール」を活用した能登半島復興支援プロジェクトにみられるように、産業集積間ネットワークによる支援といった注目すべき動きが出てきている。

     自然科学と人文・社会科学の双方に軸足を置く地理学の利点を活かして、被災状況の実態把握と復旧・復興に向けた政策的支援に取り組んでいきたい。

    記事を読む

  • 福井県の産業発展に福井県工業技術センターが果たす役割

     以前のコラムでも述べたが、ご存じの通り福井はモノづくりが盛んな地域である。比較的規模が小さな企業が多いにも関わらず、技術力を高め独自の戦略によって競争力の高いモノづくりを行っている。「BtoB」といわれる企業間取引のビジネスが多いことから、一般への知名度は高くないものの、国内あるいは世界シェア1位の製品が多くあることも、大変興味深い点である。

     こうした高い競争力を生み出しているのは、真面目で粘り強い県民性や進取の気風がその根底にあることや、中小企業が多いことを逆手にとって、大企業が参入しづらい市場に目を向けてニッチな戦略を採り、独自性のある製品を生み出していることが要因であることは間違いのない事実であろう。但し、実際にそうした製品を生み出していくためには、多くの資金や労力が必要となることから、地方都市の中小企業にとってはなかなか負担が大きいと考えられる。そうした企業の技術的支援を行う機関として、公設試験研究機関(以下、公設試)が存在しており、日本全体及び地方の科学技術政策として重要な機関と位置づけられている。

     福井県における公設試に関しては、1902(明治35)年に福井県工業試験場が設立されて既に120年以上の歴史がある。1887(明治35)年に製織が始まった輸出向け羽二重織物の改善を図ることを目的として福井県工業試験場が設立され、その後に設立された工業、窯業、建設に関わる試験場が、1985(昭和60)年に統合されて福井県工業技術センターとして現在の地に設置された。

     福井県の主要産業である繊維産業に関しては、前身の組織も含めれば、先述の羽二重織物から人造絹糸そして合成繊維の織物への移行を支援してきており、そこからつながってきた繊維及び化学分野、国内での市場占有率が9割を超える眼鏡枠産業や、繊維機械を基とする機械産業の分野、漆器や和紙などの伝統的工芸品の分野も支援してきている。また窯業の分野では、日本六大古窯のひとつである越前焼の発展を支援してきており、その関連でいえば、窯業試験場時代の場長である千田伸惇氏は、株式会社村田製作所の福井県への誘致に努力し、1951(昭和26)年に同試験場の1室を研究室として貸与して特殊磁器の試作研究を支援し、現在の株式会社福井村田製作所の前身を作り上げることに貢献しているなど、福井県の産業発展に大きく関わっているといえよう。

     同センターにおいては、1.技術相談・技術指導、2.各種試験依頼、3.機器設備・施設の利用、4.研究、5.技術情報提供や成果事例紹介、6.講習会・講演会の実施、7.技術研修・人材育成など、その役割は多岐にわたっている。現在においても、繊維、化学、機械、金属、工芸、建設といった分野に加えて、IoTやAIなどいったデジタル化、オートメーション化などの推進を支援しており、同センターが保有する炭素繊維の開繊技術を活かした複合材料の研究やウェアラブル技術、さらには宇宙分野において、県民衛星「すいせん」で知られる福井県民衛星プロジェクトにも関わっているなど、福井県の技術的な発展を支える存在となっている。さらに大変興味深い事例としては、同センターの支援により眼鏡枠製造の技術を転用して、モーターの高効率化を図るという研究成果が発表されているなど、様々な分野の研究が集まる同センターだからこそ、分野を超えた技術的な連携が行われてこのような成果に結びついているといえよう。

     また同センターの特徴のひとつとして、広く地域に開かれた公設試であることが挙げられる。福井県内の中学校・高等学校を対象とした「ものづくり先端技術体験」や、一般開放されている「常設展示場」の見学が可能となっている。特に後者の「常設展示場」は、非常に広いスペースに、福井県のものづくり産業が持つ優れた技術や製品が数多く展示されており、産業研究や企業研究などにも役立てることが出来る。私自身も学生と一緒に何度も同センターにお邪魔しているが、スタッフの方々はいずれも大変熱心で、丁寧にわかりやすく説明をしてくださるおかげで、学生も楽しみながら学ぶことが出来て大変感謝している。

     公設試は一般の方々にはなかなか馴染みがない組織かも知れないが、地域の産業発展を支援する非常に重要な機関であり、同センターが「縁の下の力持ち」として下支えしてきたことによって、福井県の産業発展につながってきたといえよう。同センターでは、例年一般公開も実施されており、福井県のものづくりの全体像やそれを支える公設試の役割について学ぶことが出来る。小中学生対象の体験コーナーなどもあり、家族で楽しめるイベントとなっているので是非足を運んで頂き、同センターの役割や福井県のものづくりについて関心を持って頂ければと考える次第である。

    (参考資料)
    福井県工業技術センター編『福井県工業技術センター100年史』福井県工業技
    術センター、2002年。
    植田浩史・本田哲夫編著『公設試験研究機関と中小企業』創風社、2006年

    (WWWサイト)
    福井県工業技術センターWWWサイト
    URL: https://www.fklab.fukui.fukui.jp/kougi/index.html

    記事を読む

  • 日本税理士会連合会の寄附講座に思う

     福井県立大学は、その前身である福井県農業技術員養成課程からは1920年以来103年、経済学部の前身である福井県立短期大学経営学科からは1975年以来48年、そして福井県立大学開学からは1992年以来31年の歴史があり、多くの卒業生が様々な分野で活躍している。県内企業へ調査に伺うと県大経済学部の卒業生を紹介していただくことも多々あり、とても心強くまた活躍している姿を嬉しく思う。

     そんな先輩達を含む現場の声を学生に直接届けようと、経済学部では様々な機会を学生に提供している。今年度の後期には、日本税理士会連合会による寄附講座「実務から学ぶ会計と税務~税理士による租税講座」が開講されている。この講義では、実際に税理士として活躍されている方々を講師に迎え、実務家の立場から、税理士の仕事や会計・税務について講義を行っていただいている。

     講義の内容は、税理士制度と各種税務の解説(消費税、相続税、所得税、法人税)であり、実務に即したより実践的な学習となっている。また、社会で活躍する税理士が直接学生に声を届けることで、税理士という専門職や、その社会における役割・実際に行っている仕事、その魅力を伝え、税務制度ひいては社会について理解を深めることも目的としている。

     講義では、福井県立大学で一番大きな講義室いっぱいの学生が、真剣に話を聞いている。講師の税理士の方には思いや自身の経験・人生を、毎回熱く語っていただいている。今回の租税講義は憲法から始まった。税が国民主権、自由主義・民主主義国家を支える根幹であること、公平性の話、そして具体的な税の話へと展開されていった。「取られる」だけの存在だった税に対する認識を学生は大きく変えている。身近な消費税の話はもちろん、家族の相続にまつわる実体験やアルバイト代の源泉徴収、バイトで発行する領収書など、学生はこれまでの人生の「謎」について理解し、新たな疑問に気づき、毎回多くのことを学んでいる。とても充実した講義である。

     講師の税理士の方には、短大や大学院を含め福井県立大学の卒業生も多く、現役の税理士(先輩)から現役学生(後輩)に対して、税理士を目指すアドバイスや、税理士への誘いが、毎回熱く語られている。学生の多くはサラリーマンとして企業に就職する者が多いが、中には起業を考えている者、税理士を志している者(税理士をめざすことを決めた学生も)いる。この講義をしっかり聞いた学生は、税理士・税務を身近な存在として理解を深めるとともに、将来社会で活躍し、また社会に貢献できる人財となるだろう。

     さて、学生にはこれから確定申告を行うという課題が課されることになる。一般社会人としては必須の素養であるが、ほとんどの学生にとっては初めての経験であろう。非常に楽しみである。今回は提供中の寄附講座の様子をお伝えさせていただいた。これ以外にも経済学部では学生の学びのため福井の様々な企業にご協力いただいている。最後になりましたが、厚く御礼申し上げます。

    <講義の様子>

      https://www.fpu.ac.jp/news/d000000zzzzzzp.html
      https://x.com/fpu_economics/status/1728984490624610595

    記事を読む

  • 脱炭素経営に待ったなし

     今年の4月4日、東京証券取引所は「プライム市場・スタンダード市場・グロース市場」と3つの市場区分をスタートさせた。加えて、プライム市場に上場している企業はTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に沿って、企業が受ける気候変動の影響を「ガバナンス」「戦略」「リスクマネジメント」「指標と目標」の4項目で、投資家を含むステークホルダーへの情報開示が実質義務化された。

     他方、今月の11日、二酸化炭素(CO2)排出量を取引するカーボン・クレジット市場が、東京証券取引所に開設された。18日現在では、電力会社や金融機関などの民間企業に加えて地方公共団体など206者が市場に参加し、初日から20日までの8営業日で累計10,044t-CO2の(J-クレジット)売買が成立した。ちなみに、24日の「再エネ(電力)」の終値は1トンあたり2777円(初日終値は3060円)となった。

     市場で売買され、価格が形成されることで「J-クレジット」価格の透明性が向上する。また、売り手は売却益を得ることができ、得た利益を環境分野に再投資することができるし、買い手は削減が難しいCO2排出量と相殺(オフセット)することで削減目標をクリアできるなど、双方にメリットがある。ただし、低コストでオフセットができるようになれば、企業の排出削減に向けた意識がかえって損なわれるのではないかという懸念も見え隠れしている。ステークホルダーへの情報開示や「J-クレジットは、特定の大企業などが積極的に行う「脱炭素経営」の一環であり、日本の9割以上を占める中小企業は対象外と感じられるかもしれない。

     プライム市場企業は情報開示義務を果たすために、例えば、「指標と目標」の開示として「温室効果ガスプロトコルイニシアチブ」の中に設けられているScope1・2・3の区分別に温室効果ガス排出量を算定することになる。Scope1とは「企業自らによる温室効果ガスの直接排出」、Scope2は「他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出」、そしてScope3は「企業の活動に関する他社の排出(サプライヤーの原材料や顧客の製品使用・廃棄に伴う排出)」である。「脱炭素経営」を始める場合、まずは自社でコントロール可能なScope1・2に関する分野の削減に取り組むことになる。しかし、Scope1・2での取り組みによる削減が限界に近づくと、Scope3の分野に焦点を当てなければならない。取引先→自社→顧客と「脱炭素経営」は、サプライチェーン全体を巻き込んだ取り組みになっていく。プライム企業といえども、自社だけで完結できるものではなくなり、炭素排出量の削減目標を達成するためには取引先や顧客の脱炭素への取り組みを評価し、炭素排出量の削減を要請しなければならなくなる。

     「脱炭素経営」導入の高まりは、2008年のリーマンショック以降、信用崩壊による経済基盤崩壊リスクの次なる重大なリスクが「気候変動」であると、主としてペンションファンドや金融業界が位置づけたことも背景のひとつである。


     ビジネスを、資金の調達→運用・投下→回収→再調達の循環と定義するならば、現時点では対象外の中小企業であったとしても、これらのいずれのフェーズにおいても脱炭素を意識しなければ、いずれ会社や事業の継続・永続が約束されない時代がやってくる。

     また、SDGsを幼少期から学び、SDGsに関する環境問題や社会課題を自分事として捉え、そのような世の中の課題の解決を目指して取り組むサステナビリティ思考を持つ世代の呼称として「SDGsネイティブ」という用語も誕生している。かつての3K(きつい・汚い・危険)を避けた会社選び、職場選び、職業選びの基準のように、脱炭素経営やSDGsに取り組まない企業は人から選ばれない候補外という時代になったともいえるのではないだろうか。であるならば、脱炭素経営を行っていない企業は、ますます人材確保が困難になっていく。

     気候変動が起こった際のBCP(事業継続計画)が説明できる企業への転換、環境分野への積極投資(DX化や環境配慮型の設備導入など)、脱炭素を絡めた事業の構想・創出やリクルートの実施などから目を背けてはいられない。

     大企業、中小企業を問わず、脱炭素経営の推進は、待ったなしである。

    記事を読む

  • 福井県の人口減少とジェンダー

     福井県の人口減少は、全国を上回る水準で進行している。その要因は、1.自然減の進行、2.社会減の進行、に分けることができる。1.自然減に関しては、合計特殊出生率は全国平均を上回っているが、先行する高齢化による死亡者数の増加を補える水準には達していないことによる。2.社会減に関しては、2020年の転出率が1.58%(全国38位)、転入率が1.39%(全国35位)といずれも全国平均を下回り、定住性の高い地域となっているが、転出率が転入率を上回ることで進行することになる。
     福井県の人口減少の原因を探る目的で、2020年8月1日から21日にかけて、インターネットによるアンケート調査を実施した。対象者に関しては、「福井県出身者および福井県になじみのある方で、福井県外および福井県内に居住されている18歳以上の方」とした。福井から出ていった人たちに関しては、東京都県人会、大阪府県人会の協力を得て、そのメーリングリストを用いて登録者に回答を依頼した。他にも福井県立大学のHPを用いて卒業生などに回答を求めた。有効回答数は588である。回答者の就学年数に関して、大卒相当と思われるものが60.2%、大学院卒相当と思われるものが20.7%に達した。日本の大学進学率が5割程度、大学院進学率が6%程度であることを考えると、極端に高学歴層に偏ったデータとなっている。
     昨年の9月30日のコラム(塚本担当)では社会減の進行に関して、誰がどのような理由で、1.福井県から出ていくのか、2.出ていかずに残るのか、についてアンケート調査のデータ分析を通して検討した。分析の詳細に関しては、『新しい〈地方〉を創る』(杉山友城編著、晃洋書房、2022年)の2章をご覧いただきたい。
     まず、上記の検討結果を概観しておきたい。福井県との関係を基準に居住経路を、「定住」(進学、就職、結婚などの契機を経ても、福井県に留まり続けているグループ)、「流出」(上記の契機を経て、福井県から転出し、戻ってきていないグループ)に分類し、この2グループを比較した。それぞれの人数は、「定住」が125人(40.3%)、「流出」が185人(59.7%)であった。高学歴層で、福井県に残った人、出て行った人、とは、どんな人たちなのだろう。
     アンケート調査では、仕事、人生の楽しみやすさ、日常生活、人間関係の4分野に関連して、それぞれ14項目、8項目、10項目、10項目の質問をおこない、「しやすい」、「どちらかといえばしやすい」、「どちらともいえない」、「どちらかといえばしにくい」、「しにくい」の5段階で回答を得ている。
     質問項目をより少数の要因(因子)に縮約する目的で、4分野ごとに因子分析(最尤法、プロマックス回転)を実施した。仕事関連の項目からは、3つの因子が抽出され、因子1は、「仕事の幅を広げる」、「職業上のスキルを磨く」、「キャリアアップする」、「高収入を得る」といった項目との結びつきが強いため「キャリア形成評価」に関する因子であると解釈した。因子2は「仕事と介護の両立」、「仕事と子育ての両立」といった項目と結びつきが強いため「ワーク・ライフ・バランス評価」、因子3は「働き口の見つけやすさ」、「働き続けやすさ」と結びつきが強いため「就業機会評価」、と名付けた。
     人生の楽しみやすさ関連の項目からは、2つの因子が抽出され、それぞれ、「趣味を深める」、「好奇心を満たすと」などとの結び付き、「最新の情報を得る」、「流行のものを手に入れる」との結び付きが強く、「余暇評価」と「モード評価」であると解釈した。
     日常生活に関連する項目からは、2つの因子が抽出され、それぞれ、「子育てのしやすさ」、「介護のしやすさ」などとの結び付き、「長生きする」、「健康を維持する」との結びつきが強く、「生活評価」と「健康長寿評価」であると解釈した。
     人間関係に関連する項目からは、2つの因子が抽出され、それぞれ、「地域とのつながりをつくる」、「近隣で助け合う」、「親せき付き合いをする」などとの結び付き、「自分の考えを貫く」、「多様性を尊重しあう」、「人目を気にせず生きる」などとの結び付きが強く、「ネットワーク評価」と「寛容性評価」であると解釈した。
     これらの因子を用いて、ロジスティック回帰分析をおこなった。具体的には、「定住」の居住経路に対して、「流出」の居住経路を選ぶ、確率の高さの予測することになる。
     独立変数として、4分野から抽出した因子を投入するが、多重共線性の問題を回避するため、相関係数の値が大きな(0.5を超える)因子からは、片方だけを選んで投入する。具体的には、「キャリア形成評価」と「就業機会評価」からは「キャリア形成評価」を、「余暇評価」と「モード評価」からは「余暇評価」を、「生活評価」と「健康長寿評価」からは「生活評価」を、選んで投入する。「キャリア形成評価」、「ワーク・ライフ・バランス評価」、「余暇評価」、「生活評価」、「ネットワーク評価」、「寛容性評価」の6因子に加えて、跡継ぎの候補者(一人っ子、長男、男兄弟のいない長女)であるかどうかも独立変数に加える。6因子に関しては、因子得点の中央値を基準として2分割(評価している/評価していない)したうえで投入する。結果は、以下の通りである。
     「定住」を基準として、「流出」の経路を選ぶ確率の高さを予測する上で、役に立つ(統計学的にみて有意である)のは、「キャリア形成評価」と「寛容性評価」の2因子(5%水準で有意)で、オッズ比からは、「定住」に対して「流出」の経路をたどる確率は、1)キャリア形成のしやすさを評価していると0.547倍になり、2)人間関係ついて寛容性を評価していると0.575倍になる。同じことの言い換えになるが、「流出」の経路をたどる確率は、1)キャリア形成のしやすさを評価して「いない」と1.828倍、2)人間関係ついて寛容性を評価して「いない」と1.739倍になる。職業上のキャリアアップを重視し、地域のしがらみの強さ(社会関係資本のダークサイド)を嫌うものが、福井県から出て行って戻ってこないという構図が推察される。
     今回は追加の分析として、データを男女別に分けて、上記と同様のロジスティック回帰分析をおこなった。内訳は、男性が166人(54.1%)、女性が141人(45.9%)である。男性の居住経路の予測に有効な因子は、「キャリア形成評価」の1因子(5%水準で有意)のみ、女性の居住経路の予測に有効な因子は、「余暇評価」、「生活評価」、「寛容性評価」の3因子(10%水準で有意傾向)であった。「定住」するか「流出」するかの決め手になっているのが、男性では職業上のキャリア形成のしやすさであるのに対して、女性では暮らしやすさの評価であるといったコントラストが浮かび上がってくる。「流出」の経路を
    たどる確率は、男性では、キャリア形成のしやすさを評価して「いない」と2.46倍になり、女性では寛容性を評価して「いない」と2.23倍になる。
     男性の人口流出に関して、進学や就職に際しての魅力的な受け皿の少なさが一因になっていることは間違いなさそうだ。実際には、福井県にはユニークな技術力を有する中小企業が少なくない。大企業に就職して埋没してしまうより、活躍の機会が豊富な中小企業で実力を発揮するといった選択肢の魅力を伝えていく取り組みが必要かもしれない。
     女性の人口流出に関しては、ジェンダーに関するアンコンシャスバイアスの根強さが影響していると考えられる。福井県は定住性の高い地域で、血縁・地縁のネットワークがそれなりに維持され続けている。こうした社会関係資本の豊富さは、福井県の暮らしやすさの一因でもある。一方で、こうした既存のつながりは結節型のネットワークと呼ばれ、それが強すぎると、よそ者や少数者を排除する傾向や同調圧力が強くながりがちであることが知られている。ジェンダーに関するアンコンシャスバイアスが温存され、女性の意思決定過程への参画を困難にするといった弊害も予想される。共働き率が58.6%(平成27年国勢調査)と日本一の福井県で、女性の家事・育児時間(週平均)も2時間44分と日本で3番目に長くなっている(平成28年社会生活基本調査)。女性が働いていて当たり前、その上で、家事も育児も介護も女性が中心になって担って当たり前、といった状況では、女性は時間的なゆとりに乏しく、社会活動への参加や職業上のキャリアアップが困難になる。
     働く場所は豊富にあるが、働き方の選択肢は少ない。地縁・血縁のネットワークが豊富で、社会的なつながりに包摂されて暮らしていけるが、スタンダードからの逸脱は許容されにくい。福井県の特徴の光と影の部分への評価の違いが、そのまま居住経路の選択にも影響していることが明らかになった。福井県は「福育県」として子育てのしやすさをアピールして、人口の流入を促進しようとしているが、人口減少という文脈からは、若い女性に愛想をつかされないような地域づくりを進めていく必要が浮かび上がってくる。

    記事を読む

  • 生産性の低下を防ぐ!熱中症警戒アラートと熱中症予防対策

     各地で猛暑・酷暑が続く今年の夏は、福井県でも連日熱中症警戒アラートが発表されています。この暑さは、熱中症リスクの高い高齢者や乳幼児等の熱中症弱者のみならず、地域の経済活動を担う労働者にとっても厳しいものになっています。
     熱中症警戒アラートは、環境省と気象庁が連携し、熱中症の危険性が極めて高くなると予測された場合、危険な暑さへの注意喚起と効果的な熱中症予防行動をとることを促すための情報で、令和3年4月下旬から全国で運用されています。熱中症は、体温が上がり体内の水分や塩分のバランスが崩れる、体温の調節機能が働かなくなり臓器が高温になることで発症する病気で、重症度により3つの段階があります。1度:現場での応急処置で対応できる軽傷の症状は、めまいや立ちくらみ、筋肉痛や筋肉の硬直(こむら返り)、大量の発汗で、2度:病院への搬送を必要とする中等症は、頭痛・気分の不快、吐き気、嘔吐、倦怠感、虚脱感などです。3度:入院して集中治療の必要性がある重度になると、意識障害、手足の運動障害、けいれん、高体温で身体全体が熱くなります。
     熱中症は、家の中でじっとしていても発症することがあり、気温が低い日でも湿度が高いと熱中症にかかります。令和4年消防庁による発生場所別の救急搬送人員をみると、住居が最も多く、次いで道路、公衆(屋外)、仕事場の順となっています。自宅や職場など直射日光が当たらない場所でも、温度・湿度管理が重要です。
     熱中症は死に至る可能性がありますが、予防法を知りそれを実践することで防ぐことが可能です。また、応急処置で重症化を防ぎ、後遺症を軽減することができます。熱中症予防の基本は、脱水と体温の上昇を抑えることです。具体的には、薄着になる、日陰に移動する、水浴びをする、冷房を使う等です。脱水予防では、のどが渇く前からこまめに水分を補給すると効果的です。また、汗をかくと水分と同時にビタミンやミネラルも失われるため、その補給も必要です。そして、日頃から運動で発汗する習慣をつけ、暑さに身体を慣らすと良いと言われています。
     熱中症が疑われたときは、応急処置として、日陰やクーラーが効いた涼しい場所に移す、衣類を脱がせ露出した皮膚に冷水をかける、うちわ等で風をあてる、首や脇、ももの付け根に氷をあてる、水分と塩分補給を行います。意識障害のある方は誤嚥(むせ)のリスクがあるため、無理に飲ませないことです。水分をとることができない、呼びかけへの返事がおかしい、反応がない場合は迷わず救急車を呼んでください。
     地域の生産性を維持するためには、地域で働く労働者が自らの健康を管理することが重要です。酷暑の夏、私たち一人ひとりの熱中症予防対策が求められます。

    記事を読む

  • 「フィールド」から学ぶ

     夏である。夏は、大学の学生にとっては講義がなく、あちこちに行って経験を積むことが可能な季節である。企業あるいは官公庁等に勤める社会人にとっても、夏はプライベートを含めて、あちこちのフィールドに行くことが多い季節であろう。私も、福井の発展にとって有用と思われるフィールドをいくつかはこの夏、見に行く時間を取りたい。
     観察、視察をするというのは非常に重要である。社会人は、出張というかたちで現場、フィールドを見に行っている。例えば、ベテランの企業の人達は、工場とかお店の現場を見て「こことだったら取引できる、貸せる、こいつだったら駄目だ」と、現場の雰囲気という様な観察の目を育てて、それで最後は人が判断する。
     フィールドから得られるのは、不定形の、わかりにくい情報である。学生によく話すネタだが、ねずみの絵のイラストを元にお金を貸せますか、投資を出来ますか、という話をする。君らが銀行マンだったとして、ねずみの絵を持って来て「これ良い絵でしょ、これでちょっと事業を興したいんですけど、お金貸してくれますか、もしくは投資してくれますか」といわれた場合どう判断するか。普通は財務諸表がありますか、土地の担保がありますかとか、で判断する。ねずみの絵といった不定形のわかりにくいものでは貸せない。でも実際に貸した人、投資をした人がいる。
     借りた方は有名人なので皆さんもご存じだろう。借りた方の人はウォルト・ディズニー、ねずみはミッキーマウスである。
     AIが発達したとしても、AIにねずみの絵を読み込ませて、売れるかどうかの判断は無理であろう。最終的には人の目、視察、不定形な情報というもので判断する。これは100年以上前の話だけど、これからの我々はAIに対抗しないといけない。その為には、現場の不定形のわかりにくい情報から判断する力を養う必要があるのだろう。ねずみの絵に投資することを決断したアーカンソー州の投資家のお金を元にして、ミッキーマウスの最初の映画が出来た。
     学生はフィールドワークが大好きというのがあるのだけど、半分位楽しそうとか、楽そうというイメージが無いわけではない。本を読むのは苦痛、理論はつまらない、だからフィールドワークという。
     ところが、フィールドワークや視察は結構難しい。見てその何をみるべきかが分かるか。何を見ることかがわかったとして判断できるか。重大な結論、決断、例えばお金を貸せるかといった事、新規のビジネスを立ち上げるということに対して、自信を持ってこのポイントでこう見たからこう言える、という様な事は出来るか。
     学生は会計や統計などは難しそう、フィールドワークは簡単だと思う場合がある。しかし、統計や会計というのは、物事を分かり易くする為の技術である。見方がわかれば、誰でもわかる。わかるように発達、発展してきた。
     フィールドワークのフィールドは「野生の情報」、わかりやすくする為の加工が全くされていない原野だから、それを見て何かを判断するのは結構きつい世界である。しかし、それが出来る人材が社会には必要で、それがAIに負けない人材の一つのかたちであるだろう。

    記事を読む

  • ウェルビーイングの視点から見えてくるもの

     福井県は、客観指標による客観的幸福度で幸福度日本一であると言われる。しかし、一人ひとりの主観的幸福感を表す主観的ウェルビーイング(SubjectiveWell-being)の観点から人々の暮らしを見つめた場合、見過ごされている課題はないだろうか?
     福井県は、一般社団法人日本総合研究所が発表する全47都道府県幸福度ランキングにおいて、5回連続で総合1位と高い評価を得ている。
     ただし、全47都道府県幸福度ランキングの調査結果は、各種客観指標による客観的幸福度を統計データから数値化したものであり、県民一人ひとりの主観的な幸福感、すなわち主観的ウェルビーイングを県民に尋ね反映したものではないことに留意が必要だ。
     世界の幸福度に関する潮流を捉えると、人々の幸福・幸せへのアプローチのメインストリームは、主観的ウェルビーイングの測定にある。昨今、様々な国際機関・国・地域にてその実践が見られる。
     例えば、国連のThe Sustainable Development Solutions Networkは、世界140ヶ国以上を対象にし、人々の主観的ウェルビーイングを測定。国レベルとしては、ブータン王国のGNH政策が有名であり、近年では、ニュージーランド、アイスランド、スコットランドなどウェルビーイングを国家運営の中心概念として据える国々が増える傾向にある。
     また、日本の公共政策の現場においても、2021年に政府の重要方針に記載され、ウェルビーイングの視点を重要視する動きが高まっている。
     このように人々の幸せや地域の豊かさの状況を、社会基盤に関する客観データばかりでなく、個々人の主観的ウェルビーイングの測定を通じ見える化し、その結果を公共政策に活用していくことが求められているのだ。
     そこで、福井県の実施する県民アンケートにおいて、主観的ウェルビーイングに関する調査項目を追加し、ウェルビーイングの視点から福井県の地域づくりの課題と可能性を考察する調査研究をおこなった。
     その一部を紹介すると、全47都道府県幸福度ランキングでは、「仕事」分野において、福井県は6回連続の全国1位。雇用領域における客観指標となる、若者完全失業率・正規雇用者率・高齢者有業率・インターンシップ実施率・大卒者進路未定者率は、軒並み全国トップクラスであり、この点から課題点は見られない。しかし、主観的ウェルビーイングの視点から調査すると、“魅力的な職場”であるかや“チャレンジできる環境”であるかなどの職場環境の質的な状況に対しては、必ずしも県民の満足感が高くない現状が見えてきた。
     客観的幸福度と主観的ウェルビーイングに関する調査結果を相互比較するこ
    とで、あらためて見えてくるものがある。

    (本コラムは、下記の研究論文内容の一部を取り上げ編集したものとなります。)

    高野翔(2023)「ウェルビーイングの視点からの福井県の地域づくりの課題と可能性―福井県県民アンケートの調査結果からの考察 ―」『ふくい地域経済研究』Vol.36.

    記事を読む

  • 【雑感】「社人研推計」をどう読むか

     大型連休直前の2023年4月26日(水曜日)、人知れず社会保障審議会の人口部会が開かれた。人知れず、とあえて書いたのは、一般の方々にはこの会議のことがほとんど知られていない、と思ったからだ。
     ここで何が話し合われたかというと、2020年「国勢調査」の男女年齢別人口を基準とした「将来人口推計」の結果だ。新推計の考え方については、昨年10月末の会議で既に、国民の代表である有識者によって審議・承認されている。会合の様子はYouTubeでもライブ配信され、結果は即日公表されたので、テレビやネットニュース等で事後に見知った方も多いかと思われる。現在、下記の社人研HP内リンクからも詳細結果が確認できるので、ご関心の向きは覗いてみられると良いかもしれない。
     https://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2023/pp_zenkoku2023.asp

     厚生労働省・社会保障審議会のなかで、厚労省の付属研究機関である国立社会保障・人口問題研究所の「将来人口推計」が有識者に諮られるようになったのは、平成13(2001)年8月7日からである。第1回人口部会において当時の政策企画官が冒頭にこう述べている。
     “我が国の将来人口推計につきましては、5年に1回、国勢調査の人口をベースとして推計を行っております。この推計結果につきましては、年金の財政再計算、雇用対策基本計画、経済計画等の労働力人口推計、その他の各種計画の需要予測等の基本的なバックデータとして用いられる極めて影響の大きいものでございます。従来その推計は国立社会保障・人口問題研究所(旧人口問題研究所)で行っておりましたが、本人口部会におきましては、国立社会保障・人口問題研究所が行う次期将来人口推計の考え方や推計の前提について検証を行うことを目的として開催するものでございます。”

     それから20年余りを経て、社人研推計は5年ごとの実施を通じて着実に技術的な進歩を重ねてきたように思う。小生も社人研・推計メンバーの一人として2006年12月推計と2012年1月推計に携わらせていただいた。特に印象に残っているのは2012年推計で、2010年実施の国勢調査結果を基準人口として推計作業をしていた最中に、東日本大震災があり、出生、死亡、国際人口移動、すべての仮定値を見直さざるを得なくなったように記憶している。
     そして今回の推計は、その時以上に困難な状況下で行われた。コロナ禍中で「国勢調査」が行われ、出生仮定にも用いられる「出生動向基本調査」の実施・分析が遅れた。出生、死亡、人口移動、すべての人口変動要因が、コロナ禍のなかで急変した。推計スケジュール全体が約1年先延ばしになったことで、2022年までの人口動態の実績が概ね把握できるなかでの公表。こういった状況下で行われた推計であるからこそ、ポスト・コロナ、とりわけ今2023年以降の人口動向をどう見通すのか、私も国民の一人として大いに注目していた。
     しかしながら、その公表結果には正直驚かされた。コロナ禍の影響がほとんど加味されていない・・・・。私の抱いた違和感はすでに多くの有識者からも表明されている。これらの指摘がすべて的を射ているとは思わないが、共感できるコメントも少なくない。推計に携わる社人研のメンバーから直接話を聞けば、自身の不勉強による誤解だったと気付かされる点、それは致し方が無いと容認せざるを得ない点がある一方で、“だとしても何故?”と未だ納得のいかない部分が数多く残る。
     少子高齢化と人口減少が国難とさえ言われる昨今、人口に関する国民全体の関心とリテラシーは確実に高まっていると感じる。それだけに、専門外の人にも分かり易いより丁寧な説明が求められるのではないだろうか。国民からの信頼が失われる時、その使命も終わる。老婆心ながらそう考えたりする。

    記事を読む

  • 新聞記事の吟味

     もう半世紀も前になるが、高校生の頃、毎日のように新聞記事を切り抜いて、スクラップブックを作っていたことがある。かなり色あせてしまっているが、オイルショックにいたる過程をたどることもでき、なつかしい。当時は、新聞記事には間違いなどあろうはずもないと思っていた。
     歳をとってきて疑い深くなってきたためか、あるいは新聞記者になった教え子の記事をみる機会が増えたせいか、最近新聞記事を読んでいて、疑問に思うことが時々ある。
     この間もある新聞の一面に、「成長の罠 人材投資で克服」、「復活アイルランド 教育や研究、厚い支援」という見出しが目に付いた。「政府支出に占める教育や研究開発の割合は13%と日本の8%を大きく超える。この結果、IT(情報技術)大手が競って拠点を設け、対内直接投資は30年間で30倍以上に増えた」との説明がなされていた。優秀な人材は、外資系企業を惹きつける要因のひとつではあるが、私が専門とする産業立地論では、アイルランドの成長は、製造業からIT企業、製薬業本社と業種・機能は時とともに変わりつつも、一貫して「租税回避地」として機能してきたゆえと考えられてきた。アメリカなどからの多国籍企業の立地がまずあり、それらの企業のニーズに応えるために、人材投資がなされてきた側面が強いのではないかと思う。新聞記事には、「大胆な規制緩和と減税で外資誘致に踏み切った」とも書かれているが、力点は教育に置かれており、因果関係を見誤る可能性を否定できない。
      もう1つ事例を挙げると、「コンビニ、縮む商圏 店舗当たり人口『3000人未満』9割」と見出しを掲げた記事が、以前掲載されたことがある。そこでは、コンビニ1店当たりの人口をもとに、本地図が濃淡で塗り分けられており、自治体ごとの推計人口を店舗数で割り、1店舗当たりの人口を計算したと説明がなされていた。記事の中で、日本でコンビニ1店当たりの人口が少ない自治体の2位に神奈川県箱根町が挙げられており、店舗数17に対して、人口が1万1,655人とされていた。ここでの推計人口とは、夜間人口(常住人口)をもとにしたもので、箱根のような観光地でのコンビニの消費者を想定したものとはいえない。オフィスで働く昼間人口をもとにコンビニが密集する東京や大阪などの大都市都心部の自治体でも、夜間人口で割っていたとしたら、店舗当たりの人口は、コンビニの実際の「成立人口」から大きく乖離した数字といえる。地域によっては、交流人口や昼間人口を考慮した計算が求められる。「人口減で店舗の経営環境は厳しさを増している」ことは間違いないが、「3000人未満」9割の数字は、大きな誤解を生むことになる。
      挙げ出したらきりがないので、このあたりでやめるが、あまりよいことではないが、最近の新聞記事の中には、因果関係を正しく考察することの重要性、統計データの捉え方で注意すべき点を学生に教える教材になっているものが少なくないのである。

    記事を読む