2024年6月
国勢調査から想う福井県のすがた
この春、御縁をいただき、福井県に住むことになった。この地域のことを統計結果から知りたいと思い、まずは国勢調査結果を紐解いてみた。国勢調査は、5年に一度、10月1日を調査基準日として、すべての人と世帯を対象に行われる日本で最大の統計調査である。そのため、その事務作業量は膨大である。総務省統計局が行う国勢調査の調査員の募集、指示、調査票配布・回収などの調査事務は、地方自治法による法定受託事務として、都道府県を経由し、市区町村にて行われる。市区町村にて国勢調査を担当する統計部署は、選挙管理委員会との併任にて選挙事務にも携わることが多い。政治家は秋の天気の良い10月の休日選挙を目論んで、衆議院解散、総選挙を企図しようとすることがある。しかし、西暦下一桁に0と5のつく国勢調査実施年は、市区町村が10月に国勢調査と選挙の両方の事務を同時に行うことが不可能である。そのため、総務省が解散時期を再考してもらうように政治家に事情を説明すると聞いたことがある。
国勢調査は、住民登録の有無に関係なく,すべての人を普段住んでいる場所で調査する。その結果、国勢調査人口は、住民登録人口と異なり、実際の居住者状態を示すものとなる。そのため、国勢調査人口にて、衆議院の小選挙区画定、比例代表区の議員定数算出,地方交付税の交付額配分、都市計画策定、過疎地域判定などが行われる。特に地方交付税額は、市区町村財政に直結するため、市区町村も調査漏れがないように自然と勢いが入るというものである。私も以前、市職員として国勢調査実施に携わったことがある。その膨大な事務作業を少しでも軽減させるため、現在、専門としている地理情報システムを当時では先進的に活用したことが懐かしく思い出される。 さて、令和2年度国勢調査結果から、福井県の特徴的な結果として目に入ってきたのは、従業地通学地別人口において、福井県は同一県内に通勤通学する人が66.6%と全国1位であったことである。さらに、自らの市町内への通勤通学割合は、福井市、敦賀市、小浜市、越前市において50%を超えている。東京・大阪など大都市居住者は、毎日の通勤ラッシュで膨大な時間と気力・体力を消耗している。福井県は通勤通学での消耗が少ない環境であることも、福井県が幸福度ランキング1位を獲得している要因の一つなのだと感じることができた。
産業別にこの数値をみると、自市町での労働割合が高い産業は、農業、林業、漁業の第1次産業と宿泊業、飲食サービス業であった。逆に他県から通勤している労働者の産業は、情報通信業、運輸業、郵便業が共に2.8%と最も高い値であった。令和6年3月に開業した北陸新幹線により、現在、福井県と他地域とのアクセスが向上し、県外からの通勤・通学者が増加している可能性がある。一方、アクセスの向上は、他の大都市に向かって人流や経済活動が吸い取られていく「ストロー効果」を生むことも考えられる。来年度、令和7年度10月には、次回の国勢調査が実施される。これらの影響が次回の国勢調査結果にどのように反映されるのか。注目されるところである。
インドの産業立地に関するグローバル地域研究セミナー
7月26日(金)の午後、インドの産業立地に関するグローバル地域研究セミナーを開催いたします詳細とお申し込みはこちら。
脱炭素社会に向けた繊維産業に関する地域経済研究フォーラムが開催されました。
今年度第2回目の地域経済研究フォーラムが、6月25日(火)午後に福井県繊協ビル会議室にて、「脱炭素社会に向けた繊維産業政策の新展開と福井産地の課題」をテーマに開催されました。経済産業省製造産業局生活製品課の土川輝係長から、産業構造審議会繊維産業小委員会での議論を中心に、繊維産業政策について説明いただいた後に、当研究所の松原宏と原田大暉から、統計データや新聞記事等の分析、地図作業の結果をもとに、福井の繊維産業集積の変化と今後の課題について、報告させていただきました。
後半のパネルディスカッションでは、福井大学産学官連携本部長の米沢晋教授から、昨年度から進められている「未来創造テキスタイル共創拠点」の形成をめざすプロジェクトについて紹介いただいた後に、福井県繊維協会の藤原宏一会長、福井県織物工業協同組合の加藤英樹理事長より、それぞれの脱炭素社会に向けた取り組みやご意見をご披露いただき、フロアの参加者からのご意見を交えて、福井産地の今後のあり方について議論しました。