2023年12月
福井県の産業発展に福井県工業技術センターが果たす役割
以前のコラムでも述べたが、ご存じの通り福井はモノづくりが盛んな地域である。比較的規模が小さな企業が多いにも関わらず、技術力を高め独自の戦略によって競争力の高いモノづくりを行っている。「BtoB」といわれる企業間取引のビジネスが多いことから、一般への知名度は高くないものの、国内あるいは世界シェア1位の製品が多くあることも、大変興味深い点である。
こうした高い競争力を生み出しているのは、真面目で粘り強い県民性や進取の気風がその根底にあることや、中小企業が多いことを逆手にとって、大企業が参入しづらい市場に目を向けてニッチな戦略を採り、独自性のある製品を生み出していることが要因であることは間違いのない事実であろう。但し、実際にそうした製品を生み出していくためには、多くの資金や労力が必要となることから、地方都市の中小企業にとってはなかなか負担が大きいと考えられる。そうした企業の技術的支援を行う機関として、公設試験研究機関(以下、公設試)が存在しており、日本全体及び地方の科学技術政策として重要な機関と位置づけられている。
福井県における公設試に関しては、1902(明治35)年に福井県工業試験場が設立されて既に120年以上の歴史がある。1887(明治35)年に製織が始まった輸出向け羽二重織物の改善を図ることを目的として福井県工業試験場が設立され、その後に設立された工業、窯業、建設に関わる試験場が、1985(昭和60)年に統合されて福井県工業技術センターとして現在の地に設置された。
福井県の主要産業である繊維産業に関しては、前身の組織も含めれば、先述の羽二重織物から人造絹糸そして合成繊維の織物への移行を支援してきており、そこからつながってきた繊維及び化学分野、国内での市場占有率が9割を超える眼鏡枠産業や、繊維機械を基とする機械産業の分野、漆器や和紙などの伝統的工芸品の分野も支援してきている。また窯業の分野では、日本六大古窯のひとつである越前焼の発展を支援してきており、その関連でいえば、窯業試験場時代の場長である千田伸惇氏は、株式会社村田製作所の福井県への誘致に努力し、1951(昭和26)年に同試験場の1室を研究室として貸与して特殊磁器の試作研究を支援し、現在の株式会社福井村田製作所の前身を作り上げることに貢献しているなど、福井県の産業発展に大きく関わっているといえよう。
同センターにおいては、1.技術相談・技術指導、2.各種試験依頼、3.機器設備・施設の利用、4.研究、5.技術情報提供や成果事例紹介、6.講習会・講演会の実施、7.技術研修・人材育成など、その役割は多岐にわたっている。現在においても、繊維、化学、機械、金属、工芸、建設といった分野に加えて、IoTやAIなどいったデジタル化、オートメーション化などの推進を支援しており、同センターが保有する炭素繊維の開繊技術を活かした複合材料の研究やウェアラブル技術、さらには宇宙分野において、県民衛星「すいせん」で知られる福井県民衛星プロジェクトにも関わっているなど、福井県の技術的な発展を支える存在となっている。さらに大変興味深い事例としては、同センターの支援により眼鏡枠製造の技術を転用して、モーターの高効率化を図るという研究成果が発表されているなど、様々な分野の研究が集まる同センターだからこそ、分野を超えた技術的な連携が行われてこのような成果に結びついているといえよう。
また同センターの特徴のひとつとして、広く地域に開かれた公設試であることが挙げられる。福井県内の中学校・高等学校を対象とした「ものづくり先端技術体験」や、一般開放されている「常設展示場」の見学が可能となっている。特に後者の「常設展示場」は、非常に広いスペースに、福井県のものづくり産業が持つ優れた技術や製品が数多く展示されており、産業研究や企業研究などにも役立てることが出来る。私自身も学生と一緒に何度も同センターにお邪魔しているが、スタッフの方々はいずれも大変熱心で、丁寧にわかりやすく説明をしてくださるおかげで、学生も楽しみながら学ぶことが出来て大変感謝している。
公設試は一般の方々にはなかなか馴染みがない組織かも知れないが、地域の産業発展を支援する非常に重要な機関であり、同センターが「縁の下の力持ち」として下支えしてきたことによって、福井県の産業発展につながってきたといえよう。同センターでは、例年一般公開も実施されており、福井県のものづくりの全体像やそれを支える公設試の役割について学ぶことが出来る。小中学生対象の体験コーナーなどもあり、家族で楽しめるイベントとなっているので是非足を運んで頂き、同センターの役割や福井県のものづくりについて関心を持って頂ければと考える次第である。
(参考資料)
福井県工業技術センター編『福井県工業技術センター100年史』福井県工業技
術センター、2002年。
植田浩史・本田哲夫編著『公設試験研究機関と中小企業』創風社、2006年(WWWサイト)
福井県工業技術センターWWWサイト
URL: https://www.fklab.fukui.fukui.jp/kougi/index.html北九州市立大学地域戦略研究所の内田晃所長による地域交通に関する講演会
私ども地域経済研究所と北九州市立大学の地域戦略研究所が連携協定を締結し、シンポジウムの共催や人事交流などを進めていくことになります。協定締結を記念しまして、1月24日(水)10時40分~12時10分に、永平寺キャンパス講義棟にて、北九州市立大学地域戦略研究所の内田晃所長による地域交通に関する講演会を、オンライン併用で開催いたします。詳細とお申し込みはこちら。
海外立地に関するグローバル地域研究セミナーが開催されました。
12月14日(木)の午後に、当研究所1階の企業交流室にて、「海外立地の理論と実態の最前線」をテーマにした「グローバル地域セミナー」が開催されました。大分大学の宮町良広教授からGPN(グローバル・プロダクション・ネットワーク)アプローチについて、詳しく紹介していただき、大阪公立大学の鈴木洋太郎教授からは、関西企業のベトナム進出をサポートする仕組みなどについて、教えていただきました。その後、当研究所の松原所長の報告を含め、北陸3県のなかでの福井県企業の海外進出の特徴と政策的支援の課題について、議論がなされました。