福井県立大学地域経済研究所

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  • 国勢調査から想う福井県のすがた

     この春、御縁をいただき、福井県に住むことになった。この地域のことを統計結果から知りたいと思い、まずは国勢調査結果を紐解いてみた。国勢調査は、5年に一度、10月1日を調査基準日として、すべての人と世帯を対象に行われる日本で最大の統計調査である。そのため、その事務作業量は膨大である。総務省統計局が行う国勢調査の調査員の募集、指示、調査票配布・回収などの調査事務は、地方自治法による法定受託事務として、都道府県を経由し、市区町村にて行われる。市区町村にて国勢調査を担当する統計部署は、選挙管理委員会との併任にて選挙事務にも携わることが多い。政治家は秋の天気の良い10月の休日選挙を目論んで、衆議院解散、総選挙を企図しようとすることがある。しかし、西暦下一桁に0と5のつく国勢調査実施年は、市区町村が10月に国勢調査と選挙の両方の事務を同時に行うことが不可能である。そのため、総務省が解散時期を再考してもらうように政治家に事情を説明すると聞いたことがある。

     国勢調査は、住民登録の有無に関係なく,すべての人を普段住んでいる場所で調査する。その結果、国勢調査人口は、住民登録人口と異なり、実際の居住者状態を示すものとなる。そのため、国勢調査人口にて、衆議院の小選挙区画定、比例代表区の議員定数算出,地方交付税の交付額配分、都市計画策定、過疎地域判定などが行われる。特に地方交付税額は、市区町村財政に直結するため、市区町村も調査漏れがないように自然と勢いが入るというものである。私も以前、市職員として国勢調査実施に携わったことがある。その膨大な事務作業を少しでも軽減させるため、現在、専門としている地理情報システムを当時では先進的に活用したことが懐かしく思い出される。 さて、令和2年度国勢調査結果から、福井県の特徴的な結果として目に入ってきたのは、従業地通学地別人口において、福井県は同一県内に通勤通学する人が66.6%と全国1位であったことである。さらに、自らの市町内への通勤通学割合は、福井市、敦賀市、小浜市、越前市において50%を超えている。東京・大阪など大都市居住者は、毎日の通勤ラッシュで膨大な時間と気力・体力を消耗している。福井県は通勤通学での消耗が少ない環境であることも、福井県が幸福度ランキング1位を獲得している要因の一つなのだと感じることができた。

     産業別にこの数値をみると、自市町での労働割合が高い産業は、農業、林業、漁業の第1次産業と宿泊業、飲食サービス業であった。逆に他県から通勤している労働者の産業は、情報通信業、運輸業、郵便業が共に2.8%と最も高い値であった。令和6年3月に開業した北陸新幹線により、現在、福井県と他地域とのアクセスが向上し、県外からの通勤・通学者が増加している可能性がある。一方、アクセスの向上は、他の大都市に向かって人流や経済活動が吸い取られていく「ストロー効果」を生むことも考えられる。来年度、令和7年度10月には、次回の国勢調査が実施される。これらの影響が次回の国勢調査結果にどのように反映されるのか。注目されるところである。

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  • 福井県企業に学ぶ地方を豊かにする経営理論

     私と私の仲間達で『福井県企業に学ぶ地方を豊かにする経営理論』(白桃書房)という本を今年の春出版した。
     現在は、地方と都心との格差が指摘され、東京一極集中が問題視されている。地域活性化は、自治体に任せておけば何とかなるというものではない。その地方に関係する住民、企業、諸団体、市民がそれぞれ考えるべきことである。
     その地方に立地する企業がいかなる戦略で競争力を確保しているのか。地方に立地することをいかに強みに変えているのか。その事例を理論とともに示すことに本書の狙いがある。
     地方の活性化を企業の営みに注目した時に、無視しえない企業システムとして、考えねばならないのは、「ものづくり」「中小企業」「伝統産業」そして時に対峙する存在としてフランチャイズ・システム、IT産業、地方企業の生き残りをかけた多角化などがある。また、地方そのものを同定する営みとしての
    地名ブランドの議論もある。
     本書では、まず、地方のアイデンティティに関わる議論として、第1章に「プレイスブランディングによる地名価値の創出:三国湊と北前船を事例に」を置いた。地域をブランド化する試みは、地方活性化の有力な手段である。フランチャイズ(FC)に関する
     第2章「地方におけるフランチャイズ・システム」は地方におけるフランチャイズの経営者は、どのような役割を果たしているのかを分析する。
     第3章「事業定義からみる価値づくり経営 -松浦機械製作所の事例から-」は、福井市に本社を置く工作機械メーカーの株式会社松浦機械製作所は、工作機械の生産・販売に取り組み、独自のものづくりと開発精神をもつ企業である。成熟してきている工作機械産業のなかで、松浦機械製作所はどのようにして企業価値を高めてきたのであろうか。その要因を探ることで地方立地の中小企業経営への示唆を得ることを目的とする。
     第4章「サプライヤーとしての中小企業における両利きの経営-日本エー・エム・シーの事例から」は、中小企業の取引関係に関する研究である。地方の中小企業盛衰は日本経済全体から見ても重要な意味を持つ。本稿では、アセンブラー(発注企業)とサプライヤー(受注企業)との関係をサプライヤー関係とよび、その関係の中でも特に受注中小企業の発展に注目し議論を進める。
     第5章「Hacoaのケースと経営理論」では伝統産業の変化を取り上げる。福井県の伝統的工芸品産業である越前漆器製造において、木地の製造という下請工程を担っていた企業が、自社ブランド製品を開発、消費者へ直接販売すべく直営店を中心としたチャネル展開を進め、大きな成長を遂げたケースを詳細に記述し、ケースから同社の成長要因について経営学の理論から考察していく。
     第6章「前田工繊の長期成長戦略」は前田工繊株式会社の成長の歩みに注目し、そこから観察される戦略的な意義について議論することにある。創業100年を超える老舗企業であり、福井県を代表する企業の1つである。また、
     第7章「地方IT企業にチャンスはあるか 株式会社フィッシュパスを事例として」は福井県のベンチャー企業を取り上げる。ITとその関連産業は、地方の都会からの距離を直接にはハンデとしない。しかし、GAFAといったいわゆるプラットフォームは強力である。地方ITベンチャーはこれにいかに対抗していく道があるのか。
     ぜひ多くの人に読んでもらいたい。

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  • 地域の進化について考える

     2024年3月16日に、北陸新幹線の金沢・敦賀間が開業し、福井駅前はたいへんな賑わいとなった。同じ日に、福井県立大学永平寺キャンパスでは、進化経済学会の全国大会が開催された。全体のテーマが「空間の進化経済学とその可能性」とされたこともあり、午後の共通セッションのオーガナイザーを務めた。
     最初に、東京大学の鎌倉夏来准教授が、「製造業の国内回帰と地域の再工業化―進化経済地理学の視点から―」と題した報告を行った。そこでは、製造業の国内回帰による「再工業化(reindustrialization)」が、先進国の地域経済にどのような影響をもたらすか、欧米の経済地理学の研究成果を踏まえて論
    点整理がなされた。
     第2報告は、一橋大学の中島賢太郎教授による「空間経済学の現在―数量空間経済学とオルタナティブデータ―」と題したもので、第1報告の経済地理学に対して、空間経済学が2010年代以降に理論研究から実証研究にシフトしてきた点に焦点が当てられた。そうした変化を牽引したのは、モデルと実データの合致を強く意識した数量空間経済学の発展だとし、衛星画像データやGPSデータなど、先進的なデータ利用の可能性も含めて、今後の空間経済学の研究展望が示された。
     最後に、「マクロ空間構造の進化に関する一考察」と題して私が報告を行った。「国民経済の地域的分業体系」を「マクロ空間構造」とよび、具体的には日本の工業分布が、阪神から京浜、そして中京へと中心が移り、都市の順位・規模グラフのすきまが、戦前から戦後にかけて埋められてきた点などを指摘し、そうした歴史的変遷を進化論的議論で説明できるかどうかを検討した。
     ところで、企業などの組織や生産システムの進化に関する議論はある程度進んでいるものの、地域の進化については、どのような空間スケールで捉えるかもはっきりしていない。10年以上も前になるが、東京大学人文地理学教室の紀要に、「大規模工場の機能変化と進化経済地理学―首都圏近郊の東海道線沿線を中心に―」と題した共著論文を書いたことがある(共著者は当時大学院生であった鎌倉先生)。そこでは、東海道線沿線の存続工場の多くが、分散していた研究開発機能を1カ所に集め、融合型の研究開発拠点に転換するという一致した動きが、2000年以降にみられた点に注目し、そうした進化過程に地域産業政策が影響している点を指摘した。すなわち、神奈川県では、「神奈川県産業集積促進方策(インベスト神奈川)」を策定し、施設整備等助成制度で既存の大企業の本社や研究所の再投資を促し、企業側がそれに呼応したのである。もちろん、地域の進化は、新製品投入を急ぐグローバルな競争の激化、研究開発人材を集める上での「湘南」の魅力など、より複雑な要因による説明が必要である。
     さて、北陸新幹線の沿線地域には、これからどのような進化がみられるのだろうか?地域経済研究所の新幹線プロジェクトは2年目に入るが、このような観点からの分析も試みてみたい。

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  • 「お茶でもどうですか?」

     “ウェルビーイング(Well-being)”という、「身体的・精神的・社会的によい状態」を表す概念に、世界中で注目が集まっている。心身の健康の重要性はこれまでもよく言われてきた。それだけでなく、人の幸せには、社会的に良好な状態、すなわち“社会的つながり”が重要であることをメッセージとして持つのが、このウェルビーイングという概念の大きなポイントだ。
     つながりが幸せに重要であるとする研究は世界中に数多くあるが、私自身がそれを強く認識するようになったのは、3年間滞在し国づくりの協力を行った、ブータン王国でのことだった。
     ブータンでは、人々のウェルビーイングの調査を大事にしている。若き調査員がブータン全土をかけ回り、対象者に2時間半ほどかけて丁寧に質問をしていく。私も同行したが、スジャと呼ばれるバター茶をどのおうちも出してくれ、歓迎してくれた。その中で、印象に残っている一つのシーンがある。
     南部の県の、44世帯、人口300人ほどの村でのこと。「あなたが病気になった時にとても頼りにできる人は何人いますか?」という質問に対して、成人をむかえたばかりのブータン人男性は「50人ぐらいですね。」と回答してくれた。日本人の私の眼からすると過疎の村であるが、彼が軽やかに回答してくれた数の多さにびっくりしてしまった。同時に、自分の場合、何人と回答するだろうと考えさせられた。
     ブータンにも日本同様に課題は当然あるが、ブータンの生活の基層には、この社会的つながりの豊かさがあると実感した一場面だった。
     コロナ禍の生活を振り返ってみると、気づいたことがあった。私たち人は、人と人とが出会い集まるような機会に、何かを一緒に飲むということをすごく大事にしてきた、ということだ。「お茶でもどうですか?」「一緒に一杯どう?」この言葉達が使えなくなったとたん、なんだか急に、会う術の大半を失ってしまうような感覚すら覚えたのを記憶している。
     イギリスでは紅茶を。イタリアではエスプレッソで団欒。はたまた、アフリカのエチオピアではコーヒーだけでなく、コーヒーと紅茶を二層にし嗜む。日本にはお茶があり、居酒屋でビールを飲む姿も定番だ。方や、南太平洋の島国フィジーでは、カバと呼ばれる木の根を乾燥させ水に混ぜたものを飲む。鎮静効果があるとされる。日本の場合、日常ではあまり感情を表に出さず、飲み会の場ではお酒で気分を盛り上げて仲間との時間をたのしむ。一方、フィジーでは、普段は各々すごく陽気で、カバを飲んで気持ちを落ち着かせることで仲間との時間を過ごす。幸せのカタチが異なるのと同様に、飲み交わしてきた飲み物も世界各国でかくも異なるのだ。
     ただ、コップの中身こそ違えど、それを通じ、大切な人たちと“ともに居る”ということを幸せの源泉にしていることに世界中なんら変わりはない。
     「お茶でもどうですか?」と言える日常に感謝したい。

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  • 春節に考える2024年・辰年

     今月初は旧暦の正月でした。日本では明治維新を機に旧暦が公には使われなくなりましたが、中国、韓国、ベトナムなどアジアの少なくない国々では依然、旧暦の正月が新暦の1月1日よりも盛大に祝われています。長い学生時代を神戸で過ごし、中国・天津の大学院に2年近く留学し、いまも家族が住んでいる横浜を行ったり来たりしている私にとっては、旧暦のお正月は比較的身近に感じられるイベントです。一年の抱負や心構えなどを念じて、気持ちを新たにする機会が1年に2回ある、と考えれば大変ありがたいことです。とりわけ今年は現実に能登地震があったことなどから、初詣に出かけようという気持ちにもなれず、年賀状にもほとんど手を付けられなかったため、春節を迎えた今月に横浜中華街を訪れ関帝廟や媽祖廟などを参拝し、今年1年が平穏でゆたかな年であるよう再祈願してまいりました。

     そして今年は辰年でもあります。「強運」や「お金に困らない」といった言い伝えのある辰年は、縁起も良いとされています。中国や韓国では辰年に出生率が上がったりします。景気が良くなる年とも考えられており、株式相場の格言のなかには「戌亥の借金、辰巳で返せ」というものがあるということで、戌年や亥年は株価が下がり辰年・巳年は株価が上がりやすいので、戌亥年でできた借金も辰巳年で取り返せるのだとか。実際、日経平均株価がバブル越えし、1989年以来34年ぶりに史上最高値を更新したのがつい先日です。本年7月には、1万円、5千円、千円札のデザインが2004年以来20年ぶりに刷新されます。パリ・オリンピックでの「金」のゆくえを、今から気にしておられる向きもあるでしょう。

     福井でも、来月3月には北陸新幹線の東京-敦賀間開業と共にハピラインふくいも同時開業し、福井駅周辺エリアにおける再開発も完成形が徐々に見え始めていることから、景気が上向くことへの期待感は膨らみます。その一方で、社会保障関係費用が国と地方の財政を圧迫していることもあり、歳出と税収の間のギャップは拡大を続けています。このギャップが鰐の口に例えられますが、龍の口は鰐に由来しているという謂れがあるので、日本経済と辰年とは案外深い関係にあるのかもしれません。ちなみに、日本における出生数と死亡数のギャップである自然増加数も鰐の口の如く開き続けています。上り竜と下り竜があるように、ゆたかさをもたらしてくれる竜も、逆鱗に触れると、私たちを予期せぬ方向に導くのかもしれません。

     九頭竜川とくろたつさんが身近な存在である恐竜王国・福井にとっても節目の年になりそうです。今年残りの10か月、皆さんはどのように過ごされますか。

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  • 能登半島地震への地理学者の対応

     2024年元旦の午後4時10分に、能登半島地震が発生しました。多くの方がお亡くなりになり、焼失・倒壊した家屋は広範囲に及ぶなど、被害は甚大ですが、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。

     私が所属する日本地理学会では、1月6日に災害対応本部を設置し、災害対応委員会のホームページに、会員による調査報告・情報提供を逐次掲載してきている。たとえば、1月14日には変動地形調査グループが、震災直後の航空写真や人工衛星画像をもとに、「令和6年能登半島地震による海岸地形変化の検討結果(第三報)」を公表した。そこでは、能登半島北岸周辺の地盤が隆起したために、北岸に沿って広い範囲で海岸線が沖へ前進したこと、そのため約4.4平方キロメートルの「陸化」が生じたとしている。また、「能登半島北西および北岸では、一部の漁港では海水が入らないほどの隆起が認められ」・・・、「一方、能登半島南部では顕著な変動は認められませんでした」と、隆起域の地域差が指摘されている。こうした地域差の把握は、今後の復興計画を立案する上で、とても重要である。

     1月19日には、断層調査グループの鈴木康弘・渡辺満久両教授が、1月13日~14日の現地調査をもとに、志賀町北部の富来川南岸断層に沿う地震断層を発見したと公表した。1976年に、太田陽子(私の恩師でもある)ほかによる論文「能登半島の活断層」で存在が指摘されていた断層が地表に現れたもので、こうした活断層研究の蓄積を踏まえた対応の必要性を改めて痛感する。

     このように、まずは自然地理学者が活発な対応を示すが、私が専門とする経済地理学を含め人文地理学の研究者はこれからが重要で、「半島部」という過疎地域特有の地震被害への対応の難しさや地震の被害が大きくなった社会・経済的要因を検討したり、支援や復興に向けた計画策定に関わることが求められる。私自身は、東日本大震災から3年半経過した時点で、「東日本大震災後の東北製造業の回復と産業立地政策」と題した共著論文をまとめたことがある。そこでは、内陸部の機械工業に比べ、沿岸部の素材型工業が大きな被害を受け、復旧にも時間がかかったことをデータで示すとともに、広域的観点から地域間の連携を強める政策の重要性を指摘した。

     今回の地震の被害について、経済産業省では、「建物や設備の損傷等の被害が多数発生しているが、被災地域域外のサプライチェーンにも影響を及ぼしうる業種については、約9割が生産を再開又は再開の目処が立っている状況である一方、繊維、工芸品、印刷製造業については、2割強の企業において生産再開の目処が立っていない状況」としている(1月29日時点)。被災状況や今後の回復の見通しに、企業規模や業種の違いが表れていることがわかるが、地域ごとの詳しい実態把握は、まだ先の課題といえそうだ。一方で、鯖江商工会議所による「バーチャルモール」を活用した能登半島復興支援プロジェクトにみられるように、産業集積間ネットワークによる支援といった注目すべき動きが出てきている。

     自然科学と人文・社会科学の双方に軸足を置く地理学の利点を活かして、被災状況の実態把握と復旧・復興に向けた政策的支援に取り組んでいきたい。

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  • 福井県の産業発展に福井県工業技術センターが果たす役割

     以前のコラムでも述べたが、ご存じの通り福井はモノづくりが盛んな地域である。比較的規模が小さな企業が多いにも関わらず、技術力を高め独自の戦略によって競争力の高いモノづくりを行っている。「BtoB」といわれる企業間取引のビジネスが多いことから、一般への知名度は高くないものの、国内あるいは世界シェア1位の製品が多くあることも、大変興味深い点である。

     こうした高い競争力を生み出しているのは、真面目で粘り強い県民性や進取の気風がその根底にあることや、中小企業が多いことを逆手にとって、大企業が参入しづらい市場に目を向けてニッチな戦略を採り、独自性のある製品を生み出していることが要因であることは間違いのない事実であろう。但し、実際にそうした製品を生み出していくためには、多くの資金や労力が必要となることから、地方都市の中小企業にとってはなかなか負担が大きいと考えられる。そうした企業の技術的支援を行う機関として、公設試験研究機関(以下、公設試)が存在しており、日本全体及び地方の科学技術政策として重要な機関と位置づけられている。

     福井県における公設試に関しては、1902(明治35)年に福井県工業試験場が設立されて既に120年以上の歴史がある。1887(明治35)年に製織が始まった輸出向け羽二重織物の改善を図ることを目的として福井県工業試験場が設立され、その後に設立された工業、窯業、建設に関わる試験場が、1985(昭和60)年に統合されて福井県工業技術センターとして現在の地に設置された。

     福井県の主要産業である繊維産業に関しては、前身の組織も含めれば、先述の羽二重織物から人造絹糸そして合成繊維の織物への移行を支援してきており、そこからつながってきた繊維及び化学分野、国内での市場占有率が9割を超える眼鏡枠産業や、繊維機械を基とする機械産業の分野、漆器や和紙などの伝統的工芸品の分野も支援してきている。また窯業の分野では、日本六大古窯のひとつである越前焼の発展を支援してきており、その関連でいえば、窯業試験場時代の場長である千田伸惇氏は、株式会社村田製作所の福井県への誘致に努力し、1951(昭和26)年に同試験場の1室を研究室として貸与して特殊磁器の試作研究を支援し、現在の株式会社福井村田製作所の前身を作り上げることに貢献しているなど、福井県の産業発展に大きく関わっているといえよう。

     同センターにおいては、1.技術相談・技術指導、2.各種試験依頼、3.機器設備・施設の利用、4.研究、5.技術情報提供や成果事例紹介、6.講習会・講演会の実施、7.技術研修・人材育成など、その役割は多岐にわたっている。現在においても、繊維、化学、機械、金属、工芸、建設といった分野に加えて、IoTやAIなどいったデジタル化、オートメーション化などの推進を支援しており、同センターが保有する炭素繊維の開繊技術を活かした複合材料の研究やウェアラブル技術、さらには宇宙分野において、県民衛星「すいせん」で知られる福井県民衛星プロジェクトにも関わっているなど、福井県の技術的な発展を支える存在となっている。さらに大変興味深い事例としては、同センターの支援により眼鏡枠製造の技術を転用して、モーターの高効率化を図るという研究成果が発表されているなど、様々な分野の研究が集まる同センターだからこそ、分野を超えた技術的な連携が行われてこのような成果に結びついているといえよう。

     また同センターの特徴のひとつとして、広く地域に開かれた公設試であることが挙げられる。福井県内の中学校・高等学校を対象とした「ものづくり先端技術体験」や、一般開放されている「常設展示場」の見学が可能となっている。特に後者の「常設展示場」は、非常に広いスペースに、福井県のものづくり産業が持つ優れた技術や製品が数多く展示されており、産業研究や企業研究などにも役立てることが出来る。私自身も学生と一緒に何度も同センターにお邪魔しているが、スタッフの方々はいずれも大変熱心で、丁寧にわかりやすく説明をしてくださるおかげで、学生も楽しみながら学ぶことが出来て大変感謝している。

     公設試は一般の方々にはなかなか馴染みがない組織かも知れないが、地域の産業発展を支援する非常に重要な機関であり、同センターが「縁の下の力持ち」として下支えしてきたことによって、福井県の産業発展につながってきたといえよう。同センターでは、例年一般公開も実施されており、福井県のものづくりの全体像やそれを支える公設試の役割について学ぶことが出来る。小中学生対象の体験コーナーなどもあり、家族で楽しめるイベントとなっているので是非足を運んで頂き、同センターの役割や福井県のものづくりについて関心を持って頂ければと考える次第である。

    (参考資料)
    福井県工業技術センター編『福井県工業技術センター100年史』福井県工業技
    術センター、2002年。
    植田浩史・本田哲夫編著『公設試験研究機関と中小企業』創風社、2006年

    (WWWサイト)
    福井県工業技術センターWWWサイト
    URL: https://www.fklab.fukui.fukui.jp/kougi/index.html

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  • 日本税理士会連合会の寄附講座に思う

     福井県立大学は、その前身である福井県農業技術員養成課程からは1920年以来103年、経済学部の前身である福井県立短期大学経営学科からは1975年以来48年、そして福井県立大学開学からは1992年以来31年の歴史があり、多くの卒業生が様々な分野で活躍している。県内企業へ調査に伺うと県大経済学部の卒業生を紹介していただくことも多々あり、とても心強くまた活躍している姿を嬉しく思う。

     そんな先輩達を含む現場の声を学生に直接届けようと、経済学部では様々な機会を学生に提供している。今年度の後期には、日本税理士会連合会による寄附講座「実務から学ぶ会計と税務~税理士による租税講座」が開講されている。この講義では、実際に税理士として活躍されている方々を講師に迎え、実務家の立場から、税理士の仕事や会計・税務について講義を行っていただいている。

     講義の内容は、税理士制度と各種税務の解説(消費税、相続税、所得税、法人税)であり、実務に即したより実践的な学習となっている。また、社会で活躍する税理士が直接学生に声を届けることで、税理士という専門職や、その社会における役割・実際に行っている仕事、その魅力を伝え、税務制度ひいては社会について理解を深めることも目的としている。

     講義では、福井県立大学で一番大きな講義室いっぱいの学生が、真剣に話を聞いている。講師の税理士の方には思いや自身の経験・人生を、毎回熱く語っていただいている。今回の租税講義は憲法から始まった。税が国民主権、自由主義・民主主義国家を支える根幹であること、公平性の話、そして具体的な税の話へと展開されていった。「取られる」だけの存在だった税に対する認識を学生は大きく変えている。身近な消費税の話はもちろん、家族の相続にまつわる実体験やアルバイト代の源泉徴収、バイトで発行する領収書など、学生はこれまでの人生の「謎」について理解し、新たな疑問に気づき、毎回多くのことを学んでいる。とても充実した講義である。

     講師の税理士の方には、短大や大学院を含め福井県立大学の卒業生も多く、現役の税理士(先輩)から現役学生(後輩)に対して、税理士を目指すアドバイスや、税理士への誘いが、毎回熱く語られている。学生の多くはサラリーマンとして企業に就職する者が多いが、中には起業を考えている者、税理士を志している者(税理士をめざすことを決めた学生も)いる。この講義をしっかり聞いた学生は、税理士・税務を身近な存在として理解を深めるとともに、将来社会で活躍し、また社会に貢献できる人財となるだろう。

     さて、学生にはこれから確定申告を行うという課題が課されることになる。一般社会人としては必須の素養であるが、ほとんどの学生にとっては初めての経験であろう。非常に楽しみである。今回は提供中の寄附講座の様子をお伝えさせていただいた。これ以外にも経済学部では学生の学びのため福井の様々な企業にご協力いただいている。最後になりましたが、厚く御礼申し上げます。

    <講義の様子>

      https://www.fpu.ac.jp/news/d000000zzzzzzp.html
      https://x.com/fpu_economics/status/1728984490624610595

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  • 脱炭素経営に待ったなし

     今年の4月4日、東京証券取引所は「プライム市場・スタンダード市場・グロース市場」と3つの市場区分をスタートさせた。加えて、プライム市場に上場している企業はTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に沿って、企業が受ける気候変動の影響を「ガバナンス」「戦略」「リスクマネジメント」「指標と目標」の4項目で、投資家を含むステークホルダーへの情報開示が実質義務化された。

     他方、今月の11日、二酸化炭素(CO2)排出量を取引するカーボン・クレジット市場が、東京証券取引所に開設された。18日現在では、電力会社や金融機関などの民間企業に加えて地方公共団体など206者が市場に参加し、初日から20日までの8営業日で累計10,044t-CO2の(J-クレジット)売買が成立した。ちなみに、24日の「再エネ(電力)」の終値は1トンあたり2777円(初日終値は3060円)となった。

     市場で売買され、価格が形成されることで「J-クレジット」価格の透明性が向上する。また、売り手は売却益を得ることができ、得た利益を環境分野に再投資することができるし、買い手は削減が難しいCO2排出量と相殺(オフセット)することで削減目標をクリアできるなど、双方にメリットがある。ただし、低コストでオフセットができるようになれば、企業の排出削減に向けた意識がかえって損なわれるのではないかという懸念も見え隠れしている。ステークホルダーへの情報開示や「J-クレジットは、特定の大企業などが積極的に行う「脱炭素経営」の一環であり、日本の9割以上を占める中小企業は対象外と感じられるかもしれない。

     プライム市場企業は情報開示義務を果たすために、例えば、「指標と目標」の開示として「温室効果ガスプロトコルイニシアチブ」の中に設けられているScope1・2・3の区分別に温室効果ガス排出量を算定することになる。Scope1とは「企業自らによる温室効果ガスの直接排出」、Scope2は「他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出」、そしてScope3は「企業の活動に関する他社の排出(サプライヤーの原材料や顧客の製品使用・廃棄に伴う排出)」である。「脱炭素経営」を始める場合、まずは自社でコントロール可能なScope1・2に関する分野の削減に取り組むことになる。しかし、Scope1・2での取り組みによる削減が限界に近づくと、Scope3の分野に焦点を当てなければならない。取引先→自社→顧客と「脱炭素経営」は、サプライチェーン全体を巻き込んだ取り組みになっていく。プライム企業といえども、自社だけで完結できるものではなくなり、炭素排出量の削減目標を達成するためには取引先や顧客の脱炭素への取り組みを評価し、炭素排出量の削減を要請しなければならなくなる。

     「脱炭素経営」導入の高まりは、2008年のリーマンショック以降、信用崩壊による経済基盤崩壊リスクの次なる重大なリスクが「気候変動」であると、主としてペンションファンドや金融業界が位置づけたことも背景のひとつである。


     ビジネスを、資金の調達→運用・投下→回収→再調達の循環と定義するならば、現時点では対象外の中小企業であったとしても、これらのいずれのフェーズにおいても脱炭素を意識しなければ、いずれ会社や事業の継続・永続が約束されない時代がやってくる。

     また、SDGsを幼少期から学び、SDGsに関する環境問題や社会課題を自分事として捉え、そのような世の中の課題の解決を目指して取り組むサステナビリティ思考を持つ世代の呼称として「SDGsネイティブ」という用語も誕生している。かつての3K(きつい・汚い・危険)を避けた会社選び、職場選び、職業選びの基準のように、脱炭素経営やSDGsに取り組まない企業は人から選ばれない候補外という時代になったともいえるのではないだろうか。であるならば、脱炭素経営を行っていない企業は、ますます人材確保が困難になっていく。

     気候変動が起こった際のBCP(事業継続計画)が説明できる企業への転換、環境分野への積極投資(DX化や環境配慮型の設備導入など)、脱炭素を絡めた事業の構想・創出やリクルートの実施などから目を背けてはいられない。

     大企業、中小企業を問わず、脱炭素経営の推進は、待ったなしである。

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  • 福井県の人口減少とジェンダー

     福井県の人口減少は、全国を上回る水準で進行している。その要因は、1.自然減の進行、2.社会減の進行、に分けることができる。1.自然減に関しては、合計特殊出生率は全国平均を上回っているが、先行する高齢化による死亡者数の増加を補える水準には達していないことによる。2.社会減に関しては、2020年の転出率が1.58%(全国38位)、転入率が1.39%(全国35位)といずれも全国平均を下回り、定住性の高い地域となっているが、転出率が転入率を上回ることで進行することになる。
     福井県の人口減少の原因を探る目的で、2020年8月1日から21日にかけて、インターネットによるアンケート調査を実施した。対象者に関しては、「福井県出身者および福井県になじみのある方で、福井県外および福井県内に居住されている18歳以上の方」とした。福井から出ていった人たちに関しては、東京都県人会、大阪府県人会の協力を得て、そのメーリングリストを用いて登録者に回答を依頼した。他にも福井県立大学のHPを用いて卒業生などに回答を求めた。有効回答数は588である。回答者の就学年数に関して、大卒相当と思われるものが60.2%、大学院卒相当と思われるものが20.7%に達した。日本の大学進学率が5割程度、大学院進学率が6%程度であることを考えると、極端に高学歴層に偏ったデータとなっている。
     昨年の9月30日のコラム(塚本担当)では社会減の進行に関して、誰がどのような理由で、1.福井県から出ていくのか、2.出ていかずに残るのか、についてアンケート調査のデータ分析を通して検討した。分析の詳細に関しては、『新しい〈地方〉を創る』(杉山友城編著、晃洋書房、2022年)の2章をご覧いただきたい。
     まず、上記の検討結果を概観しておきたい。福井県との関係を基準に居住経路を、「定住」(進学、就職、結婚などの契機を経ても、福井県に留まり続けているグループ)、「流出」(上記の契機を経て、福井県から転出し、戻ってきていないグループ)に分類し、この2グループを比較した。それぞれの人数は、「定住」が125人(40.3%)、「流出」が185人(59.7%)であった。高学歴層で、福井県に残った人、出て行った人、とは、どんな人たちなのだろう。
     アンケート調査では、仕事、人生の楽しみやすさ、日常生活、人間関係の4分野に関連して、それぞれ14項目、8項目、10項目、10項目の質問をおこない、「しやすい」、「どちらかといえばしやすい」、「どちらともいえない」、「どちらかといえばしにくい」、「しにくい」の5段階で回答を得ている。
     質問項目をより少数の要因(因子)に縮約する目的で、4分野ごとに因子分析(最尤法、プロマックス回転)を実施した。仕事関連の項目からは、3つの因子が抽出され、因子1は、「仕事の幅を広げる」、「職業上のスキルを磨く」、「キャリアアップする」、「高収入を得る」といった項目との結びつきが強いため「キャリア形成評価」に関する因子であると解釈した。因子2は「仕事と介護の両立」、「仕事と子育ての両立」といった項目と結びつきが強いため「ワーク・ライフ・バランス評価」、因子3は「働き口の見つけやすさ」、「働き続けやすさ」と結びつきが強いため「就業機会評価」、と名付けた。
     人生の楽しみやすさ関連の項目からは、2つの因子が抽出され、それぞれ、「趣味を深める」、「好奇心を満たすと」などとの結び付き、「最新の情報を得る」、「流行のものを手に入れる」との結び付きが強く、「余暇評価」と「モード評価」であると解釈した。
     日常生活に関連する項目からは、2つの因子が抽出され、それぞれ、「子育てのしやすさ」、「介護のしやすさ」などとの結び付き、「長生きする」、「健康を維持する」との結びつきが強く、「生活評価」と「健康長寿評価」であると解釈した。
     人間関係に関連する項目からは、2つの因子が抽出され、それぞれ、「地域とのつながりをつくる」、「近隣で助け合う」、「親せき付き合いをする」などとの結び付き、「自分の考えを貫く」、「多様性を尊重しあう」、「人目を気にせず生きる」などとの結び付きが強く、「ネットワーク評価」と「寛容性評価」であると解釈した。
     これらの因子を用いて、ロジスティック回帰分析をおこなった。具体的には、「定住」の居住経路に対して、「流出」の居住経路を選ぶ、確率の高さの予測することになる。
     独立変数として、4分野から抽出した因子を投入するが、多重共線性の問題を回避するため、相関係数の値が大きな(0.5を超える)因子からは、片方だけを選んで投入する。具体的には、「キャリア形成評価」と「就業機会評価」からは「キャリア形成評価」を、「余暇評価」と「モード評価」からは「余暇評価」を、「生活評価」と「健康長寿評価」からは「生活評価」を、選んで投入する。「キャリア形成評価」、「ワーク・ライフ・バランス評価」、「余暇評価」、「生活評価」、「ネットワーク評価」、「寛容性評価」の6因子に加えて、跡継ぎの候補者(一人っ子、長男、男兄弟のいない長女)であるかどうかも独立変数に加える。6因子に関しては、因子得点の中央値を基準として2分割(評価している/評価していない)したうえで投入する。結果は、以下の通りである。
     「定住」を基準として、「流出」の経路を選ぶ確率の高さを予測する上で、役に立つ(統計学的にみて有意である)のは、「キャリア形成評価」と「寛容性評価」の2因子(5%水準で有意)で、オッズ比からは、「定住」に対して「流出」の経路をたどる確率は、1)キャリア形成のしやすさを評価していると0.547倍になり、2)人間関係ついて寛容性を評価していると0.575倍になる。同じことの言い換えになるが、「流出」の経路をたどる確率は、1)キャリア形成のしやすさを評価して「いない」と1.828倍、2)人間関係ついて寛容性を評価して「いない」と1.739倍になる。職業上のキャリアアップを重視し、地域のしがらみの強さ(社会関係資本のダークサイド)を嫌うものが、福井県から出て行って戻ってこないという構図が推察される。
     今回は追加の分析として、データを男女別に分けて、上記と同様のロジスティック回帰分析をおこなった。内訳は、男性が166人(54.1%)、女性が141人(45.9%)である。男性の居住経路の予測に有効な因子は、「キャリア形成評価」の1因子(5%水準で有意)のみ、女性の居住経路の予測に有効な因子は、「余暇評価」、「生活評価」、「寛容性評価」の3因子(10%水準で有意傾向)であった。「定住」するか「流出」するかの決め手になっているのが、男性では職業上のキャリア形成のしやすさであるのに対して、女性では暮らしやすさの評価であるといったコントラストが浮かび上がってくる。「流出」の経路を
    たどる確率は、男性では、キャリア形成のしやすさを評価して「いない」と2.46倍になり、女性では寛容性を評価して「いない」と2.23倍になる。
     男性の人口流出に関して、進学や就職に際しての魅力的な受け皿の少なさが一因になっていることは間違いなさそうだ。実際には、福井県にはユニークな技術力を有する中小企業が少なくない。大企業に就職して埋没してしまうより、活躍の機会が豊富な中小企業で実力を発揮するといった選択肢の魅力を伝えていく取り組みが必要かもしれない。
     女性の人口流出に関しては、ジェンダーに関するアンコンシャスバイアスの根強さが影響していると考えられる。福井県は定住性の高い地域で、血縁・地縁のネットワークがそれなりに維持され続けている。こうした社会関係資本の豊富さは、福井県の暮らしやすさの一因でもある。一方で、こうした既存のつながりは結節型のネットワークと呼ばれ、それが強すぎると、よそ者や少数者を排除する傾向や同調圧力が強くながりがちであることが知られている。ジェンダーに関するアンコンシャスバイアスが温存され、女性の意思決定過程への参画を困難にするといった弊害も予想される。共働き率が58.6%(平成27年国勢調査)と日本一の福井県で、女性の家事・育児時間(週平均)も2時間44分と日本で3番目に長くなっている(平成28年社会生活基本調査)。女性が働いていて当たり前、その上で、家事も育児も介護も女性が中心になって担って当たり前、といった状況では、女性は時間的なゆとりに乏しく、社会活動への参加や職業上のキャリアアップが困難になる。
     働く場所は豊富にあるが、働き方の選択肢は少ない。地縁・血縁のネットワークが豊富で、社会的なつながりに包摂されて暮らしていけるが、スタンダードからの逸脱は許容されにくい。福井県の特徴の光と影の部分への評価の違いが、そのまま居住経路の選択にも影響していることが明らかになった。福井県は「福育県」として子育てのしやすさをアピールして、人口の流入を促進しようとしているが、人口減少という文脈からは、若い女性に愛想をつかされないような地域づくりを進めていく必要が浮かび上がってくる。

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