福井県における人口と地域労働市場の変遷
経済活動は地理的に不均一に行われている。例えば、日本では東京や大阪、愛知に多くの人々と企業が集まり密集している。こういった特定の場所に経済活動が集積する現象は世界中で起きているので、そこには何らかの共通のメカニズムがあると考えるのは自然なことと言える。
人々は生活の糧を得るために労働し、企業も事業を営むために労働者を雇用する。このため、人々は仕事のある場所で暮らし、企業は人々を雇用することが可能な場所で事業を営むと考えられる。
そこで、このコラムでは、福井県における人口と労働市場の変遷を見ることで、福井県への集積について考えてみたい。
福井県の総人口は1975年から2000年にかけて、773,599人から828,944人に増加し、2020年には766,863人となっている。2000年から2020年にかけて人口の増減率を見ると、総人口は約7.5%、男性人口は約7.1%、女性人口は約7.9%とそれぞれ減少している。なお、2010年から2020年の総人口の減少率は約4.9%程度である。
一方、労働市場について見てみると、福井県の就業者数は、2010年から2020年にかけて、6486人の減少、増減率は約1.6%となっている。ただし、県内の有効求人倍率を見てみると、これは福井県から雇用が減少していることを意味しない。
福井県における年度平均の有効求人倍率は、2010年度は0.88となっているが、2011年度以降は一貫して1を上回っている。これは求職者数一人に対して求人数が1つ以上あることであり、すなわち県内企業にとっては人手不足となっている可能性を示唆している。また、2010年以降、福井県における友好求人倍率は全国平均よりも高く、人手不足が継続している可能性を示している。
それでは、産業別の就業者数の増減を把握することで、県内労働市場の状況について見ていく。まず、県内において就業者数の多い産業は、2020年時点では製造業が最も多く85,592人、次いで卸売業・小売業で57,301人、医療・福祉で52,198人となっている。これらの産業において、2010年と2020年の就業者数を比較すると、製造業では1,516人の減少、卸売業・小売業で7,198人の減少、そして、医療・福祉で7,430人の増加となっている。製造業では増減率では約1.7%の減少であり、大きな変化は見られない。また、卸売業・小売業は確かに就業者数が減少しているが、医療・福祉においては就業者数が同程度増加しており、就業者数の増減で見ると相殺している状況にある。従って、県内の就業者の多い産業が特に大きな影響をもたらしているわけではないと言える。
今後に向けて注目したいのは、教育・学習支援業と学術研究及び専門・技術サービス業である。教育・学習支援業の就業者数は、2010年からの10年間で1,582人増加し19,726人になり、その増減率は約8.7%となっている。また、学術研究及び専門・技術サービス業では同時期において634人増加し、就業者数は10,845人に、増減率は約6.2%となっている。この二つの産業については、2020年時点の就業者数を合計すると約3万人となることから、このまま就業者数の増加が続くのであれば、県内の雇用に一定の影響をもたらすと考えられる。
また、この両者は互いに良い影響を及ぼし、県内の雇用を成長させる可能性があると考えられる。すなわち、高度な技能と知識を持った人材に対する需要と供給の相互作用である。その結果、県内労働市場が変わることで魅力的な仕事が増加すれば、人口の県外への流出や県内への流入につながることが期待される。