福井県立大学地域経済研究所

2025年8月

  • 地域経済研究所 メールアドレス 一本化のお知らせ

     お知らせ

    このたび、学内システムの変更により、今まで窓口としていた メールアドレスが廃止され、

    地域経済研究所メールアドレスを一本化することになりました。

    ・ 旧メールアドレス keiken@fpu.ac.jp

    ・ 新メールアドレス keiken-g@g.fpu.ac.jp  ※2025.9.4以降

    大変お手数をおかけしますが、新しいメールアドレスにてご対応いただけますよう

    よろしくお願いいたします。。

    何かご不明点がございましたら、お気軽にお問合せください。

    地域経済研究所 事務局

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  • 在宅ケアと地域支援 -家族介護者と支援者を支える「福井県家族介護者等支援推進事業」-

     少子高齢化が進むわが国の総人口は2011年以降14年連続で減少し、2070年には9、000万人を割り込むことが予測されている。福井県の総人口も12年連続で減少し、2025年1月1日現在の人口は、前年から5700人減の74万6690人と初めて75万人を割り込んだ。その一方で、核家族世帯や単身世帯の増加により世帯数が増加している。

     人口減少の影響は、地域社会では労働力不足や地域の活力低下、社会保障制度の負担増加などの社会経済問題を引き起こし、家庭内では家事や育児、親の介護や障害児・者の養育など、一人で多くの役割を担わなければならなくなる可能性がある。全国一勤労女性の比率が高い福井県では、仕事と家庭役割の負担増加で疲弊する女性や、核家族化の影響で高齢の親を介護する単身の成人長男・長女の増加が予測される。

     2019年、福井県内で3件の介護殺人が発生した。内訳は、70代の女性が夫の自営業を継続しながら家庭で義両親と夫の介護を担い、その末に要介護者3名を手にかけた事件、認知症の親と同居・介護する長男による事件、義母と夫の2名を自宅で介護する70代女性による義母の介護殺人と夫の殺人未遂事件である。これらの事件は、いずれも重い介護負担が原因であった。

     事件の再発防止にあたり、福井県長寿福祉課と筆者含む3名の専門職が中心となり、県内の在宅ケアに関わる専門職らと推進するのが『福井県家族介護者等支援推進事業』である。本事業では、家族介護者支援(介護者の状況把握、有識者会議、在宅介護レスパイト支援)、住民支援(普及啓発、住民研修の開催)、支援者支援(支援者研修の開催、アドバイザー派遣・紹介事業)の3支援が推進されている。そのうちアドバイザー派遣は、要支援者や家族への支援方法やかかわり等に困る当該市町の担当職員と地域の在宅ケアチームが県にアドバイザー派遣を要請し、派遣された3名のアドバイザーから相談支援を受ける事業である。また、カスタマーハラスメントの対応等、家族介護者への支援にはあたらない支援チームの困りごとは、アドバイザー紹介事業を活用し相談支援を受けることができる。在宅ケアを支援する多機関・多職種チームに対する相談支援システムは、全国でも例がない先駆的な事業である。

     事業開始から現在もアドバイザーとして相談を受ける筆者は「在宅ケアに関連する負担感や困難感を声にする」「第三者に相談する」ことの重要性を痛感すると同時に、在宅ケアを受ける権利を強く主張する要支援者や家族の増加を感じている。支援する者もされる者も同じ地域に住まい、そこで穏やかな生活の継続を望む住民である。また、自らも家庭で家族を介護・養育し、同時に地域の在宅ケアを支える支援者も、立場を変えれば要支援者である。相談を受けながら、同じ地域に住まう住民同士がお互いを尊重し、気遣い、助け・助けられる関係を大事にしようと思う気持ちが大事ではないかと感じている。

     相手を気遣い支え合う地域の在宅ケアは、住民一人ひとりがつくりだすものであり、それが住民個々の仕事や家庭での負担を軽減する地域支援となる。支援する者・される者の垣根を取り払い、地域の労働力不足や活力低下を乗り越えよう。

    【参考資料】 

    令和6年度福井県長期ビジョン推進懇話会 第2回懇話会「参考資料2:・福井県の現状データ集」(2024年8月22日)

    https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/seiki/vision2024_sakutei_d/fil/2-5.pdf

    福井県健康福祉部長寿福祉課 地域ケアグループ「介護者支援有識者会議資料」(2025年2月10日)

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  • ■吉田陽介先生による中国現地ルポNo.24 消費ローンの利子補給政策で出した中国政府のシグナル

    利子補給政策を打ち出した政府の意図とは?

     中国の財政部は13日、商務部、中国人民銀行、金融監督管理総局など複数の部門と共同で「個人消費貸付財政利子補給政策実施プラン」と「サービス業経営主体貸付利子補給政策実施プラン」を発表した。これは中国政府が掲げている消費刺激策の一部分で、中国の経済メディアの報道も少なくなかった。

     14日付の「人民日報」によると、今回の個人消費ローンの利子補給政策の対象は住民の個人消費ローンのうち実際消費に充てる部分で、単発5万元以下の日常消費、5単発万元以上の家庭用自動車、養老(高齢者ケア)・出産、教育・研修、文化観光、家庭用品、電子製品、健康医療などの重点分野の消費を含んでいる。利子補給比率は現在の商業銀行の個人消費ローン金利水準の約3分の1である1ポイントで、政策実施期間は1年とされている。つまり、今年9月から、ローンを利用する消費者は返済利息が1ポイント少なくなるということだ。

     消費者は、2025年9月1日から2026年8月31日までの間に、政府が指定する23の銀行で消費ローン(クレジットカードを除く)を申し込むと、1%の利息補給金を受けることができる。

     少額消費(1件当たり5万元未満)の場合、1%を基準とする補給金を受けることができる。自動車の購入、住宅のリフォーム、旅行など高額消費であれば、5万元を上限として補給金を受け取ることができる。

     飲食、宿泊、医療、養老、文化観光、スポーツなどのサービス業界の企業に対しては、2025年3月16日から今年末までに21の指定銀行から融資を受け、サービスの質向上に充てれば、1%の利息補給金を受けることができる。単発の貸出上限は100万元で、補給金は最長1年である。

     中国の経済メディアは、この政策は利下げではなく、国が消費者やサービス業企業の返済を手助けすることが目的だという。

     ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)は研究レポートを発表し、中国のこの一時的な利子補給政策に800億元の財政資金が使われる可能性があると推計した。そのうち、家計消費者への融資分が700億元、企業融資補助金が100億元に達すると見ている。同社は、これは漸進的な緩和にすぎず、大規模な刺激ではないとみている。

     今回の利子補給政策を主に個人消費者とサービス業企業を対象としたのは、中国の経済発展で重要な役割を果しうる個人消費、中国の国内総生産(GDP)の54.6%を占めるサービス業を活性化する狙いがある。

     個人消費についていえば、中国の社会消費財小売売上高は、5月が前年同期比6.4%増、6月が4.8%増、7月が3.7%増とやや落ちてきている。8月から10月は、夏休みや国慶節の連休などでやや増加すると思われるが、増加に弾みをつけたいという狙いもあるだろう。

    利子補給政策は一時的刺激政策か?

     コロナ禍以降、中国政府は消費活性化させるため、2本の「矢」を放ってきた。1本目は、中小企業などの減税を行って、正常な経済活動を保てるようにした。2本目は「下取り、買い替え」補助政策を打ち出して、家計の潜在的消費を引き出そうとした。

     今回の利子補給政策は3本目の「矢」と言え、需要サイドとサービスなどの供給サイドを活性化しようとしている。

     全人代で発表される「政府活動報告」などでも述べられているが、中国政府はターゲットを絞った対策を行う。今回の利子補給政策も潜在的消費を引き出すため、飲食や宿泊などの消費をピンポイントで活性化し、景気浮揚の呼び水としようとした。

     今回の振興策は本当に消費を刺激できるだろうか。基本的理論では、利子率が下がれば、資金調達コスト下がることから、消費を促進できる。だが、実際の効果はそれほどはっきりしたものでないかもしれない。

     過去数年、コロナ禍と、内需で大きな比重を占めていた不動産市場の低迷により、中国人は貯蓄を重視し、借り入れを伴う消費には慎重になっている。個人と企業の中国経済に対する見通しが良くならない限り、金利が安くなったからといって、人々は多くのお金を借りられるようになるとは限らない。

     また、今回の利子補給政策は、需要サイドを刺激するものだが、対象は銀行から資金を借り入れて消費する消費者を対象としており、効果は限定的になるだろう。一定の所得が保障されていなければ、借り入れをしてまで消費しようとはなかなか思わない。

     もちろん、補給金政策は、「下取り、買い替え」補助政策同様、「大きな買い物」をためらっていた一部消費者の購買意欲を引き出すことができるが、これは新しい需要を創出するよりも、需要の「先食い」の要素が強い。

    利子補給政策が発するシグナル

     今回の補給金は経済の減速を緩和するためのものであり、消費が回復するには一定のタイムラグがあり、すぐに効果は出ないだろう。だが、この政策は以下の4つのシグナルを発している。

     第一に、構造改革を加速するということだ。これまで、中国の景気刺激策は、インフラや製造業への投資を大いに行うものであった。だが、それは一定の効果が出るが、過剰生産能力の増加という「副作用」も出ることから、持続可能であるとは言い難い。中国政府は経済構造の転換を政策文書で強調してきた。ここ数年の経済減速は「投資主導型」経済の負の側面が出ている。

     今回は一般国民を直接支援する消費者ローンとサービス企業向けのローンであり、政策の重心が消費サイドに傾き始めたことを示している。

     第二に、国民生活重視を堅持するということだ。中国政府の政策理念には、「民生の改善」というものがある。これは「人民の利益を念頭におく」中国共産党の理念とも合致する。これまでは、供給サイドを主に活性化する策を講じていたが、今回の措置は人々の生活に影響する消費への支援策だ。どれだけの人が利用するかは未知数だが、こうした措置を打ち出したことは、中国政府が国民の生活を重視するという姿勢を示すものだ。

     第三に、「人民のための金融」という理念を体現できることだ。2015年の第18期五中全会以降、「金融は実体経済に奉仕する」という言葉がよく出てきて、バーチャルな分野に資金が流れることを中国政府は警戒した。この2年は、「人民のための金融」という理念も出てきている。今回の措置はその理念を体現したものだ。

     第四に、一時的措置ではないことだ。財政部は、補給金の期限が切れたら効果を見て、もし効果が好ましくなければ、期間の延長、業種、参加する銀行の拡大を排除しない」と述べている。今回は、中国の人々が経済の上向きを実感し、消費を拡大することを主な目的としていたが、状況を見て、長期的な刺激策に移行する可能性もあることを財政部のコメントは示唆している。

     以上、今回の補給金政策は消費振興策の1つであり、それが一定の成果を収めても、全体的な景気回復には繋がりにくく、あくまでも「呼び水」と位置付けるべきものだ。重要なのは、市場を生み出して生産を活発化し、それに伴って雇用が増え、消費が増えることだ。

     そこでカギとなるのは、やはり一般国民が今後の中国経済の見通しに対する自信を持ち、一定程度の所得を得られるようにすることだ。

     ただ、政府が経済減速に対し、何らかの手を打ち続けていることを国民に示したことは消費者マインドの回復には重要だと筆者は考える。

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  • ■中島精也先生による時事経済情報No.120

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