2017年
日本および福井のインバウンド戦略に欠けているもの
日本政府観光局(JNTO)によると、2017年に日本を訪れた外国人は11月までですでに史上最高を記録した昨年の2404万人を上回る2616万人に達している。なんとも景気の良い話ではあるが、気になることが2つほどある。第一に、政府のインバウンド戦略は数を増やすことに拘泥し過ぎているのではないかという点である。実際、「走れば躓(つまづ)く」の諺のとおり各種トラブルも増えている。そこで、ひとつ提案がある。外国人の目からみた日本の観光施設やサービスなどの品質を「見える化」してはどうか。それには、観光品質認証制度を確立するのが有効であろう。私のお勧めはニュージーランド(NZ)のクオールマーク制度である。実は7年前、雪国観光圏(注)の有志達とともにNZを訪問して調べたことがある。NZのインバウンド政策の根幹を担う同制度は宿泊施設やトレッキングなどのアクティビティをはじめ、博物館、美術館などのアトラクションや旅客機、観光バスといった交通機関に至るまでカバーしている。さらに、世界で初めて環境への貢献度についても評価基準に取り込むなど、NZの観光産業の国際的な認知度を高めるとともに飛躍的な発展をもたらしたのである。とここまで言ったが、実は、日本でもサクラクオリティという観光品質認証制度が最近出来上がっており、前述の雪国観光圏を中心に導入が進められているところである。クオールマークに比べるとカバー領域も少なくさらに改善すべき点があると思われるものの、民力でここまで到達したことに対して関係者には心から敬意を表したい。これとは別に、経済産業省が中心となり昨年から運用が始まっているのが「おもてなし規格認証制度」である。サクラクオリティと比べるとチェック項目がかなり少なく内容もやや漠としているものの、より幅広い業種が対象となっていることからお互いに補完的な役割を果たすことが期待できる。ただし、両制度とも、今後、国際的な認知度を上げていくためには横への広がりとともにさらなる改良や新たな連携などによるイノベーションが不可欠だろう。
2つ目の気になることとは、こうしたインバウンドの恩恵が福井県にはほとんど及んでいないという衝撃の事実である。即ち、2016年に日本の旅館・ホテルに宿泊した外国人は前年比5.8%増の延べ6939万人を記録した一方で、福井県のそれは前年比2.9%減の5万4360人と全国最下位に喘いでいるのである。何故だろうと不思議に思い、外国人の立場になって福井の観光案内所を訪ねてみた。すると、驚いたことに、そもそも福井には観光ツアーも観光バスもないことがわかった。しかし、初めて福井を訪れた外国人に電車やバスを乗り継いで永平寺や東尋坊を回れと言うのも酷な話である。そこで、2つ目の提案である。福井のインバウンド・インフラの整備はもちろん焦眉の急だが、ここでは敢えてマーケティングでいうところのプッシュ戦略による現地への売り込みを提案したい。訪日観光客の9割近くを占めるアジア系は通常、割安で効率的なパック旅行を利用する。ならば、福井や北陸での宿泊と文化的体験などを盛り込んだチャーターバスなどによるパック旅行を現地の旅行社とともに開発し現地の旅行博で売り込んではどうか。たとえば、マレーシアの場合、同国最大の旅行博MATTAフェア2017の来場者数は延べ12万人で、3日間の売上総額は50億円にも達する。そんなのとっくにやっていると言われそうだが、ポイントは現地の旅行社を巻き込むことと現地の目線で商品を開発することだ。現地ではディスティネーション毎に夫々得意とする旅行社が存在する。マレーシアでもっとも有力な訪日旅行社は実は大手ではなく日本のみに特化した非常に小規模な企業だったりするのだ。個々の客にアピールするのではなく、こうした旅行社に福井や北陸のファンになってもらい、そこから現地の顧客に広げてもらうのが私の考える「プッシュ戦略」である。大事なのは彼らにとって唯一無二のユニークで面白い旅体験を企画できるかどうか。まずは、アイデアを募って現地旅行社に売り込み、一緒にMATTAフェアに出かけてはどうか。逆境こそイノベーションを引き起こすチャンスなのだから。(注)新潟、群馬、長野3県の7市町村を圏域とする観光圏
マレーシアのデジタル自由貿易区の設置
1980年代以降のマレーシアは、東南アジア諸国連合(ASEAN)の域内経済協力や自由貿易地域、経済共同体構想の下で近隣国の輸入物品関税の削減・撤廃を進め、自国製造業の発展を図ってきた。
たとえばテレビの場合、ASEAN域内の貿易額は2001年に4,103億ドルであったが、2015年には1兆5,836億ドルと、約3.8倍増加した。同時期の製品貿易収支を見ると、マレーシアの貿易黒字は1,952億ドルから8,791億ドルへと約4.5倍拡大した。2015年においては、526億ドルの貿易黒字を記録したインドネシアを除くと、他のASEAN加盟8カ国は貿易赤字に留まっている。マレーシアは一部の製造業において、ASEAN全域をカバーする一大生産・輸出国となっている。
その一方で、近年のマレーシアは製造業に限らず他の産業についても他国との連携強化に努め、産業育成と輸出振興を図ってきた。その典型例がデジタル自由貿易区の設置である。
ASEANでは今日においても多くの購入・支払いの際に現金が利用され、デジタル決済の比率は約4分の1に過ぎない。今後人口が拡大するとともにインターネット利用者の増加が見込まれることもあって、ASEANは電子商取引およびデジタル決済の「ネクスト・フロンティア」と位置づけられている。
急成長が期待される域内電子商取引のハブとなるべく、マレーシア政府は直近1年で施策を相次いで打ち出した。2016年11月に、ナジブ首相が中国・アリババのジャック・マー会長と会談し、デジタル経済推進担当の政府顧問に就任することに合意した。17年3月には、同氏が提唱する「電子世界貿易プラットフォーム」を活用したデジタル自由貿易区をクアラルンプール国際空港周辺のローコストキャリアターミナル旧跡地およびセランゴールのセパンに設置し、同年11月には稼働を開始した。アリババは「電子世界貿易プラットフォーム」を通じて、物流、クラウドコンピューティング、モバイル決済などのサービスを提供するためのインフラをマレーシア企業に提供する。
このデジタル自由貿易区の整備を進め、ASEAN域内で72時間以内に国境を越えた商品の移動が実現すると、受注、梱包、発送、受け渡し、代金回収までの一連のプロセスがマレーシア国内で行われる。
マレーシアのデジタル自由貿易区は、中国国外では初の「電子世界貿易プラットフォーム」機能を備えたエリアである。今後は欧州やロシアにも同様のエリアが構築される予定であり、ASEAN域内だけでなく域外に向けてもマレーシアからの輸出拡大が期待される。2018年には、マレーシアの商品や文化を中国の消費者にオンラインで宣伝する「マレーシア週間」の開催がすでに決定している。
デジタル自由貿易区が持つもう一つの重要な側面は、中小企業開発である。マレーシア企業の98.5%が中小企業であり、経済の主要エンジンとなるべきであるが、国内総生産への貢献率は40%に満たない。そこでマレーシア政府は、小売業を中心に中小企業に対してデジタル自由貿易区への参画を呼び掛けた。2017年11月時点では、当初の目標を大きく上回る1,972社もの中小企業がデジタル自由貿易区に登録している。2025年までには60,000人の新規雇用の創出が見込まれており、中小企業の輸出額は380億ドルに伸張すると予測されている。
デジタル経済に迅速に対応し、中国企業の支援を仰ぐことで、電子商取引の集中都市がマレーシアに形成され、同国における雇用創出と他国への輸出増加が予想される。現地に進出する日本の物流企業や小売企業にとっても、大きなビジネスチャンスをもたらすであろう。※本稿の執筆にあたっては、New Straits Times 2017年11月4日記事「DFTZ, an idea whose time has come」と「Jack Ma pledges to help turn Malaysia into a regional digital powerhouse」、マレーシアデジタル自由貿易区のホームページ「DFTZ Goes Live」(https://mydftz.com/dftz-goes-live/) を参考にした。
日常的な出来事
今月はいろいろなことがありました。
国内では、衆議院議員選挙、二度の台風、プロ野球のドラフト、オリンピックまであと1000日など。煽り運転、中学生の自殺などの報道も連日のように見聞きされたことでしょう。国際的には、ノーベル文学賞に日系英国人が、ノーベル平和賞に日本のNGO7団体も参加する核兵器廃絶国際キャンペーンが選ばれ、中国共産党大会が開催、北朝鮮の長距離弾道ミサイルが何とか。
福井駅構内でハロウィンの仮装妖怪たち(学生?)が徘徊するのを眺めながら、今月のコラムのテーマを何にしようかと考えあぐねていたところ、ふと我に返り、”これらはどれも私が敢えて扱うべきテーマではないなぁ”と気づきました。少なくとも私にとって(もしかすると皆さんのなかにも同じようにお感じの方がおられるかもしれませんが)、最大の関心事は日常です。平常心で定常的な社会の動きを追うことにしました。
今月、最新の厚生労働白書が発行されました。私たちの日々の生活を鑑みるのに比較的適した読み物のように思います。本書では「日本の1日」と題して”日本で一日に起こる出来事の数を調べて”います(調べるといっても既存の統計を日換算しているだけですが・・・)。私もこれに倣い、福井の一日に起こっている人口動態を概観してみます。
福井で一日に生まれる赤ちゃんは16.7人。一方、亡くなるのは25.2人で、うち90%強が65歳以上の方々です。その結果一日に人口が8.5人減っています(2016年の1年間の自然減少は3,116人)。一日に亡くなる25.2人のうち、新生物(癌)が原因の死亡は6.9人(死亡者総数の27.3%)、心疾患や脳血管疾患などの循環器系の疾患による死亡が6.6人(26.0%)。老衰は1.9人(7.7%)で、不慮の事故でも1人(4.1%)亡くなっています。不慮の事故は家庭内で起こるものが多く、食事中の窒息、お風呂等での溺死、転倒などが約70%を占めているので、日ごろから気を付けましょう。ちなみに福井における交通事故による死亡は0.1人/日で、年間では約60人です。
一日の婚姻は9.4件、離婚は3件です。よく”夫婦の3割が離婚!”などと言われるのは、この数字をもとにしていることが多いようです。
他県から福井県に転入してくる人は23.4人で、逆に福井県から転出していく人は28.4人です。その結果、一日に5人ずつ福井県から住民が減っています(2016年の1年間の転出超過は1,820人)。
今年2017年も残すところあと2カ月、平成の時代もそろそろ終わりに近づいています。皆様、いろいろお世話になりました。
多死社会の到来
敬老の日を前に厚生労働省が9月15日に発表した高齢者調査の結果によると、100歳以上人口は全国で6万7824人となり、10年前の約2倍、20年前の約8倍に増えたという。こうした現象も超高齢化社会の一つの側面であろう。
国立社会保障・人口問題研究所は、新しい国勢調査が実施される度に将来人口推計を更新している。1995年国勢調査を基準とした推計結果(出生中位・死亡中位)では、65歳以上人口は2041年に3,380万人でピークを迎えると推計されていたが、最新の2015年国勢調査を基準とした推計結果(出生中位・死亡中位)では、2042年に3,935万人でピークを迎えるという推計結果となっており、高齢者数がピークを迎えるタイミングはほとんど変化がないものの、その数は約560万人増加している。これはこの20年間で高齢期の死亡率が改善され、今後もその変化は続いて寿命がさらに伸長すると見通せるようになったことによる。2015年の完全生命表によると、65歳の平均余命は男性で19.4歳、女性で24.2歳となっている。定年後も平均して20年近く生き続けるようになっており、そうした寿命の長さを念頭に置いた上で人生設計を考える必要性は増してくるだろう。
超高齢化社会というと、増加する高齢者の生活をいかにして支えるかということに関心が向けられがちであるが、今回は死亡数の増加に注目してみたい。すなわち、超高齢化社会が多死社会であるということである。高齢期の死亡率が改善されたとはいえ、若中年層よりは遥かに高く、死亡の多くは高齢者から発生する。厚生労働省の人口動態調査によると2016年の死亡数は約131万人であり、ここ数年にわたり同調査では年間の死亡数が過去最高を更新し続けている。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2030年頃には年間の死亡数が160万人を超え、それが2070年頃まで続くと見通されている。毎年福井県の総人口の倍以上の死亡が発生する状態が長期に渡って継続する社会がもうすぐやってくる。まさに多死社会の到来である。この多死社会を地域づくりの観点から考えると、墓地不足や火葬場の処理能力等、これまで積極的な議論を避けがちであったようなテーマが喫緊の課題となる。これから先、私たちが生きる社会では高齢者の生活をどのように支えるのかということを考えるのと同時に、増えていく死亡にどう対応するのかということも極めて現実的な課題としてのしかかってくるだろう。ふくい地域経済研究第25号
因果関係とAI
因果応報。自業自得。身から出たさび。
ヒトは物事に原因を求めるのが好きだ。そして結果がうまくいかなかったときはこう考える。
「次は同じ結果にならないように、違う過程を踏もう」うまくいったときは同じ手順で同じ結果を求めようとする。ヒトはたぶん、生まれ落ちてからこの思考と行動を繰り返している。
結果が出て、時計の針を戻せないのがわかっているにもかかわらず、遡って原因を探る。そして次はこれまでの経験を踏まえ、よく考えながら歩みを進める。結果と過程のどちらが大事という問題ではなく、結果がすべてであり、そのためにも過程が重要だと解釈したい。
ヒトの知的好奇心が結果に原因を求めるのであろうか。その拠り所は、経験値に長けた長老の先を読む力から、科学的知見とそれに基づく論理的思考へと変化してきた。謎の相関が観測されていた事象間に、因果関係が明らかになっていく。科学技術の飛躍的進歩によって、世の中のすべての事象間の関係性が、やがて解明されるのではないかという幻想を抱かせる。
ところが、ヒトが発明したAI(人工知能)がこの流れを一変させようとしている。現在の科学的知見と論理的思考では、”風が吹けば桶屋が儲かる”と同じくらい荒唐無稽に思えるような関係性を、AIが”答え”として導き出しつつある。ヒトが与えた多変量解析等のツールを単純に高速に処理しているわけではないため、ヒトはその答えに至る過程を理解できない。
ところで、AIの興味は相関関係の強さにあり、因果関係の認否はどうでもいい。いや、因果関係をデータで測ることはできないことのほうが多いという表現のほうが正しい。ヒトは、そこに現時点における科学的知見と論理的思考から、勝手に因果関係を認否しているに過ぎないのかもしれない。
私が作成したデータ分析に関する教材には、”相関関係と因果関係(の違い)”を解説した箇所がある。そのページが時代遅れになる日も近いと感じている。
「黒い白鳥」に怯える世界経済
通常は白く美しいはずの白鳥が、突然変異で黒い個体が現れることがある。これをあり得ないこと、予測できないことに喩えて「ブラック・スワン」と言うことがある。東日本大震災のような大規模自然災害や、サブプライムローン危機から派生した世界金融危機が近年のブラック・スワンの最たるものであろう。2016年には2つのブラック・スワンが見られた。1つは昨年6月におこなわれたイギリスにおける国民投票で、欧州連合からの離脱いわゆるBrexitが予想を裏切って決まった。今ひとつはアメリカの大統領選であり、大方の下馬評を覆してドナルド・トランプ氏が第45代アメリカ合衆国大統領に選出された。いずれも政治の世界の出来事ではあるが、世界経済にも大きな影響それもネガティブなインパクトとなって現れるであろうとみられていた。
しかしながら、今年2017年の先進国を中心とした世界経済はここまで堅調であり、マーケット特に株式市場は米ダウが史上最高値を何度も更新するほどである。トランプ新大統領の経済政策に期待をかける「トランプ・ラリー」だけでは説明がつかないことが多々起きている。こうした背景もあり、アメリカの金融政策はQE(量的緩和政策)から政策金利を段階的に上げる出口戦略を進めることはすでに織り込まれている。こうしたアメリカの政策転換は、途上国・新興国からの資金引き上げと、これらの国・地域の成長鈍化を招くことはこの数年来言われてきたことでもある。またこの数年の原油など世界のコモディティ価格の大幅下落により、資源輸出国の経済パフォーマンスは相当悪化している。そのため、かつてBRICsと表現された高成長新興国市場にも、大きくその陰を落としている。
その中で、常に世界の成長センターであり続けたのがアジアの経済圏であり、中核となったのは、中国でありASEANであり現在ではインドが成長を牽引し始めている。こうした世界経済の「アジア一本足打法」は、1992年の南巡講話以降の中国高度成長による寄与が大きかった中で、現在が最も顕著であろう。アジア経済のコンスタントな成長は当然ながら望ましいが、1990年代から大きな自律的調整もなく伸び続けてきた特に中国のような国は、社会的にも経済的にも大きな構造調整、リバランスの必要性を抱え続けている。こうした内的要因にアジア通貨危機のような偶発的な外的要因が加わった場合、見えていなかったアジア経済の脆弱性が一気に現れる可能性がある。
グローバル化の進展により、地域の変動が世界経済へ与える波及効果は大きなものになっている。2007年のサブプライムローン危機に端を発する世界金融危機では、アメリカの市場原理主義の故であるとの声が聞かれた。しかし現在ではアジアの経済規模が格段に大きくなっていることから、アジアにおける危機的な負の事象は世界的な影響をもつだろう。また逆に欧米など先進国でそれが起きた場合にも、アジアの受けるダメージはさまざまな経路で拡散するであろう。今年はアジア通貨危機から20年、世界金融危機から10年が経過している。「ブラック・スワン」はどのような形で潜んでいるか判然としないが、長期におけるその出現の確率は非常に高いことを念頭に入れておくべきだろう。
国際標準化戦略で日本再生を
グローバリゼーションによって「競争のルール」が変わったと言われるが、今、現実に起きているのは「ルール(国際標準化)の競争」である。背景には、95年に発効されたWTO/TBT協定がある。これは、制度や規格が貿易上の不必要な障害とならないように、国内規格を国際規格に準拠させることを原則義務付けるものである。さらに、96年発効のGPA協定では、政府調達における技術仕様も国際規格に準拠することを義務付けている。これが問題となったのは、JR東日本が01年、ソニーが開発した国際標準未取得のFelica方式のICカード(Suica)を調達しようとした際のことだ。モトローラからWTO政府調達違反として異議が申し立てられたのである。たまたま、モトローラ方式ICカードの国際標準が成立前であったため、申し立ては却下。その後、Felica方式も国際標準化されたものの、日本の国際標準化への対応の遅れと認識の甘さが露呈されることとなった。
一方、ヤクルトは2010年、コーデックス委員会に働きかけ、乳酸菌飲料を発酵乳規格の4つ目のカテゴリーとして位置付けることに成功。国際的な認知度が高まるとともに、健康食品としての認定を受けたことで、イタリアでは、付加価値税が20%から10%以下に低減されるなど売り上げ拡大につながっている。
このように、TBT協定によって、国を問わず、国際標準が競争のルールとなり、国際標準化が各国産業や企業の国際競争力を決定づける重要な要素となったのである。一方、オリンピックやF1の例を挙げるまでもなく、ルール改正を通じて、日本はいつも苦渋を味わってきた。由々しき事態は、企業の海外展開においても起こっている。例えば、タイの自動車税制はこれまで、日本に有利なHV優位の(車両構造に基づく)税制だったが、ドイツ自動車工業会がタイ政府に働きかけた結果、欧州に有利なCO2排出基準ベースの物品税制に変わってしまった事案がある。
こうしたことから、日本政府は今、国際標準化戦略を通商政策の中心に位置づけている。今後、特に、緊要と思われるのが以下の3点だ。
(1) 標準化人材の育成
問題なのは、事の重大さに気づいていない経営層が多いことと、標準化のビジネスインパクトについての評価指標が確立していないことである。これでは、いくら優秀な人材がいたとしても、やる気も起きまいというもの。まずは、経営層の意識を変えていくことだ。
(2) 日系グローバル認証機関の実現
国際標準化に際して、第三者認証機関の存在は不可欠だ。そこで、問題視されているのがグローバルな日系認証機関の不在である。海外の巨大な認証機関に比べると、国内の認証機関は規模も小さく海外展開も遅れている。いきおい、グローバルな海外認証機関に依頼せざるを得ないのが実情であろう。ところが、割高なコストや外国語対応への負担に加え、認証取得に時間がかかることで海外展開に遅れを生じるといった問題が報告されているのだ。さらに、性能規定化されている場合には、詳細技術情報が国外流出する恐れもある。このため、ある国内メーカーでは、自社開発製品の国際規格を2つ取った際、リスク分散のため、それぞれ別の国の認証機関に依頼しているという。今後、日本が世界に誇る上下水道や交通システム、エネルギー・プラントといったインフラの海外展開を円滑に進めていくためにも、グローバルな日系認証機関の出現が望まれる。
(3) 標準化活動におけるアジアへの貢献を通じた連携強化
新たな国際規格として承認を得るには、数の力が必要である。そのためには、まず、価値観が近いアジアの中でまとまること。わけても、日本との信頼関係が厚いASEAN諸国との連携は不可欠だ。この点において、近年、日本がアジア諸国と連携し、インバータエアコンの性能について適正に評価されるISO規格を制定したこと。さらに、ベトナムがそれに基づく省エネ性能の評価基準を導入しようとした際に、日本が技術支援など環境整備の協力を行ったことは特筆に値する。一方、ASEAN経済共同体における基準認証分野の調和に関しては欧州勢が積極的に支援しており、日本は後手に回っているのが気懸りである。こうしてみると、グローバル競争時代においては、たとえ、一企業といえども、ルールに対して受動的ではなく能動的に向き合うことが必要だろう。一方、今日のグローバルルールにはローマ帝国やそれに続く中世ヨーロッパに淵源を持つものが多いと言われるように欧州勢には一日の長がある。しかし、彼らも決して万能なわけではない。EUでは、政策決定の過程に民意が十分に反映されないといった「民主主義の赤字」問題を抱えていることもまた事実である。大事なのは、環境保護、人権擁護、貧困撲滅、自由貿易などといった国際社会が共有する理念や原則を踏まえつつ、日本再生のためのグローバルなルール作りに、今こそ、オールジャパンとして打って出ることではないだろうか。
付加価値貿易からみたASEAN地域のバリューチェーン
従来の貿易統計は総額で表示するため、国際分業が進行する現代の貿易構造を的確に捉えきれないことは広く知られています。たとえば、中国は米国に対してiPhoneを大量に輸出していますが、中国の付加価値輸出額は輸出総額の10%にも満たないとされています。貿易の真の姿をより明らかにするため付加価値額の統計を整備する試みが、近年盛んに行われてきました。
付加価値額で表示した貿易の推移については、OECD(経済協力開発機構)とWTO(世界貿易機関)が共同で開発し2013年に初めて公表したTiVA(付加価値貿易)が最も包括的であるといわれています。TiVAのデータを利用すれば、付加価値貿易額を誰でも容易に算出できます。
さて、このTiVAを利用すれば、バリューチェーンの趨勢を知ることができます。そのためにはまず、付加価値総輸出をDVA(国内付加価値)とFVA(外国付加価値)に分解します。次に、DVAには自国から他国に輸出する財・サービスの付加価値と他国から第3国に輸出する財・サービスの付加価値があり、後者とFVAの和を付加価値輸出額で除します。このようにして算出した数値がバリューチェーンへの参加指数であり、GVC(世界のバリューチェーン)とRVC(地域のバリューチェーン)、それぞれの参加指数を求めることができます。最後に、RVCへの参加指数をGVCへの参加指数で除することで、特定の地域が世界大と地域大のバリューチェーン、どちらに参加する傾向にあるかについて把握できます。
筆者は試みに、ASEAN(東南アジア諸国連合)、EU(欧州連合)、NAFTA(北米自由貿易協定)の3つの地域統合体を対象として、TiVAの利用が可能な1995年から2011年までを対象期間にとり、それぞれのバリューチェーンの推移を分析しました。以下では分析結果をもとに、ASEANのバリューチェーンの特徴について述べたいと思います。
まず、ASEAN地域のバリューチェーンは他の地域統合体のものと比べて脆弱です。ASEANのRVC参加指数は2011年時点で12.8%ですが、これは同年のEUの33.5%、NAFTAの13.6%よりも低い水準に留まっています。ASEANの輸出品はEUやNAFTAのものと比べ、域内で価値が付加されない傾向にあります。
しかしながら、EUとNAFTAにおいては地域のバリューチェーンの重要性が徐々に低下しているのに対して、ASEAN地域のバリューチェーンは逆に存在感を増してきているのです。EUの場合、1995年時点ではRVC参加指数がGVC参加指数の44.6%を占めていましたが、2011年には41.2%にまで落ち込みました。NAFTAはその傾向がより顕著であり、1995年には30.8%でしたが2011年には24.2%まで下落しています。1990年代以降のEUとNAFTAでは域内国からの輸入が域外国からの輸入に置き換わり、域内第3国への輸出の主体は域内国から域外国へと変わってきました。ところがASEANのRVC/GVC比率は、1995年の18.3%から2011年の19.4%へと速度こそ緩やかではありますが上昇しています。近隣に日本や韓国、中国があり、特に製造業においてこれらの国から中間財の輸入が増大してきたにもかかわらず、ASEANは域内からの輸入を重視し、域内輸出に傾倒してきたのです。
ASEANはEUやNAFTAと異なり、広範囲の製造業でRVCの重要性が高まりを見せています。産業内貿易をみてみますと、RVC/GVC比率が著しく上昇したのは輸送機械産業と食品・飲料産業であり、2011年の両産業の比率は1995年の約1.7倍を記録しました。輸送機械産業に関してはタイ、食品・飲料産業に関してはマレーシアの域内輸入額及び第3国輸出額が突出して多く、両国が中心となって域内のバリューチェーン構築を進めてきたといえるでしょう。
もっとも、RVCの参加指数やRVC/GVC比率の水準自体はEUやNAFTAのものと比較しても低いことからもわかるように、ASEAN地域のバリューチェーンには発展の余地が多く残されています。バリューチェーンをさらに拡充するためには、域内のハード・ソフトのインフラを開発し連結性を強化するとともに、さらなる産業振興を図る必要があります。
「今春の人事異動から考える」
日本では春が最も人が動く、すなわち人口移動の起こる季節です。学校はもちろんのこと、ほとんどの事業所が年度単位で稼働しているからに他なりません。ここ地域経済研究所においても3月末で4人の研究員が転出し、4月初頭に2名の研究員が新たに配属される大異動がありました。所長も南保教授に代わり、地経研も中身が随分と様変わりしましたので、皆様には是非ご来所いただき、多くのご教授・ご鞭撻を賜れば幸いです。お待ちしております。
さて、春の人口移動がいかに多いかは人口関連の統計でも垣間見ることができます。適当な資料として、総務省統計局『住民基本台帳人口移動報告』が挙げられます(http://www.stat.go.jp/data/idou/index.htm)。タイトルの通り住民基本台帳上の住所地の変更届の情報をもとに集計され統計として毎月公表されています。
1年間に届け出のある市区町村間の住所地移動件数は、近年500万前後で推移しています。出生数は昨(2016)年とうとう100万人を下回った可能性があり今後どこまで減り続けるか現段階では分からない状況です。死亡数は人口の高齢化に伴い1960年代後半から増加基調にあり、現在では年間130万人強に達しているものの、団塊世代の方々が90歳を迎える2040年前後に年間死亡者数のピーク期が来ると、先般公表された国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」(http://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2017/pp_zenkoku2017.asp)は示しています。その数、約170万人ですから、わが国における人口動態のなかでも人口移動がいかに大きなインパクトを持っているか、お分かりかと思います。
年間の移動数が500万件と書きましたが、人口比にすると100人に4人が動いている計算になります。性別でみると男性が50%強、年齢でみると20歳代と30歳代前半で50%以上を占めています。そして季節でみると3月・4月の2か月で1年間の3分の1強の移動が生じています。このような人口移動の構造上の傾向は高度経済成長の時代からほとんど変わっていません。一方で顕著な変化もみられます。人口移動総数の減少、とりわけ男性の都道府県間移動の急減です。
人口減少と高齢化によって移動する年齢帯の人口が減っていることが主な要因ですが、男性の県を跨ぐ移動が減っているのは経済環境とりわけ雇用情勢に影響を受けているからだと推察されます。
人口が動くこと自体が経済と強く相関しています。人口減少と少子高齢化という趨勢は、同時に人口移動の減少に拍車をかけるため、国全体の経済成長にはマイナス要因になる可能性があります。とは言え、”一億総活躍社会”が動けない人や動きたくない人をも無理やり動かすような社会とならないよう、気を付けなければいけないかもしれません。