福井県立大学地域経済研究所

2016年6月

  • 後発新興国での「従業員の質」

    アジアに進出している日系企業が抱えている経営上の課題の一つに、「従業員の質」がある。特に、カンボジアやラオスといった、後発の新興国では、大きな問題となっている。これらの国で進出日系企業を訪問した時には「生産性は中国の数分の1にとどまる」「一カ所に座って仕事をするという経験自体初めてという者もいる」「識字率が低く、現地語で業務内容を記して指示しようとしても、文字が読めない従業員が少なくない」といった悩みを聞いた。

    低い労働コストは後発新興国のメリットだが、従業員の質も低いというデメリットと隣り合わせになる。さらに、近年は賃金上昇も顕著であり、メリットは小さくなりつつあるといえる。しかし、ひとたび進出したとなれば、進出先での問題に適切に対応することが求められる。では、従業員の質に悩む日系企業は、どういう対策を講じているのだろうか。

    東南アジアの日系企業数社にたずねたところ、現場での業務の進め方をひと工夫している企業がいくつもあった。「スピードは多少遅くてもいいので、ていねいに作業するよう指導している」という企業は、「速く作業して不良品の発生が増えるよりもよい」とその理由を述べた。また、いろいろな作業を覚えるのは苦手だが、一度身につけると比較的正確に作業できる、という特徴に気づいた企業では「1つの生産ラインで多品種を生産せず、似たような製品を作るようにしたら、作業効率が向上した」と、一定の効果を引き出している。従業員が多い企業の中には、「採用後、基礎研修を2週間行い、母国語や足し算・引き算、マナー、チームワークなどを教える。続いてOJTを1カ月実施する」と、実際に仕事を始める前に、手間と時間をかけるところもあった。

    また、中心となる人物の育成を重視するとの意見も聞かれた。「潜在的に向上心を持っていると見受けられる人を選んで研修を受けさせ、ラインのリーダーなどに育成していく」、「ずっと在籍してほしい社員に対しては、少し多めに賃金を支給する」などである。拠点の中心になりうる人物を見極めることが大事である。また、外国人技能実習制度を利用する企業もある。進出先から実習生を本社に派遣し、研修期間終了後に進出先の拠点で中心的な人材として働いてもらう、というものだ。

    後発の新興国の従業員の質を急速に高めるのは容易ではない。そんな中、進出企業は、それぞれの方法で対策に取り組んでいる。試行錯誤もあるだろうが、対策を実践していくことにより、従業員の質を次第に引き上げ、進出先での問題を小さくすることができるだろう。

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