福井県立大学地域経済研究所

2025年2月

  • 「人材不足」解消の新たな選択肢として

     2025年2月14日に、地域経済研究所企業交流室で「ふくい企業価値共創ラボ」の修了式が執り行われ、私も、プログラム企画・運営者のひとりとして出席しました。

     「ふくい企業価値共創ラボ」とは、都市部(大都市圏)で活躍している人材(以下、都市人材)を福井県の未来を担う企業とマッチングし、県内企業が抱える経営課題の解決、付加価値の向上を図ること、都市人材に関係人口、定住人口として定着してもらうことを目的とした、リカレント教育プログラムであり、地方創生プログラムです。福井県立大学(地域連携本部)、福井県(産業労働部)、福井銀行・福邦銀行(Fプロジェクト)、全国企業振興センター(アイコック)と産官学金のコンソーシアム(共同事業体)を組織し、福井で活躍してくれる都市人材の発掘、県内企業とのマッチング支援を行っています。なお、福井県立大学では、県内企業とのマッチングが成立した都市人材を、半年間(9~2月)、協力研究員に任命したうえで、週4日はマッチング先企業へ派遣し経営課題の整理・解決支援を行ってもらい、週1日は大学で教員による講義、指導、助言を提供し、マッチング先企業での支援に役立ててもらっています。

     第2期目になる本年度は、都市人材(応募者)72名、県内企業(エントリー企業)7社に対してマッチングできたのは4社4名でした。都市人材側の倍率は18倍です。一方、県内企業側のマッチング成約率は57.1%ですから、高い成約率であることが分かります。つまり、企業側にとっては、高い確率で、厳選された都市人材と巡り合うことができるわけです。

     さて、福井県労働局が毎月公表している「雇用失業情勢」をみると、最新(令和6年12月分)の福井県における有効求人倍率は1.91倍(全国1.25倍)で、81か月(6年9か月)連続して全国で最も高い水準になっています。ここから、長らく県内企業の人手不足状態が続いていることが分かります。福井県では、高齢者や女性の有業率が全国的に高い水準にあるため、必然的に外部(県外)に人材を求めなければならないことも多くなってきます。なお、福井県では、特に「モノを造る、サービスを提供する」といった現場で活躍する人材の不足が目立ちますが、「新規事業を創る、販路を拡大する、生産性を高める」といった経営や管理などの舵取りを行うマネジメント人材(企画構想なども含む)の不足感も増している傾向があります。

     労働市場を単純に構造化すると、都市と地方の組み合わせです。労働市場は、地理的制約を受けやすいため、必然的に都市と地方との間に情報の分断や隙間が生まれます。経営学では、こうした隙間を「構造的空隙(ストラクチャルホール)」と呼びます。また、この隙間を埋めることの重要性が指摘されます。両者(都市と地方)の間に存在する隙間を埋め、橋渡しをする役割(バウンダリーキーパー)をコンソーシアムが担っているわけです。

     他方「ふくい企業価値共創ラボ」はリカレントプログラムであるため、都市人材の自発的な学び直し(成人学習)を支援することも重視します。シリル・フールは、成人学習者を「目的志向(目標達成の手段として学習を位置づける)」、「活動志向(友人を見つけるなど、学習の活動の中から何かを得ようとする)」、「学習志向(知識の獲得自体に意味を見出す)」の3つにタイプ分けしました。一方で、パトリシア・クロは、成人学習の阻害要因を、制度的(教育機関が生み出している障害)、状況的(職場や家庭の環境が生み出している障害)、気質的(本人の心理的問題)の3つを提示しています。阻害要因を上回る志向性の有無が、都市人材の「ふくい企業価値共創ラボ」へのエントリーを決定づけると個人的には考えています。

     そのため、プログラムの設計にあたっては、制度的な阻害要因の解消を意識するとともに、先天的、後天的はともかくとして、3つの志向性(目的、活動、学習)が高まるように工夫もしています。

     第2期では、4名(60歳代2名、50歳代1名、30歳代1名)の都市人材・協力研究員が無事にプログラムの修了を迎え、今後もそれぞれマッチング先企業の支援を継続することが決定しています。その意味で、本プログラムの目的(リカレント教育と地方創生)は達成できたのではないかと評価しています。

     人材不足解消策の新たな選択肢として「ふくい企業価値共創ラボ」も加えてみてはいかがでしょうか。

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  • ■中島精也先生による時事経済情報No.114

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  • ■吉田陽介先生による中国現地ルポNo.21 春節消費が活発だった中国 課題は持続可能性

    飲食消費が盛んな中国の春節

    春節(旧正月、今年は1月29日)は中国人にとって大事な祝日だ。コロナ禍のときは、親戚まわりをする人はあまりおらず、電話での挨拶がほとんどだったが、今は制限がなくなったため、一族が集まっての食事会も当たり前のように開かれている。筆者もこの春節は中国人妻の親戚の食事会に5年ぶりに参加した。

    食事会が行われたのは北京郊外のショッピングセンターの一角にある北京料理のレストラン。レストランを予約した親戚によると、春節時期は予約が殺到するので、11時半から12時、12時半から1時というように時間帯が区切られているそうだ。筆者らは予約した時間帯に店に着いたが、店の前には順番待ちの人が座っていた。20分ほど待ってから、予約した部屋の中に入れた。

    こうした光景を見ると、中国が不景気なのかと疑ってしまう。ただ、これまでと違ったこともあった。ほかの部屋を少しのぞいてみると、いくつかの部屋にある皿には料理が残っていなかった。筆者が参加した食事会も、以前は、料理がたくさん残っていたが、今回はほとんど残っていなかった。

    中国事情に明るい読者はご存知だと思うが、中国人は客をもてなすとき、食べきれないほどのご馳走を出す。筆者も10数年前に知り合いの中国人と3人で食事したとき、食べきれないほどの料理を注文され、なかには手をつけていないものもあった。お客にケチだと思われたくないので、たくさん出すのだと中国人の友人に聞いたことがある。ただ、内輪の場合は、なるべく完食する傾向にある。

    完食する人がちらほら見られたのは、不景気で食べられるだけ注文したということもあるかもしれないが、2010年代から、中国政府が呼びかけている「完食運動」も関係していると筆者は考える。筆者の勤務校の食堂でも、「食べ物の浪費はやめましょう」というスローガンが貼ってある。レストランも、量を少なめにした料理をメニューに入れるようになった。この10年ほどで、「完食しましょう」というスローガンは珍しくはなくなった。

    こうした変化は一部見られたが、飲食面の消費は全体的にみて好調だ。

    中国メディアによると、春節期間中の飲食市場は好調で、全国の飲食企業の予約数は前年同期比25%増加し、特に年夜飯(旧暦の大晦日)の予約が非常に好調だった。美団のデータによると、今年の年夜飯のオンライン予約数は前年同期比300%超増加した。

    また、中国の消費者は伝統的な家庭料理に満足せず、質と体験を重視している。高級レストランや中華レストランは予約が難しく、多くのレストランは需要を満たすために「2回目の年夜飯」というアイデアも出して、客を引きつけようとした。

    春節消費の活況は中国経済の回復示すか

    春節消費は飲食だけでなく、旅行消費や映画消費も好調だった。

    2月5日付の「人民日報」によると、旅行関連サービスの販売収入は前年同期比37.5%増だった。レジャー観光、公園観光地でのサービス、遊園地でのサービスの収入は前年同期比81.9%増、59.5%増、14.1%増だった。民泊業界は現地の特色と合わせて観光客により個性的な宿泊体験を提供し、観光客に人気を集め、民泊サービスの販売収入は前年同期比12.6%増加した。

    また、文化芸術サービスの販売収入は前年同期比66.3%増加した。うち、文芸創作・公演関連サービス、芸術公演会場の販売収入は前年同期比83.9%増、65.9%増だった。春節連休中、消費者はスポーツ娯楽とスポーツ健康の需要を重視し、スポーツ競技場サービスの販売収入は前年同期比135%増、スポーツ関連サービスの販売収入は224.1%増となった。

    このように、春節は消費が好調で、中国経済は幸先の良いスタート切ったとみられる。それには、1月に、福建省、広東省、湖北省などで行われた「消費券(商品券)」の配布や各種ECプラットフォームの割引といった消費刺激策が背景にある。さらに、春節がユネスコの世界無形文化遺産入りしたことで、「国潮(国産ブランドのトレンド商品)消費」に弾みがついたことも大きい。

    だが、こうした数字を見ると、中国経済が本格的に回復したとみられるが、春節は一種のイベントであり、経済的に余裕があってもなくもお金を使う傾向にあることも考える必要がある。

    春節期間中にネット上にアップされたセルフメディアの記事は、春節消費の拡大にややさめた目で見ており、次のように述べている。

    「国の統計データによると、ここ数年、春節の消費額は年々上昇しているものの、一人当たりの消費水準がコロナ禍前のレベルに回復するまでにはまだ道のりが長い。消費者は本当に細かく計算しており、お金を使うのに時間をかけて考えなければならないと言う人もいる。この背後にあるのは、実は消費者心理の問題だ。買うか買うかは、お金があるかどうかではなく、カネを使う勇気があるかないかだ。」

    この指摘は、中国の消費の現状を的確にとらえていると筆者は思う。日本の「失われた30年」の時もそうだったが、経済の先行きに明るい見通しが持てないと、必要以上の消費を控え、貯蓄に回そうとする。今の中国経済の回復も力強さを欠いているため、人々は先のことを考えて財布の紐が固くなっている。数年前から「理性的消費」という言葉が出てきたのは、このためだ。インターネットショッピングで、割引が多いのは、人々の節約志向を示している。

    経済回復に弾みをつけるには?

    これまで、中国政府は、人々が中国経済に明るい見通しを持てるよう、一連の活性化策を打ち出してきた。

    昨年の全人代(全国人民代表大会)の「政府活動報告」は、「自動車や家電など従来の消費財の下取りを奨励し、耐久消費財の下取りを推し進める」と述べ、「下取り・買取り」が消費活性化政策の重要な措置の一部となった。さらに、「国潮消費」やデジタル消費、グリーン消費、ヘルスケア消費、ウインタースポーツ関連消費など、新たな消費スポットを育てることにも言及され、昨年12月の中央経済工作会議では、「シルバー消費」も言及された。

    さらに、前述のように、消費をより活性化するために。「消費券」を地方政府レベルで配布している。春節前で言うと、湖北省では、飲食消費を活性化するため、1億元を支出して消費券を配布し、北京や河北省では、「氷雪経済(ウィンタースポーツ関連消費)」の発展を後押しするため、消費券を配布したという例がある。

    このように、政府レベルでは、個人消費活性化策を打ち出し、経済回復につなげようとしている。だが、前出のセルフメディアの記事が指摘するように、消費券を配っても、一回きりでは効果がさほどない。

    また、消費券についていえば、全ての住民に配るのではなく、ネット上で申し込みをし、抽選に当たった者にのみ、配られる。消費券を使える店も限られており、面倒だという声もある。

    ただ、中国は人が多い。すべての住民に配ると、コストがかさみ、財政を圧迫する。ネットを使わない高齢者も対象となると、配布の方法も考える必要があり、人的コストもかかってくる。そのため、現時点での「消費券」配布の方法は、現在の中国の現状から考えると、ベストな方法だと考えられる。

    現在、中国政府が打ち出している消費活性化政策は、短期的なものであり、その成果を持続的発展につなげていく必要がある。

    2月5日付の「人民日報」は次のように述べている。

    「投資は、短期的に言えば需要であり、中長期的に言えば供給である。利益のある投資は、質の高い発展の底力を固める。

    現在、わが国が直面している国際環境は複雑で厳しく、国内需要不足という挑戦は依然として比較的大きい。内需拡大はその場しのぎではなく、戦略的な取り組みだ。国内需要の拡大に力を入れることは、当面と今後しばらくの間の経済活動の重要な任務である。」

    中国政府の打ち出す「下取り政策」は「需要の先食い」だと指摘されているが、その面はある。この記事が指摘しているように、中長期の投資は供給側を対象としたものにならなければならない。そのため、中国政府は「新たな質の生産力」の概念を打ち出し、新技術を使った産業の育成に力を入れようとしている。

    現在の中国は「需要側」と「供給側」の両方に力を入れた政策を打ち出すだろう。李強・国務院総理は2月5日に開かれた国務院常務会議で、「圧力を原動力に変える」と発言し、積極的政策を打ち出すことをにおわせた。

    3月5日に開かれる全人代でどのような政策が打ち出されるか、注目したい。

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  • ウェルビーイング政策に関する地域経済研究フォーラムが開催されました。

     お知らせ

     2月3日(月)、地域経済研究所 企業交流室にて、「福井県のウェルビーイング政策の全体像と最新動向」をテーマに、地域経済研究フォーラムが開催されました。福井県庁 未来創造部 幸福実感ディレクター ウェルビーイング政策推進チームリーダー 飛田 章宏 氏をゲストスピーカーに、当研究所の高野翔 准教授が司会進行を務めました。世界のウェルビーイング政策の潮流を捉えた上で、日本の最先端のウェルビーイング政策の実践事例としての福井県の取り組みの紹介がなされました。

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