■吉田陽介先生による中国現地ルポNo.19 国慶節が中国の消費が好調だった理由
好調だった中国の国慶節消費
10月1日から7日まで、中国は建国記念日「国慶節」の大型連休だった。国慶節は春節と並ぶ大型連休であるため、筆者の学生の中には、帰郷する者が少なくないが、高速鉄道のチケットが取れないという声をよく聞いた。ある学生は、団体客が高速鉄道の切符を早く押さえてしまうので、なかなか予約できないとぼやいていた。
また、連休期間中、北京の地下鉄で、地方から来たと思しき人が、スマホの画面を見ながら、路線を調べているという北京に住んでいる者ならよく目にする“お馴染みの”光景を見かけた。このことは、中国の観光消費が好調であることを示している。中国文化観光部データセンターによると、国慶節期間中、全国の国内旅行者数は前年比5.9%増の延べ7億6500万人となり、2019年の同期間より10.2%増加し、数の上ではコロナ禍前の水準に戻った。
また、国慶節は個人消費も好調だった。4日付けの「人民日報」は、「国慶節連休中、消費市場は需給ともに旺盛で、消費熱は引き続き上昇している。各地域・各部門は多くの優遇政策を打ち出し、休日経済を活性化させ、消費シーンを刷新し、消費構造を向上させ、市場の活力を引き出し、住民消費の潜在力を引き出すのを加速した」と述べ、今年の国慶節がこれまで抑えられていた中国の人々の需要を喚起し、消費を伸ばしたと伝えた。
記事によると、文化娯楽観光、スポーツイベント、「国潮」商品、スマートホームなどの分野が国慶節期間中の消費のホットスポットとなったという。
不振と言われていた不動産市場も回復を見せ、「住宅見学ブーム」が起きた。新華社が8日に配信した記事は、「国慶節前に打ち出された需要喚起策により、各地の不動産市場は人が戻り、新築物件を訪れる顧客が増えて成約数も増加し、市場の自信がある程度回復していた」と述べた。
例えば、深圳市では、1~7日の新築分譲住宅の購入応募数は1841戸、計19.18万平方メートルで、購入応募数は前年同期より664.1%増加し、広州市の新築住宅の購入応募数は3000戸を超え、前年同期比で2倍以上増加した。
また記事は、不動産市場の回復は、北京や上海のような「1線都市」だけでなく、「2線・3線都市」といわれる中小都市にも波及したと指摘する。
例えば、湖北省では、1〜7日、新築分譲住宅の販売面積は67.6万平方メートルとなり、前年同期比で43.1%、前月同期(9月1〜7日)比で150.1%増加した。
重慶市では、国慶節中の販売促進活動が功を奏してか、1〜7日の市心部の分譲住宅のインターネット成約面積が前年同期比55.7%増の15.93万平方メートル、成約金額は同47.1%増の16.04億元(1元=約21円)だった。
さらに、オンラインショッピングも好調だった。8日の新華社の報道によると、オンラインプラットフォームで処理された決済取引は1日平均32.67億件で、金額にして1.2兆元に上り、前年同期に比べそれぞれ22.7%と5.39%増加した。
現在、中国のオンラインショップは割引がよく行われており、消費アップにいくらか貢献している。例えば、フードデリバリープラットフォームの「餓了麼」は、顧客が出前を頼む度にポイントを提供し、それを使って割引ができるようになっている。100元使うと、20元割り引かれるというように、金額が大きいほど、割引額も大きくなり、「お得感」がある。わが家も連休期間中、割引対象となっている料理をよく頼んだ。このプラットフォームのポイントは期限付きであるため、期間内に使わなければ無効になるため、期限切れになる前に何か注文しようというインセンティブが働く。こうした割引サービスも、消費拡大に一役買っているといえる。
さらに、中国政府が今年の全人代で打ち出した「買い替え・下取り」政策もあって、家電製品などの買い替えも好調だった。前出の「人民日報」記事は、ネット上で家電製品を注文し、注文終了から半日以内で商品が届くというオンライン・オフライン融合型のビジネスモデルが顧客に好評であることを紹介するとともに、家電製品の購入する際に、最高で20%割り引くという広東省深セン市の事例も紹介した。
好調な消費を支えた政府の対策
国慶節の消費が好調だったのは、政府による刺激政策が大きい。例えば、上海市は市レベルの財政資金5億元を投入し、飲食、宿泊、映画、スポーツの4分野を対象にサービス消費券を発行した。また、河南省は省レベルの財政資金2億元を投入し、10月から4回に分けて「金秋消費券」を発行するとした。
不動産分野でも、9月に入ってから、金融管理部門はこれまでに発表していた既存住宅ローン金利の調整、個人住宅ローンの最低頭金比率の最適化、商業個人住宅ローン金利設定の仕組みの整備、一部の不動産金融政策の期間延長、保障タイプ(福祉型)住宅向けの再貸出政策に関する要求の最適化などの措置を打ち出し、住宅を購入しやすい雰囲気を生み出そうとした。
中国政府が打ち出した一連の景気刺激策は、9月26日に開かれた中国共産党中央政治局会議が基調となっている。例年は、4月、7月、12月の中央政治局会議で当面の経済運営の方針について話し合われるが、9月にも話し合われることはあまりない。
清華大学中国発展企画研究院の董煜・研究員がWeChatアカウントに掲載した記事によると、9月の中央政治局会議を「異例のこと」と述べ、7月に政治局会議で、追加の景気刺激策について言及しており、それを具体化したと指摘した。7月の中央政治局会議の報道文を見ると、「すでに決まっている政策措置の全面的実施を急ぎ、新たな政策措置を迅速に準備し、適時に打ち出さなければならない」と述べており、董研究員の指摘するように、新たな政策措置を具体化して早急に打ち出すことで、経済対策への「本気度」を内外に示す目的もあったのではないかと考える。
消費に関する措置は次の通りである。
1、不動産市場の持ち直し・回復を図り、分譲住宅建設について新規のものを厳しく抑制する。
2、既存のものの最適化を図り、質を高め、「ホワイトリスト」プロジェクトに対する融資に力を入れ、既存遊休地の活性化を支援する。
3、住宅購入制限政策を見直し、既存の住宅ローン金利を引き下げ、土地、財政・租税、金融などの政策整備に力を入れる。
4、消費促進と民生優遇を結びつけ、中低所得層の増収を促し、消費構造の高度化を図る。
前の3項目は、不動産に関するものだが、これまでの不動産建設ラッシュで過剰になった住宅を処理するため、3番目に挙げられているような、ローン金利引き下げなどの優遇措置をとって、住宅に手が出せなかった人々の購入意欲をかき立てることを目的としている。国慶節期間中の不動産市場の回復はこうした措置の効果が出始めているのではないかと思われる。
4番目に挙げられた「消費促進」は、はっきりとは示されていないが、「買い替え・下取り」や「商品券発行」も含まれる。前述のように、「買い替え・下取り」は全国的な政策だが、各地方は商品券の配布などの措置をとり、消費振興を図った。
以上述べてきたように、国慶節は中国政府の打ち出した措置の効果もあって、消費が持ち直したが、休日の消費は一過性のものであり、持続するものとは言い難く、回復基調を持続的なものにする必要がある。
「中国経済の先行きは明るい!」
財政規律を保ちながらの景気対策
習近平総書記は15〜16日の福建省視察の際に、「第4四半期の経済運営に力を入れ、年間の経済・社会発展目標の実現に努力しなければならない」と述べ、全人代で掲げられた5%という経済成長目標を達成するため、追加的措置をとる必要性を示唆した。
中国政府は国慶節前後から、追加の景気対策を打ち出すとしている。消費に関するものを挙げると、「重点層への支援・保障の強化」だ。中国政府は国慶節前に生活困難層とされる人々に一度きりの生活補助金の支給を行ったが、次の段階では、学生を対象に困難な学生への補助などの措置をとって、全体的消費能力を上げるとされている。
さらに、不動産市場の安定的回復を図るため、地方の特別債券や特別資金、税制政策などのツールを動員するとしている。
こうした対策は、日本流でいうと、「バラマキ」といえるようなもので、景気対策を行うと、財政赤字が拡大することを意味する。ただ、中国は財政赤字を3.8%前後に設定し、財政の健全性は保たれている。「大規模なバラマキ政策は取らない」と政策文書で明言しているため、経済がある程度回復したら、方向転換するだろう。
また、中国政府の打ち出す景気対策は、金融面での緩和も含まれており、それが実体経済に届くことが大事である。中国政府はこれまでも、「金融は実体経済に奉仕すべき」と述べているため、大規模なバブルが発生するようなことはあまり考えられないが、自金融緩和が実体経済に結びつかなければ、国民は経済が良くなったという実感を持ちにくいだろう。
中国国家統計局が18日に公表した1〜9月の国内総生産(GDP)は4.8%増で、目標値である5%に届いていない。中国政府は、この数字は全人代で掲げた5%前後の範囲に入っていると述べているが、現在、中国政府は追加措置を講じて中国経済の先行きが明るいというイメージを持たそうとしている。
中国の打ち出した政策がどれだけの効果が出るかは、年末の指標の動向に注目する必要があるだろう。