福井県企業に学ぶ地方を豊かにする経営理論
私と私の仲間達で『福井県企業に学ぶ地方を豊かにする経営理論』(白桃書房)という本を今年の春出版した。
現在は、地方と都心との格差が指摘され、東京一極集中が問題視されている。地域活性化は、自治体に任せておけば何とかなるというものではない。その地方に関係する住民、企業、諸団体、市民がそれぞれ考えるべきことである。
その地方に立地する企業がいかなる戦略で競争力を確保しているのか。地方に立地することをいかに強みに変えているのか。その事例を理論とともに示すことに本書の狙いがある。
地方の活性化を企業の営みに注目した時に、無視しえない企業システムとして、考えねばならないのは、「ものづくり」「中小企業」「伝統産業」そして時に対峙する存在としてフランチャイズ・システム、IT産業、地方企業の生き残りをかけた多角化などがある。また、地方そのものを同定する営みとしての
地名ブランドの議論もある。
本書では、まず、地方のアイデンティティに関わる議論として、第1章に「プレイスブランディングによる地名価値の創出:三国湊と北前船を事例に」を置いた。地域をブランド化する試みは、地方活性化の有力な手段である。フランチャイズ(FC)に関する
第2章「地方におけるフランチャイズ・システム」は地方におけるフランチャイズの経営者は、どのような役割を果たしているのかを分析する。
第3章「事業定義からみる価値づくり経営 -松浦機械製作所の事例から-」は、福井市に本社を置く工作機械メーカーの株式会社松浦機械製作所は、工作機械の生産・販売に取り組み、独自のものづくりと開発精神をもつ企業である。成熟してきている工作機械産業のなかで、松浦機械製作所はどのようにして企業価値を高めてきたのであろうか。その要因を探ることで地方立地の中小企業経営への示唆を得ることを目的とする。
第4章「サプライヤーとしての中小企業における両利きの経営-日本エー・エム・シーの事例から」は、中小企業の取引関係に関する研究である。地方の中小企業盛衰は日本経済全体から見ても重要な意味を持つ。本稿では、アセンブラー(発注企業)とサプライヤー(受注企業)との関係をサプライヤー関係とよび、その関係の中でも特に受注中小企業の発展に注目し議論を進める。
第5章「Hacoaのケースと経営理論」では伝統産業の変化を取り上げる。福井県の伝統的工芸品産業である越前漆器製造において、木地の製造という下請工程を担っていた企業が、自社ブランド製品を開発、消費者へ直接販売すべく直営店を中心としたチャネル展開を進め、大きな成長を遂げたケースを詳細に記述し、ケースから同社の成長要因について経営学の理論から考察していく。
第6章「前田工繊の長期成長戦略」は前田工繊株式会社の成長の歩みに注目し、そこから観察される戦略的な意義について議論することにある。創業100年を超える老舗企業であり、福井県を代表する企業の1つである。また、
第7章「地方IT企業にチャンスはあるか 株式会社フィッシュパスを事例として」は福井県のベンチャー企業を取り上げる。ITとその関連産業は、地方の都会からの距離を直接にはハンデとしない。しかし、GAFAといったいわゆるプラットフォームは強力である。地方ITベンチャーはこれにいかに対抗していく道があるのか。
ぜひ多くの人に読んでもらいたい。