福井県立大学地域経済研究所

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  • ■中島精也先生による時事経済情報No.112

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  • ■吉田陽介先生による中国現地ルポNo.20 消費を活性化させよ 中央経済工作会議の狙いとは?

    店にどんどん人が!

    中国の消費は本当に悪いか?

    12月某日、年末に家族で食事するレストランの下見をするため、仕事帰りに家の近くにあるショッピングセンターに立ち寄ってみた。ショッピングセンターに入ろうとした時、後ろから仕事帰りの会社員や学校帰りの中高生らがどんどん入っていった。

    筆者が店を訪れたのは午後6時過ぎ。夕食どきのためか、飲食店にも人が入っていた。7時近くになれば、人気店は席が埋まり、順番待ちの客は店の前に置かれた椅子にかけてスマホを見ながら待っている。

    こういう1コマを見ると、中国の個人消費は本当に悪いのかと思ってしまう。だが、店内を歩く人をよく見ると、袋を下げている人がさほど多くない。ウィンドーショッピングを楽しむ人も一定数いるのではないかと思う。そのため、店内の人の多さだけでは、中国の消費が好調だとは結論することはできない。

    ただ、ウィンドーショッピングをして帰宅後にネットで購入するという人もいる。ネット店舗は実店舗に比べて2割ほど安い場合があり、100元(1元=約21円)買ったら50元バックというキャッシュバックのサービスがあるからだ。これは中国の消費者の「節約志向」を示している。

    消費活性化の環境整備狙う

    中国政府

    今の中国政府は、地方政府の債務、投資による景気回復の持続可能性などの問題もあり、固定資産投資で経済発展をけん引する策をとるのに慎重だ。今後の中国経済の回復は個人消費の伸びが重要なファクターになるだろう。

    12月10〜12日に、来年の経済政策の方針を決める中央経済工作会議が開かれた。日本メディアが報じたように、緩和気味の金融政策をとるとされた。この会議では、金融政策の基調のほかに、消費の活性化につながる措置も提起された。12日に公表された会議の報道文には以下のような措置が挙げられている。

    1、消費喚起特別行動を実施し、中低所得層の増収と負担軽減を図り、消費の能力、意思、レベルを高める。

    2、退職者の基本年金を適度に引き上げ、都市・農村住民の基礎年金を引き上げ、都市・農村住民の医療保障財政補助基準を引き上げる。

    3、範囲を拡大して「両新(設備更新と消費財の買い替え・下取り)」政策を実施し、多様な消費シナリオをつくりだし、サービス消費を拡大し、文化・観光業の発展を促進する。

    4、新しいものを打ち出す「首発」経済(企業による新製品発表、新業態・新モデル・新サービス・新技術の打ち出し、第1号店オープンなどの経済活動を総称したもの)や氷雪経済、シルバー経済を積極的に発展させる。

    5、トップダウンの組織調整に力を入れ、より大きな力で「両新」プロジェクトを支える。

    6、中央予算内投資を適度に増やす。財政と金融の連携を強め、政府の投資で社会の投資を効果的に引き出す。

    7、第15次5カ年計画の重大プロジェクトを早期に計画する。

    8、都市更新の実施に力を入れる。

    9、社会全体の物流コストを下げる特別行動を実施する。

    以上の措置を見ると、「全面的」という言葉で表現できる。報道文では、新たな消費の分野の活性化、3月の全人代で打ち出された「買い替え・下取り」政策の実施だけでなく、氷雪経済、シルバー経済の発展にも言及されている。

    さらに、財政政策と金融政策などの「ポリシーミックス」で、民間投資の「呼び水」とすることも述べている。ここで、都市更新にも言及しているが、既成市街地の再開発は関連の需要を生み出す。中国のある証券会社の分析レポートによると、城中村(都市の中で発展から取り残された地域)の再開発が分譲住宅需要を生み、不動産投資が回復し、ひいては、景気回復につながると見ている。

    「弱者」にも配慮?

    全面的な景気対策

    また、所得増加については、昨年は「中間層の拡大」が強調されていたが、今年は低所得者への配慮、定年退職者の「養老金(年金)」の引き上げについても言及されており、弱者への手当てを行うことで、全体的な消費活性化につなげようとしている。

    昨年の中央経済工作会議は、「デジタル消費、グリーン消費、健康消費を積極的に発展させる」とし、「インテリジェント家庭用品、文化・娯楽・観光、スポーツイベント、「国貨潮品(国産ブランドのトレンド商品)」などが「新たな消費成長ポイント」とされ、さらに、「新エネルギー自動車、電子製品など大口消費を増やす」と述べていた。

    氷雪経済、シルバー経済は新しい概念ではなく、中国の経済メディアや政策文書にも登場している。例えば、2019年度の「計画報告」は、「東北地区の寒冷地における「氷雪経済」の発展促進に関する指導意見の策定を検討」することを盛り込んでいた。氷雪経済は雪資源の開発やウィンタ―スポーツ、文化、教育、観光などの関連産業のことをさすが、これは比較的遅れているとされている中国の東北地方の経済活性化を図ったものでもある。

    シルバー経済は60歳以上の高齢者を対象にした旅行や高齢者ケア、健康サービスなどの消費をいう。11月8日の新華社の報道によると、2023年末時点で、中国の60歳以上の高齢者人口は2.97万人に達し、総人口に占める割合は21.1%に達し、「人口の高齢化が中国の基本的国情」だとしている。そのため、介護を含む「養老(高齢者ケア)」サービスはハード面・ソフト面での充実が必要で、関連産業は今後伸びる可能性のある産業だ。

    また、中国の高齢者は元気だ。今後は段階的に延長される方向だが、現在の定年年齢は男性が60歳、女性が55歳で、体が十分動く歳だ。中国では、孫の面倒は定年退職した親の“仕事”となり、孫にカネを使うことも多い。筆者の家もそうだが、祖父母は孫のためにおやつや栄養のある食べ物、時には孫の欲しいものも買い与える。こうした祖父母の消費も消費活性化に一定の役割を果たすと考えられる。

    一方で、孫の面倒を見ない高齢者には、旅行に行く人もいる。業者もそうした高齢者のニーズに注目しており、高齢者向けの旅行商品もあるそうだ。

    このことから、高齢者は潜在的消費能力がある。シルバー経済は今後、中国の消費活性化で重要な役割を果たすと考えられる。

    「アベノミクス」と同じか?

    中央経済工作会議の目的

    この中央経済工作会議の狙いは、中国経済の「先行きが暗くない」ことを示すことだ。ここ2年の会議の基調は、「中国経済光明論」を強調したものになっている。今年、中国政府は力強い経済対策を何度も行ったが、それは中国の人々の中国経済の先行きに対する不安を和らげるためでもある。

    日本も安倍政権下で推し進められた経済政策「アベノミクス」により、大規模な金融緩和が行われた結果、名目賃金が上昇し、雇用も回復した。そのため、経済回復ムードが醸成された。ただ、経済成長の成果が庶民に十分に行き渡らなかった。国民経済の多数を占める中小企業に効果が波及しなかったという面はあるが、景気が回復し、今後の先行きが明るいという「アナウンスメント効果」を発したという面があった。中国政府が行っている一連の刺激策もこうした効果を狙っているのではないかと考えられる。

    今年の中央経済工作会議は、景気回復に向けて緩和気味の金融政策を行い、カネを実体経済に流れるようにすることで、人々に経済回復の実感を持たせ、消費環境を改善することが大きな狙いの一つではないかと筆者は考える。

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  • 民主主義を考える 終わりなき旅路

     民主主義とは何か? 民主主義の在り方が根本から問われる時代を私たちは生きている。今回は、民主主義という言葉を聞くといつも脳裏に浮かぶスイスの小さなまちでの思い出話をお届けできればと思う。

     スイス東部に位置するアッペンツェル。直接民主主義が息づくまちだ。毎年4月に3千人ほどの住民が広場に一堂に会し「青空住民議会」が開催される。議会のはじめには行政から昨年度の会計報告があり、その後、様々な議題に関して、住民が右手をあげるかどうかでまちの政策が直に決まっていく。住民が代表となる議員を選出し、その議員が議会で決定行為を行う間接民主主義とは異なるスタイルだ。参加と責任はセットであり、住民の右手には責任が直接かかってくる。青空住民議会はその最高意思決定機関だった。

     青空住民議会という直接民主制の仕組みにも当然ながら長所と短所がつきまとう。しかしながら、地域の人々が集まり、意見を述べ合い決定していく姿には、民主主義への人々の社会的意志を示すのに十分な力で溢れていた。自分たちのまちのことは自分たちで決めていく。分権社会であるスイスの自治の精神を凝縮したかのような一場面に圧倒された。

     さて、少しの間このまちに滞在することを決めたのだが、困ったことがある。端的にいうと物価が高いのだ。レストランで食べていては旅を継続することはできない。こういうときは、パンとチーズでも買って、屋外の雰囲気がよいベンチに座って食べる。それが自分流の対処法だった。特に、スイスの景色はどこを見ても息をのむ美しさであり『アルプスの少女ハイジ』の世界。至る所に素敵なベンチがあり、選択肢はあまたあった。その中でもすごく惹かれた机つきの一つのベンチがあった。空も暗くなりはじめたころ、そこで一人、パンをかじりはじめた。

     するとなぜかそのベンチに人があつまりはじめた。アフリカのソマリアから来たという彼、アフリカのエリトリアから来たという彼、はたまたチベットから来たという彼。私は当然ながら驚いたが、彼らも驚いたことだろう。なぜここに見知らぬ東洋人が座っているのだと。そのベンチは、母国を離れ難民としてスイスに移り住んで来た彼らが、夜な夜な集う“アジト”と名づけた大切な居場所だった。気があい、話が盛り上がった。ビールを2本ももらった。なんとも愉しい晩餐となった。

     ただ、自分に刻まれたことがあった。あなたはなんでこのまちに来たんだと聞かれて、「青空住民議会」を見たくて来たんだ、と答えた。しかし、彼らは、その存在自体を知らなかった。あれほど人が集まり、政治的決定を行う象徴的なイベント。それだけでなく、青空住民議会の後には、人々の交流がまちに溢れ、レストランでは地ビールを飲む姿が夜遅くまで見られる特別な日、なのにだ。間違いなく青空住民議会の存在は民主主義における世界の良き事例の一つであると思う。それでも、彼らとの接点がまったくないという事実に、頭を殴られた気分だった。

     その日以降も、まちを紹介してくれたり、彼らと時間をともにした。まちを離れる前には、チベットからきた彼の住まいに招かれ、チベットの蒸し餃子であるモモをふるまってくれた。そして、彼の夢や希望に聴き入った。

     話を戻そう、民主主義とは何か? 答えは簡単には出そうにない。しかし、政治体制の在り方だけを意味する言葉ではないことは確かだ。その概念の範疇は、山よりも高く海よりも深い。一人ひとりが持つ尊厳と可能性の価値を認め合うことに立脚する営みであり、そして、それは終わりなき旅路であること。私はそう教わった気がする。

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  • ■中島精也先生による時事経済情報No.111

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  • 遺産(ヘリテージ)が溢れる世界―恐竜は福井のヘリテージとなりうるのか?

     今、〇〇遺産と名のつく遺産(ヘリテージ)が増え続けている。世界遺産、自然遺産、文化遺産、農業遺産、機械遺産……私もそうしたヘリテージ、その中でも工場や鉱山の跡地といった産業遺産を研究対象としており、その関係で、隣接する分野のヘリテージ研究者の読書会に参加させてもらい、その成果として去年『文化遺産(ヘリテージ)といかに向き合うのか―「対話的モデル」から考える持続可能な未来』(ミネルヴァ書房)の翻訳出版にかかわることができた。

     本書によれば、ヘリテージは近代において共同体のアイデンティティを形成するのに必要不可欠なものだそうだ。不確実性と危機感を常とする近代において、人間集団のアイデンティティは常に危機にさらされる。そうした中で近代とは対照的に、確実で変化しないとみなされた「過去」「歴史」と現在をつなぐヘリテージに光が当てられたという。国家の威信を人々に示すフランスのルーブル美術館やイギリスの大英博物館などを連想すれば、こうしたことは実感できよう。ヘリテージははじめからヘリテージなのではなく、その時代、その場所での事情によりヘリテージとなるのだ。

     さて、去年福井県立大学の採用面接を受けるため数年ぶりに福井駅を訪れたとき、真っ先に目に入ったのは、もちろん恐竜であった。イラスト、模型、ロボット……その後も新幹線の開業を経て、日に日に駅前に増えていく。こうした行政や観光業に関連するシチュエーションのみならず、民間のトラックに恐竜が描かれたり、地元自治会等が制作したような恐竜像が田んぼの中に建てられたりと、こうなると福井の恐竜推しは、観光振興のためのお題目を超えるのではないかとも感じてくる。

     こうした中で、恐竜は福井のヘリテージとなりうるのであろうか。研究の興味関心上、密かに気になっているところである。もちろん彼らが生きて動いていたときには、県境どころか日本列島すら影も形もなく、彼らがそのようなことを気にしていたはずもない。たまたま現在人間が、ここが福井県ですと線を引いて決めた境界の中から化石が数多く発掘されたというだけのことである。それが時を経て、今を生きる人々の事情により前面に出されることとなった。個人的には、これは確かに観光資源として強いなと感心している。子どもや家族連れに人気があり、日本どころか東アジア全域辺りまで探索範囲を拡張しても、オリジナリティが高い。

     私の研究対象とする産業遺産では、これらの何をどこまでどのように保存するかが、世界のあちこちで議論になっている。ここまで紹介してきたように、ヘリテージをどのようにマネジメントするかということは、人々のアイデンティティに関わる重大な問題なのだ。そこが研究する意味のあるところでもある。そうした出来事を念頭において、今現在眼の前で行われている福井の恐竜売りを観察することは大変興味深い。カニ、結城秀康、芦原温泉といったこれまでにあった福井の歴史的、社会的、文化的文脈から一見ぽっと出の存在に見える恐竜。そのようなものが地域のアイデンティティと結びつき、地域の血肉となることがありうるのか?ありうるとしたらどのように?そこに摩擦や衝突は起こりうるのか?私としてはひとまず恐竜が街中に広まっていく様子の観察を楽しみたい。

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  • ■中島精也先生による時事経済情報No.110

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  • ■吉田陽介先生による中国現地ルポNo.19 国慶節が中国の消費が好調だった理由

    好調だった中国の国慶節消費

    10月1日から7日まで、中国は建国記念日「国慶節」の大型連休だった。国慶節は春節と並ぶ大型連休であるため、筆者の学生の中には、帰郷する者が少なくないが、高速鉄道のチケットが取れないという声をよく聞いた。ある学生は、団体客が高速鉄道の切符を早く押さえてしまうので、なかなか予約できないとぼやいていた。

    また、連休期間中、北京の地下鉄で、地方から来たと思しき人が、スマホの画面を見ながら、路線を調べているという北京に住んでいる者ならよく目にする“お馴染みの”光景を見かけた。このことは、中国の観光消費が好調であることを示している。中国文化観光部データセンターによると、国慶節期間中、全国の国内旅行者数は前年比5.9%増の延べ7億6500万人となり、2019年の同期間より10.2%増加し、数の上ではコロナ禍前の水準に戻った。

    また、国慶節は個人消費も好調だった。4日付けの「人民日報」は、「国慶節連休中、消費市場は需給ともに旺盛で、消費熱は引き続き上昇している。各地域・各部門は多くの優遇政策を打ち出し、休日経済を活性化させ、消費シーンを刷新し、消費構造を向上させ、市場の活力を引き出し、住民消費の潜在力を引き出すのを加速した」と述べ、今年の国慶節がこれまで抑えられていた中国の人々の需要を喚起し、消費を伸ばしたと伝えた。

    記事によると、文化娯楽観光、スポーツイベント、「国潮」商品、スマートホームなどの分野が国慶節期間中の消費のホットスポットとなったという。

    不振と言われていた不動産市場も回復を見せ、「住宅見学ブーム」が起きた。新華社が8日に配信した記事は、「国慶節前に打ち出された需要喚起策により、各地の不動産市場は人が戻り、新築物件を訪れる顧客が増えて成約数も増加し、市場の自信がある程度回復していた」と述べた。

    例えば、深圳市では、1~7日の新築分譲住宅の購入応募数は1841戸、計19.18万平方メートルで、購入応募数は前年同期より664.1%増加し、広州市の新築住宅の購入応募数は3000戸を超え、前年同期比で2倍以上増加した。

    また記事は、不動産市場の回復は、北京や上海のような「1線都市」だけでなく、「2線・3線都市」といわれる中小都市にも波及したと指摘する。

    例えば、湖北省では、1〜7日、新築分譲住宅の販売面積は67.6万平方メートルとなり、前年同期比で43.1%、前月同期(9月1〜7日)比で150.1%増加した。

    重慶市では、国慶節中の販売促進活動が功を奏してか、1〜7日の市心部の分譲住宅のインターネット成約面積が前年同期比55.7%増の15.93万平方メートル、成約金額は同47.1%増の16.04億元(1元=約21円)だった。

    さらに、オンラインショッピングも好調だった。8日の新華社の報道によると、オンラインプラットフォームで処理された決済取引は1日平均32.67億件で、金額にして1.2兆元に上り、前年同期に比べそれぞれ22.7%と5.39%増加した。

    現在、中国のオンラインショップは割引がよく行われており、消費アップにいくらか貢献している。例えば、フードデリバリープラットフォームの「餓了麼」は、顧客が出前を頼む度にポイントを提供し、それを使って割引ができるようになっている。100元使うと、20元割り引かれるというように、金額が大きいほど、割引額も大きくなり、「お得感」がある。わが家も連休期間中、割引対象となっている料理をよく頼んだ。このプラットフォームのポイントは期限付きであるため、期間内に使わなければ無効になるため、期限切れになる前に何か注文しようというインセンティブが働く。こうした割引サービスも、消費拡大に一役買っているといえる。

    さらに、中国政府が今年の全人代で打ち出した「買い替え・下取り」政策もあって、家電製品などの買い替えも好調だった。前出の「人民日報」記事は、ネット上で家電製品を注文し、注文終了から半日以内で商品が届くというオンライン・オフライン融合型のビジネスモデルが顧客に好評であることを紹介するとともに、家電製品の購入する際に、最高で20%割り引くという広東省深セン市の事例も紹介した。

    好調な消費を支えた政府の対策

    国慶節の消費が好調だったのは、政府による刺激政策が大きい。例えば、上海市は市レベルの財政資金5億元を投入し、飲食、宿泊、映画、スポーツの4分野を対象にサービス消費券を発行した。また、河南省は省レベルの財政資金2億元を投入し、10月から4回に分けて「金秋消費券」を発行するとした。

    不動産分野でも、9月に入ってから、金融管理部門はこれまでに発表していた既存住宅ローン金利の調整、個人住宅ローンの最低頭金比率の最適化、商業個人住宅ローン金利設定の仕組みの整備、一部の不動産金融政策の期間延長、保障タイプ(福祉型)住宅向けの再貸出政策に関する要求の最適化などの措置を打ち出し、住宅を購入しやすい雰囲気を生み出そうとした。

    中国政府が打ち出した一連の景気刺激策は、9月26日に開かれた中国共産党中央政治局会議が基調となっている。例年は、4月、7月、12月の中央政治局会議で当面の経済運営の方針について話し合われるが、9月にも話し合われることはあまりない。

    清華大学中国発展企画研究院の董煜・研究員がWeChatアカウントに掲載した記事によると、9月の中央政治局会議を「異例のこと」と述べ、7月に政治局会議で、追加の景気刺激策について言及しており、それを具体化したと指摘した。7月の中央政治局会議の報道文を見ると、「すでに決まっている政策措置の全面的実施を急ぎ、新たな政策措置を迅速に準備し、適時に打ち出さなければならない」と述べており、董研究員の指摘するように、新たな政策措置を具体化して早急に打ち出すことで、経済対策への「本気度」を内外に示す目的もあったのではないかと考える。

    消費に関する措置は次の通りである。

    1、不動産市場の持ち直し・回復を図り、分譲住宅建設について新規のものを厳しく抑制する。

    2、既存のものの最適化を図り、質を高め、「ホワイトリスト」プロジェクトに対する融資に力を入れ、既存遊休地の活性化を支援する。

    3、住宅購入制限政策を見直し、既存の住宅ローン金利を引き下げ、土地、財政・租税、金融などの政策整備に力を入れる。

    4、消費促進と民生優遇を結びつけ、中低所得層の増収を促し、消費構造の高度化を図る。

    前の3項目は、不動産に関するものだが、これまでの不動産建設ラッシュで過剰になった住宅を処理するため、3番目に挙げられているような、ローン金利引き下げなどの優遇措置をとって、住宅に手が出せなかった人々の購入意欲をかき立てることを目的としている。国慶節期間中の不動産市場の回復はこうした措置の効果が出始めているのではないかと思われる。

    4番目に挙げられた「消費促進」は、はっきりとは示されていないが、「買い替え・下取り」や「商品券発行」も含まれる。前述のように、「買い替え・下取り」は全国的な政策だが、各地方は商品券の配布などの措置をとり、消費振興を図った。

    以上述べてきたように、国慶節は中国政府の打ち出した措置の効果もあって、消費が持ち直したが、休日の消費は一過性のものであり、持続するものとは言い難く、回復基調を持続的なものにする必要がある。

    「中国経済の先行きは明るい!」

    財政規律を保ちながらの景気対策

    習近平総書記は15〜16日の福建省視察の際に、「第4四半期の経済運営に力を入れ、年間の経済・社会発展目標の実現に努力しなければならない」と述べ、全人代で掲げられた5%という経済成長目標を達成するため、追加的措置をとる必要性を示唆した。

    中国政府は国慶節前後から、追加の景気対策を打ち出すとしている。消費に関するものを挙げると、「重点層への支援・保障の強化」だ。中国政府は国慶節前に生活困難層とされる人々に一度きりの生活補助金の支給を行ったが、次の段階では、学生を対象に困難な学生への補助などの措置をとって、全体的消費能力を上げるとされている。

    さらに、不動産市場の安定的回復を図るため、地方の特別債券や特別資金、税制政策などのツールを動員するとしている。

    こうした対策は、日本流でいうと、「バラマキ」といえるようなもので、景気対策を行うと、財政赤字が拡大することを意味する。ただ、中国は財政赤字を3.8%前後に設定し、財政の健全性は保たれている。「大規模なバラマキ政策は取らない」と政策文書で明言しているため、経済がある程度回復したら、方向転換するだろう。

    また、中国政府の打ち出す景気対策は、金融面での緩和も含まれており、それが実体経済に届くことが大事である。中国政府はこれまでも、「金融は実体経済に奉仕すべき」と述べているため、大規模なバブルが発生するようなことはあまり考えられないが、自金融緩和が実体経済に結びつかなければ、国民は経済が良くなったという実感を持ちにくいだろう。

    中国国家統計局が18日に公表した1〜9月の国内総生産(GDP)は4.8%増で、目標値である5%に届いていない。中国政府は、この数字は全人代で掲げた5%前後の範囲に入っていると述べているが、現在、中国政府は追加措置を講じて中国経済の先行きが明るいというイメージを持たそうとしている。

    中国の打ち出した政策がどれだけの効果が出るかは、年末の指標の動向に注目する必要があるだろう。

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  • 福井県における人口と地域労働市場の変遷

     経済活動は地理的に不均一に行われている。例えば、日本では東京や大阪、愛知に多くの人々と企業が集まり密集している。こういった特定の場所に経済活動が集積する現象は世界中で起きているので、そこには何らかの共通のメカニズムがあると考えるのは自然なことと言える。
     人々は生活の糧を得るために労働し、企業も事業を営むために労働者を雇用する。このため、人々は仕事のある場所で暮らし、企業は人々を雇用することが可能な場所で事業を営むと考えられる。
     そこで、このコラムでは、福井県における人口と労働市場の変遷を見ることで、福井県への集積について考えてみたい。
     福井県の総人口は1975年から2000年にかけて、773,599人から828,944人に増加し、2020年には766,863人となっている。2000年から2020年にかけて人口の増減率を見ると、総人口は約7.5%、男性人口は約7.1%、女性人口は約7.9%とそれぞれ減少している。なお、2010年から2020年の総人口の減少率は約4.9%程度である。
     一方、労働市場について見てみると、福井県の就業者数は、2010年から2020年にかけて、6486人の減少、増減率は約1.6%となっている。ただし、県内の有効求人倍率を見てみると、これは福井県から雇用が減少していることを意味しない。
     福井県における年度平均の有効求人倍率は、2010年度は0.88となっているが、2011年度以降は一貫して1を上回っている。これは求職者数一人に対して求人数が1つ以上あることであり、すなわち県内企業にとっては人手不足となっている可能性を示唆している。また、2010年以降、福井県における友好求人倍率は全国平均よりも高く、人手不足が継続している可能性を示している。
     それでは、産業別の就業者数の増減を把握することで、県内労働市場の状況について見ていく。まず、県内において就業者数の多い産業は、2020年時点では製造業が最も多く85,592人、次いで卸売業・小売業で57,301人、医療・福祉で52,198人となっている。これらの産業において、2010年と2020年の就業者数を比較すると、製造業では1,516人の減少、卸売業・小売業で7,198人の減少、そして、医療・福祉で7,430人の増加となっている。製造業では増減率では約1.7%の減少であり、大きな変化は見られない。また、卸売業・小売業は確かに就業者数が減少しているが、医療・福祉においては就業者数が同程度増加しており、就業者数の増減で見ると相殺している状況にある。従って、県内の就業者の多い産業が特に大きな影響をもたらしているわけではないと言える。
     今後に向けて注目したいのは、教育・学習支援業と学術研究及び専門・技術サービス業である。教育・学習支援業の就業者数は、2010年からの10年間で1,582人増加し19,726人になり、その増減率は約8.7%となっている。また、学術研究及び専門・技術サービス業では同時期において634人増加し、就業者数は10,845人に、増減率は約6.2%となっている。この二つの産業については、2020年時点の就業者数を合計すると約3万人となることから、このまま就業者数の増加が続くのであれば、県内の雇用に一定の影響をもたらすと考えられる。
     また、この両者は互いに良い影響を及ぼし、県内の雇用を成長させる可能性があると考えられる。すなわち、高度な技能と知識を持った人材に対する需要と供給の相互作用である。その結果、県内労働市場が変わることで魅力的な仕事が増加すれば、人口の県外への流出や県内への流入につながることが期待される。

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  • 都市地域計画のイノベーションと情報ロックインの挑戦

     新技術と気候条件の融合は、都市や地域計画に革新をもたらしている。スマート技術の導入と適応戦略を通じて、都市や地域は、将来の課題やチャンスに備え、より回復力があり、持続可能で、住みやすい場所を目指している。COP28(2023)では、脱炭素化と気候変動への対応力強化が主要議題として取り上げられ、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の下で議論が行われた。都市部に焦点を当てるこは、特に重要、世界の温室効果ガス(GHG)排出量の約70%を都市部が占めており、すべての地域の持続可能性に大きな影響を与えるからである。福井県では、土地の約74.54%が森林に覆われている一方、都市部はわずかな土地面積しか占めていないが、人口の60%以上が都市部に集中して、地域システムの未来を形作る上で都市部が重要な役割を担っている。

     2014年に全国的に施行された立地適正化計画(都市再生特別措置法の下)に基づき、2023年に福井県の都市計画では、8市3町が都市の持続可能な未来を推進するための戦略を示している。この戦略は、公共交通の拠点周辺にサービスや居住空間を集約するコンパクトな都市圏の形成に重点を置いている。中心市街地の活性化が優先され、住民や企業にとってより魅力的な地域となることが目指されている。さらに、人口減少に対処し、都市の長期的な活力を確保するために、特に若い世代や家族を都市中心部に呼び戻す政策が進められている。気候変動の緩和と回復力を強化するため、グリーンインフラや透水性土壌の整備を含む新政策も進行する必要がある。しかし、これらの実現には、特に構造的・制度的なロックインに対する課題に取り組む必要がある。

     土地利用管理に関連する構造的ロックインはその典型的な例である。これには、地域の制度や規則に深く根ざした土地の権利制度に関する制度的ロックインや、変更が難しい土地利用パターンや所有構造を持続的に確立する経路依存性が含まれる。さらに、あまり認識されていないものの重要な情報ロックインも存在し、公式・非公式の土地利用に関する情報不足が原因で停滞が生じることがある。このようなロックインの具体例としては、戦後の都市計画によって支持された隔離、低密度開発を促進した郊外化や都市スプロールを助長する政策、そして工業化の遺産などが福井、坂井、敦賀周辺に見られる。これらの課題を克服することは極めて重要であり、特に情報ロックインへの対応が鍵となる。

     情報ロックインは、福井県における都市や地域の将来を妨げる要因となり、意思決定に必要なデータへのアクセスを制限している。この制約は、新技術の導入を阻害し、利害関係者間の協力を困難にし、断片的なアプローチを引き起こす。また、古い土地利用慣行を強化し、関連情報へのアクセスを制限することで、公共の関与が減少する。十分に文書化されていない、またはアクセスが困難な歴史的な土地利用データや政策が存在する場合、現在および将来のニーズに適さない古い慣行が持続するリスクがあり、土地管理などにおける非効率が続く可能性がある。これらの課題に対処することは、データアクセスの向上、透明性の推進、そして地域の持続可能で調和の取れた未来を確保するために不可欠である。

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  • 農産物の価格はどうやって決まるのか

     「農政の憲法」とも言われる「食料・農業・農村基本法」の改正法が2024年5月29日に成立した。今回の改正の最大の特徴は、法律の基本理念に「食料安全保障の確保」が書き込まれたことである。「安全保障」の具体的な内容としては輸出の促進も含まれている。平時から輸出量が多ければ、有事の際に食料輸入が困難になっても、輸出している分を国内消費用に振り換えることで安全保障になる。

     この改正のなかで私が気になったのが、価格形成について「持続的な供給に要する合理的な費用が考慮されるようにしなければならない」と書き込まれたことである。

     現在の経済学の理論によれば、価格は需要と供給のバランスによって形成され、そこに原価や費用は直接関係しない。供給量が増え価格が下がって原価割れするようなことになれば、それに耐えられない生産者が生産をやめ淘汰され、供給量が減り適正な価格形成がされる。マルクス経済学の理論であれば、再生産可能な原価に利益を加えたものが適正価格で、それを政府が設定することで継続的かつ発展的な生産の保証をするのであるが、現実社会でこの方法が成り立たないことは社会主義国の崩壊で歴史が証明した。

     では安い輸入品が大量に入ってきて価格が低下し、国内の生産者は全員再生産不可能になる場合はどうするのか。その産品の生産は全て輸入に頼ることになるのだろうか。この場合の対策に関してはWTO(世界貿易機関)のルールが定められていて、価格を調整するのではなく政府が生産者に直接お金を払うことで国内生産を維持させることになっている。WTOは、「米を1粒たりとも輸入させない」と国民的な議論になったGATTウルグアイラウンドが1994年に合意した内容をもとに設立され、国内農業の保護に関するルールの原則もこの時に制定された。もう30年も前にできたきまりである。

     日本でもこの制度は導入されており、例えば水田に小麦や飼料作物(飼料米を含む)などを作った場合には、高い値段で生産物を買い上げるのではなく、代替作物を生産したことに対して農家に直接補助金が支払われている。

     7月5日の福井新聞D刊(共同通信記事)に東京都内の商店街でのアンケート結果が掲載されている。「農業者が現在の価格水準では事業を継続できない場合、どのような対策が妥当だと思うか」という質問に対して最多の回答は「政府が補助金を出す」で104人中51人と約半数、次いで「販売する食品を値上げする」が25人だった。この消費者調査の結果ではWTOの方針が最も多く支持されていることがわかる。記事は「だが政府は、消費者が求める補助金ではなく、価格転嫁の促進によって局面を打開したい方針だ。」と続き、市民の意向と政府方針が違うことに言及するが、経済学の基礎理論や国際協定がどうなっているのかについては全く触れられていない。私個人としては残念なことだと思うので、このコラムを含めていろんな場で発言を続け、国民の議論の前提として経済理論や国際協定が考慮されるようになるように努力したい。

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