福井県立大学地域経済研究所

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  • 文化施設のこれからを考える

     国立博物館・美術館の2026年度からの中期目標において、展示事業に係る費用に対する自己収入額の割合を、最終年度に65%以上とし、さらにその次の中期目標期間中に100%とすることを目指す方針が示され、話題となっている。これは、展示事業に対してのみ設定された自己収入の数値目標であり、「収集・保管」、「教育普及」、「調査研究」にはしっかりと国の予算を措置すると説明されている。とはいえ、現状からみれば大きな引き上げであり、文化施設のあり方をめぐって大きな議論を呼んでいる。

     国立施設は独立行政法人として運営され、国から運営費交付金を受けている。財政制約のなかで、展示事業について自己収入の拡大を図り、持続可能な運営を目指すこと自体は必要だろう。魅力ある展示を企画し、多くの人に足を運んでもらうことも、文化施設にとって大切な役割である。しかし、国立の博物館・美術館の本来的役割は、単に集客や収益を上げることにあるのではなく、資料を収集し、保存し、調査研究を重ね、その成果を展示や教育普及を通じて社会に還元することにある。収益を上げやすい展示ばかりに意識が向けば、短期的には来館者が増えても、将来にわたって残すべき文化的価値や、地道な研究活動がおろそかになるのではないかという懸念もある。入館者数や収入額だけでは測りにくい、文化施設が果たすべき公共的意義とは何なのか。それをどのように支えるのか。今回の議論は、そのような問いを投げかけている。

     地方の公立文化施設もまた、国立施設とは規模や性格が異なるとはいえ、その役割があらためて問われている。多くの施設は1970~90年代に整備され、古いものでは半世紀を超えるいま、老朽化への対応が課題となっている。建物や設備の更新には大きな費用がかかる一方で、人口減少が進み、自治体財政は厳しく、利用者の増加も簡単には見込めない。

     県内に目を移すと、福井県立美術館や県立歴史博物館でも、老朽化への対応を含め、今後の施設のあり方をめぐる検討が進んでいる。単に建物や設備をどう直すかという話にとどまらず、これからの文化施設が、地域社会の中でどのような役割を担うのかを考える機会でもある。

     国内外の議論を見ても、いま文化施設の役割があらためて見直されている。OECDとICOM(国際博物館会議)は2018年、地方政府、コミュニティ、ミュージアム向けのガイド『文化と地域発展:最大限の成果を求めて』を共同で作成した。同ガイドでは、博物館や文化遺産を地域発展のための大切な資産として位置づけ、地域の経済発展、都市再生、創造的な地域社会づくり、社会的包摂、健康や幸福への貢献といった役割が示されている。また2022年に合意されたICOMの新しい博物館定義では、誰もが利用できること、包摂的であること、多様性や持続可能性を育むこと、コミュニティの参加とともに活動することが重視されている。博物館を中心とした議論ではあるが、劇場・ホール等、文化施設全体を考えるうえでも示唆的である。

     これから福井県内でも、県立美術館や県立歴史博物館をはじめ、文化施設のリニューアルや機能強化をめぐる議論が進んでいくだろう。そのとき必要なのは、これからの地域社会にとって、どのような場所が必要なのかを真摯に考えることである。誰もが利用でき、地域の人々が関わり、学び、表現し、つながる場として育てていけるのか。文化施設を、地域発展のための大切な基盤として位置づけていけるのか。これからの議論では、こうした視点が問われているのではないだろうか。

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  • スポーツを活かした地域活性化の多様な視点

     プロバスケットボールチームの福井ブローウィンズは、4月24日現在「B2リーグ・東地区4位」の成績にある。ゴールデンウィークからスタートするプレイオフで、2025-26年シーズンのB2リーグ最終順位が決定する。一方、Bリーグでは、今期はB1とB2の昇格・降格は、勝敗成績だけで行わないことが決定済である。福井ブローウィンズは、仮にB2で優勝や準優勝をしても、今期はB1に昇格することはない。では、なぜBリーグは成績だけによる昇格・降格が行われないのか。例えば、先行するプロサッカーのJリーグでは、熾烈な昇格・降格争いがもたらすメリットと弊害が指摘されている。選手はもとより、サポーターや地域も、昇格と降格に際して熱気溢れる応援を展開してきた。しかし、成績だけで昇格と降格を繰り返してきたことで、J1に昇格してもクラブの財務体質がぜい弱であったり、大勢の観客を収容するスタジアムが未整備であったり、という問題点が指摘されてきた。逆に、J2に降格したことでスポンサー企業が離れてチームの経営が立ち行かなくなる、といった課題も指摘されてきた。さらに、「ビッグクラブ」と呼ばれる一部のチームに資金が集中し、資金力の差から戦力格差が拡大し、試合が大味になっているなどの弊害も指摘され始めている。

     一方、スポーツの拠点が整備されることで、地域活性化につながる事例も報告されている。例えば、プロ野球の北海道日本ハムファイターズが、札幌市の「札幌ドーム」から北広島市に新たに建設した「エスコンフィールドHOKKAIDO」に本拠地を移転したことで、試合がない日も楽しめる仕掛けが用意され、北広島市に多くの人が集まっている(レストラン、公園やサウナ、さらには認定こども園などを目的に)。野球場を「野球を見る場所」から「街のハブ」へと再定義し、国内外から観光客、さらに定住者を呼び込む仕掛けとなっている。

     このように、人口減少や都市部への一極集中が進む中で、スポーツが持つ「人を集める力」と「共感を生む力」は、地域活性化の手段として注目されている。その際、プロスポーツではホーム&アウェー方式を採用する競技が多いため、ファンが応援のために全国を移動することで宿泊・飲食・交通などの消費を生み出している。スタジアムやアリーナを核に、周辺を含めた通年での集客から地域に経済効果を生み出している。

     福井県には、魅力的なスポーツチームが複数ある。特に福井県が「ふくい県民応援チーム(愛称:FUKUIRAYS)」として重点的に支援している、①バスケットボールの福井ブローウィンズ(B2リーグ)、②ハンドボールの福井永平寺ブルーサンダー(リーグH)、③サッカーの福井ユナイテッドFC(北信越リーグ1部)、④フットサルの福井丸岡RUCK(日本女子フットサルリーグ)、⑤(フィールド)ホッケーのヴェルコスタ福井(ホッケー日本リーグ)は有名である。FUKUIRAYSの公式サイトなどを通じて、試合結果や観戦チケットの情報を一括で発信するなど、チームと県民の橋渡しが横断的に行われている。その際、県内企業のスポンサーを奪い合うことなく適切に資金が流れ、各チームに限られた県民の時間と資金が投入されることも重要である。例えば、各チームがバラバラに集客するのではなく、共通のポイントや広報を展開し、競技の垣根を越えた「福井のスポーツファン」をチームの枠を超えて定着させることが大切である。

     そして、県民が地元スポーツチームを応援することで、県民同士の連帯感を強め、「シビックプライド」を醸成する契機とすることが、地域活性化を支える基盤になるとの意識をもつことが重要である。また、アウェーにもかかわらず福井を訪れた相手チームのファンとの交流を図ることで、「関係人口」の創出につなげることも大切である。観客の消費額等の経済的な地域活性化の効果に加え、「関係人口」を創出する契機としてスポーツを位置づけることが求められている。

     今後、スポーツを活かした地域活性化は、経済効果に加えて、持続可能な仕組みづくりとして日常的に人々が集まる「空間」を創出し、「関係人口」を増加させる役割が高まると思われる。スポーツのもつ言葉の壁を越えて人々を結びつける魅力を活かし、地域の「シビックプライド」を醸成することで、地域独自の価値を創出し、未来への活力を生み出すエンジンとする新たな視点がますます重要になってくる。そのためにも、FUKUIRAYSの各チームの試合を是非ともアリーナやスタジアムで応援して欲しい。選手達の本気で熱いプレイを目前で応援することで、きっとスポーツを活かした地域活性化の多様な視点に気づくはずである。

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  • 日本の産業クラスター政策2.0

     2025年10月の第219回国会での高市内閣総理大臣の所信表明演説を読んで、次の一文に目が留まった。「地方に大規模な投資を呼び込み、地域ごとに産業クラスターを戦略的に形成していくことで、『地域未来戦略』を推進します」。

     私は、2013年に『日本のクラスター政策と地域イノベーション』と題した本を刊行しているが、そのはしがきで、「世界に視野を拡げると、クラスターの進化や地域イノベーションの推進を、最重要の政策課題としている国や地域は少なくない。・・・日本でこうした施策(2001年からの経済産業省による「産業クラスター計画」と2002年からの文部科学省による「知的クラスター創成事業」)をやめてしまってよいのだろうかという疑問が大きくなり、本書の刊行にいたった」と述べている。

     2000年代の「第1期のクラスター政策」の問題、そうした過去を振り返る余裕はなく、現政権は、産業クラスター政策を推進することに余念がない。地域未来戦略本部が昨年11月に設置され、12月に第1回の会合が開催され、「地域未来戦略」で取り組む内容について、①「地域ごとに戦略産業クラスター計画を策定」すること、②「知事主導で各都道府県における地場産業の成長プランを策定」することが、両輪として掲げられた。

     その後、2026年3月に開催された関係副大臣等会議(第2回)では、3つのクラスター計画として、①戦略産業クラスター(都道府県域をまたぐ地域ブロック単位のものを主に想定)、②地域産業クラスター(市町村域をまたぐ都道府県単位のものを主に想定)、③地場産業成長プラン(市区町村~都道府県単位のものを主に想定)が示され、クラスターの概要、計画要件、策定プロセスなどが整理されている。さらに、春頃には「戦略産業クラスター計画の素案」の公表、5月には「戦略産業クラスター計画」の策定といった足早のスケジュールが提示されている。

     これに即応すべく北陸では、2025年12月と26年2月に、「北陸戦略産業クラスター」に関する会議が開催され、私も地域経済研究所の地域産業分析の成果を報告した。今後は、戦略産業クラスター計画素案の策定と県からの大規模投資案件のプロジェクト提案へと進んでいくことになる。

     ところで、両輪の一方の「地場産業」という表現に違和感を抱いていたところ、2025年12月下旬に示された「地域未来戦略の策定に向けた考え方(案)」において、知事主導で計画される「地域産業クラスター」が新たに打ち出された。上述の第2回関係副大臣等会議の資料3では、これについて、「知事等主導で形成されるクラスターであって、力を入れる産業分野及び重点支援をすべきコネクター度・ハブ度の高い企業を特定し、複数自治体の連携促進や中堅企業支援策の適用など、政府の施策の戦略的活用をプッシュ型で提案していくことで、その形成・拡大を目指すもの」とされている。また、このクラスターの要件には、有望度、実現可能性、費用対効果、域内への波及、自治体のコミットメント等に加えて、「EBPМメルクマール」が挙げられている点も注目される。資料3は、新たな政策立案の手法を踏まえた優れた文書といえるが、これを理解するにはこの間の産業立地政策についての理解が不可欠と思われる。第1期の産業クラスター政策の反省を活かした新たな施策の展開を期待したい。

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  •  ■中島精也先生による時事経済情報No.127

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  • 受け入れ態勢は大丈夫?

     3月は卒業、4月は新入社員の受け入れ。日本の企業にとって人材の節目の季節。福井でも、多くの企業が入社式や研修の準備を進めているだろう。しかし、本当に「受け入れ態勢」は整っただろうか。

     福井の企業には、互いの顔が見える規模の職場が多い。人数が限られるからこそ、新人一人の成長が、そのまま現場の力に直結する。逆に言えば、育成がうまくいかなければ、仕事は回らなくなる。ここで問われるのは、新人本人の資質以上に、育てる側の視点と力量になる。

     新人育成において欠かせないのが、仕事をQCDで捉える視点。ここでいうQCDは、単なる製造業の管理指標ではない。Qは機能品質と態度品質、Cは投入工数、Dは逆算思考を意味している。新人がつまずいたとき「できていない」という結果だけを見てしまいがちだが、本来は、Q・C・Dのどこに課題があるのかを見極める必要がある。

     たとえば誤字や脱字など、資料にミスが目立つ場合、それは機能品質(Q)の理解不足かもしれないし、報連相ができない、指示を受け止めきれないといった問題は、態度品質(Q)に起因することが多い。態度品質は「やる気」や「性格」で片づけられがちだが、社会人として求められる基準を明確に伝え、具体的に教えなければ改善は難しい。社員間の心理的距離が近い職場ほど「言わなくても分かるはずだ」という前提が働きやすい。

     仕事に時間がかかりすぎる場合も、本人の能力不足と決めつけるのは性急すぎる。新人にとっては初めての作業がほとんどで、想定以上に時間がかかるのは自然なこと。問題は、投入工数(C)の見立てや作業分解、優先順位付けを、育成担当者が示せているかにある。人手が限られる企業ほど「見て覚えて」が今でも残りやすいが、それだけでは仕事は受け継がれていかないし、いつまでも任すことができない。

     さらに重要なのがD、すなわち逆算思考である。締め切りから逆算して「いつまでに、何を、どのレベルで」仕上げるのかを描けない新人が目立つ。これは個人の問題というより、逆算の思考プロセスを教わっていないことが起因していることが多い。育成担当者自身がその考え方を言語化し、手本として示すことが求められる。

     新人の仕事の出来・不出来は、本人の資質以上に、育成担当者の力量に左右される。Q・C・Dのどれが不足しているのかを冷静に見極め、適切な指導を行えるかどうか。それができて初めて、新人は成長し、組織全体の力が底上げされていく。受け入れシーズンの今こそ、企業は新人だけでなく、育てる側の準備状況も問い直したい。

     新人育成は、知識や手順を教えることだけではない。本質的には、組織が自らの仕事の進め方を見直す機会でもある。新人は、職場の暗黙の前提を浮かび上がらせる貴重な存在。「なぜこのやり方なのか」と問われて答えられないとき、その仕事は属人的もしくは無駄が多い作業になっている可能性が高い。

     福井の職場には、互いに助け合う文化がある。だからこそ、新人が安心して質問できる空気を職場につくれるかどうかが、今後の定着を左右する。教える側が言葉にすることで、仕事や判断の基準が共有され、組織の再現性も高まっていく。新人の成長は、個人の成長だけではなく、組織の成熟度を測る指標でもある。

     受け入れの季節とは、新人を迎える時期であると同時に、福井の職場が育ち直す季節でもあるのではないだろうか。

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  • ■中島精也先生による時事経済情報No.126

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  • ■吉田陽介先生による中国現地ルポNo.27 中国政府が「中国の老舗」を重視するワケ

    春節(今年は2月17日)で、故郷に帰省する中国人が買うお土産といえば、真空パックの北京ダックや中国の老舗の一つ「北京稲香村」(1895年設立)の中国菓子が「定番」だ。春節で帰省するとき、同店の菓子をお土産に持って帰るという中国人は少なくない。「北京稲香村」のお菓子類は包装もきれいで、味もいいので、筆者も地方出張へ行くときはよく持っていく。

    今の中国は、改革開放の初期とは違い、ニーズが高度化している。贈り物の購入は、ブランドを重視する。なぜなら、有名ブランドは、味はもちろんのこと、質も保証されているので、安心して贈れるからだ。逆に、新興ブランドの商品は、安くても贈り物にはあまりしない。

    中秋節には月餅が売られており、春節の最終日である「元宵節」は「湯圓(タンユエン)」と呼ばれる日本でいう白玉団子も売られている。普通のスーパーで売られているものより割高だが、消費者の支持を得ている。

    「老舗の伝統を守れ」

    中国の最高指導者が老舗訪問

    春節を目前に控えた2月9日から10日に、習近平総書記は北京の科学技術イノベーションパークや養老(高齢者ケア)サービス街区、春節を前にした町を視察した。10日付の「人民日報」は「習総書記は菓子店の稲香村に入り、菓子の種類と特色を理解し、菓子の現場で作られているのを見て、この北京の老舗を伝承し、発展させてほしいと店主に言った」と伝えた。

    「人民日報」は訪問の事実のみを伝えていたが、11日付の「新京報」はやや詳しい記事が掲載された。記事は訪問先の「稲香村」の店長に取材し、習総書記が北京稲香村の店舗数、ブランドの歴史、本店の位置などについて質問した。「総書記が北京稲香村に対する関心を持っていることを感じ取ることができた」と話したことを伝えるとともに、「総書記は店舗で蜜三刀(ごまたっぷりの生地を揚げ、蜜に浸したお菓子)、奶油麻花(クリーム風味のねじり揚げ菓子)、開花棗(開いた棗の花をイメージした揚げ菓子)という3種類の菓子を購入した」と報じた。

    この春節の連休、同店は、習総書記が買ったお菓子を買い求める客が少なくなかったそうだ。

    中国では最高指導者の言葉は「方針性」を持っており、講話はもちろんのこと、発言の中で言及された事柄は、今後中国が重視する分野と解釈できる。今回の視察で、習総書記が立ち寄ったところから考えると、今後、イノベーション問題、高齢者ケア問題、文化関連消費の振興をより重視するとみられる。「老子号」についていうと、習総書記が講話をして提起したわけではないが、公式メディアに報道されたことで、国が一定程度重視していることがわかる。

    中国の老舗が政策文書に出てきた理由

    「老子号」については、全人代の文書でも登場している。2017年の「計画報告(国民経済・社会発展の執行状況と計画草案に関する報告)」で初めて「中華老子号(中国の老舗)」という名前が出てきた。「報告」では、「中華老字号」の保護と伝承をはかる」と述べている。直近2年の「計画報告」でも「老字号」の名前が出てきている。計画報告では、消費拡大や消費環境について述べる項目で述べられており、消費の活性化策の一つとして「老子号」を重視するという中国政府の姿勢がうかがえる。

    また、「老子号」の継承・発展が消費関連の措置として論じられるのは、中国人の消費が文化的要素を考慮するようになったことを示している。経済が一定程度に発展すると、人々の生活が「芸術化」し、「見栄えの良い」ものを求めるようになる。筆者が中国での生活を始めた時は、どちらかといえば、外国のものが見栄えのいいものとされていたようだが、今はやや事情が違っている。

    ここ数年、「国潮」消費という言葉が出てきて、漢服を着る女性をよく見るようになり、観光地で売られるアイスクリームも、中国特有のデザインになっている。それは、中国のモノだけを大事にし、外国製品を排斥するというものではなく、中国製品の質が向上していることも意味する。2022年に開かれた北京冬季オリンピックのマスコットキャラクター「ビンドゥンドゥン(冰墩墩)」を見ればわかるように、中国の若者にも受け入れられるようになっている。

    昨年3月に発表された「消費喚起特別行動プラン」では、中国の文化的消費について、次のように述べている。

    1、観光地・景勝地および文博(文物・博物館)機関がサービスプロジェクトを拡大する。

    2、中華の優れた伝統文化を製品設計に融け込ませ、オリジナル知的財産権(IP)ブランドの開発を支援し、アニメ、ゲーム、eスポーツおよびその周辺派生商品などの消費を促進する。

    3、「国貨潮品(国産ブランドのトレンド商品)」の国内外での増量市場(新規市場)を開拓する。

    4、「中国での購入」シリーズ活動を展開し、中国の有名消費財陣を構築する。

    ここでは直接、「老子号」について述べられていないが、3と4の措置では役割を発揮することができるのではないかと筆者は考える。今回の習総書記の視察で話に出た「北京稲香村」はいずれも長い歴史を持っており、これらの店の製品は「中国特有」の製品と言ってよい。

    中国の蒸留酒である「白酒(バイジュウ)」は、茅台などの有名ブランドの商品は海外にも輸出されている。比較的有名な「白酒」を飲んだことのある読者はわかると思うが、一度飲むと、また飲みたくなる。そのため、「白酒」はリピーターの獲得が見込まれる商品だ。このことは、「海外進出」を促した一要因でないかと考える。

    昨年開かれた中国共産党第20期中央委員会第四回全体会議(第20期四中全会)で発表された「決定」には、「文化事業の繁栄」、「優れた文化企業・文化ブランドの育成」「文化と観光の高度な融合」「文化で経済・社会の発展を後押し」といった措置が盛り込まれており、特に、最後に挙げた措置は、文化製品または「コーヒー+伝統的観光地」というような「外来文化+伝統文化」、「伝統的製品+文化観光」といった消費の拡大にプラスになる。

    そのなかで、「老子号」の製品も中国特有の文化を示すためのもので、ここで示されたような「文化+経済」発展の措置に合うものである。

    現在、中国政府は「新質生産力」の概念を掲げ、新技術を用いた商品の開発を重視しているが、生活者に向けた商品のレベルでいうと、「見栄えのいいもの」はもちろんのこと、「人々を懐かしい気持ちにさせる」商品も一定のニーズがあるだろう。ゆえに、中国の文化消費の拡大の面で、「老子号」は一定屋の役割を果たすことができるのではないかと考えられる。

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  • 福井県立大学地域政策学部について

     今春、福井県立大学に新しい学部が誕生する。地域政策学部である。我々、地域経済研究所の研究や資源を基にして作られる。来年以降では福井駅前にキャンパスを創り、駅前の活性化にも寄与することとなるが、本年に関しては永平寺のキャンパスにおいて基礎を学ぶ予定となっている。

     学部自体の正式な誕生は、4月ではあるがすでに報道されている通り、推薦入学他によって多くの学生の入学がすでに決定している。またこの受験シーズンにもこの学部を目指して受験の最後の頑張りをされている方々、それを見守るご家族の方々も多いと思う。我々教員もその入学予定の方々の期待に添うべく、講義その他のカリキュラムの詳細設計を行っているところである。何せ新しい学部であるところから、新しい学部ならではの多くの工夫を盛り込まねばならない。一方、他の学部との調整その他も必要である。

     その新しい工夫の目玉となる内容の一つが、様々な学年で盛り込まれ、また必須の科目であるフィールドワーク関連の講義である。座学、すなわち書物や講義で学んだ理論等を決してないがしろにすることなく、それでもそれら理論を実践に活かすために、フィールドを自らの目で見て、聞き、歩き、走り、感じて、そして、考える必要がある。

     これらは大学や教員だけでできることではなく、地域の皆様のご理解、ご協力がなければ成立しえない。すでに協力をお願いし、また了承をしてくださっている組織や団体、個人の方々も多い。感謝に堪えないが、まだまだ足りない部分や領域もある。また迷惑をおかけすることもあるかもしれない。また学生や教員の失敗もあるかもしれない。ただ失敗から学ぶことも多いし、失敗するのは背伸びし、現在の限界ギリギリまで追求した結果の失敗ならば、それは高い確率で次の成功につながるはずである。

     最近の「若者」は、失敗を過剰に恐れ、チャレンジしない、などと言われる。確かにその傾向は目につくところではある。しかし、新しい学部においては、フィールドにおいてそれを鍛え、チャレンジする学生を育てていきたい。新しい学部の設置そのものが、本学にとってもチャレンジである。昨年度の恐竜学部設置とともに、大学業界からは福井県立大学はこの少子化時代に何を、といわれることもある。しかし、地域の皆様の応援の声に支えられてここまで来た。

     真の地域活性化には、新しいチャレンジをし、イノベーションをする人材が必要ある。それを担う地域政策学部の誕生を、これからも応援してくださることをお願いする。

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  • ■中島精也先生による時事経済情報No.125 

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  • 主観的ウェルビーイングの3つの側面

     先日、主観的ウェルビーイングに関する本格的な教科書である『ウェルビーイング学 -理論・エビデンス・実践-』(慶応義塾大学出版会)を出版することができました。そこで、”主観的ウェルビーイング”にまつわる小話をコラムにてお届けできればと思います。

     昨今、人の幸福、健康、福祉などを包含するウェルビーイング(Well-being)という概念に関心があつまっています。そのウェルビーイングを大別しますと、①客観的ウェルビーイングと、②主観的ウェルビーイングの二つがあります。

     客観的ウェルビーイングとは、対象の状態のよしあしを外部から観察可能な客観指標で評価する概念であり、社会を対象とする場合にはGDPや平均寿命、平均教育年数などが用いられます。一方、主観的ウェルビーイングとは、対象となる自身の状態について主観的にどのように感じているのかを指し、外部からの観察では分かり得ないものです。たとえば、対象が「個人」として、客観的な指標(例:年収や職業など)で見ると恵まれているように外部観察者が判断しても、実際に本人が自身の状態のよしあしを主観的にどのように感じているのかは、外部からは評価できないものです。

     そして、公共政策や企業経営等において注目されているのは、後者の”主観的ウェルビーイング”となります。

     現在の国際的な共通理解では、主観的ウェルビーイングは三つの側面から捉えられるとされています。第一は「体験」です。ある出来事を通じて、対象がどのような「感情」を抱いたのかを指します。同じ映画を見ても、「怖い」と感じる人もいれば、「楽しい」と感じる人もいます。こうした感情は、本人に聞かなければ分からないものです。正の感情と負の感情の体験の頻度から人の幸せを捉えようとするものです。

     第二は「評価」です。これは、人生や生活全体を振り返り、総合的にどれくらい満足しているかを自分自身で評価するものです。体験としては同じであっても、ある人は高く評価し、別の人は低く評価することがあります。このように、体験と評価は異なる概念として区別されます。

     第三は「意味」です。意味とは、自分の人生の意味や生きがいをどのように感じられているかによって、人の幸せの度合いを捉えようとするものです。つらい経験があっても、「あれがあったから今がある」と感じられるならば、意味は高くなります。

     興味深いのは、この三つの側面がそれぞれ異なる要因に左右されるという点です。体験は「誰と一緒にいるか」に大きく影響され、評価は「自己決定」や「選択肢の多さ」と関係が深いとされます。意味については、まだ国際的な知見の蓄積が十分ではなく、今後の研究課題となっています。

     人の主観的な幸せ実感を測定することは新しいチャレンジであり、かつては懐疑的な見方もありました。しかし、測定技術の進歩と蓄積されたデータによる科学的検証に基づき、現在ではその可能性について広く議論される状況にあります。主観的ウェルビーイングという新しい概念・指標が、人々の生きる豊かさを照らし、よりよい地域社会の創造につながっていくことをこれからも期待したいと思います。

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