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産業立地政策はどこへ行く?
先日、東北経済産業局の半導体アドバイザリーボードの研究会で、「東北における産業立地政策の変遷と今後の政策課題について」と題した報告を行った。私と東北局との関係は、2007年に遡る。日本の産業立地政策の歴史でいえば、1997年からの「地域産業集積活性化法」に代わり「企業立地促進法」が施行された年に当たる。東北産業活性化センターの報告書で、2008年に10項目の方向性をまとめたが、第1番目に「新たな自動車産業集積地域を形成する」とした。
2000年代からのデジタル家電ブームと好調な自動車輸出に支えられて、毎年のように企業の立地件数が伸びていき、全国の工場立地件数で「第3の山」が形成された時期だった。こうした時期に「企業立地促進法」が策定されたが、2008年のリーマンショックにより、工場の閉鎖が問題になり、2009年の東北局での研究会では、企業の地域定着策についての議論が中心になった。私自身この頃、立地調整論を打ち出し、生産機能に特化した工場は閉鎖されやすいとして、マザー工場化といった工場の機能変化に着目していた。
2011年に東日本大震災が発生し、被災状況や回復過程に業種や地域による差が顕著だった点を論文で指摘するとともに、東北復興のお手伝いは今も続いている。全国的にも企業立地の低迷が続き、2017年には「企業立地促進法」に代わって、「地域未来投資促進法」が施行されることになる。そこでは、地域の中核企業による地域経済牽引事業への支援が中心に据えられたが、2019年度に東北局の調査研究に関わり、仙台北部から岩手県北上市にかけての地域に、コア技術を活かした「工場の進化」事例がみられる点に注目した。
ところで、全国的には最近、半導体産業を中心に大型投資が相次ぎ、話題になっている。東北局の研究会で、昨年12月にキオクシア北上工場の第2製造棟を見学したが、総投資額1兆円といわれる巨大設備に大変驚いた。経済産業省の「経済産業政策新機軸部会」では、国内投資案件を日本地図に示しているが、熊本県でのJASM(台湾のTSMCとソニー、デンソーなど)、三重県と岩手県のキオクシア、広島県のマイクロン、北海道のラピダスなど、半導体工場の大型投資が目を引く。また、経済産業省のウェブサイトには、「経済安保推進法に基づく半導体・先端電子部品サプライチェーンの強靱化」の名の下で、採択案件リストが公表されている。このように、国際的にも国内的にも政治に左右された立地が目立つ一方で、工場立地件数は横ばいをたどっている。「第4の山」がみえてこない中で、2017年からそろそろ10年が経とうとしている今、日本の産業立地政策の今後が気になり出している。
■中島精也先生による時事経済情報No.115
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「人材不足」解消の新たな選択肢として
2025年2月14日に、地域経済研究所企業交流室で「ふくい企業価値共創ラボ」の修了式が執り行われ、私も、プログラム企画・運営者のひとりとして出席しました。
「ふくい企業価値共創ラボ」とは、都市部(大都市圏)で活躍している人材(以下、都市人材)を福井県の未来を担う企業とマッチングし、県内企業が抱える経営課題の解決、付加価値の向上を図ること、都市人材に関係人口、定住人口として定着してもらうことを目的とした、リカレント教育プログラムであり、地方創生プログラムです。福井県立大学(地域連携本部)、福井県(産業労働部)、福井銀行・福邦銀行(Fプロジェクト)、全国企業振興センター(アイコック)と産官学金のコンソーシアム(共同事業体)を組織し、福井で活躍してくれる都市人材の発掘、県内企業とのマッチング支援を行っています。なお、福井県立大学では、県内企業とのマッチングが成立した都市人材を、半年間(9~2月)、協力研究員に任命したうえで、週4日はマッチング先企業へ派遣し経営課題の整理・解決支援を行ってもらい、週1日は大学で教員による講義、指導、助言を提供し、マッチング先企業での支援に役立ててもらっています。
第2期目になる本年度は、都市人材(応募者)72名、県内企業(エントリー企業)7社に対してマッチングできたのは4社4名でした。都市人材側の倍率は18倍です。一方、県内企業側のマッチング成約率は57.1%ですから、高い成約率であることが分かります。つまり、企業側にとっては、高い確率で、厳選された都市人材と巡り合うことができるわけです。
さて、福井県労働局が毎月公表している「雇用失業情勢」をみると、最新(令和6年12月分)の福井県における有効求人倍率は1.91倍(全国1.25倍)で、81か月(6年9か月)連続して全国で最も高い水準になっています。ここから、長らく県内企業の人手不足状態が続いていることが分かります。福井県では、高齢者や女性の有業率が全国的に高い水準にあるため、必然的に外部(県外)に人材を求めなければならないことも多くなってきます。なお、福井県では、特に「モノを造る、サービスを提供する」といった現場で活躍する人材の不足が目立ちますが、「新規事業を創る、販路を拡大する、生産性を高める」といった経営や管理などの舵取りを行うマネジメント人材(企画構想なども含む)の不足感も増している傾向があります。
労働市場を単純に構造化すると、都市と地方の組み合わせです。労働市場は、地理的制約を受けやすいため、必然的に都市と地方との間に情報の分断や隙間が生まれます。経営学では、こうした隙間を「構造的空隙(ストラクチャルホール)」と呼びます。また、この隙間を埋めることの重要性が指摘されます。両者(都市と地方)の間に存在する隙間を埋め、橋渡しをする役割(バウンダリーキーパー)をコンソーシアムが担っているわけです。
他方「ふくい企業価値共創ラボ」はリカレントプログラムであるため、都市人材の自発的な学び直し(成人学習)を支援することも重視します。シリル・フールは、成人学習者を「目的志向(目標達成の手段として学習を位置づける)」、「活動志向(友人を見つけるなど、学習の活動の中から何かを得ようとする)」、「学習志向(知識の獲得自体に意味を見出す)」の3つにタイプ分けしました。一方で、パトリシア・クロは、成人学習の阻害要因を、制度的(教育機関が生み出している障害)、状況的(職場や家庭の環境が生み出している障害)、気質的(本人の心理的問題)の3つを提示しています。阻害要因を上回る志向性の有無が、都市人材の「ふくい企業価値共創ラボ」へのエントリーを決定づけると個人的には考えています。
そのため、プログラムの設計にあたっては、制度的な阻害要因の解消を意識するとともに、先天的、後天的はともかくとして、3つの志向性(目的、活動、学習)が高まるように工夫もしています。
第2期では、4名(60歳代2名、50歳代1名、30歳代1名)の都市人材・協力研究員が無事にプログラムの修了を迎え、今後もそれぞれマッチング先企業の支援を継続することが決定しています。その意味で、本プログラムの目的(リカレント教育と地方創生)は達成できたのではないかと評価しています。
人材不足解消策の新たな選択肢として「ふくい企業価値共創ラボ」も加えてみてはいかがでしょうか。
■中島精也先生による時事経済情報No.114
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■吉田陽介先生による中国現地ルポNo.21 春節消費が活発だった中国 課題は持続可能性
飲食消費が盛んな中国の春節
春節(旧正月、今年は1月29日)は中国人にとって大事な祝日だ。コロナ禍のときは、親戚まわりをする人はあまりおらず、電話での挨拶がほとんどだったが、今は制限がなくなったため、一族が集まっての食事会も当たり前のように開かれている。筆者もこの春節は中国人妻の親戚の食事会に5年ぶりに参加した。
食事会が行われたのは北京郊外のショッピングセンターの一角にある北京料理のレストラン。レストランを予約した親戚によると、春節時期は予約が殺到するので、11時半から12時、12時半から1時というように時間帯が区切られているそうだ。筆者らは予約した時間帯に店に着いたが、店の前には順番待ちの人が座っていた。20分ほど待ってから、予約した部屋の中に入れた。
こうした光景を見ると、中国が不景気なのかと疑ってしまう。ただ、これまでと違ったこともあった。ほかの部屋を少しのぞいてみると、いくつかの部屋にある皿には料理が残っていなかった。筆者が参加した食事会も、以前は、料理がたくさん残っていたが、今回はほとんど残っていなかった。
中国事情に明るい読者はご存知だと思うが、中国人は客をもてなすとき、食べきれないほどのご馳走を出す。筆者も10数年前に知り合いの中国人と3人で食事したとき、食べきれないほどの料理を注文され、なかには手をつけていないものもあった。お客にケチだと思われたくないので、たくさん出すのだと中国人の友人に聞いたことがある。ただ、内輪の場合は、なるべく完食する傾向にある。
完食する人がちらほら見られたのは、不景気で食べられるだけ注文したということもあるかもしれないが、2010年代から、中国政府が呼びかけている「完食運動」も関係していると筆者は考える。筆者の勤務校の食堂でも、「食べ物の浪費はやめましょう」というスローガンが貼ってある。レストランも、量を少なめにした料理をメニューに入れるようになった。この10年ほどで、「完食しましょう」というスローガンは珍しくはなくなった。
こうした変化は一部見られたが、飲食面の消費は全体的にみて好調だ。
中国メディアによると、春節期間中の飲食市場は好調で、全国の飲食企業の予約数は前年同期比25%増加し、特に年夜飯(旧暦の大晦日)の予約が非常に好調だった。美団のデータによると、今年の年夜飯のオンライン予約数は前年同期比300%超増加した。
また、中国の消費者は伝統的な家庭料理に満足せず、質と体験を重視している。高級レストランや中華レストランは予約が難しく、多くのレストランは需要を満たすために「2回目の年夜飯」というアイデアも出して、客を引きつけようとした。
春節消費の活況は中国経済の回復示すか
春節消費は飲食だけでなく、旅行消費や映画消費も好調だった。
2月5日付の「人民日報」によると、旅行関連サービスの販売収入は前年同期比37.5%増だった。レジャー観光、公園観光地でのサービス、遊園地でのサービスの収入は前年同期比81.9%増、59.5%増、14.1%増だった。民泊業界は現地の特色と合わせて観光客により個性的な宿泊体験を提供し、観光客に人気を集め、民泊サービスの販売収入は前年同期比12.6%増加した。
また、文化芸術サービスの販売収入は前年同期比66.3%増加した。うち、文芸創作・公演関連サービス、芸術公演会場の販売収入は前年同期比83.9%増、65.9%増だった。春節連休中、消費者はスポーツ娯楽とスポーツ健康の需要を重視し、スポーツ競技場サービスの販売収入は前年同期比135%増、スポーツ関連サービスの販売収入は224.1%増となった。
このように、春節は消費が好調で、中国経済は幸先の良いスタート切ったとみられる。それには、1月に、福建省、広東省、湖北省などで行われた「消費券(商品券)」の配布や各種ECプラットフォームの割引といった消費刺激策が背景にある。さらに、春節がユネスコの世界無形文化遺産入りしたことで、「国潮(国産ブランドのトレンド商品)消費」に弾みがついたことも大きい。
だが、こうした数字を見ると、中国経済が本格的に回復したとみられるが、春節は一種のイベントであり、経済的に余裕があってもなくもお金を使う傾向にあることも考える必要がある。
春節期間中にネット上にアップされたセルフメディアの記事は、春節消費の拡大にややさめた目で見ており、次のように述べている。
「国の統計データによると、ここ数年、春節の消費額は年々上昇しているものの、一人当たりの消費水準がコロナ禍前のレベルに回復するまでにはまだ道のりが長い。消費者は本当に細かく計算しており、お金を使うのに時間をかけて考えなければならないと言う人もいる。この背後にあるのは、実は消費者心理の問題だ。買うか買うかは、お金があるかどうかではなく、カネを使う勇気があるかないかだ。」
この指摘は、中国の消費の現状を的確にとらえていると筆者は思う。日本の「失われた30年」の時もそうだったが、経済の先行きに明るい見通しが持てないと、必要以上の消費を控え、貯蓄に回そうとする。今の中国経済の回復も力強さを欠いているため、人々は先のことを考えて財布の紐が固くなっている。数年前から「理性的消費」という言葉が出てきたのは、このためだ。インターネットショッピングで、割引が多いのは、人々の節約志向を示している。
経済回復に弾みをつけるには?
これまで、中国政府は、人々が中国経済に明るい見通しを持てるよう、一連の活性化策を打ち出してきた。
昨年の全人代(全国人民代表大会)の「政府活動報告」は、「自動車や家電など従来の消費財の下取りを奨励し、耐久消費財の下取りを推し進める」と述べ、「下取り・買取り」が消費活性化政策の重要な措置の一部となった。さらに、「国潮消費」やデジタル消費、グリーン消費、ヘルスケア消費、ウインタースポーツ関連消費など、新たな消費スポットを育てることにも言及され、昨年12月の中央経済工作会議では、「シルバー消費」も言及された。
さらに、前述のように、消費をより活性化するために。「消費券」を地方政府レベルで配布している。春節前で言うと、湖北省では、飲食消費を活性化するため、1億元を支出して消費券を配布し、北京や河北省では、「氷雪経済(ウィンタースポーツ関連消費)」の発展を後押しするため、消費券を配布したという例がある。
このように、政府レベルでは、個人消費活性化策を打ち出し、経済回復につなげようとしている。だが、前出のセルフメディアの記事が指摘するように、消費券を配っても、一回きりでは効果がさほどない。
また、消費券についていえば、全ての住民に配るのではなく、ネット上で申し込みをし、抽選に当たった者にのみ、配られる。消費券を使える店も限られており、面倒だという声もある。
ただ、中国は人が多い。すべての住民に配ると、コストがかさみ、財政を圧迫する。ネットを使わない高齢者も対象となると、配布の方法も考える必要があり、人的コストもかかってくる。そのため、現時点での「消費券」配布の方法は、現在の中国の現状から考えると、ベストな方法だと考えられる。
現在、中国政府が打ち出している消費活性化政策は、短期的なものであり、その成果を持続的発展につなげていく必要がある。
2月5日付の「人民日報」は次のように述べている。
「投資は、短期的に言えば需要であり、中長期的に言えば供給である。利益のある投資は、質の高い発展の底力を固める。
現在、わが国が直面している国際環境は複雑で厳しく、国内需要不足という挑戦は依然として比較的大きい。内需拡大はその場しのぎではなく、戦略的な取り組みだ。国内需要の拡大に力を入れることは、当面と今後しばらくの間の経済活動の重要な任務である。」
中国政府の打ち出す「下取り政策」は「需要の先食い」だと指摘されているが、その面はある。この記事が指摘しているように、中長期の投資は供給側を対象としたものにならなければならない。そのため、中国政府は「新たな質の生産力」の概念を打ち出し、新技術を使った産業の育成に力を入れようとしている。
現在の中国は「需要側」と「供給側」の両方に力を入れた政策を打ち出すだろう。李強・国務院総理は2月5日に開かれた国務院常務会議で、「圧力を原動力に変える」と発言し、積極的政策を打ち出すことをにおわせた。
3月5日に開かれる全人代でどのような政策が打ち出されるか、注目したい。
アンコンシャス・バイアスとの向き合い方
アンコンシャス・バイアスという言葉をご存じでしょうか。最近、耳にする機会が増えてきているように感じますが、まだまだ日常的な用語としては定着していないかもしれません。アンコンシャス(unconscious)は「無意識の」を、バイアス(bias)は「偏見や先入観、思い込みなどの認識の歪みや思考の偏り」を、意味するので、あわせて、「無意識の偏見や思い込み」といった意味になります。
広い意味でのアンコンシャス・バイアスには、さまざまなものが含まれます。例えば、日本人の多くは、「虹は何色?」と尋ねられると、迷いなく「7色」と答えると思います。でも、同じ質問に、アメリカ人やイギリス人なら「6色」、ドイツ人やフランス人なら「5色」と答えるようです。実際の虹の色はグラデーションをなしており、連続的、段階的に移り変わっていくので、そのどこに切れ目を入れて認識するかは話している言語によって相対的になるようです。7色という日本語の色分けに必然性があるわけではありません。そして、日本語だけが話されている環境で暮らしていると、それが必然性のない先入観であることに気付くことは困難です。このケースでは他言語との比較(対話)を通して、初めて、必然性の無さを認識することができます。アンコンシャス・バイアスは、無意識の思い込みだからこそ自覚しにくく、チェックには別の視点との比較(対話)が必要になります。
このようにアンコンシャス・バイアスは守備範囲の広い概念なのですが、最近では、ジェンダー(性差)に関するアンコンシャス・バイアスが、ジェンダー・バイアスとして取り上げられる機会が多くなってきています。「働いて家計を支えるのは男性の役割」、「家事や育児を担うのは女性の役割」、「女子は理系に向かない」、「男子は人前で泣いてはいけない」といったジェンダーに関するアンコンシャス・バイアスは未だに根強く、私たちはそうした思い込みに囲まれて暮らしています。未婚者に対する「まだ結婚しないの」といった発言は、「結婚するのが当然である」という思い込みを、女の子を出産した人に対する「次は男の子だね」といった発言は、「跡継ぎの男子を生むことが望ましい」といった思い込みを、それぞれ前提としていると考えることができます。口にした人には特に悪気はなく、必然性ない決めつけを他人に押し付けているかもしれないという可能性に気付けていないだけ、といったケースも少なくないかもしれません。
しかしながら、こうした思い込みの押し付けや強化は、虹が何色であるのかとは話が違って、他人の生き方の選択肢を制限することに繋がりかねません。当人にとってもいろいろな可能性を狭める(見えなくする)こともありえます。必然性のない思い込みからは自由になった方が、自分にとっても、周囲の人たちにとっても、社会全体としても、風通しがよくなっていくはずです。ただ、アンコンシャス・バイアスが厄介なのは、無意識の思い込みなので、自力(だけ)でそれに気付くことが困難だということです。実際にできることは、他者から指摘された場合に、それを真摯に受け止め、自分の側の無意識の思い込みが原因である可能性を冷静にチェックし、該当するのであれば、バイアスを修正し、態度を改める姿勢でいること、そして、そうした姿勢を共有していくことです。
なにせ無意識のバイアスなので、その解消には、地道で気の長い取り組みが必要になります。それでも、誰にとっても(もちろんそこには自分も含まれます)風通しのよい地域や社会を目指す上で重要なのは、最近はやりの「論破」(正しさを巡る競争)ではなく、対等な立場での相互批判を含む「対話」(適切さを巡る協働)なのだと思います。
■中島精也先生による時事経済情報No.113
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今年の漢字と2025年の世相
「今年の漢字」は、「日本漢字能力検定協会」が、その年の世相を表す漢字ひと文字を一般から募集し最も多かった字が選ばれます。京都の清水寺の舞台上で特大の熊野筆によって揮毫(きごう)される一文字はなかなかの迫力です。年明け2025年の2月24日まで、八坂神社からほど近い「漢字ミュージアム」で展示されるようなので、噂のオーバーツーリズムの真偽を確認がてら河原町周辺に訪れてみるのも一考の価値がありそうです。この「漢字」2024年の第1位は、2000年、2012年、2016年、2021年に続き5回目となる「金」でした。オリ・パラの日本人選手や大谷翔平選手などの活躍による“光”の『金(キン)』、政治の裏金問題、闇バイトによる強盗事件、止まらない物価高騰など“影”の『金(かね)』などが高投票の背景にあったようです。1995年から始まったこのイベントですが、オリンピック・イヤーには「金」が選ばれやすいというのは何となく分かりますが、逆になぜ2004年と2008年に「金」が選ばれなかったのか、気になるのは私だけでしょうか。両年に選ばれた漢字は「災」と「変」です。2004年には、台風の多発、新潟中越地震、浅間山の噴火、猛暑による不作と熊の人里への出没、美浜原発の事故、オレオレ詐欺の多様化などなど、オリンピックどころではない事件が多かったようです。2008年は、安倍氏から麻生氏への首相の交代、オバマ氏の大統領選出、リーマンショックと雇用の悪化や物価上昇、地球温暖化問題の深刻化などのインパクトが「金」を上回った、といったところでしょうか。元日の能登半島地震から始まった2024年は、猛暑と物価高騰、岸田氏から石破氏への首相交代、トランプ氏の大統領再選など、2004年08年と同様に大きな時代の節目であったような気もしますが、それでも今年「金」が選ばれたのは、多くの人が出来るだけ社会の明るい面に目を向けたいと思ったからなのか、あるいは「カネ」に不安や不満を感じる人が増えたからなのか。ちなみに、2000年の投票総数は23,323票で1位の得票率5.86%でしたが、今年は221,971票で「金」に投票した人は全体の5.47%でした。私が密かに期待した「選」に投じられたのは6,071票(得票率2.74%で6位)でした。
さて、2025年は巳年。「巳」という字は胎児の形を表した象形文字で、子宮が胎児を包む様子が由来とされています。また、蛇が冬眠から目覚め地上に這い出すことから、冬に根をはった草木が芽を出し「新しい種子が生まれる」という意味があると言われています。2024年の出生数は70万人を切り60万人台となり、出生率も前年2023年の1.20をさらに下回り過去最低を更新する見通しです。他方で、過去の記録によれば丙午の前年には出生数が増え出生率も上がっていることから、2025年は少子化が緩和した!と話題になるかもしれません。もちろん社会情勢によっては、オリンピック・イヤーでないにもかかわらず「今年の漢字」に「金」が選ばれたりする可能性も否めませんが。
2025年が実りある年になりますように。
■中島精也先生による時事経済情報No.112
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■吉田陽介先生による中国現地ルポNo.20 消費を活性化させよ 中央経済工作会議の狙いとは?
店にどんどん人が!
中国の消費は本当に悪いか?
12月某日、年末に家族で食事するレストランの下見をするため、仕事帰りに家の近くにあるショッピングセンターに立ち寄ってみた。ショッピングセンターに入ろうとした時、後ろから仕事帰りの会社員や学校帰りの中高生らがどんどん入っていった。
筆者が店を訪れたのは午後6時過ぎ。夕食どきのためか、飲食店にも人が入っていた。7時近くになれば、人気店は席が埋まり、順番待ちの客は店の前に置かれた椅子にかけてスマホを見ながら待っている。
こういう1コマを見ると、中国の個人消費は本当に悪いのかと思ってしまう。だが、店内を歩く人をよく見ると、袋を下げている人がさほど多くない。ウィンドーショッピングを楽しむ人も一定数いるのではないかと思う。そのため、店内の人の多さだけでは、中国の消費が好調だとは結論することはできない。
ただ、ウィンドーショッピングをして帰宅後にネットで購入するという人もいる。ネット店舗は実店舗に比べて2割ほど安い場合があり、100元(1元=約21円)買ったら50元バックというキャッシュバックのサービスがあるからだ。これは中国の消費者の「節約志向」を示している。
消費活性化の環境整備狙う
中国政府
今の中国政府は、地方政府の債務、投資による景気回復の持続可能性などの問題もあり、固定資産投資で経済発展をけん引する策をとるのに慎重だ。今後の中国経済の回復は個人消費の伸びが重要なファクターになるだろう。
12月10〜12日に、来年の経済政策の方針を決める中央経済工作会議が開かれた。日本メディアが報じたように、緩和気味の金融政策をとるとされた。この会議では、金融政策の基調のほかに、消費の活性化につながる措置も提起された。12日に公表された会議の報道文には以下のような措置が挙げられている。
1、消費喚起特別行動を実施し、中低所得層の増収と負担軽減を図り、消費の能力、意思、レベルを高める。
2、退職者の基本年金を適度に引き上げ、都市・農村住民の基礎年金を引き上げ、都市・農村住民の医療保障財政補助基準を引き上げる。
3、範囲を拡大して「両新(設備更新と消費財の買い替え・下取り)」政策を実施し、多様な消費シナリオをつくりだし、サービス消費を拡大し、文化・観光業の発展を促進する。
4、新しいものを打ち出す「首発」経済(企業による新製品発表、新業態・新モデル・新サービス・新技術の打ち出し、第1号店オープンなどの経済活動を総称したもの)や氷雪経済、シルバー経済を積極的に発展させる。
5、トップダウンの組織調整に力を入れ、より大きな力で「両新」プロジェクトを支える。
6、中央予算内投資を適度に増やす。財政と金融の連携を強め、政府の投資で社会の投資を効果的に引き出す。
7、第15次5カ年計画の重大プロジェクトを早期に計画する。
8、都市更新の実施に力を入れる。
9、社会全体の物流コストを下げる特別行動を実施する。
以上の措置を見ると、「全面的」という言葉で表現できる。報道文では、新たな消費の分野の活性化、3月の全人代で打ち出された「買い替え・下取り」政策の実施だけでなく、氷雪経済、シルバー経済の発展にも言及されている。
さらに、財政政策と金融政策などの「ポリシーミックス」で、民間投資の「呼び水」とすることも述べている。ここで、都市更新にも言及しているが、既成市街地の再開発は関連の需要を生み出す。中国のある証券会社の分析レポートによると、城中村(都市の中で発展から取り残された地域)の再開発が分譲住宅需要を生み、不動産投資が回復し、ひいては、景気回復につながると見ている。
「弱者」にも配慮?
全面的な景気対策
また、所得増加については、昨年は「中間層の拡大」が強調されていたが、今年は低所得者への配慮、定年退職者の「養老金(年金)」の引き上げについても言及されており、弱者への手当てを行うことで、全体的な消費活性化につなげようとしている。
昨年の中央経済工作会議は、「デジタル消費、グリーン消費、健康消費を積極的に発展させる」とし、「インテリジェント家庭用品、文化・娯楽・観光、スポーツイベント、「国貨潮品(国産ブランドのトレンド商品)」などが「新たな消費成長ポイント」とされ、さらに、「新エネルギー自動車、電子製品など大口消費を増やす」と述べていた。
氷雪経済、シルバー経済は新しい概念ではなく、中国の経済メディアや政策文書にも登場している。例えば、2019年度の「計画報告」は、「東北地区の寒冷地における「氷雪経済」の発展促進に関する指導意見の策定を検討」することを盛り込んでいた。氷雪経済は雪資源の開発やウィンタ―スポーツ、文化、教育、観光などの関連産業のことをさすが、これは比較的遅れているとされている中国の東北地方の経済活性化を図ったものでもある。
シルバー経済は60歳以上の高齢者を対象にした旅行や高齢者ケア、健康サービスなどの消費をいう。11月8日の新華社の報道によると、2023年末時点で、中国の60歳以上の高齢者人口は2.97万人に達し、総人口に占める割合は21.1%に達し、「人口の高齢化が中国の基本的国情」だとしている。そのため、介護を含む「養老(高齢者ケア)」サービスはハード面・ソフト面での充実が必要で、関連産業は今後伸びる可能性のある産業だ。
また、中国の高齢者は元気だ。今後は段階的に延長される方向だが、現在の定年年齢は男性が60歳、女性が55歳で、体が十分動く歳だ。中国では、孫の面倒は定年退職した親の“仕事”となり、孫にカネを使うことも多い。筆者の家もそうだが、祖父母は孫のためにおやつや栄養のある食べ物、時には孫の欲しいものも買い与える。こうした祖父母の消費も消費活性化に一定の役割を果たすと考えられる。
一方で、孫の面倒を見ない高齢者には、旅行に行く人もいる。業者もそうした高齢者のニーズに注目しており、高齢者向けの旅行商品もあるそうだ。
このことから、高齢者は潜在的消費能力がある。シルバー経済は今後、中国の消費活性化で重要な役割を果たすと考えられる。
「アベノミクス」と同じか?
中央経済工作会議の目的
この中央経済工作会議の狙いは、中国経済の「先行きが暗くない」ことを示すことだ。ここ2年の会議の基調は、「中国経済光明論」を強調したものになっている。今年、中国政府は力強い経済対策を何度も行ったが、それは中国の人々の中国経済の先行きに対する不安を和らげるためでもある。
日本も安倍政権下で推し進められた経済政策「アベノミクス」により、大規模な金融緩和が行われた結果、名目賃金が上昇し、雇用も回復した。そのため、経済回復ムードが醸成された。ただ、経済成長の成果が庶民に十分に行き渡らなかった。国民経済の多数を占める中小企業に効果が波及しなかったという面はあるが、景気が回復し、今後の先行きが明るいという「アナウンスメント効果」を発したという面があった。中国政府が行っている一連の刺激策もこうした効果を狙っているのではないかと考えられる。
今年の中央経済工作会議は、景気回復に向けて緩和気味の金融政策を行い、カネを実体経済に流れるようにすることで、人々に経済回復の実感を持たせ、消費環境を改善することが大きな狙いの一つではないかと筆者は考える。