2015年9月
「グローバル人材」育成策としての海外出張
ここ数年のうちに、「グローバル人材」ということばが広く言われるようになった。定義や要件にはさまざまな意見があるが、日本企業が海外ビジネスを開始、成功、拡大するために貢献する人材、と考えて差し支えないだろう。海外展開に取り組む企業には、こうした人材へのニーズがある。日本貿易振興機構(ジェトロ)が2015年3月に発表した日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査では、海外ビジネス拡大のための人材戦略をたずねたところ、「現在の日本人社員のグローバル人材育成」と回答した企業が45.1%と最多であった。
しかし、回答比率は、大企業では68.7%、中小企業では38.4%と、企業規模によって、人材育成を重視する企業の数に差がみられた。人材育成への取り組み方についても、最多回答は「国内で英語研修の充実を図っている」が21.4%だったが、大企業では47.2%、中小企業では14.1%と、取り組みに濃淡がみられた。以下、「OJTにて行っている」は21.3%で、大企業36.3%、中小企業17.1%。「若手社員を一定期間、研修生として海外子会社等に出している」が10.6%で、大企業32.7%、中小企業4.3%。そして、「特別な取り組みは実施していない」との回答は41.9%であったが、大企業では17.1%であったのに対し、中小企業では49.0%と半数近くにのぼった。
こうした結果からは、大企業に比べ、中小企業ではグローバル人材育成の取り組みはなかなか進んでいないことがうかがえる。では、中小企業にとって、どのような育成方法なら取り組みやすいだろうか。
過日参加したフォーラムで、早稲田大学教授の白木氏はグローバル人材の育成に関して「ある企業では、若手社員に会社の代表として海外出張に一人で行かせている。自分で航空便やホテルの手配を含め全ての関連業務をやることで、非常にいい教育になっているとのことだ」という事例を紹介した。この方法は、グローバル人材に求められる能力を伸ばすことが期待できるし、業務の中で行うものであるため中小企業にも取り組みやすいものと思える。
「グローバル人材に求められる能力」についてはさまざまな意見があるが、例えば、経済産業省が2010年4月に発表した「産学人材育成パートナーシップ グローバル人材育成委員会」の報告書では、「社会人基礎力」、「外国語でのコミュニケーション能力」、「異文化理解・活用力」が挙げられた。「一人で会社の
代表として海外出張」は、このすべての力を試される場だといえる。会社の代表としていくからには、業務内容を十分理解し、訪問先での業務を問題なく進めなくてはならない。面談相手が外国人なら外国語が必要であり、面談時に通訳が同席したとしても、空港やレストラン、ホテル、タクシーなど外国語が必要になる場は多い。若手社員は、「社会人としての基礎力」を発揮して業務に取り組み、時に「外国語でのコミュニケーション能力」を使う。そして、外国に身を置くことで「異文化理解・活用力」を鍛えることになる。
海外出張には市場視察、見本市出展、取引先・提携先との商談、海外拠点訪問など、いろいろな機会がある。そのため、これを人材育成の手段にすることは、中小企業でも大企業でも難しいことではない。もちろん、既に「海外出張は社員がグローバルな経験を積む好機」と捉えている企業は多いだろう。しかし、若手社員を一人で、しかも「会社の代表」として出張させることは少ないのではなかろうか。出張する社員にはプレッシャーもあろうが、それは適切な負荷となり、成長を促すことができる。こうした海外出張は経験値を高めるのみならず、必要な能力を発揮せざるを得ない機会となり、グローバル人材の育成方法として活用することができるだろう。
なお、一人での海外出張が難しい場合は、上司や先輩とともに、となってもかまわない。ただその場合、若手社員は、単なる「カバン持ち」などとしてではなく、習得すべき事項を設定したうえで、明確な目的・目標を持ち、一定の役割を担うことが望ましい。そうしてこそ、海外出張がグローバル人材としての力を伸ばす方法として効果を発揮するものと考える。ふくい地域経済研究第21号