2018年7月
「農協改革」に思う
最近、「農協改革」という言葉を耳にする方も多いと思う。それは、2015年に行われた農協法改正を指すことが多く、主たる内容は次のとおりである。
(1)農協の目的を「農業所得の増大に最大限の配慮をしなければならない」とし、経済事業であげた利益を「事業の成長発展を図るための投資や事業利用分量配当に充てるよう努めなければならない」と定めた。
(2)理事の構成要件を、過半数が「認定農業者または農産物販売・法人経営に関し実践的能力を有する者」とした。
(3)選択により組織の分割や株式会社等への変更が可能となった。
(4)中央会の法律上の規定を削除し、都道府県中央会は連合会に、全国中央会は一般社団法人に移行するとした。
(5)一定規模以上の信用事業を行う農協に対して、公認会計士または監査法人による会計監査を受けなければならないとした。
また、今回の改正では見送られたが、(6)准組合員(農地を所有・耕作する「正組合員」に対して、農協事業の利用を望んで出資をした農業に従事していない組合員)の事業利用に上限を求めることも検討課題となっている。
実は、今回の「農協改革」は、政府の規制改革会議等における議論に端を発しており、必ずしも農協関係者が主体的に決定したわけではない。そこでは農協の将来像を、上記の①(2)ならびに(6)に顕著なように、農業面の経済事業に特化し、運営者や組合員を農業者(関連事業者を含む)に純化した農業専門事業体として展望したものである。つまり、次のような考え方に立つ。農協は「農業」協同組合である。農協を構成すべき組合員は、農業所得に大きく依存している農業者・事業者であって、農協はそこに貢献する事業のみに注力すべきである。農地を所有せず耕作もしない准組合員は農協から制限・排除されるべきであり、信用事業や共済事業も民間企業等に委ねるべきである。
はたして、これが正しい方向であろうか?一見、農業者の所得増大や地域の農業振興とは無関係に思える事業が、実は地域のセーフティネットの役割を果たしながら農業者や地域住民の暮らしの安定を支えていること、農協における組合員や職員が有する顔の見える関係性が地域に密着した事業の基盤となって堅実な信用・共済事業の展開を行い得たこと、それらが非収益(サービス)部門である営農指導事業や農業施設の整備、採算性で劣る農畜産物の販売や生産資材の購買事業を下支えしながら地域の農業振興に貢献していることを見逃してはならない。
そもそも協同組合は、自分たち組合員さえ良ければではなく、組合員が居住し組合が存在する地域社会の発展こそが豊かな暮らしの実現につながる、という理念を持つ。大雨被害等のニュースの中で、農協の支店が避難所として活用され、生協の職員がエレベーターの止まったマンションの階段をかけ登りながら生活物資を届け、組合員・女性部員らが炊き出しボランティアに励む映像を目にした。「生活インフラ機能」としての農協・協同組合の役割を軽視してはならないとつくづく思う。眠った蔵の活用
農村や漁村には、収穫物の保存、道具類の収納等を目的とした蔵が数多く存在していた。各戸が所有するそれらの多くは、時代の変遷とともにその役目を終え、取り壊されたり、使用頻度の低い物置として放置されたりと、どちらかと言えば影に隠れた存在になっている。
小浜市内外海(うちとみ)地区には、リアス式海岸に抱かれた集落が点在し、いずれも漁業を主な生業としていた。かつては集落間の移動は困難を極めていたこともあり、各集落には蔵が立ち並んでいた。現在でも多くの蔵がところどころひっそりと残されており、小河川や小路とともに漁村集落固有の景観を形成している。
昨年度から、ブルーツーリズムをテーマにした海洋生物資源学部の集中講義を担当している。ブルーツーリズムとは、漁業体験や漁村での生活体験等を伴う漁村滞在型余暇活動を総称したもので、当該科目はこのような活動を、内外海地区において活性化させるための方策を検討・提案するものである。2年目の今年度は、現地での具体的なアクティビティを学生が実際に体験するなど、より実践型の内容とした。SUP(スタンドアップパドル)班と蔵班の2班に分かれたが、次に蔵班の内容を簡単に紹介したい。
蔵班は、内外海の釣姫集落の1つの蔵を対象に、その後片付け体験を通じて蔵の現代的な活用方法を検討した。6人の班員は、初めて入る暗く少し埃っぽい閉鎖空間にて、昔の道具や教科書、刀などを興味深く手にしながら整理をしていく。そして、その後の3回に渡るグループワークで、蔵の特徴や外部環境を共有しつつ、それを生かす方法を思い思いに語り合った。都会の子供の教育に活用する案、集落民と観光客の休憩場所にする案、ブックカフェや駄菓子屋として活用する案、ルアーやお箸づくり体験の場とする案等、多くのアイデアが出された。今後、地域住民等に対し発表する機会を作りたいと考えている。
このような蔵は、今ではあまり活用されておらず状態もよくない。マイナスとは言えないまでも低未利用な地域資源である。このハコを学生が「オシャレ」だと捉え、自分たちの感性と行動力によって新しい価値を付加し、プラスの地域資源として昇華させていくことを期待したい。学生が影に隠れた蔵に光を当て、まだまだ荒削りな案ではあるものの、このアイデアからスタートし当事者の前向きな意識改革や積極的行動へと結び付けば、思いも寄らない化学反応が起きるのではなかろうか。