福井県立大学地域経済研究所

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地域の進化について考える

福井県立大学 地域経済研究所 所長 教授 松原 宏

 2024年3月16日に、北陸新幹線の金沢・敦賀間が開業し、福井駅前はたいへんな賑わいとなった。同じ日に、福井県立大学永平寺キャンパスでは、進化経済学会の全国大会が開催された。全体のテーマが「空間の進化経済学とその可能性」とされたこともあり、午後の共通セッションのオーガナイザーを務めた。
 最初に、東京大学の鎌倉夏来准教授が、「製造業の国内回帰と地域の再工業化―進化経済地理学の視点から―」と題した報告を行った。そこでは、製造業の国内回帰による「再工業化(reindustrialization)」が、先進国の地域経済にどのような影響をもたらすか、欧米の経済地理学の研究成果を踏まえて論
点整理がなされた。
 第2報告は、一橋大学の中島賢太郎教授による「空間経済学の現在―数量空間経済学とオルタナティブデータ―」と題したもので、第1報告の経済地理学に対して、空間経済学が2010年代以降に理論研究から実証研究にシフトしてきた点に焦点が当てられた。そうした変化を牽引したのは、モデルと実データの合致を強く意識した数量空間経済学の発展だとし、衛星画像データやGPSデータなど、先進的なデータ利用の可能性も含めて、今後の空間経済学の研究展望が示された。
 最後に、「マクロ空間構造の進化に関する一考察」と題して私が報告を行った。「国民経済の地域的分業体系」を「マクロ空間構造」とよび、具体的には日本の工業分布が、阪神から京浜、そして中京へと中心が移り、都市の順位・規模グラフのすきまが、戦前から戦後にかけて埋められてきた点などを指摘し、そうした歴史的変遷を進化論的議論で説明できるかどうかを検討した。
 ところで、企業などの組織や生産システムの進化に関する議論はある程度進んでいるものの、地域の進化については、どのような空間スケールで捉えるかもはっきりしていない。10年以上も前になるが、東京大学人文地理学教室の紀要に、「大規模工場の機能変化と進化経済地理学―首都圏近郊の東海道線沿線を中心に―」と題した共著論文を書いたことがある(共著者は当時大学院生であった鎌倉先生)。そこでは、東海道線沿線の存続工場の多くが、分散していた研究開発機能を1カ所に集め、融合型の研究開発拠点に転換するという一致した動きが、2000年以降にみられた点に注目し、そうした進化過程に地域産業政策が影響している点を指摘した。すなわち、神奈川県では、「神奈川県産業集積促進方策(インベスト神奈川)」を策定し、施設整備等助成制度で既存の大企業の本社や研究所の再投資を促し、企業側がそれに呼応したのである。もちろん、地域の進化は、新製品投入を急ぐグローバルな競争の激化、研究開発人材を集める上での「湘南」の魅力など、より複雑な要因による説明が必要である。
 さて、北陸新幹線の沿線地域には、これからどのような進化がみられるのだろうか?地域経済研究所の新幹線プロジェクトは2年目に入るが、このような観点からの分析も試みてみたい。