2019年10月
福井県の幸福度
日本総合研究所の「全47都道府県幸福度ランキング」で、福井県は2014年版、2016年版に続き、2018年版でも総合1位となり、3回連続の「幸福度日本一」に輝いている。東洋経済刊の『都市データパック』2019年度版の「住みよさランキング」でも、全787都市の内、福井市が4位にランクされ、県庁所在地で唯一ベスト10入りしている。県内の市町では、敦賀市6位、坂井市38位、越前市46位が、ベスト50に含まれている。4市の合計人口は50万人を超え、77万人弱の福井県人口の6割を軽く超える。
古くは経済企画庁の「新国民生活指標(豊かさ指標)」で、1994年から1999年まで5年連続で1位に選ばれたのをはじめとして、近年の幸福度ランキングの火付け役となった2011年の幸福度指数研究会の「日本でいちばん幸せな県民」でも総合ランク1位に輝いている。各種の客観的な指標から算出される幸福度(住みよさ)ランキングで、福井県は無類の強さを誇っている。
一方で、県民の主観的な幸福度は客観的なランキングほどは高くなく、かなりのギャップが存在しているという指摘も後を絶たない。こうしたギャップの原因については、いくつかの説明が可能であると考えられる。
以前のコラム(※)では、日本一の共働き県である福井で、家事、育児、介護の負担が女性に偏っており、女性が時間的・精神的なゆとりを持ちにくいことを指摘した。女性の多重負担は、忙しすぎてキャリアアップのモチベーションを維持できないという形で、労働力率の高さとは裏腹の管理職比率の低さに影を落としている。女性の多忙さは主観的な幸福感を阻害する要因の一つであろう。
今回は、もう一つの仮説として、福井県の人口移動の少なさに起因する比較の対象の狭さを指摘しておきたい。意外に思われるかもしれないが、福井県は人口流入が少ないだけでなく、人口流出も少なく、H27の社会生活統計指標によると、人口転入率が1.02で全国45位、人口転出率も1.30で全国44位となっている。第二次産業を中心に中小の事業所が数多く存在し、働く場所には困らないという産業構造によって、人口移動の少ない超定住社会が実現されている。県民の8割近くが県外で生活した経験を持っておらず、その結果、福井県の住みよさに関して比較の視点を確保することが難しくなっていることが指摘できる。持ち家率の高さも延べ床面積の広さ(それに伴う個室の保有率の高さ)も、職住近郊による通勤時間の短さも、出産・育児と女性の就労継続の両立がもたらす経済的なメリットも、三世代近居の安心感も、福井県で暮らし続けている限り、空気のように当たり前で、特に意識されることはない。庭付き書斎のありの持ち家から、ドアトゥドアで30分以内で通勤可という首都圏在住者からすれば垂涎の幸福も、福井県民には当たり前すぎてピンとこないのだろう。幸せの青い鳥はいつだって身近過ぎて気づきにくいものなのかもしれない。
(※) http://www.s.fpu.ac.jp/fukk/mailmgz/n45_sp1.html