2026年
産業クラスター政策に関する地域経済研究フォーラムが開催されました。
5月21日(木)地域経済研究所企業交流室にて、「産業クラスター政策と地場産業振興を考える」をテーマに、第1回地域経済研究フォーラムが開催されました。経済産業省中部経済産業局電力・ガス事業北陸支局長の向野陽一郎様からご挨拶いただき、所長の松原からの「産業クラスター政策」に関する報告の後、福井県の田中睦産業労働部長より福井県における工場立地動向について、地域政策学部の勝又悠太朗准教授より地場産業研究の成果と課題について、報告いただきました。



後半のパネルディスカッションでは、福井県産業労働部の田中部長、商業・市場開拓課伝統工芸室の多賀谷靖久室長、越前市産業観光部和紙・打刃物・たんす課の出雲裕樹課長、鯖江市産業交流部産業振興課の酒井智行課長にご登壇いただき、県と各市の地場産業振興の取組みと今後の施策について、また地域産業クラスター策定の考え方について、お話しいただきました。オンラインと会場あわせて80名の方にご参加いただき、ありがとうございました。

文化施設のこれからを考える
国立博物館・美術館の2026年度からの中期目標において、展示事業に係る費用に対する自己収入額の割合を、最終年度に65%以上とし、さらにその次の中期目標期間中に100%とすることを目指す方針が示され、話題となっている。これは、展示事業に対してのみ設定された自己収入の数値目標であり、「収集・保管」、「教育普及」、「調査研究」にはしっかりと国の予算を措置すると説明されている。とはいえ、現状からみれば大きな引き上げであり、文化施設のあり方をめぐって大きな議論を呼んでいる。
国立施設は独立行政法人として運営され、国から運営費交付金を受けている。財政制約のなかで、展示事業について自己収入の拡大を図り、持続可能な運営を目指すこと自体は必要だろう。魅力ある展示を企画し、多くの人に足を運んでもらうことも、文化施設にとって大切な役割である。しかし、国立の博物館・美術館の本来的役割は、単に集客や収益を上げることにあるのではなく、資料を収集し、保存し、調査研究を重ね、その成果を展示や教育普及を通じて社会に還元することにある。収益を上げやすい展示ばかりに意識が向けば、短期的には来館者が増えても、将来にわたって残すべき文化的価値や、地道な研究活動がおろそかになるのではないかという懸念もある。入館者数や収入額だけでは測りにくい、文化施設が果たすべき公共的意義とは何なのか。それをどのように支えるのか。今回の議論は、そのような問いを投げかけている。
地方の公立文化施設もまた、国立施設とは規模や性格が異なるとはいえ、その役割があらためて問われている。多くの施設は1970~90年代に整備され、古いものでは半世紀を超えるいま、老朽化への対応が課題となっている。建物や設備の更新には大きな費用がかかる一方で、人口減少が進み、自治体財政は厳しく、利用者の増加も簡単には見込めない。
県内に目を移すと、福井県立美術館や県立歴史博物館でも、老朽化への対応を含め、今後の施設のあり方をめぐる検討が進んでいる。単に建物や設備をどう直すかという話にとどまらず、これからの文化施設が、地域社会の中でどのような役割を担うのかを考える機会でもある。
国内外の議論を見ても、いま文化施設の役割があらためて見直されている。OECDとICOM(国際博物館会議)は2018年、地方政府、コミュニティ、ミュージアム向けのガイド『文化と地域発展:最大限の成果を求めて』を共同で作成した。同ガイドでは、博物館や文化遺産を地域発展のための大切な資産として位置づけ、地域の経済発展、都市再生、創造的な地域社会づくり、社会的包摂、健康や幸福への貢献といった役割が示されている。また2022年に合意されたICOMの新しい博物館定義では、誰もが利用できること、包摂的であること、多様性や持続可能性を育むこと、コミュニティの参加とともに活動することが重視されている。博物館を中心とした議論ではあるが、劇場・ホール等、文化施設全体を考えるうえでも示唆的である。
これから福井県内でも、県立美術館や県立歴史博物館をはじめ、文化施設のリニューアルや機能強化をめぐる議論が進んでいくだろう。そのとき必要なのは、これからの地域社会にとって、どのような場所が必要なのかを真摯に考えることである。誰もが利用でき、地域の人々が関わり、学び、表現し、つながる場として育てていけるのか。文化施設を、地域発展のための大切な基盤として位置づけていけるのか。これからの議論では、こうした視点が問われているのではないだろうか。
スポーツを活かした地域活性化の多様な視点
プロバスケットボールチームの福井ブローウィンズは、4月24日現在「B2リーグ・東地区4位」の成績にある。ゴールデンウィークからスタートするプレイオフで、2025-26年シーズンのB2リーグ最終順位が決定する。一方、Bリーグでは、今期はB1とB2の昇格・降格は、勝敗成績だけで行わないことが決定済である。福井ブローウィンズは、仮にB2で優勝や準優勝をしても、今期はB1に昇格することはない。では、なぜBリーグは成績だけによる昇格・降格が行われないのか。例えば、先行するプロサッカーのJリーグでは、熾烈な昇格・降格争いがもたらすメリットと弊害が指摘されている。選手はもとより、サポーターや地域も、昇格と降格に際して熱気溢れる応援を展開してきた。しかし、成績だけで昇格と降格を繰り返してきたことで、J1に昇格してもクラブの財務体質がぜい弱であったり、大勢の観客を収容するスタジアムが未整備であったり、という問題点が指摘されてきた。逆に、J2に降格したことでスポンサー企業が離れてチームの経営が立ち行かなくなる、といった課題も指摘されてきた。さらに、「ビッグクラブ」と呼ばれる一部のチームに資金が集中し、資金力の差から戦力格差が拡大し、試合が大味になっているなどの弊害も指摘され始めている。
一方、スポーツの拠点が整備されることで、地域活性化につながる事例も報告されている。例えば、プロ野球の北海道日本ハムファイターズが、札幌市の「札幌ドーム」から北広島市に新たに建設した「エスコンフィールドHOKKAIDO」に本拠地を移転したことで、試合がない日も楽しめる仕掛けが用意され、北広島市に多くの人が集まっている(レストラン、公園やサウナ、さらには認定こども園などを目的に)。野球場を「野球を見る場所」から「街のハブ」へと再定義し、国内外から観光客、さらに定住者を呼び込む仕掛けとなっている。
このように、人口減少や都市部への一極集中が進む中で、スポーツが持つ「人を集める力」と「共感を生む力」は、地域活性化の手段として注目されている。その際、プロスポーツではホーム&アウェー方式を採用する競技が多いため、ファンが応援のために全国を移動することで宿泊・飲食・交通などの消費を生み出している。スタジアムやアリーナを核に、周辺を含めた通年での集客から地域に経済効果を生み出している。
福井県には、魅力的なスポーツチームが複数ある。特に福井県が「ふくい県民応援チーム(愛称:FUKUIRAYS)」として重点的に支援している、①バスケットボールの福井ブローウィンズ(B2リーグ)、②ハンドボールの福井永平寺ブルーサンダー(リーグH)、③サッカーの福井ユナイテッドFC(北信越リーグ1部)、④フットサルの福井丸岡RUCK(日本女子フットサルリーグ)、⑤(フィールド)ホッケーのヴェルコスタ福井(ホッケー日本リーグ)は有名である。FUKUIRAYSの公式サイトなどを通じて、試合結果や観戦チケットの情報を一括で発信するなど、チームと県民の橋渡しが横断的に行われている。その際、県内企業のスポンサーを奪い合うことなく適切に資金が流れ、各チームに限られた県民の時間と資金が投入されることも重要である。例えば、各チームがバラバラに集客するのではなく、共通のポイントや広報を展開し、競技の垣根を越えた「福井のスポーツファン」をチームの枠を超えて定着させることが大切である。
そして、県民が地元スポーツチームを応援することで、県民同士の連帯感を強め、「シビックプライド」を醸成する契機とすることが、地域活性化を支える基盤になるとの意識をもつことが重要である。また、アウェーにもかかわらず福井を訪れた相手チームのファンとの交流を図ることで、「関係人口」の創出につなげることも大切である。観客の消費額等の経済的な地域活性化の効果に加え、「関係人口」を創出する契機としてスポーツを位置づけることが求められている。
今後、スポーツを活かした地域活性化は、経済効果に加えて、持続可能な仕組みづくりとして日常的に人々が集まる「空間」を創出し、「関係人口」を増加させる役割が高まると思われる。スポーツのもつ言葉の壁を越えて人々を結びつける魅力を活かし、地域の「シビックプライド」を醸成することで、地域独自の価値を創出し、未来への活力を生み出すエンジンとする新たな視点がますます重要になってくる。そのためにも、FUKUIRAYSの各チームの試合を是非ともアリーナやスタジアムで応援して欲しい。選手達の本気で熱いプレイを目前で応援することで、きっとスポーツを活かした地域活性化の多様な視点に気づくはずである。
第1回地域経済研究フォーラム「産業クラスター政策と地場産業振興を考える」
地域経済研究所の運営体制が変更になりました
福井県立大学では、2026年4月の地域政策学部開設に伴い、地域経済研究所の運営体制が変更になりました。2026年度の研究所の教授会メンバーは以下のとおりです。
( )内は専門分野。
■所長
教授 松原 宏(経済地理学) 地域政策学部長と兼任
■専任教員
教授 佐々井 司(人口学)
■兼担教員:以下の地域政策学部の18名の教員
ー地域経済研究所から地域政策学部の基幹教員に移籍ー
教授 青木 和人(空間情報学)漆間 アンドレア(空間計画学)
前田 陽次郎(農業地域政策)
三橋 浩志(地域政策学)
准教授 高野 翔(ウェルビーイング)
當麻 雅章(空間経済学)
森嶋 俊行(観光地理学)
ー他学部・センターから地域政策学部の基幹教員に移籍ー
教授 石丸 香苗(森林生態学)北島 啓嗣(マーケティング)
杉山 友城(地域経営学)
准教授 加藤 裕美(文化人類学)
ー令和8年4月に地域政策学部の基幹教員として新規に着任ー
教授 朝倉 由希(文化政策)大木 由美子(経営理念論)
鈴木 洋太郎(国際産業立地論)
宮町 良広(経済地理学)
准教授 勝又 悠太朗(経済地理学)
宮﨑 友里(観光政策論)
日本の産業クラスター政策2.0
2025年10月の第219回国会での高市内閣総理大臣の所信表明演説を読んで、次の一文に目が留まった。「地方に大規模な投資を呼び込み、地域ごとに産業クラスターを戦略的に形成していくことで、『地域未来戦略』を推進します」。
私は、2013年に『日本のクラスター政策と地域イノベーション』と題した本を刊行しているが、そのはしがきで、「世界に視野を拡げると、クラスターの進化や地域イノベーションの推進を、最重要の政策課題としている国や地域は少なくない。・・・日本でこうした施策(2001年からの経済産業省による「産業クラスター計画」と2002年からの文部科学省による「知的クラスター創成事業」)をやめてしまってよいのだろうかという疑問が大きくなり、本書の刊行にいたった」と述べている。
2000年代の「第1期のクラスター政策」の問題、そうした過去を振り返る余裕はなく、現政権は、産業クラスター政策を推進することに余念がない。地域未来戦略本部が昨年11月に設置され、12月に第1回の会合が開催され、「地域未来戦略」で取り組む内容について、①「地域ごとに戦略産業クラスター計画を策定」すること、②「知事主導で各都道府県における地場産業の成長プランを策定」することが、両輪として掲げられた。
その後、2026年3月に開催された関係副大臣等会議(第2回)では、3つのクラスター計画として、①戦略産業クラスター(都道府県域をまたぐ地域ブロック単位のものを主に想定)、②地域産業クラスター(市町村域をまたぐ都道府県単位のものを主に想定)、③地場産業成長プラン(市区町村~都道府県単位のものを主に想定)が示され、クラスターの概要、計画要件、策定プロセスなどが整理されている。さらに、春頃には「戦略産業クラスター計画の素案」の公表、5月には「戦略産業クラスター計画」の策定といった足早のスケジュールが提示されている。
これに即応すべく北陸では、2025年12月と26年2月に、「北陸戦略産業クラスター」に関する会議が開催され、私も地域経済研究所の地域産業分析の成果を報告した。今後は、戦略産業クラスター計画素案の策定と県からの大規模投資案件のプロジェクト提案へと進んでいくことになる。
ところで、両輪の一方の「地場産業」という表現に違和感を抱いていたところ、2025年12月下旬に示された「地域未来戦略の策定に向けた考え方(案)」において、知事主導で計画される「地域産業クラスター」が新たに打ち出された。上述の第2回関係副大臣等会議の資料3では、これについて、「知事等主導で形成されるクラスターであって、力を入れる産業分野及び重点支援をすべきコネクター度・ハブ度の高い企業を特定し、複数自治体の連携促進や中堅企業支援策の適用など、政府の施策の戦略的活用をプッシュ型で提案していくことで、その形成・拡大を目指すもの」とされている。また、このクラスターの要件には、有望度、実現可能性、費用対効果、域内への波及、自治体のコミットメント等に加えて、「EBPМメルクマール」が挙げられている点も注目される。資料3は、新たな政策立案の手法を踏まえた優れた文書といえるが、これを理解するにはこの間の産業立地政策についての理解が不可欠と思われる。第1期の産業クラスター政策の反省を活かした新たな施策の展開を期待したい。
■中島精也先生による時事経済情報No.127
PDFファイルはこちら
北陸新幹線の福井延伸に伴う地域経済・都市構造の変化と政策的対応に関する調査研究報告書(3)
福井県における地域計画の現状と課題 調査研究報告書(2)
ふくい地域経済研究第42号




