2026年
スポーツを活かした地域活性化の多様な視点
プロバスケットボールチームの福井ブローウィンズは、4月24日現在「B2リーグ・東地区4位」の成績にある。ゴールデンウィークからスタートするプレイオフで、2025-26年シーズンのB2リーグ最終順位が決定する。一方、Bリーグでは、今期はB1とB2の昇格・降格は、勝敗成績だけで行わないことが決定済である。福井ブローウィンズは、仮にB2で優勝や準優勝をしても、今期はB1に昇格することはない。では、なぜBリーグは成績だけによる昇格・降格が行われないのか。例えば、先行するプロサッカーのJリーグでは、熾烈な昇格・降格争いがもたらすメリットと弊害が指摘されている。選手はもとより、サポーターや地域も、昇格と降格に際して熱気溢れる応援を展開してきた。しかし、成績だけで昇格と降格を繰り返してきたことで、J1に昇格してもクラブの財務体質がぜい弱であったり、大勢の観客を収容するスタジアムが未整備であったり、という問題点が指摘されてきた。逆に、J2に降格したことでスポンサー企業が離れてチームの経営が立ち行かなくなる、といった課題も指摘されてきた。さらに、「ビッグクラブ」と呼ばれる一部のチームに資金が集中し、資金力の差から戦力格差が拡大し、試合が大味になっているなどの弊害も指摘され始めている。
一方、スポーツの拠点が整備されることで、地域活性化につながる事例も報告されている。例えば、プロ野球の北海道日本ハムファイターズが、札幌市の「札幌ドーム」から北広島市に新たに建設した「エスコンフィールドHOKKAIDO」に本拠地を移転したことで、試合がない日も楽しめる仕掛けが用意され、北広島市に多くの人が集まっている(レストラン、公園やサウナ、さらには認定こども園などを目的に)。野球場を「野球を見る場所」から「街のハブ」へと再定義し、国内外から観光客、さらに定住者を呼び込む仕掛けとなっている。
このように、人口減少や都市部への一極集中が進む中で、スポーツが持つ「人を集める力」と「共感を生む力」は、地域活性化の手段として注目されている。その際、プロスポーツではホーム&アウェー方式を採用する競技が多いため、ファンが応援のために全国を移動することで宿泊・飲食・交通などの消費を生み出している。スタジアムやアリーナを核に、周辺を含めた通年での集客から地域に経済効果を生み出している。
福井県には、魅力的なスポーツチームが複数ある。特に福井県が「ふくい県民応援チーム(愛称:FUKUIRAYS)」として重点的に支援している、①バスケットボールの福井ブローウィンズ(B2リーグ)、②ハンドボールの福井永平寺ブルーサンダー(リーグH)、③サッカーの福井ユナイテッドFC(北信越リーグ1部)、④フットサルの福井丸岡RUCK(日本女子フットサルリーグ)、⑤(フィールド)ホッケーのヴェルコスタ福井(ホッケー日本リーグ)は有名である。FUKUIRAYSの公式サイトなどを通じて、試合結果や観戦チケットの情報を一括で発信するなど、チームと県民の橋渡しが横断的に行われている。その際、県内企業のスポンサーを奪い合うことなく適切に資金が流れ、各チームに限られた県民の時間と資金が投入されることも重要である。例えば、各チームがバラバラに集客するのではなく、共通のポイントや広報を展開し、競技の垣根を越えた「福井のスポーツファン」をチームの枠を超えて定着させることが大切である。
そして、県民が地元スポーツチームを応援することで、県民同士の連帯感を強め、「シビックプライド」を醸成する契機とすることが、地域活性化を支える基盤になるとの意識をもつことが重要である。また、アウェーにもかかわらず福井を訪れた相手チームのファンとの交流を図ることで、「関係人口」の創出につなげることも大切である。観客の消費額等の経済的な地域活性化の効果に加え、「関係人口」を創出する契機としてスポーツを位置づけることが求められている。
今後、スポーツを活かした地域活性化は、経済効果に加えて、持続可能な仕組みづくりとして日常的に人々が集まる「空間」を創出し、「関係人口」を増加させる役割が高まると思われる。スポーツのもつ言葉の壁を越えて人々を結びつける魅力を活かし、地域の「シビックプライド」を醸成することで、地域独自の価値を創出し、未来への活力を生み出すエンジンとする新たな視点がますます重要になってくる。そのためにも、FUKUIRAYSの各チームの試合を是非ともアリーナやスタジアムで応援して欲しい。選手達の本気で熱いプレイを目前で応援することで、きっとスポーツを活かした地域活性化の多様な視点に気づくはずである。
第1回地域経済研究フォーラム「産業クラスター政策と地場産業振興を考える」
地域経済研究所の運営体制が変更になりました
福井県立大学では、2026年4月の地域政策学部開設に伴い、地域経済研究所の運営体制が変更になりました。2026年度の研究所の教授会メンバーは以下のとおりです。
( )内は専門分野。
■所長
教授 松原 宏(経済地理学) 地域政策学部長と兼任
■専任教員
教授 佐々井 司(人口学)
■兼担教員:以下の地域政策学部の18名の教員
ー地域経済研究所から地域政策学部の基幹教員に移籍ー
教授 青木 和人(空間情報学)漆間 アンドレア(空間計画学)
前田 陽次郎(農業地域政策)
三橋 浩志(地域政策学)
准教授 高野 翔(ウェルビーイング)
當麻 雅章(空間経済学)
森嶋 俊行(観光地理学)
ー他学部・センターから地域政策学部の基幹教員に移籍ー
教授 石丸 香苗(森林生態学)北島 啓嗣(マーケティング)
杉山 友城(地域経営学)
准教授 加藤 裕美(文化人類学)
ー令和8年4月に地域政策学部の基幹教員として新規に着任ー
教授 朝倉 由希(文化政策)大木 由美子(経営理念論)
鈴木 洋太郎(国際産業立地論)
宮町 良広(経済地理学)
准教授 勝又 悠太朗(経済地理学)
宮﨑 友里(観光政策論)
日本の産業クラスター政策2.0
2025年10月の第219回国会での高市内閣総理大臣の所信表明演説を読んで、次の一文に目が留まった。「地方に大規模な投資を呼び込み、地域ごとに産業クラスターを戦略的に形成していくことで、『地域未来戦略』を推進します」。
私は、2013年に『日本のクラスター政策と地域イノベーション』と題した本を刊行しているが、そのはしがきで、「世界に視野を拡げると、クラスターの進化や地域イノベーションの推進を、最重要の政策課題としている国や地域は少なくない。・・・日本でこうした施策(2001年からの経済産業省による「産業クラスター計画」と2002年からの文部科学省による「知的クラスター創成事業」)をやめてしまってよいのだろうかという疑問が大きくなり、本書の刊行にいたった」と述べている。
2000年代の「第1期のクラスター政策」の問題、そうした過去を振り返る余裕はなく、現政権は、産業クラスター政策を推進することに余念がない。地域未来戦略本部が昨年11月に設置され、12月に第1回の会合が開催され、「地域未来戦略」で取り組む内容について、①「地域ごとに戦略産業クラスター計画を策定」すること、②「知事主導で各都道府県における地場産業の成長プランを策定」することが、両輪として掲げられた。
その後、2026年3月に開催された関係副大臣等会議(第2回)では、3つのクラスター計画として、①戦略産業クラスター(都道府県域をまたぐ地域ブロック単位のものを主に想定)、②地域産業クラスター(市町村域をまたぐ都道府県単位のものを主に想定)、③地場産業成長プラン(市区町村~都道府県単位のものを主に想定)が示され、クラスターの概要、計画要件、策定プロセスなどが整理されている。さらに、春頃には「戦略産業クラスター計画の素案」の公表、5月には「戦略産業クラスター計画」の策定といった足早のスケジュールが提示されている。
これに即応すべく北陸では、2025年12月と26年2月に、「北陸戦略産業クラスター」に関する会議が開催され、私も地域経済研究所の地域産業分析の成果を報告した。今後は、戦略産業クラスター計画素案の策定と県からの大規模投資案件のプロジェクト提案へと進んでいくことになる。
ところで、両輪の一方の「地場産業」という表現に違和感を抱いていたところ、2025年12月下旬に示された「地域未来戦略の策定に向けた考え方(案)」において、知事主導で計画される「地域産業クラスター」が新たに打ち出された。上述の第2回関係副大臣等会議の資料3では、これについて、「知事等主導で形成されるクラスターであって、力を入れる産業分野及び重点支援をすべきコネクター度・ハブ度の高い企業を特定し、複数自治体の連携促進や中堅企業支援策の適用など、政府の施策の戦略的活用をプッシュ型で提案していくことで、その形成・拡大を目指すもの」とされている。また、このクラスターの要件には、有望度、実現可能性、費用対効果、域内への波及、自治体のコミットメント等に加えて、「EBPМメルクマール」が挙げられている点も注目される。資料3は、新たな政策立案の手法を踏まえた優れた文書といえるが、これを理解するにはこの間の産業立地政策についての理解が不可欠と思われる。第1期の産業クラスター政策の反省を活かした新たな施策の展開を期待したい。
■中島精也先生による時事経済情報No.127
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北陸新幹線の福井延伸に伴う地域経済・都市構造の変化と政策的対応に関する調査研究報告書(3)
福井県における地域計画の現状と課題 調査研究報告書(2)
ふくい地域経済研究第42号
受け入れ態勢は大丈夫?
3月は卒業、4月は新入社員の受け入れ。日本の企業にとって人材の節目の季節。福井でも、多くの企業が入社式や研修の準備を進めているだろう。しかし、本当に「受け入れ態勢」は整っただろうか。
福井の企業には、互いの顔が見える規模の職場が多い。人数が限られるからこそ、新人一人の成長が、そのまま現場の力に直結する。逆に言えば、育成がうまくいかなければ、仕事は回らなくなる。ここで問われるのは、新人本人の資質以上に、育てる側の視点と力量になる。
新人育成において欠かせないのが、仕事をQCDで捉える視点。ここでいうQCDは、単なる製造業の管理指標ではない。Qは機能品質と態度品質、Cは投入工数、Dは逆算思考を意味している。新人がつまずいたとき「できていない」という結果だけを見てしまいがちだが、本来は、Q・C・Dのどこに課題があるのかを見極める必要がある。
たとえば誤字や脱字など、資料にミスが目立つ場合、それは機能品質(Q)の理解不足かもしれないし、報連相ができない、指示を受け止めきれないといった問題は、態度品質(Q)に起因することが多い。態度品質は「やる気」や「性格」で片づけられがちだが、社会人として求められる基準を明確に伝え、具体的に教えなければ改善は難しい。社員間の心理的距離が近い職場ほど「言わなくても分かるはずだ」という前提が働きやすい。
仕事に時間がかかりすぎる場合も、本人の能力不足と決めつけるのは性急すぎる。新人にとっては初めての作業がほとんどで、想定以上に時間がかかるのは自然なこと。問題は、投入工数(C)の見立てや作業分解、優先順位付けを、育成担当者が示せているかにある。人手が限られる企業ほど「見て覚えて」が今でも残りやすいが、それだけでは仕事は受け継がれていかないし、いつまでも任すことができない。
さらに重要なのがD、すなわち逆算思考である。締め切りから逆算して「いつまでに、何を、どのレベルで」仕上げるのかを描けない新人が目立つ。これは個人の問題というより、逆算の思考プロセスを教わっていないことが起因していることが多い。育成担当者自身がその考え方を言語化し、手本として示すことが求められる。
新人の仕事の出来・不出来は、本人の資質以上に、育成担当者の力量に左右される。Q・C・Dのどれが不足しているのかを冷静に見極め、適切な指導を行えるかどうか。それができて初めて、新人は成長し、組織全体の力が底上げされていく。受け入れシーズンの今こそ、企業は新人だけでなく、育てる側の準備状況も問い直したい。
新人育成は、知識や手順を教えることだけではない。本質的には、組織が自らの仕事の進め方を見直す機会でもある。新人は、職場の暗黙の前提を浮かび上がらせる貴重な存在。「なぜこのやり方なのか」と問われて答えられないとき、その仕事は属人的もしくは無駄が多い作業になっている可能性が高い。
福井の職場には、互いに助け合う文化がある。だからこそ、新人が安心して質問できる空気を職場につくれるかどうかが、今後の定着を左右する。教える側が言葉にすることで、仕事や判断の基準が共有され、組織の再現性も高まっていく。新人の成長は、個人の成長だけではなく、組織の成熟度を測る指標でもある。
受け入れの季節とは、新人を迎える時期であると同時に、福井の職場が育ち直す季節でもあるのではないだろうか。
■中島精也先生による時事経済情報No.126
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