2026年2月
受け入れ態勢は大丈夫?
3月は卒業、4月は新入社員の受け入れ。日本の企業にとって人材の節目の季節。福井でも、多くの企業が入社式や研修の準備を進めているだろう。しかし、本当に「受け入れ態勢」は整っただろうか。
福井の企業には、互いの顔が見える規模の職場が多い。人数が限られるからこそ、新人一人の成長が、そのまま現場の力に直結する。逆に言えば、育成がうまくいかなければ、仕事は回らなくなる。ここで問われるのは、新人本人の資質以上に、育てる側の視点と力量になる。
新人育成において欠かせないのが、仕事をQCDで捉える視点。ここでいうQCDは、単なる製造業の管理指標ではない。Qは機能品質と態度品質、Cは投入工数、Dは逆算思考を意味している。新人がつまずいたとき「できていない」という結果だけを見てしまいがちだが、本来は、Q・C・Dのどこに課題があるのかを見極める必要がある。
たとえば誤字や脱字など、資料にミスが目立つ場合、それは機能品質(Q)の理解不足かもしれないし、報連相ができない、指示を受け止めきれないといった問題は、態度品質(Q)に起因することが多い。態度品質は「やる気」や「性格」で片づけられがちだが、社会人として求められる基準を明確に伝え、具体的に教えなければ改善は難しい。社員間の心理的距離が近い職場ほど「言わなくても分かるはずだ」という前提が働きやすい。
仕事に時間がかかりすぎる場合も、本人の能力不足と決めつけるのは性急すぎる。新人にとっては初めての作業がほとんどで、想定以上に時間がかかるのは自然なこと。問題は、投入工数(C)の見立てや作業分解、優先順位付けを、育成担当者が示せているかにある。人手が限られる企業ほど「見て覚えて」が今でも残りやすいが、それだけでは仕事は受け継がれていかないし、いつまでも任すことができない。
さらに重要なのがD、すなわち逆算思考である。締め切りから逆算して「いつまでに、何を、どのレベルで」仕上げるのかを描けない新人が目立つ。これは個人の問題というより、逆算の思考プロセスを教わっていないことが起因していることが多い。育成担当者自身がその考え方を言語化し、手本として示すことが求められる。
新人の仕事の出来・不出来は、本人の資質以上に、育成担当者の力量に左右される。Q・C・Dのどれが不足しているのかを冷静に見極め、適切な指導を行えるかどうか。それができて初めて、新人は成長し、組織全体の力が底上げされていく。受け入れシーズンの今こそ、企業は新人だけでなく、育てる側の準備状況も問い直したい。
新人育成は、知識や手順を教えることだけではない。本質的には、組織が自らの仕事の進め方を見直す機会でもある。新人は、職場の暗黙の前提を浮かび上がらせる貴重な存在。「なぜこのやり方なのか」と問われて答えられないとき、その仕事は属人的もしくは無駄が多い作業になっている可能性が高い。
福井の職場には、互いに助け合う文化がある。だからこそ、新人が安心して質問できる空気を職場につくれるかどうかが、今後の定着を左右する。教える側が言葉にすることで、仕事や判断の基準が共有され、組織の再現性も高まっていく。新人の成長は、個人の成長だけではなく、組織の成熟度を測る指標でもある。
受け入れの季節とは、新人を迎える時期であると同時に、福井の職場が育ち直す季節でもあるのではないだろうか。
■中島精也先生による時事経済情報No.126
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■吉田陽介先生による中国現地ルポNo.27 中国政府が「中国の老舗」を重視するワケ
春節(今年は2月17日)で、故郷に帰省する中国人が買うお土産といえば、真空パックの北京ダックや中国の老舗の一つ「北京稲香村」(1895年設立)の中国菓子が「定番」だ。春節で帰省するとき、同店の菓子をお土産に持って帰るという中国人は少なくない。「北京稲香村」のお菓子類は包装もきれいで、味もいいので、筆者も地方出張へ行くときはよく持っていく。
今の中国は、改革開放の初期とは違い、ニーズが高度化している。贈り物の購入は、ブランドを重視する。なぜなら、有名ブランドは、味はもちろんのこと、質も保証されているので、安心して贈れるからだ。逆に、新興ブランドの商品は、安くても贈り物にはあまりしない。
中秋節には月餅が売られており、春節の最終日である「元宵節」は「湯圓(タンユエン)」と呼ばれる日本でいう白玉団子も売られている。普通のスーパーで売られているものより割高だが、消費者の支持を得ている。
「老舗の伝統を守れ」
中国の最高指導者が老舗訪問
春節を目前に控えた2月9日から10日に、習近平総書記は北京の科学技術イノベーションパークや養老(高齢者ケア)サービス街区、春節を前にした町を視察した。10日付の「人民日報」は「習総書記は菓子店の稲香村に入り、菓子の種類と特色を理解し、菓子の現場で作られているのを見て、この北京の老舗を伝承し、発展させてほしいと店主に言った」と伝えた。
「人民日報」は訪問の事実のみを伝えていたが、11日付の「新京報」はやや詳しい記事が掲載された。記事は訪問先の「稲香村」の店長に取材し、習総書記が北京稲香村の店舗数、ブランドの歴史、本店の位置などについて質問した。「総書記が北京稲香村に対する関心を持っていることを感じ取ることができた」と話したことを伝えるとともに、「総書記は店舗で蜜三刀(ごまたっぷりの生地を揚げ、蜜に浸したお菓子)、奶油麻花(クリーム風味のねじり揚げ菓子)、開花棗(開いた棗の花をイメージした揚げ菓子)という3種類の菓子を購入した」と報じた。
この春節の連休、同店は、習総書記が買ったお菓子を買い求める客が少なくなかったそうだ。
中国では最高指導者の言葉は「方針性」を持っており、講話はもちろんのこと、発言の中で言及された事柄は、今後中国が重視する分野と解釈できる。今回の視察で、習総書記が立ち寄ったところから考えると、今後、イノベーション問題、高齢者ケア問題、文化関連消費の振興をより重視するとみられる。「老子号」についていうと、習総書記が講話をして提起したわけではないが、公式メディアに報道されたことで、国が一定程度重視していることがわかる。
中国の老舗が政策文書に出てきた理由
「老子号」については、全人代の文書でも登場している。2017年の「計画報告(国民経済・社会発展の執行状況と計画草案に関する報告)」で初めて「中華老子号(中国の老舗)」という名前が出てきた。「報告」では、「中華老字号」の保護と伝承をはかる」と述べている。直近2年の「計画報告」でも「老字号」の名前が出てきている。計画報告では、消費拡大や消費環境について述べる項目で述べられており、消費の活性化策の一つとして「老子号」を重視するという中国政府の姿勢がうかがえる。
また、「老子号」の継承・発展が消費関連の措置として論じられるのは、中国人の消費が文化的要素を考慮するようになったことを示している。経済が一定程度に発展すると、人々の生活が「芸術化」し、「見栄えの良い」ものを求めるようになる。筆者が中国での生活を始めた時は、どちらかといえば、外国のものが見栄えのいいものとされていたようだが、今はやや事情が違っている。
ここ数年、「国潮」消費という言葉が出てきて、漢服を着る女性をよく見るようになり、観光地で売られるアイスクリームも、中国特有のデザインになっている。それは、中国のモノだけを大事にし、外国製品を排斥するというものではなく、中国製品の質が向上していることも意味する。2022年に開かれた北京冬季オリンピックのマスコットキャラクター「ビンドゥンドゥン(冰墩墩)」を見ればわかるように、中国の若者にも受け入れられるようになっている。
昨年3月に発表された「消費喚起特別行動プラン」では、中国の文化的消費について、次のように述べている。
1、観光地・景勝地および文博(文物・博物館)機関がサービスプロジェクトを拡大する。
2、中華の優れた伝統文化を製品設計に融け込ませ、オリジナル知的財産権(IP)ブランドの開発を支援し、アニメ、ゲーム、eスポーツおよびその周辺派生商品などの消費を促進する。
3、「国貨潮品(国産ブランドのトレンド商品)」の国内外での増量市場(新規市場)を開拓する。
4、「中国での購入」シリーズ活動を展開し、中国の有名消費財陣を構築する。
ここでは直接、「老子号」について述べられていないが、3と4の措置では役割を発揮することができるのではないかと筆者は考える。今回の習総書記の視察で話に出た「北京稲香村」はいずれも長い歴史を持っており、これらの店の製品は「中国特有」の製品と言ってよい。
中国の蒸留酒である「白酒(バイジュウ)」は、茅台などの有名ブランドの商品は海外にも輸出されている。比較的有名な「白酒」を飲んだことのある読者はわかると思うが、一度飲むと、また飲みたくなる。そのため、「白酒」はリピーターの獲得が見込まれる商品だ。このことは、「海外進出」を促した一要因でないかと考える。
昨年開かれた中国共産党第20期中央委員会第四回全体会議(第20期四中全会)で発表された「決定」には、「文化事業の繁栄」、「優れた文化企業・文化ブランドの育成」「文化と観光の高度な融合」「文化で経済・社会の発展を後押し」といった措置が盛り込まれており、特に、最後に挙げた措置は、文化製品または「コーヒー+伝統的観光地」というような「外来文化+伝統文化」、「伝統的製品+文化観光」といった消費の拡大にプラスになる。
そのなかで、「老子号」の製品も中国特有の文化を示すためのもので、ここで示されたような「文化+経済」発展の措置に合うものである。
現在、中国政府は「新質生産力」の概念を掲げ、新技術を用いた商品の開発を重視しているが、生活者に向けた商品のレベルでいうと、「見栄えのいいもの」はもちろんのこと、「人々を懐かしい気持ちにさせる」商品も一定のニーズがあるだろう。ゆえに、中国の文化消費の拡大の面で、「老子号」は一定屋の役割を果たすことができるのではないかと考えられる。