福井県立大学地域経済研究所

2026年7月

  • 福井を“高度人材”創出県に ― 大学全入時代のその先へ

     高校3年生が進路を決める、暑い夏がやってきた。夏休みは昔から受験の天王山。三者面談も本格化し、受験生を持 つご家庭では気の休まらない夏が始まる。

     日本は古くから識字率の高い国として知られ、教育水準の高さを一つの誇りとしてきた。寺子屋の時代にさかのぼる学びの伝統は義務教育の普及へと受け継がれ、文部科学省の2024年度学校基本調査によれば、大学(学部)進学率は59.1%と過去最高を更新した(注1)。他方で少子化により、大学進学を希望する若者の数は減り続け、その数はいまや大学の総定員に迫っている。私立大学の半数以上が定員割れとなるなど(注2)、選ばなければ誰もがどこかの大学に入れる――いまや「大学全入時代」と揶揄されるゆえんである。

     しかし世界に視野を広げると、違った風景が見えてくる。主要7か国を調査した「人口100万人当たりの博士号取得者数(2021年度)」は、韓国が344人、ドイツが330人なのに対して、日本は下から2番目の126人と大きく見劣りする(注3)。しかも、日本の博士課程では在籍者の約2割を外国人留学生が占めており(注4)、日本人に限れば、その層はさらに薄い。

     長らく続いた日本的経営の慣行から文系学部で学ぶ学生の多くは、学部を終えると社会に出る。しかし、転職はもはや珍しくなく、2024年には40代の転職率が過去最高となるなど(注5)、中高年の労働移動も広がっている。問われるのは、就職したのちも、もう一度学べるかどうかである。

     英国の経営学者リンダ・グラットンが『ライフ・シフト』(注6)で説いたように、「学校で学び、就職し、引退する」という一本道は、もう前提ではない。若い頃に身につけた知識だけで半世紀を走り抜けるのは難しい。途中でもう一度学び直し、専門性を更新すること――いわば人生のギアチェンジができるかどうかが、55歳を過ぎても現役であり続ける鍵になる。

     内閣府の分析によれば(注7)、学校などに通って学び直した人は2年後に年収が約30万円増え、仕事に就いていない人では就職できる確率も大きく高まるという。学び直しは個人の収入と働き口を押し上げ、巡り巡って地域の産業を支える力にもなる。

     それにもかかわらず学び直しが進まない一因は、費用負担の重さにある。大学院の学費は、国立でも修了までに約135万円(注8)、私立ではさらに高く、社会人向けのビジネススクールでは数百万円に及ぶことも珍しくない。日本では、企業が自社に役立つ人材を育てる目的で、その費用を担ってきた。だが、かつての余力はもはや企業にない。自費で学び直す文化も根づかないまま、学び直しのコストは個人に重くのしかかる。

     そもそも日本は、高等教育にかかる費用の公的負担が37.5%と、OECD平均の67.7%を大きく下回る(注9)。子どもの学びは社会で支えても、大人の学びは自己負担、という構図なのである。

     福井県は子どもの学力が全国トップ級であることで知られ(注10)、高校授業料の無償化など子育てへの支援も手厚い(注11)。ところが、高校を卒業して大学へ進む若者の6割あまりは県外へ出ていき(注12)、県内に留まった人材に対する学び直しの環境整備は乏しい。

     「大学全入時代」に日本の行政に問われているのは、世界水準の高度な人材をどれだけ育てられるかである。子どもの学力で全国に名を馳せた福井が次に挑むべきは、その芽を大人になってからも伸ばし、地域の産業を担う高度人材を生み出すことではないか。働きながら、あるいは働き終えてからも学び直せる場を整え、社会人が高度教育、すなわち大学院の扉を叩ける環境づくりを望む。

    【注】

    注1)文部科学省「令和6年度学校基本調査(確定値)」2024年。

    注2)日本私立学校振興・共済事業団「令和7(2025)年度 私立大学・短期大学等 入学志願動向」(入学定員充足率100%未満の私立大学は316校・53.2%)。

    注3)文部科学省 科学技術・学術政策研究所「科学技術指標2024」(文部科学省「学位授与状況調査」による。2021年度)。比較対象は日本・アメリカ・ドイツ・フランス・イギリス・中国・韓国の主要7か国で、日本は7か国中6番目。

    注4)文部科学省 高等教育局参考資料(2021年。博士課程在籍者に占める留学生の割合は約21%)。

    注5)マイナビ「転職動向調査2025年版(2024年実績)」。

    注6)リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット『ライフ・シフト―100年時代の人生戦略』東洋経済新報社、2016年。

    注7)内閣府「日本経済2018-2019」(社会人の学び直しの効果に関する分析)。

    注8)「国立大学等の授業料その他の費用に関する省令」による標準額(入学料282,000円+授業料年額535,800円。修士課程2年で計約135万円)。私立大学院はこれを上回る。

    注9)経済協力開発機構(OECD)「図表でみる教育2025」2022年データ。

    注10)文部科学省「全国学力・学習状況調査」。

    注11)福井県「高校授業料無償化制度」ほか。

    注12)福井県教育委員会「進路実態調査」2025年(大学等進学者に占める県外進学者は約64%)。

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  • 第5回グローバル地域研究セミナー「AIを活用した地形改変の予測と防災 ー日本とブラジルの比較ー」

    世界では、人口の地形改変による環境破壊とともに、洪水や地滑りなどの災害も発生しています。一方で、AIを活用した地形判読などの技術も進み、最先端の技術を活用することで、防災への貢献も期待されています。本セミナーでは、日本とブラジルの事例をもとに、地形と防災、AIなどの技術を巡る今後の可能性について考えます。多くの方の参加をお待ちいたしております。


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  • 地域イノベーションに関する地域経済研究フォーラムが開催されました。

     お知らせ

     7月10日(金)地域経済研究所企業交流室にて、「第7期科学技術・イノベーション基本計画と福井の地域イノベーション」をテーマに、第2回地域経済研究フォーラムが開催されました。本学岩崎行玄学長からの挨拶の後、文部科学省科学技術・学術政策研究所の赤池伸一総務研究官から、第7期科学技術基本計画についてご講演いただき、その後、所長の松原から福井県の地域イノベーションの現状と課題に関する報告がなされました。

    ※赤池総務研究官の報告資料はこちら

     後半のパネルディスカッションでは、本学地域政策学部の三橋浩志教授の司会の下、経済学部の桑原美香教授、生物資源学部の三浦孝太郎教授、海洋生物資源学部の田原大輔教授、看護福祉学部の坂口昌宏教授、恐竜学部の今井拓哉准教授、地域政策学部の青木和人教授が、地域と関わる研究成果を披露、その後、学部間の研究交流をどのように進めていくかなどについて議論を行いました。

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