福井県立大学地域経済研究所

メールマガジン

  • 緊急事態が解除された今。企業は新たな入口に立たされた。

     4月16日に日本全域にまで対象地域が拡大した新型コロナウイルス感染に係る緊急事態宣言は、5月14日に39県、21日に3府県、そして25日(18時頃)に全面解除となり、私たちは新たな入口に立たされた。
     さて、5月20日に東京商工リサーチが「新型コロナ」関連の経営破綻が全国で169件(2月2件、3月23件、4月84件、5月(1~20日まで)60件)に達したことを発表した。
     業種別では、インバウンド消失に加えて、国内旅行や出張の自粛でキャンセルが相次いだ宿泊業が最多、次いで、緊急事態宣言で来客数の減少や臨時休業、時短営業の影響が響いた飲食業が多くなっている。
     経営破綻した企業は、コロナ禍以前より業績不振が続き、人手不足や消費増税、そして、コロナウイルス感染症拡大の影響が決定打となって、資金繰りが厳しくなったケースが目立つ。全国的に経営破綻が広がる中で、幸いにも福井県はゼロ(5月20日時点。他、和歌山県、島根県、高知県、長崎県のみがゼロ)であった。ただ、倒産集計の対象外である負債1000万円未満の小規模・零細企業の倒産や事業継続を諦めて廃業を決断するケースは耳にしているし、今後、顕在化してもくるだろう。
     過去のバブル崩壊やリーマンショックでは、金融資産の暴落に伴う金融機関や企業の損益計算書の悪化をきっかけにして、企業から消費者に影響が広がった。今回は、これらとは異なり、感染回避のための消費急減が直撃した。これを背景に、B2C企業と比較するとB2B企業への影響が限定的となり、第2次産業に特化している福井県では、影響が少なかったのかもしれない。
     ただ、緊急事態宣言が解除された後の需要回復局面でこそ、企業経営においては気を引き締める必要がある。というのも、企業の資金需要は売上増加時期に増えるものであり、ある程度の資金的な余裕がある状態で回復局面を迎えなければ資金に困窮する。早期に売上を損益分岐点にまで戻さなければ、長期にわたる赤字や、廃業・倒産を招くことにもなる。
     他方、一度減少した需要は、簡単には元に戻らないことも事実で、例えば、テレワーク等の急速な普及は、宿泊業や飲食業へのニーズの減少を維持させる。この影響が長続きすれば、当然、第2次産業への影響も出てくる。今までの財・サービスを提供し続けるならば、従来以上に固定費や原価を下げるか、単価や付加価値を上げなければならないし、新たな需要に合わせた財・サービスを産み出すか、ビジネスモデル自体を根本的に見直す必要がある。
     私たちは、この数か月でリスクに対して敏感になった。感度が一気に高まった。「新たなウイルス」という情報が流れただけで、財・サービスや人の流れを抑制されることになるであろう。企業は、このような事態が発生することに備えた態勢を常に取り続けなければならない。サプライチェーンの脆弱さが露呈し、食料品などは、一部の国で輸出規制という保護主義的な動きもある。サプライチェーンの単純化や、需給に合わせた一定地域内でのモノの留め置きという動きも更に強まる可能性がある。
     足元と、モノや人という実体(リアル)の移動が減るニュー・ノーマル(歴史的な大転換)という未来を見据えた舵取りができるのか。企業は新たな入口に立たされている。

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  • -新型コロナウイルス感染拡大の危機を越えて-

     4月16日、政府は新たに40道府県に対して緊急事態宣言を発令した。世界中で新型コロナウイルス感染症が広がる中、既に対象となっている東京都など7都府県を合わせ、これで日本全体が緊急事態下に置かれたことになる。期間は来月5月6日までとなっているが、果たして終息の目途がつくか否か疑問の残るところではある。
    ところで、この新型コロナウイルス感染症は、中国の湖北省武漢市の保健機関により原因不明の肺炎患者が報告されたのが始まりと言われている。日本での感染者確認は、今年の1月16日に入ってのことである。この日、日本国内の医療機関を受診した中国武漢市に渡航歴のある中国人男性が新型コロナウイルスに感染していることが判明した。4月17日現在、世界全体では患者数が215万8千人(死亡者数145千人)と200万人台を突破、日本国内でも9,309人(死亡者数191人)の患者数を数え、その動きは留まるところを知らない。
     一方、新型コロナウイルス感染症による影響は、いったいどのような状況となっているのか。経済的、社会的に大きなダメージを受けていることは間違いない。
     まず経済的課題について、ある国の経済学者は、この新型コロナウイルス感染拡大により、世界におけるGDPの2~3割が喪失すると述べている。では、具体的に産業間でどのような影響を受けているのか。一例として観光業の動向を見ると、昨年1年間で3,200万人が訪れた訪日外国人観光客数は、今年2月時点で前年同月比58.3%減の1,085千人、3月には同93.0%減の193千人(日本政府観光局調べ、3月推計値)に減少するなど悲惨な状況となっている。これに伴い観光関連産業の旅客運輸、宿泊施設、旅行代理店、各地の観光地は壊滅的なダメージを受けていることがうかがえる。無論、この負の連鎖は、一般の小売業、飲食サービス業、タクシー業、教育機関などの第3次産業に襲い掛かり、今のところ比較的ダメージが少ない製造業や建設業でも、その影響が広がっていくに違いない。そうなれば、中小・小規模事業所が多い北陸地方において、未曾有の打撃を受けることは必定である。例えば、福井県の場合、これまで内需がだめなら外需で、外需がだめなら内需でという具合にうまくバランスを取り、経済的にはバブル崩壊やリーマンショック時も日本全体と比べ比較的ダメージが少なく結構打たれ強い地域として知られていた。しかし、今回の新型コロナウイルス感染症は、内外需両面での低迷により、福井県においても容赦なく経済的ダメージが拡大していくであろう。もはや新型コロナウイルス感染拡大による日本経済の低迷は必至であり、有無を言わさずそれに相応する経済対策が必要である。ただその場合、単なるバラ撒きではなく、終息後の将来を見据えた対策、例えば、生産性の低い福井県企業にとっては、業務のIT化や労働者のスキル向上などによる生産性向上を目指した支援策、或いはデジタル社会の到来を見据えた戦略的支援策が求められている気がする。そして、地域の企業は、この逆境をバネに業種転換や経営のスリム化を図ることを期待したい。ローテク産業からハイテク産業、都市型産業に切り替えていくチャンスの時と考えられないか。今やSosiety5.0の時代、AIやIOTといったデジタル技術革新の大きな波が押し寄せている。地域の企業には、今回の新型コロナウイルス感染拡大という危機を何とか乗り越えて、次の時代を担う産業社会の立役者になってもらいたいものだ。
     そして、もう一つ、大きな課題は社会的ダメージをどう押さえるかだ。医療崩壊、環境破壊、貧困、犯罪多発、教育システムの崩壊など、危惧する事象は山と積まれている。とりわけ命に係わる医療の現場は想像を絶する事態となっている。医療器材・病床や人手の不足、医療従事者に対する誹謗中傷、差別などとんでもない話を耳にする。今、私達一人一人ができること、それはコロナと最前線で闘っている医療関係の方々に敬意を払うこと、同様に幼児園の先生や児童館の先生など、一見目立たないところで社会的課題に立ち向かう方々にもっと敬意を払うこと、それが身近でできる一番の手立てではないか。
     いずれにせよ、今、世界全体がコロナウイルスという目に見えない敵との戦いを強いられている。しかし、我々はこの敵に負けるわけにはいかない。何故なら、この戦いで得た知見、技術・ノウハウを活かすことで、経済・社会システム、働き方、暮らし方、思想、価値観など多様な面でのパラダイムシフトが起こり、もう一段進化した社会へと進むことができるのだから。  

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  • 新型コロナウイルスもマスクも中国製

     昨年12月,中国・武漢市で発生した新型コロナウイルス感染症COVID-19が世界中に蔓延した。3月11日,世界保健機構(WHO)のテドロス事務局長は世界的な大流行を意味する「パンデミック」と認定した。3月30日現在(※),世界全体で感染者数717,457人,死者33,778人であり,日本はそれぞれ1,866人,54人(クルーズ船感染者含まず)であった。感染者で見れば,米国139,675人,イタリア97,689人,中国81,470人,スペイン80,110人,ドイツ62,095人,フランス40,174人に達している。しばらく世界で感染拡大が続くだろう。
     政府は,感染拡大を防ぐため,イベントや集会の自粛,小中高の臨時休校措置を要請した。大相撲,プロ野球,Jリーグ,プロゴルフなどのスポーツ競技が無観客開催,延期や中止となった。選抜高校野球も中止と決まった。東京五輪の開催に向けて準備が進んでいたが,3月24日,IOCの臨時理事会は東京大会を1年程度延期することを正式に決定した。選手,大会関係者,国民もいろいろな再調整が必要だが,何よりもコロナ感染の収束を望むだけである。
     新型コロナウイルスは見えないだけに始末が悪い。ひとが理性を失って行動する。薬局ではマスクや消毒液が売り切れ,再入荷も分からない。マスクは市民よりも医療現場で必要である。マスク不足は,日本で生産していないのが原因である。1985年のプラザ合意以降,極端な円高ドル安が進む中で,広大な市場と賃金の安さが魅力の中国で生産移転が進んだ。やがて中国は「世界の工場」となった。日本にも中国製品が溢れている。家電製品も日用品も,そしてマスクも中国製である。まさに「軒を貸して母屋を取られる」のごとくである。
     海外生産は,その分だけ国内の生産を不要とする。工場には雇用と技術とノウハウが満載であるが,それが丸ごと海外に移転される。移転した分だけ日本の雇用が減少する。海外子会社を含めた連結売上高が増大し,連結利益が「過去最高!」と報道されても,国内生産が増えなければ,日本の雇用も給料も増える訳ではない。政府や新聞が言うほどに豊かさを実感できないのは,そのためである。
     ここ5年をかけてブルドーザなどの建機メーカで,世界第2位のコマツを調査してきた。連結で売上高2兆7,252億円,営業利益3,978億円に達するグローバル企業である。ちなみに野路國夫会長は福井県出身である。売上高の87%は海外で,日本はわずか13%である。しかし,マザー工場制の下で,日本では基幹コンポーネントを生産し,それを多数の海外子会社に輸出して製品に組み上げる。日本で生産高40%を確保して,雇用と技術と競争力を日本国内で堅持している。「丸投げ型」海外生産とは一線を画するコマツの海外戦略である。
     福井でも,多くの企業が中国に進出した。市場の将来性と賃金の安さが中国進出の決め手だった。中国の成長とともに賃金上昇が続く中でメリットも薄れてきた。「日本回帰」を主張する論者も増えた。そこに今回のコロナ騒ぎである。コロナ収束後,中国進出のメリットを改めて再検討しても良い時期だろう。

    ※ 最新情報はhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00086.html 「新型コロナウイルス感染症の現在の状況について」をご参照ください。

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  • 新型コロナウイルスからの教訓

     新型コロナウイルスを巡る日本社会の混乱をみながら、私は3つのことを確認できたような気がします。

    (1).ビッグ・イベント頼みの経済活性化の危うさ

     東京オリンピック及びその開催に照準をあわせた東京大開発事業、リニア中央新幹線、カジノ、大阪万博などなど、日本では今後短期の間に超ビッグ・イベントをいくつも予
    定されています。北陸新幹線の延伸が霞んでみえるほどです。
      これら周辺の環境整備を含め多額の公共投資が行われCool Japanはますます魅力的になるでしょうし、海外からもさらに多くの注目を浴びることになります。日本は再び自
    信を取り戻し、国際的な信用も回復する。景気も上向き、東日本大震災以降の念願だった高い経済成長率を達成する。少子高齢化社会でも持続可能な社会保障制度にも光が見
    えてくる。
      あまりにも出来過ぎたシナリオでした(私のなかでは既に過去形)。私たちの足下には、コツコツと地道に成し遂げねばならないことが山積しているのではないでしょうか。

    (2).不要不急の事業の多さ

     つい先頃まで予定されていた様々なイベントが俄に中止、ないしは延期され始めました。来月初頭に予定されていたある会合の主催者から昨日こんなメールが送られてきました。
    “新型コロナウイルス等に対する感染症対策の準備を進めてまいりましたが、拡大防止の観点より、無観客で開催のうえ、後日、@@@ホームページで動画配信させていただ
    くこととなりました。参加を楽しみにしておられた皆様には誠に申し訳ございませんが、何卒ご理解を賜りますようお願い申し上げます。”
    いえいえ全く問題ありません。ご連絡有り難うございます。
     他方、子ども達が楽しみにしていた社会科見学や卒業式にあわせて行う予定であったお祝いの会なども中止になりました。残念ですがこればかりはしかたがありません。今後の関心事は、どの時点までこの自粛が続くのだろうか、ということです。新年度が始まる春ごろまででしょうか、それともオリンピックの閉会式終了まででしょうか。と同時に、不要不急とみなされる事業や仕事はこれを機に綺麗さっぱり整理しても良いかもしれません。堀江貴文氏は2016年に「99%の会社はいらない」という本を出されています。会社だけでなく仕事の中身を見直す良い機会です。ベーシックインカムの議論とあわせれば、案外、人口減少や労働力不足が杞憂に終わるかもしれません。

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  • 回復力に力強さを欠く日本経済

     早いもので、2020年に入り1か月余りが過ぎた。ここでは、2019年の日本経済を振り返るとともに、本年、2020年の日本経済を展望したい。
     さて、2019年の日本経済を振り返ると、年初来、雇用・所得環境の改善を背景に、個人消費が緩やかな回復を続けたが、輸出は中国経済の減速や米中貿易摩擦のあおりなどから、精彩を欠く幕開けとなった。また、年央以降は堅調を持続した国内消費が冷夏の影響や自然災害の発生により一抹の不安材料を露呈した他、生産活動も自動車工業や生産用機械工業などの不振により不冴えな状況が続いた。ただ、内閣府が12月9日に発表した7~9月期の国内総生産(GDP)改定値をみると、物価変動を除いた実質で前期比0.4%増、年率換算では1.8%増と1次速報値(前期比0.1%増、年率0.2%増)を大幅に上回る結果となっている。この要因は、内需における設備投資の増勢や個人消費の上振れ、とりわけ10月に実施された消費増税前の駆け込み需要の発生による影響が大きく発現したためとみるべきであろう。
     また、秋口に入っては、各種の対策効果から消費増税の最悪シナリオが薄められはしたものの、個人消費の一時的な下振れは避けられず厳しさが増す一方、企業活動では生産面でスマートフォン販売の底入れを受け、電子部品・デバイスが増加基調をたどったとみる見方が有力である。ただ、世界景気が全般的に勢いを欠くなか、輸出全体の力強い回復は期待し難い状況にある。
     一方、2020年の経済情勢について、まず需要部門では、消費増税の個人消費への影響については、今回の税率引き上げ幅が2%と小幅で、軽減税率の導入や教育・保育の無償化などにより家計への影響は軽微で、個人消費への悪影響が最小限にとどまること。さらに、人手不足を背景とした雇用所得環境の改善や各種の政策効果などが下支えに作用するなどから、個人消費は持ち直しの動きを強めるものと考えられる。ただ、新年度以降の実質賃金が伸び悩めば回復力は弱いとみるべきであろう。また、設備投資も企業のキャッシュフローが潤沢な中、人手不足を背景とした合理化・省力化投資、研究開発投資、建設投資などを中心に持ち直しが続くことが期待されるが、米中対立など不確実性の高さなどを考慮すると投資意欲の減退も視野に入れておくべきであろう。一方、供給部門については、外需面で、中国経済の減速を主因に足元の財輸出は伸び悩んでいるものの、中国政府の景気下支えから徐々に持ち直しに向かい、このところの下振れリスクも払しょくされることが期待されるが、引き続き海外経済の不確実性には十分留意する必要がある。そのため、2020年の日本経済は、需要部門、供給部門ともにまだら模様の中、力強さ欠く展開が続く可能性が強いとみるべきであろう。
     ところで、今年に入り特に注目を集めている話題を挙げるとすれば、それは今年3月から日本でも5G移動体サービスが始まる話であろう。ちなみに、広義の意味でのデジタルツール、PC(パーソナルコンピュータ)が初めて日本に登場したのは1970年代初頭のことと記憶している。それから半世紀あまりを経過し、今やPCは時代遅れとなり若者はスマホ、モバイル通信ネットワーク、いわゆる5Gの時代を迎えた。そのほか人工知能(AI)、ICT、ロボット、ビッグデータといった多様なデジタルツールが登場し、今やSociety 5.0の時代。私たちの暮らし、仕事の仕方、経済社会システムそのものが大きく変化しようとしている。こうした変動を技術革新の波からみれば、1970年代以降の2020年代はシュンペーターが定義したコンドラチェフの波(注)が押し寄せている時代のように思える。いずれにせよ時代は大きく変化する。その中で企業はこうした多様なデジタルツールを活用しながら、さらなる経営革新を図ってもらいたいものだ。

    注:景気の循環には特徴的なパターンが見られ、技術革新を主因に約50年の周期で循環している景気循環をいう。

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  • あなたの会社は健康ですか?~倒産指数/企業力指数~

    東京商工リサーチによると、2019年の1月から11月にかけて、福井では42件の倒産が発生し、負債総額は約373億円でした。2018年の1年間では、39件倒産し、負債総額は約35億円でした。今年は12月前に昨年の倒産件数を超えています。負債総額が昨年の10倍以上なのは、2月と5月に100億円超の倒産が発生したためです。倒産の原因は「販売不振」が多く、「他社倒産の余波」や「既往のシワ寄せ」、「運転資金の欠乏」などです。
    会社が倒産しないためにはどうすれば良いのでしょうか。会社を人の体に例えて単純に考えれば、大切なのは「健康」です。定期的に健康診断や検査を受け、自分の体の状態を知ることができれば、様々な対策を取ることができます。会社でお金は「血」に例えられますが、血液検査によって様々なことがわかります。有名な検査項目であるγ-GTPは、値が高ければ肝臓に問題があることがわかるので、お酒を控えるなどの対策が取れるでしょう。もし基準値を大幅に超えていれば、精密検査や治療を受けることもできます。この血液検査にあたるものが、会社では会計です。会計によって作られる数値を調べれば、会社は健康なのか、問題がどのあたりにあるのかなどを判断できます。
    検査結果の数値が基準値を超えているかを見比べる程度なら、素人にもできます。必要な検査を行ない、様々な項目の数値を分析し、健康なのか、経過観察が必要なのか、緊急入院の必要があるのかなどを判断するには、専門家である医師の判断を仰ぐ必要があります。会計も同様で、会計数値を理解・分析し、総合的に判断するには、専門知識と経験が必要になります。
    本来であれば、社長から現場の社員まで、全員に会計教育を行うのが良いのですが、会計教育を十分に行うのは時間もコストもかかります。そんな現実をふまえ、一定の精度で簡単に会社の健康状態(経営状態)を判定する方法はないか、と開発された指標が「倒産指数/企業力指数※」です。この指標は、ある程度の信頼性を有しながら、入手しやすい会計数値による、簡単な計算式で求めることができます。また絶対的な判定基準を持ち、総合的な判断が可能です。
    ※企業力指数は、倒産指数をもとに一部修正した指数になります。

    (1)倒産指数の計算式(一般式)

    倒産指数は、5つの指数(収益力指数、支払能力指数、活力指数、持久力指数、成長力指数)の平均で求められます。倒産指数により会社全体の経営状態を判定し、5つの指数により、5つの能力から判定することが可能になります。

    倒産指数=(収益力+支払能力+活力+持久力+成長力)÷5={売上高÷(営業費用+支払利息)}+流動資産÷負債※+売上高÷総資本+自己資本÷負債+自己資本÷(自己資本-当期純利益)}÷5

    ※大企業の場合「支払能力=流動資産÷流動負債」(特別式)

    (2)判断基準

    基本となる判断基準は「1.0」です。1.0を超えていれば問題なしと考えて良いでしょう。倒産指数はもちろん、収益力指数など5つの指数の判断基準も同じです。指数が1.2以上の場合は「健康」な状態です。0.8~1.2の場合は「普通」か「順調」な状態です。油断せずに監視します。0.6~0.8の場合、「危険」か「不調」な状態です。細心の注意をもって対応する必要があります。0.6以下の場合は「危篤」状態です。機敏な対応が必要になります。

    ※例外として債務超過の場合、成長力が異常な数値になります。

    (3)活用方法

    まずは、自社の決算書を用意して計算してください。自社の経営状態を一目で判断できると思います。5つの指標もあわせて数年分計算すれば、自社の経営状態の良好な点や問題点、傾向がわかります。問題の所在・傾向がわかれば、問題を改善し、良好な状態に向うように、経営戦略・計画の策定、業務改善の実施などに役立てることができます。

    古来より、彼を知り己を知れば百戦殆からずと言います。己を知り、弱みを強みに変える第一歩を踏み出すために、ぜひ会計を活用してください。

    □詳しくは下記の参考文献をご覧ください。

    ・現代会計カンファランス(1997)『倒産指数-危ない会社ズバリ判別法』日本経済新聞社

    ・松本敏史・富田知嗣(1999)『あなたの会社の偏差値診断-資料:全上場2211社企業力ランキング』税務経理協会

    ・松村勝弘・松本敏史・他(2015)『新訂版 財務諸表分析入門』ビーケイシー

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  • 地域包括ケアシステムと医療・介護連携

     少子高齢化が進むわが国では、地域包括ケアシステムを推進している。地域包括ケアシステムとは、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、高齢者が住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、「住まい」「医療」「介護」「予防」「生活支援」が切れ目なく一体的に提供される体制のことである。
     福井県の高齢化率(総人口にしめる65歳以上の割合)は、2019年10月1日現在30.5%である(全国:28.4%)。2045年には38.5%に達し、おおよそ10人に4人が高齢者になると見込まれている。また、65歳以上の独居高齢者の世帯数は、2015年の2.9万世帯から2020年には3.3万世帯へと増加し、その割合は13.7%となる。さらに現在働き盛りの40代の方たちが65歳を迎える2040年には、独居高齢者の世帯数は4.3万世帯に増加し、割合は17.8%になることが予測されている。
     高齢になるに従い、昔は苦もなくできていた日常生活動作に時間がかかるだけでなく、一人ではできないことも増えてくる。また、複数の疾患を抱え、複数の専門機関を受診しなければならなくなる状況も予測される。筆者が県内で行った調査では、高齢者からは「ゴミ出しが大変」「免許を返上したら思うように病院に受診できなくなった」等の声が聞かれた。また、親を介護・看護する働く世代たちからは、「仕事をしたいのに、親の介護に加え病気の世話もしなければならない。子どものお世話もあって休む暇がない」等と発言していた。生活と医療・介護の継続が課題となり、その課題は高齢者のみならず働く世代の課題となるのである。
     福井県の医療・介護資源の一つに「メディカルネット」がある。メディカルネットとは、医療と介護を一体的に推進し、かつ適切に支援を提供するための地域のしくみである。患者・家族は、遠方の病院で受けた検査結果等を、自宅近くの診療所等で閲覧できるため、他の病院で受けた検査結果や薬の内容などがわかり、どこにいても適切な診断・治療を受けることができる。また、医療・介護職は、メディカルネットで情報を共有することで、支援を必要とする方や家族の個別にあわせた専門技術を提供することができる。メディカルネットを活用し、「私」や「私の地域に住まう住民」が、必要かつ適切な医療・介護支援を得ることで、生活の質が維持・向上させることができる。
     福井県の地域支援システムを、高齢者のみならず障害や難病を抱えた子ども、働く世代にも拡大することで、県民が安心して暮らすことのできる地域がつくられ、同時に増大する医療・介護費の適正使用にもつながる。全年代・全領域対象型の地域支援システムとしての地域包括ケアシステムの推進が求められる。

    参考:福井県HP「福井県の推計人口」https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/toukei-jouhou/zinnkou/jinkou.html

    国立社会保障・人口問題研究所『日本の世帯数の将来推計』2019年4月.

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  • 福井県の幸福度

     日本総合研究所の「全47都道府県幸福度ランキング」で、福井県は2014年版、2016年版に続き、2018年版でも総合1位となり、3回連続の「幸福度日本一」に輝いている。東洋経済刊の『都市データパック』2019年度版の「住みよさランキング」でも、全787都市の内、福井市が4位にランクされ、県庁所在地で唯一ベスト10入りしている。県内の市町では、敦賀市6位、坂井市38位、越前市46位が、ベスト50に含まれている。4市の合計人口は50万人を超え、77万人弱の福井県人口の6割を軽く超える。
     古くは経済企画庁の「新国民生活指標(豊かさ指標)」で、1994年から1999年まで5年連続で1位に選ばれたのをはじめとして、近年の幸福度ランキングの火付け役となった2011年の幸福度指数研究会の「日本でいちばん幸せな県民」でも総合ランク1位に輝いている。各種の客観的な指標から算出される幸福度(住みよさ)ランキングで、福井県は無類の強さを誇っている。
     一方で、県民の主観的な幸福度は客観的なランキングほどは高くなく、かなりのギャップが存在しているという指摘も後を絶たない。こうしたギャップの原因については、いくつかの説明が可能であると考えられる。
     以前のコラム(※)では、日本一の共働き県である福井で、家事、育児、介護の負担が女性に偏っており、女性が時間的・精神的なゆとりを持ちにくいことを指摘した。女性の多重負担は、忙しすぎてキャリアアップのモチベーションを維持できないという形で、労働力率の高さとは裏腹の管理職比率の低さに影を落としている。女性の多忙さは主観的な幸福感を阻害する要因の一つであろう。
     今回は、もう一つの仮説として、福井県の人口移動の少なさに起因する比較の対象の狭さを指摘しておきたい。意外に思われるかもしれないが、福井県は人口流入が少ないだけでなく、人口流出も少なく、H27の社会生活統計指標によると、人口転入率が1.02で全国45位、人口転出率も1.30で全国44位となっている。第二次産業を中心に中小の事業所が数多く存在し、働く場所には困らないという産業構造によって、人口移動の少ない超定住社会が実現されている。県民の8割近くが県外で生活した経験を持っておらず、その結果、福井県の住みよさに関して比較の視点を確保することが難しくなっていることが指摘できる。持ち家率の高さも延べ床面積の広さ(それに伴う個室の保有率の高さ)も、職住近郊による通勤時間の短さも、出産・育児と女性の就労継続の両立がもたらす経済的なメリットも、三世代近居の安心感も、福井県で暮らし続けている限り、空気のように当たり前で、特に意識されることはない。庭付き書斎のありの持ち家から、ドアトゥドアで30分以内で通勤可という首都圏在住者からすれば垂涎の幸福も、福井県民には当たり前すぎてピンとこないのだろう。幸せの青い鳥はいつだって身近過ぎて気づきにくいものなのかもしれない。
    (※) http://www.s.fpu.ac.jp/fukk/mailmgz/n45_sp1.html

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  • 売り手市場の就職とインターンシップ

     新規学卒者の就職は、売り手市場と言われるように非常に好調である。文部科学省の発表によれば大学等卒業者の就職率は、2018年3月98.0%、2019年3月97.6%となっている。福井県立大学の場合も両年共99.1%となり好調であった。経団連の指針により採用活動の解禁は学部生では3年次の3月、採用試験の開始が4年次の6月と定められている。しかしながら経団連に加盟していない中小企業の多い地方では、3月4月に採用試験を実施し5月頃に内々定を伝える企業も多く存在した。大手企業よりも早く採用試験を実施することで学生を確保したいとの意図からだという。
     本年の就職活動の変化として、1dayインターンシップ(以下インターン)と称し3年次から学生との接触を図る企業が増加していること、その延長として特別選考を実施し一部の学生に解禁時期の3月以前に内々定を伝える動きが見られたことが挙げられる。
     日本でのインターンはバブル崩壊後の就職難、早期離職者の増加を背景として、1997年文部省、通商産業省、労働省が3省合同として「インターンシップ推進にあたっての基本的な考え方」を公表している。その中でインターンについて「学生が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行うこと」と定義されている。
     インターンの実施率は急速に増加し、2018年の調査では86.3%の大学が実施している(文科省インターンシップ実施状況調査)。実施時期は夏期休業中が48.4%と最も多く、 3年次(71.1%)、期間は1週間から2週間未満(41.7%)が多いが1週間未満(32.7%)も増加している。 
     インターンの内容は概ね①就業体験タイプ(2)プロジェクト課題解決タイプ(3)講義・見学タイプに分かれる。(2)のプロジェクト型はグループでの商品開発アイデアの作成などが該当する。最近は企業説明を主とした1dayインターンも多く実施されている。
     学生はどのような目的でインターンに参加するのか。本学3年生の調査では、「志望企業で体験し就職につなげたい」(2019年35.7%、2014年12.7%)と就職を意識している学生が大幅に増加している。「職場や働くことの理解」(2019年26.9%、2014年27.9%)との回答も多く、3年次になったばかりの時期には志望企業や職種が絞られていない学生が多いことも窺える(複数回答)。
     売り手市場による採用難から企業は、早期に学生と接触を図れること、内定辞退者を防ぐ意味でもインターンに力を入れている。
     福井県が実施するインターン(福井県経営者協会事務局)は、2019年度208の企業や団体が学生を受け入れる。10日間の長期コースが32社・団体、その他が基本5日間の一般コースとなる。一般コースは第1から第5までの希望を記入し事務局が選考する。自分の希望企業等で必ずしもインターンができないことから、最近応募者が減少する傾向にあるという。
     それに代わり自分の希望企業にエントリーできる、就職支援サイトが募集するインターンの応募が増えている。マイナビのサイトによれば8月9月に福井県内の会場で開催されるインターンは76社(177コース)である。その内半日~1日は56社:115コース(73.7%:65.0%)、5日間が17社:32コース(22.4%:18.1%)と1日以下が過半数を占める。5日間、10日間コースは受入れ人数も少ないが、1日コースは複数回実施され受入れ人数も多い。学生は希望企業でインターンに参加できるように思えるが、1日コースの内容は事業内容の説明、職場見学、先輩社員との懇談が多く就業体験とは程遠い。
     文科省は産学協同で人材育成に取り組む必要があるとし、教育的効果の高いインターンの推進を提唱している。実際には今年度企業が実施するインターンは、事業説明を主とする1日のものが多く、参加学生と早期に接触し採用内々定につなげている懸念が生じる。
     企業も学生も大学も、今一度インターンの意義を再考する必要があるのではないか。

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  • 福井経営モデルの特徴と今後の課題

     福井県はモノづくりの盛んな地域であり、平成28年(2016年)経済センサス活動調査(福井県統計情報課)によれば、産業大分類別の事業所数の割合を都道府県別にみると、製造業の構成比は岐阜県に次ぐ全国2位(12.7%・5,292社)となっている。また、福井県内の従業者数については、産業大分類別では製造業が82,745人(構成比21.9%)と最も多い(ちなみに本学卒業生の卒業後の進路も、看護福祉学部を除く経済学部、生物資源学部、海洋生物資源学部において、製造業が最も多い結果となっている)。さらに付加価値額についても、産業別大分類では製造業が最も多い(5,529億円)という状況である。
     福井県は雇用情勢が良好であり、総務省統計局のデータによれば、生産年齢人口(15-64才)の有業率は平成29年(2017年)で全国トップの80.3%であり、非正規社員・従業員比率は全国で5番目に低い数値(34.6%・なお15-34才の若年層は26.0%と全国で2番目に低い)である。さらに、令和元年(2019年)6月の都道府県別の有効求人倍率(季節調整値)をみると、就業地別では福井県の2.18倍が最高となっている。
     これらの点から推測されることは、福井県のモノづくりが多くの付加価値を生み出し、そのことが安定した雇用情勢に一定程度寄与しているということが言えるだろう。ただ残念なことに、福井県のモノづくり企業はやや知名度が低く、あまり一般の人達に知られていないのが現状である。これは、福井県にはいわゆるBtoB(企業を対象として事業や商取引を行う企業)タイプの企業が多く、結果として一般消費者が企業名を目にすることが少ないためだといわれる。しかし、そうした企業の取り組みが高い付加価値を生み出しているとしたら、その特徴を捉えることには大きな意味があると考えられる。
     そうした前提に立ち、筆者を含めた本学経営学科の教員で構成されたメンバーで、平成25—30年度(2013-2018年度)の期間において、「福井経営モデル」研究プロジェクトとして福井県内の企業への実態調査やフォーラムの開催を行い、それらを通じて福井県のモノづくりについて考察を行った。その特徴は以下の通りである。
     まず「福井経営モデル」に関するキーワードとして、「本業集中」、「技術重視」、「ニッチ市場戦略」、「真面目」、「勤勉」、「女性労働力の活用」、「家族的経営」、「人材定着率の高さ」といったものが挙げられる。必要以上の多角化を行わず本業に集中し、技術にこだわりを持ち、その技術を基盤とした製品によって、大手企業が参入してこないニッチ(隙間)市場で存在感を高める。そうした技術を蓄積・発展させていくために、勤勉で真面目な経営者や従業員が一体となって、コツコツと努力を積み重ね、顧客の細かい要望に応えていく、といったところであろうか。
     福井県内のモノづくり企業へのインタビューによれば、福井県は全体的に企業規模が小さく、資金力という点では不利ではあるが、逆に、企業規模が小さく柔軟な対応が出来ることを活かして、顧客ニーズにきめ細やかに対応出来ることを強みとしていることがわかってきた。そのためには、営業部門と研究開発部門などといった企業内の部門間での連携も重要となってくるが、インタビューを行ったいずれの企業も地元出身者が多く、コミュニケーションが取りやすくなっているとのことであった。
     また人材の点では、経営者が従業員を家族のように考えるという「家族的経営」によって、従業員の定着率が高くなり、結果として長期的な視点に立った人材育成や技能・技術の継承が可能となっている、といったことも聞かれた。さらに、福井県では比較的3世代同居が多く、女性が結婚・出産後も家族の支えによって仕事を続けていることが多く、女性の有業者数も高いことで知られている。そうした女性労働力の積極的活用により、きめ細やかな作業などを行ううえで役立っているとのことであった。
     加えて、近年注目されている「同族経営」という点で言えば、福井県ではこうした「同族経営」も多く見られており、そのなかで長期的視点による経営や、素早い意思決定、企業文化や兄弟哲学の継承が可能となっている点も重要であろう。
     一方で、平成27年(2015年)における都道府県・産業別1人平均月間実労働時間数(事業所規模5人以上)を見てみると、就業労働時間数は153.0時間で全国8位となっており、やや長時間労働の傾向がある。従業員が勤勉であることは素晴らしいことだが、それに過度に依存し負担をかけてしまうことになると、それを嫌った若年層の県外流出につながりかねないことから、人口減対策や従業員の定着という意味でも、「働き方改革」をどのように実践していくのかが課題であろう。
     また、地元出身者が多いことは社会でのコミュニケーションに有利に働くことは既に述べたが、一方で顧客ニーズを捉えるために、県外の顧客の近くに営業部門を置かれていることも多いなかで、地元出身者は県外での勤務を臨まないことが多く、そうした人材をどのようにして確保するのかが課題であるという話も聞かれた。近年、グローバル化が急速に進むなかで、福井県の企業が海外展開を行ううえで、このことがネックになってくることも懸念される。加えて、福井県自体の人口減少の問題もあり、地域内からの採用に依存することは将来的な労働力不足の問題につながりかねないことは、今後の大きな課題となるであろう。
     今回の研究プロジェクトでの活動を通じて、福井県のモノづくりの特徴を知るということに留まらず、都市圏の大企業が中心であった従来の経営学に対して、地方都市の中小規模の企業にも目を向けた経営学へのパラダイムシフトにつながる一歩になったのではないかと考えている。
     最後に、今回の研究プロジェクトを実施するにあたり、福井県内の経営者や関係者の皆様には、多大なるご協力を賜りましたことを、この場を借りてお礼を申し上げます。

    以上

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