福井県立大学地域経済研究所

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コロナ禍における地域企業の状況から、企業経営の今後の方向性を探る

南保 勝

 今般、福井県立大学では、コロナ禍における地域企業の状況と今後の地域企業のあるべき姿、方向性を探るべく、福井県内3,000社の企業に郵送によるアンケートを実施し、1,100社余りの企業から回答を得て、その実態並びに今後の地域企業の方向性を考察することができた。
 まず、コロナ禍での地域企業の経営状況についてみると、2020年上期(1月~6月)における業況は、県内の70.4%の企業が「悪くなった」と答えている。ただ、売上げ状況をみると、全体の約4分の1が5割以上減少している一方で、約4分1は変わらない或いは増加しており、回答企業は今回のコロナ禍でも底堅く持ちこたえた企業が多かったようだ。また、資金繰りについても、5割弱の企業で「資金調達なし」(26.5%)や「自己資金」(18.4%)で賄ったと答えており、底堅い地元企業の経営状況がうかがえた。こうした中、今後の事業継続については、「継続」すると答えた企業が93.6%を占め、「休業」、「廃業」、「売却」を考える企業はわずか1.4%と少ない。つまり、今後も主に既存事業を軸に事業展開を続ける企業が多いのではないか。さらに言えば、経営戦略上は多角化するにしても今のビジネスに関連する分野で、経営資源をじっくり見極めながら新事業を考えるインサイド・アウト型の企業が多いものと思われる。一方、今回の調査では、地元企業が考える今後の成長産業についても尋ねている。その回答結果をみると、AI、ロボット、ICTなどのデジタル系分野と自然災害や感染症から身を守る、いわゆる命を守る産業分野への期待が高いことがわかった。
 こうした結果から、地域産業・企業の今後の方向性を検討すると、おおよそ5つの方向性が浮かび上がる。
 まず、第1の方向性だが、それは“ニューノーマル”時代に向けた新たなビジネスモデルの構築、所謂、つながるビジネスを構築すること。今回の新型コロナウイルス感染症拡大により、インターネットを通じて物事を行う動きが進んだ。すなわち、医療、教育、スポーツ、消費活動など様々な分野で、ネット上に広がるバーチャルな空間でオンラインビジネスばかりが活況を呈する姿を確認できた。それは、まさに非接触型社会への移行を意味する。在宅勤務の浸透、通学からオンライン学習へ、店舗に足を運んだ買い物からオンラインショッピングへ、対面による会議からオンライン会議へ、オンライン飲み会、オンラインによるライブ配信やスポーツ観戦など、挙げればきりがない。このように、時代は着実にデジタル社会へと切り替わっている。今回の調査でも明らかなように、仕事や暮らしの面で一旦取り込まれた仕組みが元に戻ることはないであろう。したがって、地域の産業・企業は、従来型の社会を意識しつつ、こうしたニューノーマルの時代の中で支持を集める新しいビジネスモデルの構築を考えなければならない。
 第2の方向性は、“命を守る”ビジネス活動を推進すること。今回のアンケート調査では、デジタル社会の到来を意識して、今後の成長産業にAI(人工知能)や運転支援・自動運転、ICTなどを挙げる例が多くみられた。その一方で、スマートアグリ・農業ICT、予防医学、感染防護用の機能性繊維、防災・災害時通信ネットワーク、クオリティーの高い食品(加工)など命に係わる分野を成長産業と指摘する声も多く聞かれた。すなわち、今後の成長産業として期待できる分野は、“命を守る”産業分野、人類が生きるために必要な食糧、医療、教育、文化、情報、イノベーションなど、生きるために本当に必要なものの生産に集中することが求められている。福井の産業で例を挙げれば、農産物・食品加工分野ではクオリティーの高い農産物や食品加工物の生産、製造業の分野ではウイルスをシャットアウトする住宅部材の生産や繊維産業では防護服などの繊維衣料の生産ということになろう。
 第3の方向性は、顧客ニーズ創造型ビジネスの展開を志向すること。今回のコロナウイルス感染症の拡大で大きな打撃を受けた産業は、観光・レジャー、飲食・サービス業であった。しかし、これら産業はコロナ終息後どこまで需要が復活するのであろう。戻るとしてもかなりの時間を要することは間違いない。本アンケートでも、今後の成長産業として観光・ツーリズムを挙げた企業ウエイトは全体の12.5%にとどまっている。観光・飲食など幅広い意味でのサービス業の特徴は、生産と消費の同時性、すなわち客が来て初めて生産が始まること。これら産業が従来型の対面による活動、言い換えればアナログな活動に留まることは、もはや得策ではない。待ちのビジネスから攻めのビジネスへと転換するためにも、既存のビジネスモデルに一味付けて事業の柱を多様化する、所謂、ハイブリッド化することが必要ではないか。福井県唯一の温泉地あわら温泉旅館の中には、夕食や源泉、浴衣のセットを提供し、自宅で温泉旅館を味わえる新プランを開発、家庭に居ながら温泉旅館の雰囲気を味わってもらおうという戦略を打ち出した。いわば、温泉旅館のテイクアウトである。また、福井市にある文具店では、オンラインで店内の様子を見ながら買い物ができるバーチャルショップに切り替え反響を呼んでいる。既存のビジネスに新たな価値を付け多様化することは、新たな顧客ニーズを創造することにもつながっていく。今後は、そんなハイブリッド型のビジネスモデルが求められる時代ではなかろうか。
 そして、第4の方向性は、これまで述べた3つの方向性のどれを選ぶにしても、それを可能とするために、自社のデジタル化を推進することが必要となろう。すなわち、企業内部での効率性をさらに高めるために、デジタルツールの活用による働き方改革を実践することである。
 最後に、第5の方向性として、昨今の時代変革を一つ挙げ、そこから今後の地元産業・企業の在り方を考えよう。それは、Society5.0の時代を意識した事業領域への参入であろう。例えば、国土交通省が進めるスマートシティ構想。これは、情報通信技術など最先端技術を活用した暮らしやすい未来型の都市をつくろうというもの。自動車や街頭に設置されているセンサーなど、あらゆるモノをインターネットでつないで、より安全で便利なまちづくりを目指す。新型コロナ感染症をきっかけに、元々進んで来たSociety5.0の時代が一気に加速することが予想される。そこで、例えば、前述のスマートシティに関連して、ICT、AI、自動走行など、地域企業はここに新たなビジネスチャンスを見出すことはできないか。