福井県立大学地域経済研究所

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受け入れ態勢は大丈夫?

福井県立大学 地域経済研究所兼担教員・経済学部教授 杉山友城

 3月は卒業、4月は新入社員の受け入れ。日本の企業にとって人材の節目の季節。福井でも、多くの企業が入社式や研修の準備を進めているだろう。しかし、本当に「受け入れ態勢」は整っただろうか。

 福井の企業には、互いの顔が見える規模の職場が多い。人数が限られるからこそ、新人一人の成長が、そのまま現場の力に直結する。逆に言えば、育成がうまくいかなければ、仕事は回らなくなる。ここで問われるのは、新人本人の資質以上に、育てる側の視点と力量になる。

 新人育成において欠かせないのが、仕事をQCDで捉える視点。ここでいうQCDは、単なる製造業の管理指標ではない。Qは機能品質と態度品質、Cは投入工数、Dは逆算思考を意味している。新人がつまずいたとき「できていない」という結果だけを見てしまいがちだが、本来は、Q・C・Dのどこに課題があるのかを見極める必要がある。

 たとえば誤字や脱字など、資料にミスが目立つ場合、それは機能品質(Q)の理解不足かもしれないし、報連相ができない、指示を受け止めきれないといった問題は、態度品質(Q)に起因することが多い。態度品質は「やる気」や「性格」で片づけられがちだが、社会人として求められる基準を明確に伝え、具体的に教えなければ改善は難しい。社員間の心理的距離が近い職場ほど「言わなくても分かるはずだ」という前提が働きやすい。

 仕事に時間がかかりすぎる場合も、本人の能力不足と決めつけるのは性急すぎる。新人にとっては初めての作業がほとんどで、想定以上に時間がかかるのは自然なこと。問題は、投入工数(C)の見立てや作業分解、優先順位付けを、育成担当者が示せているかにある。人手が限られる企業ほど「見て覚えて」が今でも残りやすいが、それだけでは仕事は受け継がれていかないし、いつまでも任すことができない。

 さらに重要なのがD、すなわち逆算思考である。締め切りから逆算して「いつまでに、何を、どのレベルで」仕上げるのかを描けない新人が目立つ。これは個人の問題というより、逆算の思考プロセスを教わっていないことが起因していることが多い。育成担当者自身がその考え方を言語化し、手本として示すことが求められる。

 新人の仕事の出来・不出来は、本人の資質以上に、育成担当者の力量に左右される。Q・C・Dのどれが不足しているのかを冷静に見極め、適切な指導を行えるかどうか。それができて初めて、新人は成長し、組織全体の力が底上げされていく。受け入れシーズンの今こそ、企業は新人だけでなく、育てる側の準備状況も問い直したい。

 新人育成は、知識や手順を教えることだけではない。本質的には、組織が自らの仕事の進め方を見直す機会でもある。新人は、職場の暗黙の前提を浮かび上がらせる貴重な存在。「なぜこのやり方なのか」と問われて答えられないとき、その仕事は属人的もしくは無駄が多い作業になっている可能性が高い。

 福井の職場には、互いに助け合う文化がある。だからこそ、新人が安心して質問できる空気を職場につくれるかどうかが、今後の定着を左右する。教える側が言葉にすることで、仕事や判断の基準が共有され、組織の再現性も高まっていく。新人の成長は、個人の成長だけではなく、組織の成熟度を測る指標でもある。

 受け入れの季節とは、新人を迎える時期であると同時に、福井の職場が育ち直す季節でもあるのではないだろうか。