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眠った蔵の活用
農村や漁村には、収穫物の保存、道具類の収納等を目的とした蔵が数多く存在していた。各戸が所有するそれらの多くは、時代の変遷とともにその役目を終え、取り壊されたり、使用頻度の低い物置として放置されたりと、どちらかと言えば影に隠れた存在になっている。
小浜市内外海(うちとみ)地区には、リアス式海岸に抱かれた集落が点在し、いずれも漁業を主な生業としていた。かつては集落間の移動は困難を極めていたこともあり、各集落には蔵が立ち並んでいた。現在でも多くの蔵がところどころひっそりと残されており、小河川や小路とともに漁村集落固有の景観を形成している。
昨年度から、ブルーツーリズムをテーマにした海洋生物資源学部の集中講義を担当している。ブルーツーリズムとは、漁業体験や漁村での生活体験等を伴う漁村滞在型余暇活動を総称したもので、当該科目はこのような活動を、内外海地区において活性化させるための方策を検討・提案するものである。2年目の今年度は、現地での具体的なアクティビティを学生が実際に体験するなど、より実践型の内容とした。SUP(スタンドアップパドル)班と蔵班の2班に分かれたが、次に蔵班の内容を簡単に紹介したい。
蔵班は、内外海の釣姫集落の1つの蔵を対象に、その後片付け体験を通じて蔵の現代的な活用方法を検討した。6人の班員は、初めて入る暗く少し埃っぽい閉鎖空間にて、昔の道具や教科書、刀などを興味深く手にしながら整理をしていく。そして、その後の3回に渡るグループワークで、蔵の特徴や外部環境を共有しつつ、それを生かす方法を思い思いに語り合った。都会の子供の教育に活用する案、集落民と観光客の休憩場所にする案、ブックカフェや駄菓子屋として活用する案、ルアーやお箸づくり体験の場とする案等、多くのアイデアが出された。今後、地域住民等に対し発表する機会を作りたいと考えている。
このような蔵は、今ではあまり活用されておらず状態もよくない。マイナスとは言えないまでも低未利用な地域資源である。このハコを学生が「オシャレ」だと捉え、自分たちの感性と行動力によって新しい価値を付加し、プラスの地域資源として昇華させていくことを期待したい。学生が影に隠れた蔵に光を当て、まだまだ荒削りな案ではあるものの、このアイデアからスタートし当事者の前向きな意識改革や積極的行動へと結び付けば、思いも寄らない化学反応が起きるのではなかろうか。2018総選挙で見えてきたマレーシアにおけるパラダイム・シフト
2018年5月9日、マレーシアが揺れた。1957年に英国から独立して以来、初の政権交代が起こったためである。これまでも予兆はあったが大きな壁に阻まれてきた。特に、前回(2013年)の総選挙では、野党連合が初めて得票率で過半数を獲得したにも拘らず、議席数では逆に連立与党の国民戦線(BN)が6割を占めるという摩訶不思議な現象が生じた。からくりの因(もと)は与党に有利な選挙区割り(ゲリマンダー)の存在である。このため、1票の格差は最大で1対10に達し多くの死票が生まれる要因となった。さらに、なりすまし投票疑惑をはじめ、選挙そのものの信頼性にも疑問が生じていた。こうしたことから、選挙前に今回の政権交代を予想する専門家はほぼ皆無に等しかった。一体、何が起こったのか。
もっとも重要な事実は、今回、マレーシア国民が民族の壁を乗り越え、よりよい国をつくるという共通の目的の下に投票所に向かったことであろう。投票のため炎天下、6時間以上並んだ人や投票用紙が前日に届いたため急きょ飛行機で帰国した在外有権者など、今次選挙へのマレーシア人の思いを伝えるエピソードは枚挙に暇ない。詳細は省くが、裏を返せば、それほど、ナジブ前首相の汚職疑惑と強権的な政権運営に対する国民の不信感や怒りが臨界点に達していたということであろう。トランスペアランシー・インターナショナルの「汚職認識指数(CCPI)」でもマレーシアは世界第62位(2017年)にまで下落するなど年々悪化の様相を呈していた。
さらに、忘れてならないのは選挙管理委員会の頑張りである。民主主義がその機能を発揮するためには選管が政府の圧力や干渉に屈せず独立を維持することが如何に大切であるかを証明してみせてくれた。
ところで、前回の総選挙では中国系の票が大量に野党に流れる「中国人の津波」が起こったが、その結果、連立与党内における民族政党間のバランス・オブ・パワーが崩れ、マレー系・中国系の関係に政治的な亀裂が入る事態となった。もしも、今回の選挙でエスニック問題が争点となっていたならば、むしろマレー系を主な支持母体とするBNの優位は揺るがなかったであろう。しかし、今回の争点はそこではなかった。それなら、とナジブ氏は「反フェイクニュース法」を強行採決し、さらに、マハティール氏が代表を務める野党政党の活動停止を命じるなど抑圧に乗り出したが、これには米国国務省が非民主的な強権発動であるとして異例の非難声明を出す事態となった。
当初、野党の政権運営能力は未知数であり、マレー系にしてみれば、中国系が勢力を増すことへの懸念もあったが、マハティール氏の登場がすべてを変えた。同氏が希望同盟(PH)を率いて奇跡の政権交代を成し遂げたことは、マレーシアの「Brexit」現象とかマレーシアの「トランプ」現象といった表現がその驚きをよく表している。
今回の総選挙の結果、マレーシアに2つの「希望」の光が点灯したと言えるのではないだろうか。ひとつは、「民主化」の進展。そして、もうひとつはマハティール首相が1991年に2020年構想で打ち出した「バンサ・マレーシア」(統合されたマレーシア国民)の構築への道標(みちしるべ)となるものである。
国家の運営に関しても、二大政党化とは別のパラダイム・シフトが起こっているものと思われる。これまでの連立与党(BN)の中核を成してきたUMNO、MCA、MICはそれぞれマレー人、華人、インド人のみの党員で構成されている政党であった。つまり、各民族の利益代表者からなる政党の集合体といえる。一方、新たな連立与党(PH)の中核を成す人民正義党(PKR)や民主行動党(DAP)は夫々マレー系と中国系を主たる支持基盤とするものの、どの民族も党員加入することができる。つまり、すべてのマレーシア人の集合体と言っても過言ではない。こうした点を踏まえると、マレーシアの国家運営は新たな時代に入ったと言えるのではないだろうか。新たなパラダイムの下で民族の融和が進むのか、将又、再び分裂してしまうのか、注意深く見守っていく必要がある。
最後に、今回の「マハティール&マレーシア津波」は周辺諸国にも影響を及ぼす可能性があることを指摘しておきたい。現在、世界のいたるところで「ワシントン・コンセンサス」の後退に伴う民主主義のバックラッシュが起こっている。代わって、政治体制の変化を望まない途上国などを中心に、「北京コンセンサス」に共感し、中国の「一帯一路構想」を取り入れたメガ・プロジェクトの開発が進んでいる。しかし、今回、マレーシアでは民主化が進み、マハティール首相は過度の中国依存と北京コンセンサスが内包する危うさを訴え、関連するメガ・プロジェクトの見直しを決めた。現在、タイやミャンマーでは北京コンセンサスによって民主化が後退し、再び、国家統制が進みつつある。さらにインドネシアやラオスでは、「一帯一路構想」における工期の遅れや「債務の罠」に陥る可能性も指摘されている。マハティール首相はアジア通貨危機に際してIMFと決別し、独自のやり方で「ワシントン・コンセンサスを打ち破った男」として知られるが、今度は「北京コンセンサスに初めて公然とチャレンジした男」として知られることになるかもしれない。米中貿易摩擦の行方と東南アジア諸国の反応
米国のドナルド・トランプ大統領は2018年3月22日に、500億から600億ドルに相当する中国製品に高関税を課す制裁措置を表明した。自動車部品や家電製品、電気機器など、約1,300品目を対象に25%の関税を課すとした。さらに4月5日には、中国の知的財産侵害に対する制裁関税として1千億ドルの積み増しを検討すると発表した。前日に中国が報復関税として、大豆、航空機、自動車など106品目の米国製品に25%の追加関税を課す予定であると発表したことを受けた措置である。米中両国間の報復はより一層の貿易摩擦へと発展しかねない。
トランプ大統領は関税率を引き上げる第一の理由として、中国との貿易不均衡を挙げた。2017年の貿易統計によれば、米国は中国から約5,050億ドルを輸入しているが、輸出額は約1,350億ドルにとどまっており、この巨額の貿易赤字を是正したいのであろう。また、今年11月に実施される米国の中間選挙に向けた支持者層へのアピールとの指摘も、一定程度妥当ではないか。
米国が他の大国なり地域から輸入する際に関税を引き上げるのは、今に始まったことではない。バラク・オバマ前大統領は、実際に2回にわたって、鉄鋼の関税率を引き上げた。この鉄鋼を対象とした関税賦課は、ジョージ・W・ブッシュ元大統領にまでさかのぼることができる。
しかし、それにしてもトランプ政権は追加関税を頻繁に課す。昨年10月に航空宇宙産業機器、11月には木材を対象に、カナダ産品に関税を課した(その後、航空宇宙産業機器に関しては2018年1月に撤回した)。今年に入ってからも、1月には太陽光パネルと洗濯機に追加関税を設定している。保護主義的な政策が経済損失をもたらすとトランプ大統領やその支持者が認識するのは、当分先になりそうである。
東南アジア諸国は、こうした米中間のつばぜり合いを注視している。
ポジティブな反応としては、両国の摩擦が続けば東南アジアの生産や外国からの投資の増加が見込めるというものがある。たとえば、中国が米国産大豆の輸入を減らせば、マレーシアやインドネシアのパーム油生産者は恩恵を受けるとの指摘がある。また、米国企業による投資先が中国から東南アジアに置き替わる可能性がある。つまり、中国製品に対する米国の追加的な関税を回避するため、東南アジアが代替的な生産拠点と化すかもしれない。その代表的な製品が、既に東アジアからの輸出のかなりの部分を占める太陽光パネルや電気電子製品である。中国や台湾のメーカーは、関税を回避し、人件費を削減し、インセンティブを利用するため、既にベトナムとタイで太陽光パネルを生産し始めている。そのため、近年では東南アジアの世界生産シェアが上昇してきている。電気電子製品に関しても、マレーシアやフィリピンにおける多国籍企業の集積がさらに進展するシナリオは想像に難くない。
その一方で、米国による関税引き上げは東南アジア諸国に負の影響を及ぼすかもしれない。今年の4月に入り、「米中貿易摩擦の影響を受ける可能性のある分野は、半導体、マレーシア製建材および港湾である」とタイのCIMBリサーチは結論付けた。たとえば、マレーシアは半導体をはじめとして多くの電気電子分野の最終製品や部品を中国に輸出してきた。世界銀行のチーフエコノミストであるスディル・シェティ氏は、関税引き上げの対象となる米国のリストに掲載される中国製品の3分の2が、マレーシア、ベトナム、フィリピンを中心とした東南アジア地域のサプライチェーンと関連していると指摘した。中国の輸出不振は東南アジアの輸出・生産にも多大な影響を及ぼし、内資・外資を問わず東南アジアの企業を困難に陥れるといえる。
東南アジア諸国は米中貿易摩擦から起こるネガティブな影響を避けるため、より一層の貿易障壁の削減・撤廃を進めなくてはならない。2015年末に開始したASEAN経済共同体の強化を進めるとともにTPP、RCEP(域内包括的経済連携)の締結・発効を急ぐ必要性が、今後ますます高まっていきそうである。家族の形が変わる社会
人口減少社会とはどのような社会であるか。その1つの答えは、家族の形が変わる社会であると思う。国立社会保障・人口問題研究所は2018年1月に「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」(以下、社人研推計)を公表した。これには将来の世帯数が家族類型別に集計されており、これから先の日本の家族がどのように変化していくのかということについての示唆が得られる。今回はこの資料を使いながら、今後の日本社会のありようを考えてみたい。
日本の総人口は2008年をピークに減少に転じているが、世帯数は増加が続いている。社人研推計によると、一般世帯数(「施設等の世帯」以外の世帯)は2015年の5,333万世帯から2023年まで増加を続け、5,419万世帯でピークを迎えることになる。人口減少局面でも世帯数が増加するということは世帯規模の縮小が続くことを意味しており、一般世帯の平均世帯人員は2015年の2.33人から2040年の2.08人まで減少を続ける見通しとなっている。この平均世帯人員の減少の要因となるのが単独世帯(単身者)の増加である。単独世帯は2015年の1,842万世帯から増加を続け、一般世帯総数が減少に転じる2023年以降も増加し、2032年以降に減少に転じる。この結果、2040年には2015年より153万世帯多い1,994万世帯となる。
この単独世帯の増加という変化の中で顕著に増加するのは高齢単身者であり、2015年の625万世帯から2040年の896万世帯へと増加する見通しになっている。この1つの背景は寿命が伸びたことによって、夫に先立たれた死別女性が単身者として生きる期間が長くなることがある。独居老人の増加の理由の1つであり、大きな社会問題ではあるものの、これは国民皆年金制度の帰結でもある。年金制度が充実していなかった時代には、夫に先立たれた死別女性は経済力を失うため、子ども世帯に養ってもらわなければならなかった。そのために親子同居・3世代同居をすることになる場合が多かったのである。それが国民皆年金となって以降は、少ない金額ではあるものの、死別女性が年金によって一人暮らしを続けることができるようになった。制度によって家族の形が変わったともいえるだろう。皆が望んだ年金制度ではあったが、その結果として、子どもが老親と同近居する機会は減ることとなったが、子どもを始めとする親族ネットワークの支援を得られずに孤独死等の本当に危険な状況に陥ってしまう独居老人を支える仕組みはまだ充足していない。
一方で未婚化や晩婚化も進んでいく。これらは少子化の原因であるともに、結婚を遅らせるという家族形成行動の変化である。若年層のみならず、中年層でも単身者が増加することになり、最終的には未婚であるために単身化する高齢者の増加に結び付くことになる。このような家族形成行動の変化は、夫婦と子からなる世帯の減少につながる(2015年:1,434万世帯→2040年:1,182万世帯)。これはいわゆるサラリーマンの夫と専業主婦の妻、子ども2人という「標準世帯」に相当するものであるが、これから先の日本は単独世帯の方が多くなり、「標準世帯」が多数派ではない社会になっていく。上述の年金制度を始め、今の日本の社会システムは1960年代にできたものが多い。当時は核家族化が進行しており、「標準世帯」が増加し、日本の家族・世帯の多数派を占めるようになっていた時代であった。したがって、それを主たる対象として制度を設計することは合理的ですらあった。しかし、現代社会では家族の形は多様化しているし、その中心にあるのは背景要因が多岐に渡る単身化である。
これまでの高齢者はきょうだいが多く、ほとんどが子どもを持っていた。しかし、これから先の高齢者はきょうだいが少なく、結婚しなかったために子どももいないというケースが多くなり、より孤立状態に陥りやすくなる。このような家族変動に対し、これまで高齢者の生活を支えてきた家族のシャドーワークを外部化していくことが求められる。現状の介護保険制度だけでは十分な効果が得られているとは言えない状況にあるので、行政と民間、地域住民との協働の中で解決策を模索し、地域社会を上手く機能させるような仕組みを作りだすことが必要になる。そして、そうした新しい仕組みが整備され、安心して高齢期を生きることができようになる地域が人々に居住地として選択されることになる。家族の形の変化を出発点とし、真の地域間競争が生じてくることになるといえるだろう。
克雪まちづくりに向けた論点列挙(メモ)
実際に体験したことや周囲からの伝聞、そして様々なメディアからの情報を元に、現時点における論点の列挙を試みた。視点の多様性とスピードを重視し、筆者の責任において、十分な裏付けがないまま言語化、あるいは結論を曖昧にしていることに留意されたい。建設的な批判を頂ければ幸いである。
A.人口、世帯
1.超高齢化、高齢者世帯増による危機 2.郊外化と通勤通学の広域化による弊害
3.集合住宅の増加による危機と有用性 4.単身世帯は孤立していなかったのかB.地域構造、土地利用
5.道路増と足りない排雪空間、雪捨場
6.細街路住宅密集地域の絶望的脆弱性 7.生命線道路の寸断による集落の孤立
8.遊休地活用、空家の水道管破裂と除雪 9.側溝、用水路の減少と流雪溝の整備C.道路交通
10.大型車のスタックで通行不能が頻発 11.いっけえ道路を走れの法則が通じず
12.高速道路は未然防止で概ね綻びなし 13.丸岡インターチェンジ出入口の大渋滞
14.国道8号4車線化事業と立往生の関係 15.国道158号の雪崩対策の効果と綻び
16.消雪パイプの効果、弱点、弊害 17.予見が可能だった三国油槽所の寸断
18.生活道路の除雪に関する責任と限界 19.不要不急の自動車使用による二次被害
20.無謀な進入や渋滞等でスタックが頻発 21.ホワイトアウトと転落、脱輪等事故D.鉄道、バス
22.新幹線最強説と在来線の対象的な姿 23.地方鉄道、バスにどこまで頼るべきかE.除雪体制
24.行政等の雪害対策予算と多雪リスク 25.国、自治体、民間の連携と役割分担
26.除雪事業者の経営実態と小雪リスク 27.除雪作業の人手不足、高齢化と過酷作業
28.早期の踏み込んだ交通規制は可能か 29.重機不足、軽油不足による稼働率低下
30.除雪デリバティブ等の金融工学手法F.ライフライン
31.強靭だったライフライン 32.電気、ガス、水道、通信の断絶が起きていたら
33.融雪使用等による地下水位低下と断水G.ライフスタイル、コミュニティ
34.車の増加と依存社会化及びその呪縛
35.物流・ネット通販依存による弊害 36.三八、五六豪雪の継承と断絶、暖冬慣れ
37.苦難の駐車場除雪とカーポート損壊 38.道具やグッズの活用、工夫、改善策
39.除雪豆知識と雪道ドライブテクニック 40.安全知識や慎重さの欠如による悲劇
41.除雪コミュニケーションの自然発生 42.声がけ、巡回、助け合い、譲り合い
43.地域ぐるみでの対策や訓練の必要性 44.排雪・駐車・お出かけ・買物マナー
45.地域間格差に対する不平不満が噴出 46.公務員叩きや除雪作業員への暴言等
47.節電、節水への協力と利便性のバランス 48.灯油やガソリンの不足と小パニックH.子供や教育
49.大学・高校入試等の行事のタイミング 50.登下校の安全確保、歩道除雪の現実
51.雪遊びの楽しさと危険、環境学習等I.テクノロジー
52.精緻すぎる天気予報とその活用状況 53.除雪システムの進化とGPSやAIの活用
54.車の最先端ABSやTCSの普及と理解 55.Googleマップの凄さと補完すべき情報
56.ロボットやドローンによる未来の除雪 57.雪国自動運転の実現は遥かに遠いのかJ.メディアと情報
58.マスメディアの重要性、活用と限界 59.地方メディアの当事者目線による編集
60.移動中でもネットでつながる安心感 61.SNSの玉石混交、もっとできるはず
62.災害時における自治体広報のあり方K.医療、福祉
63.緊急車両等のラストワンマイル問題 64.同時多発する緊急事態等の優先順位
65.薬や輸血用血液等の資材は概ね充足 66.通所・在宅福祉機能のサービス低下
67.転倒、転落増による一時的病床不足 68.障害者等の災害弱者への配慮と支援
69.外国人や観光客等への対策と気配りL.企業
70.サプライチェーン寸断とBCPの検証 71.個社と社会全体に関する合成の誤謬
72.企業による被災者支援や地域貢献 73.企業ができたことできなかったことM.行政
74.計画と準備と初動は万全だったのか 75.指揮命令系統とリーダーシップの検証
76.対応はインテリジェンスに満ちていたか 77.鳥・虫・魚の目で対応できていたか
78.激甚被災者でもある公務員の実情 79.激甚災害指定と復興に向けた歩み
80.自治体同士の連携、融通、派遣 81.平時からの民とのコミュニケーションの有無
82.近畿地方整備局管轄による弊害の有無 83.三〇豪雪の記録、総括と検証、伝承等好調なベトナム経済と中所得国の罠
「チャイナ・プラスワン」の本命として注目されてきたASEANであるが、中でもベトナムの好調さが際立っている。2017年のベトナムの経済成長率は6%台後半であることが予想されており、海外からの直接投資も順調に入って来ている。ASEAN10カ国各国の貿易額を比較しても、ベトナムによる輸出入合計額はタイとほぼ並んでASEANトップに躍り出ている。ASEANは先発6カ国(タイ、インドネシア、マレーシア、シンガポール、フィリピン、ブルネイ)と、後発4カ国(ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマー:CLMV)の経済格差縮小を長らく大きな目標としていたが、CLMVの中でもベトナム経済が大きく躍進した格好になっている。
ベトナムは外国投資をテコとし、先進国への輸出主導というモデルで成功している。ASEANでもタイにおいては日本企業、なかでも自動車、電機といった製造業の進出が大きなインパクトを与え、タイにおける裾野産業を含めた日本のプレゼンスは非常に高い。しかし、ベトナムはタイとは異なり韓国、中国からの投資が際立っている。その中でもエレクトロニクスの分野で、韓国サムスン電子によるスマートフォンの生産、輸出が突出して多くなっている。ベトナムからのスマートフォン(HS8517)輸出は2016年で343億ドルにのぼり、ベトナムの全輸出額の約19%を占めており、その大半がサムスン電子によるものである。エレクロニクス製品は一般にそのライフサイクルが短く、製品のモデルチェンジやメーカーのシェアの変遷も非常に速い。しかしながら、こうしたコンシューマー向け製品1品目で日本円換算で4兆円近い出荷を、開発した本国ではなく東南アジアの工場からおこなわれているのは、かつてなく驚くべきことである。
製造業特にエレクトロニクスにおいて、日本以外のアジア新興国の躍進という背景があることは間違いなく、さらに中国という大市場における生産・販売からASEANにシフトをおこなった際、韓国などのメーカーがベトナムに集中立地したことは地政学的にも説明が付くことであろう。しかしながら、ベトナムにとってこうした投資ラッシュが長期的な産業の育成に繋がるかは疑問もある。昨今は貿易に関しては付加価値の統計も重視され始めており、輸出におけるその国で付与されたGDP比でみた付加価値率によれば、ASEAN10カ国の平均が35%、ベトナムはミャンマーと並び最低レベルの10%となっている。すなわち材料、部品の大半を輸入し、国内では労働集約的である組立工程をおこない輸出するという下請け的な構造であることを示唆している。
ベトナムについては、かつて輸出トップ品目が繊維・縫製品であった頃から、「中所得国の罠」という表現で裾野産業の充実が必要であるという産業構造の脆弱性が指摘されてきたが、それは現在でも大きく変わっていない。しかしながら外国投資の流入に加えて、ICT、観光業を始めとするサービス産業の育成も順次進んでいるのも確かである。現在のバブルとも言えるベトナム経済の好調が続く間に強固な産業基盤を整備することで、低位中進国から高位中進国へのステップアップを、マレーシア、タイとは少々異なる道筋で実現することは十分可能であるかも知れない。
日本および福井のインバウンド戦略に欠けているもの
日本政府観光局(JNTO)によると、2017年に日本を訪れた外国人は11月までですでに史上最高を記録した昨年の2404万人を上回る2616万人に達している。なんとも景気の良い話ではあるが、気になることが2つほどある。第一に、政府のインバウンド戦略は数を増やすことに拘泥し過ぎているのではないかという点である。実際、「走れば躓(つまづ)く」の諺のとおり各種トラブルも増えている。そこで、ひとつ提案がある。外国人の目からみた日本の観光施設やサービスなどの品質を「見える化」してはどうか。それには、観光品質認証制度を確立するのが有効であろう。私のお勧めはニュージーランド(NZ)のクオールマーク制度である。実は7年前、雪国観光圏(注)の有志達とともにNZを訪問して調べたことがある。NZのインバウンド政策の根幹を担う同制度は宿泊施設やトレッキングなどのアクティビティをはじめ、博物館、美術館などのアトラクションや旅客機、観光バスといった交通機関に至るまでカバーしている。さらに、世界で初めて環境への貢献度についても評価基準に取り込むなど、NZの観光産業の国際的な認知度を高めるとともに飛躍的な発展をもたらしたのである。とここまで言ったが、実は、日本でもサクラクオリティという観光品質認証制度が最近出来上がっており、前述の雪国観光圏を中心に導入が進められているところである。クオールマークに比べるとカバー領域も少なくさらに改善すべき点があると思われるものの、民力でここまで到達したことに対して関係者には心から敬意を表したい。これとは別に、経済産業省が中心となり昨年から運用が始まっているのが「おもてなし規格認証制度」である。サクラクオリティと比べるとチェック項目がかなり少なく内容もやや漠としているものの、より幅広い業種が対象となっていることからお互いに補完的な役割を果たすことが期待できる。ただし、両制度とも、今後、国際的な認知度を上げていくためには横への広がりとともにさらなる改良や新たな連携などによるイノベーションが不可欠だろう。
2つ目の気になることとは、こうしたインバウンドの恩恵が福井県にはほとんど及んでいないという衝撃の事実である。即ち、2016年に日本の旅館・ホテルに宿泊した外国人は前年比5.8%増の延べ6939万人を記録した一方で、福井県のそれは前年比2.9%減の5万4360人と全国最下位に喘いでいるのである。何故だろうと不思議に思い、外国人の立場になって福井の観光案内所を訪ねてみた。すると、驚いたことに、そもそも福井には観光ツアーも観光バスもないことがわかった。しかし、初めて福井を訪れた外国人に電車やバスを乗り継いで永平寺や東尋坊を回れと言うのも酷な話である。そこで、2つ目の提案である。福井のインバウンド・インフラの整備はもちろん焦眉の急だが、ここでは敢えてマーケティングでいうところのプッシュ戦略による現地への売り込みを提案したい。訪日観光客の9割近くを占めるアジア系は通常、割安で効率的なパック旅行を利用する。ならば、福井や北陸での宿泊と文化的体験などを盛り込んだチャーターバスなどによるパック旅行を現地の旅行社とともに開発し現地の旅行博で売り込んではどうか。たとえば、マレーシアの場合、同国最大の旅行博MATTAフェア2017の来場者数は延べ12万人で、3日間の売上総額は50億円にも達する。そんなのとっくにやっていると言われそうだが、ポイントは現地の旅行社を巻き込むことと現地の目線で商品を開発することだ。現地ではディスティネーション毎に夫々得意とする旅行社が存在する。マレーシアでもっとも有力な訪日旅行社は実は大手ではなく日本のみに特化した非常に小規模な企業だったりするのだ。個々の客にアピールするのではなく、こうした旅行社に福井や北陸のファンになってもらい、そこから現地の顧客に広げてもらうのが私の考える「プッシュ戦略」である。大事なのは彼らにとって唯一無二のユニークで面白い旅体験を企画できるかどうか。まずは、アイデアを募って現地旅行社に売り込み、一緒にMATTAフェアに出かけてはどうか。逆境こそイノベーションを引き起こすチャンスなのだから。(注)新潟、群馬、長野3県の7市町村を圏域とする観光圏
マレーシアのデジタル自由貿易区の設置
1980年代以降のマレーシアは、東南アジア諸国連合(ASEAN)の域内経済協力や自由貿易地域、経済共同体構想の下で近隣国の輸入物品関税の削減・撤廃を進め、自国製造業の発展を図ってきた。
たとえばテレビの場合、ASEAN域内の貿易額は2001年に4,103億ドルであったが、2015年には1兆5,836億ドルと、約3.8倍増加した。同時期の製品貿易収支を見ると、マレーシアの貿易黒字は1,952億ドルから8,791億ドルへと約4.5倍拡大した。2015年においては、526億ドルの貿易黒字を記録したインドネシアを除くと、他のASEAN加盟8カ国は貿易赤字に留まっている。マレーシアは一部の製造業において、ASEAN全域をカバーする一大生産・輸出国となっている。
その一方で、近年のマレーシアは製造業に限らず他の産業についても他国との連携強化に努め、産業育成と輸出振興を図ってきた。その典型例がデジタル自由貿易区の設置である。
ASEANでは今日においても多くの購入・支払いの際に現金が利用され、デジタル決済の比率は約4分の1に過ぎない。今後人口が拡大するとともにインターネット利用者の増加が見込まれることもあって、ASEANは電子商取引およびデジタル決済の「ネクスト・フロンティア」と位置づけられている。
急成長が期待される域内電子商取引のハブとなるべく、マレーシア政府は直近1年で施策を相次いで打ち出した。2016年11月に、ナジブ首相が中国・アリババのジャック・マー会長と会談し、デジタル経済推進担当の政府顧問に就任することに合意した。17年3月には、同氏が提唱する「電子世界貿易プラットフォーム」を活用したデジタル自由貿易区をクアラルンプール国際空港周辺のローコストキャリアターミナル旧跡地およびセランゴールのセパンに設置し、同年11月には稼働を開始した。アリババは「電子世界貿易プラットフォーム」を通じて、物流、クラウドコンピューティング、モバイル決済などのサービスを提供するためのインフラをマレーシア企業に提供する。
このデジタル自由貿易区の整備を進め、ASEAN域内で72時間以内に国境を越えた商品の移動が実現すると、受注、梱包、発送、受け渡し、代金回収までの一連のプロセスがマレーシア国内で行われる。
マレーシアのデジタル自由貿易区は、中国国外では初の「電子世界貿易プラットフォーム」機能を備えたエリアである。今後は欧州やロシアにも同様のエリアが構築される予定であり、ASEAN域内だけでなく域外に向けてもマレーシアからの輸出拡大が期待される。2018年には、マレーシアの商品や文化を中国の消費者にオンラインで宣伝する「マレーシア週間」の開催がすでに決定している。
デジタル自由貿易区が持つもう一つの重要な側面は、中小企業開発である。マレーシア企業の98.5%が中小企業であり、経済の主要エンジンとなるべきであるが、国内総生産への貢献率は40%に満たない。そこでマレーシア政府は、小売業を中心に中小企業に対してデジタル自由貿易区への参画を呼び掛けた。2017年11月時点では、当初の目標を大きく上回る1,972社もの中小企業がデジタル自由貿易区に登録している。2025年までには60,000人の新規雇用の創出が見込まれており、中小企業の輸出額は380億ドルに伸張すると予測されている。
デジタル経済に迅速に対応し、中国企業の支援を仰ぐことで、電子商取引の集中都市がマレーシアに形成され、同国における雇用創出と他国への輸出増加が予想される。現地に進出する日本の物流企業や小売企業にとっても、大きなビジネスチャンスをもたらすであろう。※本稿の執筆にあたっては、New Straits Times 2017年11月4日記事「DFTZ, an idea whose time has come」と「Jack Ma pledges to help turn Malaysia into a regional digital powerhouse」、マレーシアデジタル自由貿易区のホームページ「DFTZ Goes Live」(https://mydftz.com/dftz-goes-live/) を参考にした。
日常的な出来事
今月はいろいろなことがありました。
国内では、衆議院議員選挙、二度の台風、プロ野球のドラフト、オリンピックまであと1000日など。煽り運転、中学生の自殺などの報道も連日のように見聞きされたことでしょう。国際的には、ノーベル文学賞に日系英国人が、ノーベル平和賞に日本のNGO7団体も参加する核兵器廃絶国際キャンペーンが選ばれ、中国共産党大会が開催、北朝鮮の長距離弾道ミサイルが何とか。
福井駅構内でハロウィンの仮装妖怪たち(学生?)が徘徊するのを眺めながら、今月のコラムのテーマを何にしようかと考えあぐねていたところ、ふと我に返り、”これらはどれも私が敢えて扱うべきテーマではないなぁ”と気づきました。少なくとも私にとって(もしかすると皆さんのなかにも同じようにお感じの方がおられるかもしれませんが)、最大の関心事は日常です。平常心で定常的な社会の動きを追うことにしました。
今月、最新の厚生労働白書が発行されました。私たちの日々の生活を鑑みるのに比較的適した読み物のように思います。本書では「日本の1日」と題して”日本で一日に起こる出来事の数を調べて”います(調べるといっても既存の統計を日換算しているだけですが・・・)。私もこれに倣い、福井の一日に起こっている人口動態を概観してみます。
福井で一日に生まれる赤ちゃんは16.7人。一方、亡くなるのは25.2人で、うち90%強が65歳以上の方々です。その結果一日に人口が8.5人減っています(2016年の1年間の自然減少は3,116人)。一日に亡くなる25.2人のうち、新生物(癌)が原因の死亡は6.9人(死亡者総数の27.3%)、心疾患や脳血管疾患などの循環器系の疾患による死亡が6.6人(26.0%)。老衰は1.9人(7.7%)で、不慮の事故でも1人(4.1%)亡くなっています。不慮の事故は家庭内で起こるものが多く、食事中の窒息、お風呂等での溺死、転倒などが約70%を占めているので、日ごろから気を付けましょう。ちなみに福井における交通事故による死亡は0.1人/日で、年間では約60人です。
一日の婚姻は9.4件、離婚は3件です。よく”夫婦の3割が離婚!”などと言われるのは、この数字をもとにしていることが多いようです。
他県から福井県に転入してくる人は23.4人で、逆に福井県から転出していく人は28.4人です。その結果、一日に5人ずつ福井県から住民が減っています(2016年の1年間の転出超過は1,820人)。
今年2017年も残すところあと2カ月、平成の時代もそろそろ終わりに近づいています。皆様、いろいろお世話になりました。
多死社会の到来
敬老の日を前に厚生労働省が9月15日に発表した高齢者調査の結果によると、100歳以上人口は全国で6万7824人となり、10年前の約2倍、20年前の約8倍に増えたという。こうした現象も超高齢化社会の一つの側面であろう。
国立社会保障・人口問題研究所は、新しい国勢調査が実施される度に将来人口推計を更新している。1995年国勢調査を基準とした推計結果(出生中位・死亡中位)では、65歳以上人口は2041年に3,380万人でピークを迎えると推計されていたが、最新の2015年国勢調査を基準とした推計結果(出生中位・死亡中位)では、2042年に3,935万人でピークを迎えるという推計結果となっており、高齢者数がピークを迎えるタイミングはほとんど変化がないものの、その数は約560万人増加している。これはこの20年間で高齢期の死亡率が改善され、今後もその変化は続いて寿命がさらに伸長すると見通せるようになったことによる。2015年の完全生命表によると、65歳の平均余命は男性で19.4歳、女性で24.2歳となっている。定年後も平均して20年近く生き続けるようになっており、そうした寿命の長さを念頭に置いた上で人生設計を考える必要性は増してくるだろう。
超高齢化社会というと、増加する高齢者の生活をいかにして支えるかということに関心が向けられがちであるが、今回は死亡数の増加に注目してみたい。すなわち、超高齢化社会が多死社会であるということである。高齢期の死亡率が改善されたとはいえ、若中年層よりは遥かに高く、死亡の多くは高齢者から発生する。厚生労働省の人口動態調査によると2016年の死亡数は約131万人であり、ここ数年にわたり同調査では年間の死亡数が過去最高を更新し続けている。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2030年頃には年間の死亡数が160万人を超え、それが2070年頃まで続くと見通されている。毎年福井県の総人口の倍以上の死亡が発生する状態が長期に渡って継続する社会がもうすぐやってくる。まさに多死社会の到来である。この多死社会を地域づくりの観点から考えると、墓地不足や火葬場の処理能力等、これまで積極的な議論を避けがちであったようなテーマが喫緊の課題となる。これから先、私たちが生きる社会では高齢者の生活をどのように支えるのかということを考えるのと同時に、増えていく死亡にどう対応するのかということも極めて現実的な課題としてのしかかってくるだろう。