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福井の女性は働き者なの?
福井県の女性は働き者であるという。先日もTVのニュースで東京の大学生が福井県の女性就業について県の女性活躍推進課に訪問調査をしている様子が流れていた。
「男女雇用機会均等法」や「育児・介護休業法」の制定から30年余りを経て女性の就業は進んできている。しかしながら日本の女性の就業は年代別に集計するとM型と言われるように出産・育児期に離職する割合が高い。総務省によれば出産・育児で離職する女性は過去5年で約100万人に上り、働いていないが就業を希望する女性は2017年に262万人いるとのことだ。
福井県の場合はどうか。2015年の「国勢調査」によれば福井県女性の就業率は52.6%と全国1位である。全国の女性の就業率が48.3%であるから、4.3ポイント高いことになる。女性就業率が高い地域は石川県(全国2位)東京都(同3位)であり長野県、鳥取県と続く。低い地域は奈良県(同47位)山口県(同46位)兵庫県(同45位)となる。福井県の場合出産・育児期に離職する割合が全国よりは少なく、M型の底が浅いという特徴を持つ。
福井県の女性就業率が高いことの要因として、共働き世帯が多いことが挙げられる。福井県の共働き率は60.0%(2017年「就業構造基本調査」)で全国1位であり、全国に比べ約15ポイント高い。共働き率が高い地域は山形県(全国2位)富山県(同3位)であり、低い地域は東京都(同47位)大阪府(同46位)神奈川県(同45位)となる。東京都の就業率が高いのは未婚率が高いことが要因と考えられ、共働き率は地方で高く都市部で低いという特徴が見られる。福井県は3世代同居率も全国2位と高く、東京都、神奈川県は核家族率が高い。最近の若い夫婦は近居という形で親からの支援を受ける場合も多いようだ。女性の就業には通勤環境も大きくかかわる。2台以上の自動車保有率は長野県が全国1位、富山県が2位、福井県が3位と女性就業率が高い地域の自動車保有が多い。
女性の就業においては非正規雇用比率が高いという問題も指摘されている。出産・育児で離職後に再就職をする場合、契約社員やパート・アルバイトの雇用になる場合が多いという。
福井県の女性の正規雇用者比率は53.9%(2015年)であり全国2位となる。全国は45.5%であるから8.4ポイント高い。正規雇用率が高い地域は山形県(全国1位)富山県(同3位)とこちらも地方が高い。ただし福井県男性の正規雇用率は84.3%であるから女性の正規雇用率はまだ低いと言わざるを得ない。この処遇の差は給与の格差にも表れており福井県男性の所定内給与の平均は298.1千円に対し女性は223.0千円と75.1千円少ない。
女性の就業に関する福井県の指標は、全国的に上位になるものが多い。待機児童もほぼいないと発表されており、働きやすい環境が整っているように思える。では就業の質的面はどうか。女性の能力を活用できているのであろうか。女性の管理職への登用という面で見ると管理職に占める女性の割合は9.7%であり全国42位と残念な結果になる(2012年「就業構造基本調査」)。県民意識調査によれば「責任が重くなる」「仕事と家庭の両立が困難になる」という理由で管理職への昇進を望まない女性が多いという結果が出ている。従来の管理職の「定時で帰れない」「休みが取れない」というイメージであれば女性は昇進を望まないであろう。仕事と家庭を両立できる新しい管理職のイメージが広まったとき、よりやりがいのある仕事を求める女性が増加することを望みたい。ケインズ「人口減少の経済的帰結」の現代的意味
ケインズに「人口減少の経済的帰結」という小論がある。これはケインズが1937年に行った講演である。そこでケインズは、資本需要は、(1)人口、(2)生活水準(労働生産性と同義)、(3)生産の平均期間(これは資本産出高比率と同義)に依存すると言い、1860年から1913年までの間に、人口は50%増え、生活水準は60%増え、生産期間(資本産出高比率)が10%増えたから十分な資本需要があったが、これからは(20世紀半ばには)、人口は停滞し、生活水準の改善はせいぜい年1%だし、生産期間は縮まる傾向にあるから、資本需要が不足すると予測した。
資本需要が不足すると何が問題か。それは、資本供給が資本需要を上回る傾向を生む。資本供給とは貯蓄であり、資本需要は投資需要として現れるから、これは貯蓄が投資を上回る傾向を意味する。その傾向が生じると、貯蓄が投資に等しくなるように経済全体の生産が縮小し、雇用が減ってしまう(これはケインズが1936年に明らかにした有効需要の原理)。
ケインズは大雑把な数字を挙げてこのことの意味を明らかにしている。当時のイギリスには150億ポンドの資本があり、年所得(総生産)は40億ポンドである。完全雇用時の貯蓄率は8~15%だから、年々3~6億ポンドの貯蓄が生まれる。これは150億ポンドに対して2~4%に当たる。つまり、資本が年々2~4%増えていくほどの投資需要がなければ完全雇用を維持できない。資本が毎年2~4%増えていくのなら、総生産(所得)も2~4%増えなければならない。ところが、人口成長はゼロで、生活水準(労働生産性)上昇率が年1%なら、総生産(所得)は1%しか成長しない。これは、2~4%という必要成長率に満たないから、資本は余り、生産は縮小して失業が生じるというわけである。
これにどう対処するか。ケインズの処方箋は、貯蓄率を下げるか、資本産出高比率を上げるというものであった。どちらも必要成長率を下げることにつながる。貯蓄率を減らすためには、所得分配をもっと平等にしたらよいと言った。貧しい人への分配が増えると、所得が消費されて貯蓄が減るだろう。資本産出高比率を上げるために、利子率を下げろと言った。利子率が下がれば、収益率の低い資本も存在理由があることになるからである。
現実の20世紀後半は、ケインズの予想に反して、人口はそこそこ増え、労働生産性が大きく伸びたので、資本需要不足はそれほど問題にならず、資本主義は繁栄した。今ようやく、日本では、人口は減り、労働生産性も1%未満しか伸びない時代を迎えた。政府も多くの経済学者も、人口と労働生産性とによって決まる成長率を上げようと躍起になっている(成長戦略)。ケインズの処方箋の特徴は、それと反対に、人口と労働生産性とによって決まる成長率を天から与えられたものとして、これに触らず、成長しない経済と両立する条件は何かを追求したところにある。
人口と労働生産性によって決まる成長率とは、後にハロッドが「自然成長率」と呼んだものに他ならず、貯蓄率と資本産出高比率によって決まる必要成長率は、これもハロッドが提唱した「保証成長率」にほかならない。ケインズは、ハロッドが保証成長率の自然成長率からの乖離と見たのと同じ問題を見ていたのだ。彼らの理論は、「再び成長を」という夢から覚めるのを助けてくれるだろう。「農協改革」に思う
最近、「農協改革」という言葉を耳にする方も多いと思う。それは、2015年に行われた農協法改正を指すことが多く、主たる内容は次のとおりである。
(1)農協の目的を「農業所得の増大に最大限の配慮をしなければならない」とし、経済事業であげた利益を「事業の成長発展を図るための投資や事業利用分量配当に充てるよう努めなければならない」と定めた。
(2)理事の構成要件を、過半数が「認定農業者または農産物販売・法人経営に関し実践的能力を有する者」とした。
(3)選択により組織の分割や株式会社等への変更が可能となった。
(4)中央会の法律上の規定を削除し、都道府県中央会は連合会に、全国中央会は一般社団法人に移行するとした。
(5)一定規模以上の信用事業を行う農協に対して、公認会計士または監査法人による会計監査を受けなければならないとした。
また、今回の改正では見送られたが、(6)准組合員(農地を所有・耕作する「正組合員」に対して、農協事業の利用を望んで出資をした農業に従事していない組合員)の事業利用に上限を求めることも検討課題となっている。
実は、今回の「農協改革」は、政府の規制改革会議等における議論に端を発しており、必ずしも農協関係者が主体的に決定したわけではない。そこでは農協の将来像を、上記の①(2)ならびに(6)に顕著なように、農業面の経済事業に特化し、運営者や組合員を農業者(関連事業者を含む)に純化した農業専門事業体として展望したものである。つまり、次のような考え方に立つ。農協は「農業」協同組合である。農協を構成すべき組合員は、農業所得に大きく依存している農業者・事業者であって、農協はそこに貢献する事業のみに注力すべきである。農地を所有せず耕作もしない准組合員は農協から制限・排除されるべきであり、信用事業や共済事業も民間企業等に委ねるべきである。
はたして、これが正しい方向であろうか?一見、農業者の所得増大や地域の農業振興とは無関係に思える事業が、実は地域のセーフティネットの役割を果たしながら農業者や地域住民の暮らしの安定を支えていること、農協における組合員や職員が有する顔の見える関係性が地域に密着した事業の基盤となって堅実な信用・共済事業の展開を行い得たこと、それらが非収益(サービス)部門である営農指導事業や農業施設の整備、採算性で劣る農畜産物の販売や生産資材の購買事業を下支えしながら地域の農業振興に貢献していることを見逃してはならない。
そもそも協同組合は、自分たち組合員さえ良ければではなく、組合員が居住し組合が存在する地域社会の発展こそが豊かな暮らしの実現につながる、という理念を持つ。大雨被害等のニュースの中で、農協の支店が避難所として活用され、生協の職員がエレベーターの止まったマンションの階段をかけ登りながら生活物資を届け、組合員・女性部員らが炊き出しボランティアに励む映像を目にした。「生活インフラ機能」としての農協・協同組合の役割を軽視してはならないとつくづく思う。眠った蔵の活用
農村や漁村には、収穫物の保存、道具類の収納等を目的とした蔵が数多く存在していた。各戸が所有するそれらの多くは、時代の変遷とともにその役目を終え、取り壊されたり、使用頻度の低い物置として放置されたりと、どちらかと言えば影に隠れた存在になっている。
小浜市内外海(うちとみ)地区には、リアス式海岸に抱かれた集落が点在し、いずれも漁業を主な生業としていた。かつては集落間の移動は困難を極めていたこともあり、各集落には蔵が立ち並んでいた。現在でも多くの蔵がところどころひっそりと残されており、小河川や小路とともに漁村集落固有の景観を形成している。
昨年度から、ブルーツーリズムをテーマにした海洋生物資源学部の集中講義を担当している。ブルーツーリズムとは、漁業体験や漁村での生活体験等を伴う漁村滞在型余暇活動を総称したもので、当該科目はこのような活動を、内外海地区において活性化させるための方策を検討・提案するものである。2年目の今年度は、現地での具体的なアクティビティを学生が実際に体験するなど、より実践型の内容とした。SUP(スタンドアップパドル)班と蔵班の2班に分かれたが、次に蔵班の内容を簡単に紹介したい。
蔵班は、内外海の釣姫集落の1つの蔵を対象に、その後片付け体験を通じて蔵の現代的な活用方法を検討した。6人の班員は、初めて入る暗く少し埃っぽい閉鎖空間にて、昔の道具や教科書、刀などを興味深く手にしながら整理をしていく。そして、その後の3回に渡るグループワークで、蔵の特徴や外部環境を共有しつつ、それを生かす方法を思い思いに語り合った。都会の子供の教育に活用する案、集落民と観光客の休憩場所にする案、ブックカフェや駄菓子屋として活用する案、ルアーやお箸づくり体験の場とする案等、多くのアイデアが出された。今後、地域住民等に対し発表する機会を作りたいと考えている。
このような蔵は、今ではあまり活用されておらず状態もよくない。マイナスとは言えないまでも低未利用な地域資源である。このハコを学生が「オシャレ」だと捉え、自分たちの感性と行動力によって新しい価値を付加し、プラスの地域資源として昇華させていくことを期待したい。学生が影に隠れた蔵に光を当て、まだまだ荒削りな案ではあるものの、このアイデアからスタートし当事者の前向きな意識改革や積極的行動へと結び付けば、思いも寄らない化学反応が起きるのではなかろうか。2018総選挙で見えてきたマレーシアにおけるパラダイム・シフト
2018年5月9日、マレーシアが揺れた。1957年に英国から独立して以来、初の政権交代が起こったためである。これまでも予兆はあったが大きな壁に阻まれてきた。特に、前回(2013年)の総選挙では、野党連合が初めて得票率で過半数を獲得したにも拘らず、議席数では逆に連立与党の国民戦線(BN)が6割を占めるという摩訶不思議な現象が生じた。からくりの因(もと)は与党に有利な選挙区割り(ゲリマンダー)の存在である。このため、1票の格差は最大で1対10に達し多くの死票が生まれる要因となった。さらに、なりすまし投票疑惑をはじめ、選挙そのものの信頼性にも疑問が生じていた。こうしたことから、選挙前に今回の政権交代を予想する専門家はほぼ皆無に等しかった。一体、何が起こったのか。
もっとも重要な事実は、今回、マレーシア国民が民族の壁を乗り越え、よりよい国をつくるという共通の目的の下に投票所に向かったことであろう。投票のため炎天下、6時間以上並んだ人や投票用紙が前日に届いたため急きょ飛行機で帰国した在外有権者など、今次選挙へのマレーシア人の思いを伝えるエピソードは枚挙に暇ない。詳細は省くが、裏を返せば、それほど、ナジブ前首相の汚職疑惑と強権的な政権運営に対する国民の不信感や怒りが臨界点に達していたということであろう。トランスペアランシー・インターナショナルの「汚職認識指数(CCPI)」でもマレーシアは世界第62位(2017年)にまで下落するなど年々悪化の様相を呈していた。
さらに、忘れてならないのは選挙管理委員会の頑張りである。民主主義がその機能を発揮するためには選管が政府の圧力や干渉に屈せず独立を維持することが如何に大切であるかを証明してみせてくれた。
ところで、前回の総選挙では中国系の票が大量に野党に流れる「中国人の津波」が起こったが、その結果、連立与党内における民族政党間のバランス・オブ・パワーが崩れ、マレー系・中国系の関係に政治的な亀裂が入る事態となった。もしも、今回の選挙でエスニック問題が争点となっていたならば、むしろマレー系を主な支持母体とするBNの優位は揺るがなかったであろう。しかし、今回の争点はそこではなかった。それなら、とナジブ氏は「反フェイクニュース法」を強行採決し、さらに、マハティール氏が代表を務める野党政党の活動停止を命じるなど抑圧に乗り出したが、これには米国国務省が非民主的な強権発動であるとして異例の非難声明を出す事態となった。
当初、野党の政権運営能力は未知数であり、マレー系にしてみれば、中国系が勢力を増すことへの懸念もあったが、マハティール氏の登場がすべてを変えた。同氏が希望同盟(PH)を率いて奇跡の政権交代を成し遂げたことは、マレーシアの「Brexit」現象とかマレーシアの「トランプ」現象といった表現がその驚きをよく表している。
今回の総選挙の結果、マレーシアに2つの「希望」の光が点灯したと言えるのではないだろうか。ひとつは、「民主化」の進展。そして、もうひとつはマハティール首相が1991年に2020年構想で打ち出した「バンサ・マレーシア」(統合されたマレーシア国民)の構築への道標(みちしるべ)となるものである。
国家の運営に関しても、二大政党化とは別のパラダイム・シフトが起こっているものと思われる。これまでの連立与党(BN)の中核を成してきたUMNO、MCA、MICはそれぞれマレー人、華人、インド人のみの党員で構成されている政党であった。つまり、各民族の利益代表者からなる政党の集合体といえる。一方、新たな連立与党(PH)の中核を成す人民正義党(PKR)や民主行動党(DAP)は夫々マレー系と中国系を主たる支持基盤とするものの、どの民族も党員加入することができる。つまり、すべてのマレーシア人の集合体と言っても過言ではない。こうした点を踏まえると、マレーシアの国家運営は新たな時代に入ったと言えるのではないだろうか。新たなパラダイムの下で民族の融和が進むのか、将又、再び分裂してしまうのか、注意深く見守っていく必要がある。
最後に、今回の「マハティール&マレーシア津波」は周辺諸国にも影響を及ぼす可能性があることを指摘しておきたい。現在、世界のいたるところで「ワシントン・コンセンサス」の後退に伴う民主主義のバックラッシュが起こっている。代わって、政治体制の変化を望まない途上国などを中心に、「北京コンセンサス」に共感し、中国の「一帯一路構想」を取り入れたメガ・プロジェクトの開発が進んでいる。しかし、今回、マレーシアでは民主化が進み、マハティール首相は過度の中国依存と北京コンセンサスが内包する危うさを訴え、関連するメガ・プロジェクトの見直しを決めた。現在、タイやミャンマーでは北京コンセンサスによって民主化が後退し、再び、国家統制が進みつつある。さらにインドネシアやラオスでは、「一帯一路構想」における工期の遅れや「債務の罠」に陥る可能性も指摘されている。マハティール首相はアジア通貨危機に際してIMFと決別し、独自のやり方で「ワシントン・コンセンサスを打ち破った男」として知られるが、今度は「北京コンセンサスに初めて公然とチャレンジした男」として知られることになるかもしれない。米中貿易摩擦の行方と東南アジア諸国の反応
米国のドナルド・トランプ大統領は2018年3月22日に、500億から600億ドルに相当する中国製品に高関税を課す制裁措置を表明した。自動車部品や家電製品、電気機器など、約1,300品目を対象に25%の関税を課すとした。さらに4月5日には、中国の知的財産侵害に対する制裁関税として1千億ドルの積み増しを検討すると発表した。前日に中国が報復関税として、大豆、航空機、自動車など106品目の米国製品に25%の追加関税を課す予定であると発表したことを受けた措置である。米中両国間の報復はより一層の貿易摩擦へと発展しかねない。
トランプ大統領は関税率を引き上げる第一の理由として、中国との貿易不均衡を挙げた。2017年の貿易統計によれば、米国は中国から約5,050億ドルを輸入しているが、輸出額は約1,350億ドルにとどまっており、この巨額の貿易赤字を是正したいのであろう。また、今年11月に実施される米国の中間選挙に向けた支持者層へのアピールとの指摘も、一定程度妥当ではないか。
米国が他の大国なり地域から輸入する際に関税を引き上げるのは、今に始まったことではない。バラク・オバマ前大統領は、実際に2回にわたって、鉄鋼の関税率を引き上げた。この鉄鋼を対象とした関税賦課は、ジョージ・W・ブッシュ元大統領にまでさかのぼることができる。
しかし、それにしてもトランプ政権は追加関税を頻繁に課す。昨年10月に航空宇宙産業機器、11月には木材を対象に、カナダ産品に関税を課した(その後、航空宇宙産業機器に関しては2018年1月に撤回した)。今年に入ってからも、1月には太陽光パネルと洗濯機に追加関税を設定している。保護主義的な政策が経済損失をもたらすとトランプ大統領やその支持者が認識するのは、当分先になりそうである。
東南アジア諸国は、こうした米中間のつばぜり合いを注視している。
ポジティブな反応としては、両国の摩擦が続けば東南アジアの生産や外国からの投資の増加が見込めるというものがある。たとえば、中国が米国産大豆の輸入を減らせば、マレーシアやインドネシアのパーム油生産者は恩恵を受けるとの指摘がある。また、米国企業による投資先が中国から東南アジアに置き替わる可能性がある。つまり、中国製品に対する米国の追加的な関税を回避するため、東南アジアが代替的な生産拠点と化すかもしれない。その代表的な製品が、既に東アジアからの輸出のかなりの部分を占める太陽光パネルや電気電子製品である。中国や台湾のメーカーは、関税を回避し、人件費を削減し、インセンティブを利用するため、既にベトナムとタイで太陽光パネルを生産し始めている。そのため、近年では東南アジアの世界生産シェアが上昇してきている。電気電子製品に関しても、マレーシアやフィリピンにおける多国籍企業の集積がさらに進展するシナリオは想像に難くない。
その一方で、米国による関税引き上げは東南アジア諸国に負の影響を及ぼすかもしれない。今年の4月に入り、「米中貿易摩擦の影響を受ける可能性のある分野は、半導体、マレーシア製建材および港湾である」とタイのCIMBリサーチは結論付けた。たとえば、マレーシアは半導体をはじめとして多くの電気電子分野の最終製品や部品を中国に輸出してきた。世界銀行のチーフエコノミストであるスディル・シェティ氏は、関税引き上げの対象となる米国のリストに掲載される中国製品の3分の2が、マレーシア、ベトナム、フィリピンを中心とした東南アジア地域のサプライチェーンと関連していると指摘した。中国の輸出不振は東南アジアの輸出・生産にも多大な影響を及ぼし、内資・外資を問わず東南アジアの企業を困難に陥れるといえる。
東南アジア諸国は米中貿易摩擦から起こるネガティブな影響を避けるため、より一層の貿易障壁の削減・撤廃を進めなくてはならない。2015年末に開始したASEAN経済共同体の強化を進めるとともにTPP、RCEP(域内包括的経済連携)の締結・発効を急ぐ必要性が、今後ますます高まっていきそうである。家族の形が変わる社会
人口減少社会とはどのような社会であるか。その1つの答えは、家族の形が変わる社会であると思う。国立社会保障・人口問題研究所は2018年1月に「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」(以下、社人研推計)を公表した。これには将来の世帯数が家族類型別に集計されており、これから先の日本の家族がどのように変化していくのかということについての示唆が得られる。今回はこの資料を使いながら、今後の日本社会のありようを考えてみたい。
日本の総人口は2008年をピークに減少に転じているが、世帯数は増加が続いている。社人研推計によると、一般世帯数(「施設等の世帯」以外の世帯)は2015年の5,333万世帯から2023年まで増加を続け、5,419万世帯でピークを迎えることになる。人口減少局面でも世帯数が増加するということは世帯規模の縮小が続くことを意味しており、一般世帯の平均世帯人員は2015年の2.33人から2040年の2.08人まで減少を続ける見通しとなっている。この平均世帯人員の減少の要因となるのが単独世帯(単身者)の増加である。単独世帯は2015年の1,842万世帯から増加を続け、一般世帯総数が減少に転じる2023年以降も増加し、2032年以降に減少に転じる。この結果、2040年には2015年より153万世帯多い1,994万世帯となる。
この単独世帯の増加という変化の中で顕著に増加するのは高齢単身者であり、2015年の625万世帯から2040年の896万世帯へと増加する見通しになっている。この1つの背景は寿命が伸びたことによって、夫に先立たれた死別女性が単身者として生きる期間が長くなることがある。独居老人の増加の理由の1つであり、大きな社会問題ではあるものの、これは国民皆年金制度の帰結でもある。年金制度が充実していなかった時代には、夫に先立たれた死別女性は経済力を失うため、子ども世帯に養ってもらわなければならなかった。そのために親子同居・3世代同居をすることになる場合が多かったのである。それが国民皆年金となって以降は、少ない金額ではあるものの、死別女性が年金によって一人暮らしを続けることができるようになった。制度によって家族の形が変わったともいえるだろう。皆が望んだ年金制度ではあったが、その結果として、子どもが老親と同近居する機会は減ることとなったが、子どもを始めとする親族ネットワークの支援を得られずに孤独死等の本当に危険な状況に陥ってしまう独居老人を支える仕組みはまだ充足していない。
一方で未婚化や晩婚化も進んでいく。これらは少子化の原因であるともに、結婚を遅らせるという家族形成行動の変化である。若年層のみならず、中年層でも単身者が増加することになり、最終的には未婚であるために単身化する高齢者の増加に結び付くことになる。このような家族形成行動の変化は、夫婦と子からなる世帯の減少につながる(2015年:1,434万世帯→2040年:1,182万世帯)。これはいわゆるサラリーマンの夫と専業主婦の妻、子ども2人という「標準世帯」に相当するものであるが、これから先の日本は単独世帯の方が多くなり、「標準世帯」が多数派ではない社会になっていく。上述の年金制度を始め、今の日本の社会システムは1960年代にできたものが多い。当時は核家族化が進行しており、「標準世帯」が増加し、日本の家族・世帯の多数派を占めるようになっていた時代であった。したがって、それを主たる対象として制度を設計することは合理的ですらあった。しかし、現代社会では家族の形は多様化しているし、その中心にあるのは背景要因が多岐に渡る単身化である。
これまでの高齢者はきょうだいが多く、ほとんどが子どもを持っていた。しかし、これから先の高齢者はきょうだいが少なく、結婚しなかったために子どももいないというケースが多くなり、より孤立状態に陥りやすくなる。このような家族変動に対し、これまで高齢者の生活を支えてきた家族のシャドーワークを外部化していくことが求められる。現状の介護保険制度だけでは十分な効果が得られているとは言えない状況にあるので、行政と民間、地域住民との協働の中で解決策を模索し、地域社会を上手く機能させるような仕組みを作りだすことが必要になる。そして、そうした新しい仕組みが整備され、安心して高齢期を生きることができようになる地域が人々に居住地として選択されることになる。家族の形の変化を出発点とし、真の地域間競争が生じてくることになるといえるだろう。
克雪まちづくりに向けた論点列挙(メモ)
実際に体験したことや周囲からの伝聞、そして様々なメディアからの情報を元に、現時点における論点の列挙を試みた。視点の多様性とスピードを重視し、筆者の責任において、十分な裏付けがないまま言語化、あるいは結論を曖昧にしていることに留意されたい。建設的な批判を頂ければ幸いである。
A.人口、世帯
1.超高齢化、高齢者世帯増による危機 2.郊外化と通勤通学の広域化による弊害
3.集合住宅の増加による危機と有用性 4.単身世帯は孤立していなかったのかB.地域構造、土地利用
5.道路増と足りない排雪空間、雪捨場
6.細街路住宅密集地域の絶望的脆弱性 7.生命線道路の寸断による集落の孤立
8.遊休地活用、空家の水道管破裂と除雪 9.側溝、用水路の減少と流雪溝の整備C.道路交通
10.大型車のスタックで通行不能が頻発 11.いっけえ道路を走れの法則が通じず
12.高速道路は未然防止で概ね綻びなし 13.丸岡インターチェンジ出入口の大渋滞
14.国道8号4車線化事業と立往生の関係 15.国道158号の雪崩対策の効果と綻び
16.消雪パイプの効果、弱点、弊害 17.予見が可能だった三国油槽所の寸断
18.生活道路の除雪に関する責任と限界 19.不要不急の自動車使用による二次被害
20.無謀な進入や渋滞等でスタックが頻発 21.ホワイトアウトと転落、脱輪等事故D.鉄道、バス
22.新幹線最強説と在来線の対象的な姿 23.地方鉄道、バスにどこまで頼るべきかE.除雪体制
24.行政等の雪害対策予算と多雪リスク 25.国、自治体、民間の連携と役割分担
26.除雪事業者の経営実態と小雪リスク 27.除雪作業の人手不足、高齢化と過酷作業
28.早期の踏み込んだ交通規制は可能か 29.重機不足、軽油不足による稼働率低下
30.除雪デリバティブ等の金融工学手法F.ライフライン
31.強靭だったライフライン 32.電気、ガス、水道、通信の断絶が起きていたら
33.融雪使用等による地下水位低下と断水G.ライフスタイル、コミュニティ
34.車の増加と依存社会化及びその呪縛
35.物流・ネット通販依存による弊害 36.三八、五六豪雪の継承と断絶、暖冬慣れ
37.苦難の駐車場除雪とカーポート損壊 38.道具やグッズの活用、工夫、改善策
39.除雪豆知識と雪道ドライブテクニック 40.安全知識や慎重さの欠如による悲劇
41.除雪コミュニケーションの自然発生 42.声がけ、巡回、助け合い、譲り合い
43.地域ぐるみでの対策や訓練の必要性 44.排雪・駐車・お出かけ・買物マナー
45.地域間格差に対する不平不満が噴出 46.公務員叩きや除雪作業員への暴言等
47.節電、節水への協力と利便性のバランス 48.灯油やガソリンの不足と小パニックH.子供や教育
49.大学・高校入試等の行事のタイミング 50.登下校の安全確保、歩道除雪の現実
51.雪遊びの楽しさと危険、環境学習等I.テクノロジー
52.精緻すぎる天気予報とその活用状況 53.除雪システムの進化とGPSやAIの活用
54.車の最先端ABSやTCSの普及と理解 55.Googleマップの凄さと補完すべき情報
56.ロボットやドローンによる未来の除雪 57.雪国自動運転の実現は遥かに遠いのかJ.メディアと情報
58.マスメディアの重要性、活用と限界 59.地方メディアの当事者目線による編集
60.移動中でもネットでつながる安心感 61.SNSの玉石混交、もっとできるはず
62.災害時における自治体広報のあり方K.医療、福祉
63.緊急車両等のラストワンマイル問題 64.同時多発する緊急事態等の優先順位
65.薬や輸血用血液等の資材は概ね充足 66.通所・在宅福祉機能のサービス低下
67.転倒、転落増による一時的病床不足 68.障害者等の災害弱者への配慮と支援
69.外国人や観光客等への対策と気配りL.企業
70.サプライチェーン寸断とBCPの検証 71.個社と社会全体に関する合成の誤謬
72.企業による被災者支援や地域貢献 73.企業ができたことできなかったことM.行政
74.計画と準備と初動は万全だったのか 75.指揮命令系統とリーダーシップの検証
76.対応はインテリジェンスに満ちていたか 77.鳥・虫・魚の目で対応できていたか
78.激甚被災者でもある公務員の実情 79.激甚災害指定と復興に向けた歩み
80.自治体同士の連携、融通、派遣 81.平時からの民とのコミュニケーションの有無
82.近畿地方整備局管轄による弊害の有無 83.三〇豪雪の記録、総括と検証、伝承等好調なベトナム経済と中所得国の罠
「チャイナ・プラスワン」の本命として注目されてきたASEANであるが、中でもベトナムの好調さが際立っている。2017年のベトナムの経済成長率は6%台後半であることが予想されており、海外からの直接投資も順調に入って来ている。ASEAN10カ国各国の貿易額を比較しても、ベトナムによる輸出入合計額はタイとほぼ並んでASEANトップに躍り出ている。ASEANは先発6カ国(タイ、インドネシア、マレーシア、シンガポール、フィリピン、ブルネイ)と、後発4カ国(ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマー:CLMV)の経済格差縮小を長らく大きな目標としていたが、CLMVの中でもベトナム経済が大きく躍進した格好になっている。
ベトナムは外国投資をテコとし、先進国への輸出主導というモデルで成功している。ASEANでもタイにおいては日本企業、なかでも自動車、電機といった製造業の進出が大きなインパクトを与え、タイにおける裾野産業を含めた日本のプレゼンスは非常に高い。しかし、ベトナムはタイとは異なり韓国、中国からの投資が際立っている。その中でもエレクトロニクスの分野で、韓国サムスン電子によるスマートフォンの生産、輸出が突出して多くなっている。ベトナムからのスマートフォン(HS8517)輸出は2016年で343億ドルにのぼり、ベトナムの全輸出額の約19%を占めており、その大半がサムスン電子によるものである。エレクロニクス製品は一般にそのライフサイクルが短く、製品のモデルチェンジやメーカーのシェアの変遷も非常に速い。しかしながら、こうしたコンシューマー向け製品1品目で日本円換算で4兆円近い出荷を、開発した本国ではなく東南アジアの工場からおこなわれているのは、かつてなく驚くべきことである。
製造業特にエレクトロニクスにおいて、日本以外のアジア新興国の躍進という背景があることは間違いなく、さらに中国という大市場における生産・販売からASEANにシフトをおこなった際、韓国などのメーカーがベトナムに集中立地したことは地政学的にも説明が付くことであろう。しかしながら、ベトナムにとってこうした投資ラッシュが長期的な産業の育成に繋がるかは疑問もある。昨今は貿易に関しては付加価値の統計も重視され始めており、輸出におけるその国で付与されたGDP比でみた付加価値率によれば、ASEAN10カ国の平均が35%、ベトナムはミャンマーと並び最低レベルの10%となっている。すなわち材料、部品の大半を輸入し、国内では労働集約的である組立工程をおこない輸出するという下請け的な構造であることを示唆している。
ベトナムについては、かつて輸出トップ品目が繊維・縫製品であった頃から、「中所得国の罠」という表現で裾野産業の充実が必要であるという産業構造の脆弱性が指摘されてきたが、それは現在でも大きく変わっていない。しかしながら外国投資の流入に加えて、ICT、観光業を始めとするサービス産業の育成も順次進んでいるのも確かである。現在のバブルとも言えるベトナム経済の好調が続く間に強固な産業基盤を整備することで、低位中進国から高位中進国へのステップアップを、マレーシア、タイとは少々異なる道筋で実現することは十分可能であるかも知れない。
日本および福井のインバウンド戦略に欠けているもの
日本政府観光局(JNTO)によると、2017年に日本を訪れた外国人は11月までですでに史上最高を記録した昨年の2404万人を上回る2616万人に達している。なんとも景気の良い話ではあるが、気になることが2つほどある。第一に、政府のインバウンド戦略は数を増やすことに拘泥し過ぎているのではないかという点である。実際、「走れば躓(つまづ)く」の諺のとおり各種トラブルも増えている。そこで、ひとつ提案がある。外国人の目からみた日本の観光施設やサービスなどの品質を「見える化」してはどうか。それには、観光品質認証制度を確立するのが有効であろう。私のお勧めはニュージーランド(NZ)のクオールマーク制度である。実は7年前、雪国観光圏(注)の有志達とともにNZを訪問して調べたことがある。NZのインバウンド政策の根幹を担う同制度は宿泊施設やトレッキングなどのアクティビティをはじめ、博物館、美術館などのアトラクションや旅客機、観光バスといった交通機関に至るまでカバーしている。さらに、世界で初めて環境への貢献度についても評価基準に取り込むなど、NZの観光産業の国際的な認知度を高めるとともに飛躍的な発展をもたらしたのである。とここまで言ったが、実は、日本でもサクラクオリティという観光品質認証制度が最近出来上がっており、前述の雪国観光圏を中心に導入が進められているところである。クオールマークに比べるとカバー領域も少なくさらに改善すべき点があると思われるものの、民力でここまで到達したことに対して関係者には心から敬意を表したい。これとは別に、経済産業省が中心となり昨年から運用が始まっているのが「おもてなし規格認証制度」である。サクラクオリティと比べるとチェック項目がかなり少なく内容もやや漠としているものの、より幅広い業種が対象となっていることからお互いに補完的な役割を果たすことが期待できる。ただし、両制度とも、今後、国際的な認知度を上げていくためには横への広がりとともにさらなる改良や新たな連携などによるイノベーションが不可欠だろう。
2つ目の気になることとは、こうしたインバウンドの恩恵が福井県にはほとんど及んでいないという衝撃の事実である。即ち、2016年に日本の旅館・ホテルに宿泊した外国人は前年比5.8%増の延べ6939万人を記録した一方で、福井県のそれは前年比2.9%減の5万4360人と全国最下位に喘いでいるのである。何故だろうと不思議に思い、外国人の立場になって福井の観光案内所を訪ねてみた。すると、驚いたことに、そもそも福井には観光ツアーも観光バスもないことがわかった。しかし、初めて福井を訪れた外国人に電車やバスを乗り継いで永平寺や東尋坊を回れと言うのも酷な話である。そこで、2つ目の提案である。福井のインバウンド・インフラの整備はもちろん焦眉の急だが、ここでは敢えてマーケティングでいうところのプッシュ戦略による現地への売り込みを提案したい。訪日観光客の9割近くを占めるアジア系は通常、割安で効率的なパック旅行を利用する。ならば、福井や北陸での宿泊と文化的体験などを盛り込んだチャーターバスなどによるパック旅行を現地の旅行社とともに開発し現地の旅行博で売り込んではどうか。たとえば、マレーシアの場合、同国最大の旅行博MATTAフェア2017の来場者数は延べ12万人で、3日間の売上総額は50億円にも達する。そんなのとっくにやっていると言われそうだが、ポイントは現地の旅行社を巻き込むことと現地の目線で商品を開発することだ。現地ではディスティネーション毎に夫々得意とする旅行社が存在する。マレーシアでもっとも有力な訪日旅行社は実は大手ではなく日本のみに特化した非常に小規模な企業だったりするのだ。個々の客にアピールするのではなく、こうした旅行社に福井や北陸のファンになってもらい、そこから現地の顧客に広げてもらうのが私の考える「プッシュ戦略」である。大事なのは彼らにとって唯一無二のユニークで面白い旅体験を企画できるかどうか。まずは、アイデアを募って現地旅行社に売り込み、一緒にMATTAフェアに出かけてはどうか。逆境こそイノベーションを引き起こすチャンスなのだから。(注)新潟、群馬、長野3県の7市町村を圏域とする観光圏