福井県立大学地域経済研究所

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  • 家族の形が変わる社会

    人口減少社会とはどのような社会であるか。その1つの答えは、家族の形が変わる社会であると思う。国立社会保障・人口問題研究所は2018年1月に「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」(以下、社人研推計)を公表した。これには将来の世帯数が家族類型別に集計されており、これから先の日本の家族がどのように変化していくのかということについての示唆が得られる。今回はこの資料を使いながら、今後の日本社会のありようを考えてみたい。

    日本の総人口は2008年をピークに減少に転じているが、世帯数は増加が続いている。社人研推計によると、一般世帯数(「施設等の世帯」以外の世帯)は2015年の5,333万世帯から2023年まで増加を続け、5,419万世帯でピークを迎えることになる。人口減少局面でも世帯数が増加するということは世帯規模の縮小が続くことを意味しており、一般世帯の平均世帯人員は2015年の2.33人から2040年の2.08人まで減少を続ける見通しとなっている。この平均世帯人員の減少の要因となるのが単独世帯(単身者)の増加である。単独世帯は2015年の1,842万世帯から増加を続け、一般世帯総数が減少に転じる2023年以降も増加し、2032年以降に減少に転じる。この結果、2040年には2015年より153万世帯多い1,994万世帯となる。

    この単独世帯の増加という変化の中で顕著に増加するのは高齢単身者であり、2015年の625万世帯から2040年の896万世帯へと増加する見通しになっている。この1つの背景は寿命が伸びたことによって、夫に先立たれた死別女性が単身者として生きる期間が長くなることがある。独居老人の増加の理由の1つであり、大きな社会問題ではあるものの、これは国民皆年金制度の帰結でもある。年金制度が充実していなかった時代には、夫に先立たれた死別女性は経済力を失うため、子ども世帯に養ってもらわなければならなかった。そのために親子同居・3世代同居をすることになる場合が多かったのである。それが国民皆年金となって以降は、少ない金額ではあるものの、死別女性が年金によって一人暮らしを続けることができるようになった。制度によって家族の形が変わったともいえるだろう。皆が望んだ年金制度ではあったが、その結果として、子どもが老親と同近居する機会は減ることとなったが、子どもを始めとする親族ネットワークの支援を得られずに孤独死等の本当に危険な状況に陥ってしまう独居老人を支える仕組みはまだ充足していない。

    一方で未婚化や晩婚化も進んでいく。これらは少子化の原因であるともに、結婚を遅らせるという家族形成行動の変化である。若年層のみならず、中年層でも単身者が増加することになり、最終的には未婚であるために単身化する高齢者の増加に結び付くことになる。このような家族形成行動の変化は、夫婦と子からなる世帯の減少につながる(2015年:1,434万世帯→2040年:1,182万世帯)。これはいわゆるサラリーマンの夫と専業主婦の妻、子ども2人という「標準世帯」に相当するものであるが、これから先の日本は単独世帯の方が多くなり、「標準世帯」が多数派ではない社会になっていく。上述の年金制度を始め、今の日本の社会システムは1960年代にできたものが多い。当時は核家族化が進行しており、「標準世帯」が増加し、日本の家族・世帯の多数派を占めるようになっていた時代であった。したがって、それを主たる対象として制度を設計することは合理的ですらあった。しかし、現代社会では家族の形は多様化しているし、その中心にあるのは背景要因が多岐に渡る単身化である。

    これまでの高齢者はきょうだいが多く、ほとんどが子どもを持っていた。しかし、これから先の高齢者はきょうだいが少なく、結婚しなかったために子どももいないというケースが多くなり、より孤立状態に陥りやすくなる。このような家族変動に対し、これまで高齢者の生活を支えてきた家族のシャドーワークを外部化していくことが求められる。現状の介護保険制度だけでは十分な効果が得られているとは言えない状況にあるので、行政と民間、地域住民との協働の中で解決策を模索し、地域社会を上手く機能させるような仕組みを作りだすことが必要になる。そして、そうした新しい仕組みが整備され、安心して高齢期を生きることができようになる地域が人々に居住地として選択されることになる。家族の形の変化を出発点とし、真の地域間競争が生じてくることになるといえるだろう。

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  • 克雪まちづくりに向けた論点列挙(メモ)

    実際に体験したことや周囲からの伝聞、そして様々なメディアからの情報を元に、現時点における論点の列挙を試みた。視点の多様性とスピードを重視し、筆者の責任において、十分な裏付けがないまま言語化、あるいは結論を曖昧にしていることに留意されたい。建設的な批判を頂ければ幸いである。

    A.人口、世帯
    1.超高齢化、高齢者世帯増による危機 2.郊外化と通勤通学の広域化による弊害
    3.集合住宅の増加による危機と有用性 4.単身世帯は孤立していなかったのか

    B.地域構造、土地利用
    5.道路増と足りない排雪空間、雪捨場
    6.細街路住宅密集地域の絶望的脆弱性 7.生命線道路の寸断による集落の孤立
    8.遊休地活用、空家の水道管破裂と除雪 9.側溝、用水路の減少と流雪溝の整備

    C.道路交通
    10.大型車のスタックで通行不能が頻発 11.いっけえ道路を走れの法則が通じず
    12.高速道路は未然防止で概ね綻びなし 13.丸岡インターチェンジ出入口の大渋滞
    14.国道8号4車線化事業と立往生の関係 15.国道158号の雪崩対策の効果と綻び
    16.消雪パイプの効果、弱点、弊害 17.予見が可能だった三国油槽所の寸断
    18.生活道路の除雪に関する責任と限界 19.不要不急の自動車使用による二次被害
    20.無謀な進入や渋滞等でスタックが頻発 21.ホワイトアウトと転落、脱輪等事故

    D.鉄道、バス
    22.新幹線最強説と在来線の対象的な姿 23.地方鉄道、バスにどこまで頼るべきか

    E.除雪体制
    24.行政等の雪害対策予算と多雪リスク 25.国、自治体、民間の連携と役割分担
    26.除雪事業者の経営実態と小雪リスク 27.除雪作業の人手不足、高齢化と過酷作業
    28.早期の踏み込んだ交通規制は可能か 29.重機不足、軽油不足による稼働率低下
    30.除雪デリバティブ等の金融工学手法

    F.ライフライン
    31.強靭だったライフライン 32.電気、ガス、水道、通信の断絶が起きていたら
    33.融雪使用等による地下水位低下と断水

    G.ライフスタイル、コミュニティ
    34.車の増加と依存社会化及びその呪縛
    35.物流・ネット通販依存による弊害 36.三八、五六豪雪の継承と断絶、暖冬慣れ
    37.苦難の駐車場除雪とカーポート損壊 38.道具やグッズの活用、工夫、改善策
    39.除雪豆知識と雪道ドライブテクニック 40.安全知識や慎重さの欠如による悲劇
    41.除雪コミュニケーションの自然発生 42.声がけ、巡回、助け合い、譲り合い
    43.地域ぐるみでの対策や訓練の必要性 44.排雪・駐車・お出かけ・買物マナー
    45.地域間格差に対する不平不満が噴出 46.公務員叩きや除雪作業員への暴言等
    47.節電、節水への協力と利便性のバランス 48.灯油やガソリンの不足と小パニック

    H.子供や教育
    49.大学・高校入試等の行事のタイミング 50.登下校の安全確保、歩道除雪の現実
    51.雪遊びの楽しさと危険、環境学習等

    I.テクノロジー
    52.精緻すぎる天気予報とその活用状況 53.除雪システムの進化とGPSやAIの活用
    54.車の最先端ABSやTCSの普及と理解 55.Googleマップの凄さと補完すべき情報
    56.ロボットやドローンによる未来の除雪 57.雪国自動運転の実現は遥かに遠いのか

    J.メディアと情報
    58.マスメディアの重要性、活用と限界 59.地方メディアの当事者目線による編集
    60.移動中でもネットでつながる安心感 61.SNSの玉石混交、もっとできるはず
    62.災害時における自治体広報のあり方

    K.医療、福祉
    63.緊急車両等のラストワンマイル問題 64.同時多発する緊急事態等の優先順位
    65.薬や輸血用血液等の資材は概ね充足 66.通所・在宅福祉機能のサービス低下
    67.転倒、転落増による一時的病床不足 68.障害者等の災害弱者への配慮と支援
    69.外国人や観光客等への対策と気配り

    L.企業
    70.サプライチェーン寸断とBCPの検証 71.個社と社会全体に関する合成の誤謬
    72.企業による被災者支援や地域貢献 73.企業ができたことできなかったこと

    M.行政
    74.計画と準備と初動は万全だったのか 75.指揮命令系統とリーダーシップの検証
    76.対応はインテリジェンスに満ちていたか 77.鳥・虫・魚の目で対応できていたか
    78.激甚被災者でもある公務員の実情 79.激甚災害指定と復興に向けた歩み
    80.自治体同士の連携、融通、派遣 81.平時からの民とのコミュニケーションの有無
    82.近畿地方整備局管轄による弊害の有無 83.三〇豪雪の記録、総括と検証、伝承等

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  • 好調なベトナム経済と中所得国の罠

    「チャイナ・プラスワン」の本命として注目されてきたASEANであるが、中でもベトナムの好調さが際立っている。2017年のベトナムの経済成長率は6%台後半であることが予想されており、海外からの直接投資も順調に入って来ている。ASEAN10カ国各国の貿易額を比較しても、ベトナムによる輸出入合計額はタイとほぼ並んでASEANトップに躍り出ている。ASEANは先発6カ国(タイ、インドネシア、マレーシア、シンガポール、フィリピン、ブルネイ)と、後発4カ国(ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマー:CLMV)の経済格差縮小を長らく大きな目標としていたが、CLMVの中でもベトナム経済が大きく躍進した格好になっている。

    ベトナムは外国投資をテコとし、先進国への輸出主導というモデルで成功している。ASEANでもタイにおいては日本企業、なかでも自動車、電機といった製造業の進出が大きなインパクトを与え、タイにおける裾野産業を含めた日本のプレゼンスは非常に高い。しかし、ベトナムはタイとは異なり韓国、中国からの投資が際立っている。その中でもエレクトロニクスの分野で、韓国サムスン電子によるスマートフォンの生産、輸出が突出して多くなっている。ベトナムからのスマートフォン(HS8517)輸出は2016年で343億ドルにのぼり、ベトナムの全輸出額の約19%を占めており、その大半がサムスン電子によるものである。エレクロニクス製品は一般にそのライフサイクルが短く、製品のモデルチェンジやメーカーのシェアの変遷も非常に速い。しかしながら、こうしたコンシューマー向け製品1品目で日本円換算で4兆円近い出荷を、開発した本国ではなく東南アジアの工場からおこなわれているのは、かつてなく驚くべきことである。

    製造業特にエレクトロニクスにおいて、日本以外のアジア新興国の躍進という背景があることは間違いなく、さらに中国という大市場における生産・販売からASEANにシフトをおこなった際、韓国などのメーカーがベトナムに集中立地したことは地政学的にも説明が付くことであろう。しかしながら、ベトナムにとってこうした投資ラッシュが長期的な産業の育成に繋がるかは疑問もある。昨今は貿易に関しては付加価値の統計も重視され始めており、輸出におけるその国で付与されたGDP比でみた付加価値率によれば、ASEAN10カ国の平均が35%、ベトナムはミャンマーと並び最低レベルの10%となっている。すなわち材料、部品の大半を輸入し、国内では労働集約的である組立工程をおこない輸出するという下請け的な構造であることを示唆している。

    ベトナムについては、かつて輸出トップ品目が繊維・縫製品であった頃から、「中所得国の罠」という表現で裾野産業の充実が必要であるという産業構造の脆弱性が指摘されてきたが、それは現在でも大きく変わっていない。しかしながら外国投資の流入に加えて、ICT、観光業を始めとするサービス産業の育成も順次進んでいるのも確かである。現在のバブルとも言えるベトナム経済の好調が続く間に強固な産業基盤を整備することで、低位中進国から高位中進国へのステップアップを、マレーシア、タイとは少々異なる道筋で実現することは十分可能であるかも知れない。

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  • 日本および福井のインバウンド戦略に欠けているもの

    日本政府観光局(JNTO)によると、2017年に日本を訪れた外国人は11月までですでに史上最高を記録した昨年の2404万人を上回る2616万人に達している。なんとも景気の良い話ではあるが、気になることが2つほどある。第一に、政府のインバウンド戦略は数を増やすことに拘泥し過ぎているのではないかという点である。実際、「走れば躓(つまづ)く」の諺のとおり各種トラブルも増えている。そこで、ひとつ提案がある。外国人の目からみた日本の観光施設やサービスなどの品質を「見える化」してはどうか。それには、観光品質認証制度を確立するのが有効であろう。私のお勧めはニュージーランド(NZ)のクオールマーク制度である。実は7年前、雪国観光圏(注)の有志達とともにNZを訪問して調べたことがある。NZのインバウンド政策の根幹を担う同制度は宿泊施設やトレッキングなどのアクティビティをはじめ、博物館、美術館などのアトラクションや旅客機、観光バスといった交通機関に至るまでカバーしている。さらに、世界で初めて環境への貢献度についても評価基準に取り込むなど、NZの観光産業の国際的な認知度を高めるとともに飛躍的な発展をもたらしたのである。とここまで言ったが、実は、日本でもサクラクオリティという観光品質認証制度が最近出来上がっており、前述の雪国観光圏を中心に導入が進められているところである。クオールマークに比べるとカバー領域も少なくさらに改善すべき点があると思われるものの、民力でここまで到達したことに対して関係者には心から敬意を表したい。これとは別に、経済産業省が中心となり昨年から運用が始まっているのが「おもてなし規格認証制度」である。サクラクオリティと比べるとチェック項目がかなり少なく内容もやや漠としているものの、より幅広い業種が対象となっていることからお互いに補完的な役割を果たすことが期待できる。ただし、両制度とも、今後、国際的な認知度を上げていくためには横への広がりとともにさらなる改良や新たな連携などによるイノベーションが不可欠だろう。

    2つ目の気になることとは、こうしたインバウンドの恩恵が福井県にはほとんど及んでいないという衝撃の事実である。即ち、2016年に日本の旅館・ホテルに宿泊した外国人は前年比5.8%増の延べ6939万人を記録した一方で、福井県のそれは前年比2.9%減の5万4360人と全国最下位に喘いでいるのである。何故だろうと不思議に思い、外国人の立場になって福井の観光案内所を訪ねてみた。すると、驚いたことに、そもそも福井には観光ツアーも観光バスもないことがわかった。しかし、初めて福井を訪れた外国人に電車やバスを乗り継いで永平寺や東尋坊を回れと言うのも酷な話である。そこで、2つ目の提案である。福井のインバウンド・インフラの整備はもちろん焦眉の急だが、ここでは敢えてマーケティングでいうところのプッシュ戦略による現地への売り込みを提案したい。訪日観光客の9割近くを占めるアジア系は通常、割安で効率的なパック旅行を利用する。ならば、福井や北陸での宿泊と文化的体験などを盛り込んだチャーターバスなどによるパック旅行を現地の旅行社とともに開発し現地の旅行博で売り込んではどうか。たとえば、マレーシアの場合、同国最大の旅行博MATTAフェア2017の来場者数は延べ12万人で、3日間の売上総額は50億円にも達する。そんなのとっくにやっていると言われそうだが、ポイントは現地の旅行社を巻き込むことと現地の目線で商品を開発することだ。現地ではディスティネーション毎に夫々得意とする旅行社が存在する。マレーシアでもっとも有力な訪日旅行社は実は大手ではなく日本のみに特化した非常に小規模な企業だったりするのだ。個々の客にアピールするのではなく、こうした旅行社に福井や北陸のファンになってもらい、そこから現地の顧客に広げてもらうのが私の考える「プッシュ戦略」である。大事なのは彼らにとって唯一無二のユニークで面白い旅体験を企画できるかどうか。まずは、アイデアを募って現地旅行社に売り込み、一緒にMATTAフェアに出かけてはどうか。逆境こそイノベーションを引き起こすチャンスなのだから。

    (注)新潟、群馬、長野3県の7市町村を圏域とする観光圏

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  • マレーシアのデジタル自由貿易区の設置

    1980年代以降のマレーシアは、東南アジア諸国連合(ASEAN)の域内経済協力や自由貿易地域、経済共同体構想の下で近隣国の輸入物品関税の削減・撤廃を進め、自国製造業の発展を図ってきた。
    たとえばテレビの場合、ASEAN域内の貿易額は2001年に4,103億ドルであったが、2015年には1兆5,836億ドルと、約3.8倍増加した。同時期の製品貿易収支を見ると、マレーシアの貿易黒字は1,952億ドルから8,791億ドルへと約4.5倍拡大した。2015年においては、526億ドルの貿易黒字を記録したインドネシアを除くと、他のASEAN加盟8カ国は貿易赤字に留まっている。マレーシアは一部の製造業において、ASEAN全域をカバーする一大生産・輸出国となっている。
    その一方で、近年のマレーシアは製造業に限らず他の産業についても他国との連携強化に努め、産業育成と輸出振興を図ってきた。その典型例がデジタル自由貿易区の設置である。
    ASEANでは今日においても多くの購入・支払いの際に現金が利用され、デジタル決済の比率は約4分の1に過ぎない。今後人口が拡大するとともにインターネット利用者の増加が見込まれることもあって、ASEANは電子商取引およびデジタル決済の「ネクスト・フロンティア」と位置づけられている。
    急成長が期待される域内電子商取引のハブとなるべく、マレーシア政府は直近1年で施策を相次いで打ち出した。2016年11月に、ナジブ首相が中国・アリババのジャック・マー会長と会談し、デジタル経済推進担当の政府顧問に就任することに合意した。17年3月には、同氏が提唱する「電子世界貿易プラットフォーム」を活用したデジタル自由貿易区をクアラルンプール国際空港周辺のローコストキャリアターミナル旧跡地およびセランゴールのセパンに設置し、同年11月には稼働を開始した。アリババは「電子世界貿易プラットフォーム」を通じて、物流、クラウドコンピューティング、モバイル決済などのサービスを提供するためのインフラをマレーシア企業に提供する。
    このデジタル自由貿易区の整備を進め、ASEAN域内で72時間以内に国境を越えた商品の移動が実現すると、受注、梱包、発送、受け渡し、代金回収までの一連のプロセスがマレーシア国内で行われる。
    マレーシアのデジタル自由貿易区は、中国国外では初の「電子世界貿易プラットフォーム」機能を備えたエリアである。今後は欧州やロシアにも同様のエリアが構築される予定であり、ASEAN域内だけでなく域外に向けてもマレーシアからの輸出拡大が期待される。2018年には、マレーシアの商品や文化を中国の消費者にオンラインで宣伝する「マレーシア週間」の開催がすでに決定している。
    デジタル自由貿易区が持つもう一つの重要な側面は、中小企業開発である。マレーシア企業の98.5%が中小企業であり、経済の主要エンジンとなるべきであるが、国内総生産への貢献率は40%に満たない。そこでマレーシア政府は、小売業を中心に中小企業に対してデジタル自由貿易区への参画を呼び掛けた。2017年11月時点では、当初の目標を大きく上回る1,972社もの中小企業がデジタル自由貿易区に登録している。2025年までには60,000人の新規雇用の創出が見込まれており、中小企業の輸出額は380億ドルに伸張すると予測されている。
    デジタル経済に迅速に対応し、中国企業の支援を仰ぐことで、電子商取引の集中都市がマレーシアに形成され、同国における雇用創出と他国への輸出増加が予想される。現地に進出する日本の物流企業や小売企業にとっても、大きなビジネスチャンスをもたらすであろう。

    ※本稿の執筆にあたっては、New Straits Times 2017年11月4日記事「DFTZ, an idea whose time has come」と「Jack Ma pledges to help turn Malaysia into a regional digital powerhouse」、マレーシアデジタル自由貿易区のホームページ「DFTZ Goes Live」(https://mydftz.com/dftz-goes-live/) を参考にした。

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  • 日常的な出来事

    今月はいろいろなことがありました。

    国内では、衆議院議員選挙、二度の台風、プロ野球のドラフト、オリンピックまであと1000日など。煽り運転、中学生の自殺などの報道も連日のように見聞きされたことでしょう。国際的には、ノーベル文学賞に日系英国人が、ノーベル平和賞に日本のNGO7団体も参加する核兵器廃絶国際キャンペーンが選ばれ、中国共産党大会が開催、北朝鮮の長距離弾道ミサイルが何とか。

    福井駅構内でハロウィンの仮装妖怪たち(学生?)が徘徊するのを眺めながら、今月のコラムのテーマを何にしようかと考えあぐねていたところ、ふと我に返り、”これらはどれも私が敢えて扱うべきテーマではないなぁ”と気づきました。少なくとも私にとって(もしかすると皆さんのなかにも同じようにお感じの方がおられるかもしれませんが)、最大の関心事は日常です。平常心で定常的な社会の動きを追うことにしました。

    今月、最新の厚生労働白書が発行されました。私たちの日々の生活を鑑みるのに比較的適した読み物のように思います。本書では「日本の1日」と題して”日本で一日に起こる出来事の数を調べて”います(調べるといっても既存の統計を日換算しているだけですが・・・)。私もこれに倣い、福井の一日に起こっている人口動態を概観してみます。

    福井で一日に生まれる赤ちゃんは16.7人。一方、亡くなるのは25.2人で、うち90%強が65歳以上の方々です。その結果一日に人口が8.5人減っています(2016年の1年間の自然減少は3,116人)。一日に亡くなる25.2人のうち、新生物(癌)が原因の死亡は6.9人(死亡者総数の27.3%)、心疾患や脳血管疾患などの循環器系の疾患による死亡が6.6人(26.0%)。老衰は1.9人(7.7%)で、不慮の事故でも1人(4.1%)亡くなっています。不慮の事故は家庭内で起こるものが多く、食事中の窒息、お風呂等での溺死、転倒などが約70%を占めているので、日ごろから気を付けましょう。ちなみに福井における交通事故による死亡は0.1人/日で、年間では約60人です。

    一日の婚姻は9.4件、離婚は3件です。よく”夫婦の3割が離婚!”などと言われるのは、この数字をもとにしていることが多いようです。

    他県から福井県に転入してくる人は23.4人で、逆に福井県から転出していく人は28.4人です。その結果、一日に5人ずつ福井県から住民が減っています(2016年の1年間の転出超過は1,820人)。

    今年2017年も残すところあと2カ月、平成の時代もそろそろ終わりに近づいています。皆様、いろいろお世話になりました。

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  • 多死社会の到来

    敬老の日を前に厚生労働省が9月15日に発表した高齢者調査の結果によると、100歳以上人口は全国で6万7824人となり、10年前の約2倍、20年前の約8倍に増えたという。こうした現象も超高齢化社会の一つの側面であろう。

    国立社会保障・人口問題研究所は、新しい国勢調査が実施される度に将来人口推計を更新している。1995年国勢調査を基準とした推計結果(出生中位・死亡中位)では、65歳以上人口は2041年に3,380万人でピークを迎えると推計されていたが、最新の2015年国勢調査を基準とした推計結果(出生中位・死亡中位)では、2042年に3,935万人でピークを迎えるという推計結果となっており、高齢者数がピークを迎えるタイミングはほとんど変化がないものの、その数は約560万人増加している。これはこの20年間で高齢期の死亡率が改善され、今後もその変化は続いて寿命がさらに伸長すると見通せるようになったことによる。2015年の完全生命表によると、65歳の平均余命は男性で19.4歳、女性で24.2歳となっている。定年後も平均して20年近く生き続けるようになっており、そうした寿命の長さを念頭に置いた上で人生設計を考える必要性は増してくるだろう。

    超高齢化社会というと、増加する高齢者の生活をいかにして支えるかということに関心が向けられがちであるが、今回は死亡数の増加に注目してみたい。すなわち、超高齢化社会が多死社会であるということである。高齢期の死亡率が改善されたとはいえ、若中年層よりは遥かに高く、死亡の多くは高齢者から発生する。厚生労働省の人口動態調査によると2016年の死亡数は約131万人であり、ここ数年にわたり同調査では年間の死亡数が過去最高を更新し続けている。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2030年頃には年間の死亡数が160万人を超え、それが2070年頃まで続くと見通されている。毎年福井県の総人口の倍以上の死亡が発生する状態が長期に渡って継続する社会がもうすぐやってくる。まさに多死社会の到来である。この多死社会を地域づくりの観点から考えると、墓地不足や火葬場の処理能力等、これまで積極的な議論を避けがちであったようなテーマが喫緊の課題となる。これから先、私たちが生きる社会では高齢者の生活をどのように支えるのかということを考えるのと同時に、増えていく死亡にどう対応するのかということも極めて現実的な課題としてのしかかってくるだろう。

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  • 因果関係とAI

    因果応報。自業自得。身から出たさび。

    ヒトは物事に原因を求めるのが好きだ。そして結果がうまくいかなかったときはこう考える。
    「次は同じ結果にならないように、違う過程を踏もう」

    うまくいったときは同じ手順で同じ結果を求めようとする。ヒトはたぶん、生まれ落ちてからこの思考と行動を繰り返している。

    結果が出て、時計の針を戻せないのがわかっているにもかかわらず、遡って原因を探る。そして次はこれまでの経験を踏まえ、よく考えながら歩みを進める。結果と過程のどちらが大事という問題ではなく、結果がすべてであり、そのためにも過程が重要だと解釈したい。

    ヒトの知的好奇心が結果に原因を求めるのであろうか。その拠り所は、経験値に長けた長老の先を読む力から、科学的知見とそれに基づく論理的思考へと変化してきた。謎の相関が観測されていた事象間に、因果関係が明らかになっていく。科学技術の飛躍的進歩によって、世の中のすべての事象間の関係性が、やがて解明されるのではないかという幻想を抱かせる。

    ところが、ヒトが発明したAI(人工知能)がこの流れを一変させようとしている。現在の科学的知見と論理的思考では、”風が吹けば桶屋が儲かる”と同じくらい荒唐無稽に思えるような関係性を、AIが”答え”として導き出しつつある。ヒトが与えた多変量解析等のツールを単純に高速に処理しているわけではないため、ヒトはその答えに至る過程を理解できない。

    ところで、AIの興味は相関関係の強さにあり、因果関係の認否はどうでもいい。いや、因果関係をデータで測ることはできないことのほうが多いという表現のほうが正しい。ヒトは、そこに現時点における科学的知見と論理的思考から、勝手に因果関係を認否しているに過ぎないのかもしれない。

    私が作成したデータ分析に関する教材には、”相関関係と因果関係(の違い)”を解説した箇所がある。そのページが時代遅れになる日も近いと感じている。

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  • 「黒い白鳥」に怯える世界経済

    通常は白く美しいはずの白鳥が、突然変異で黒い個体が現れることがある。これをあり得ないこと、予測できないことに喩えて「ブラック・スワン」と言うことがある。東日本大震災のような大規模自然災害や、サブプライムローン危機から派生した世界金融危機が近年のブラック・スワンの最たるものであろう。2016年には2つのブラック・スワンが見られた。1つは昨年6月におこなわれたイギリスにおける国民投票で、欧州連合からの離脱いわゆるBrexitが予想を裏切って決まった。今ひとつはアメリカの大統領選であり、大方の下馬評を覆してドナルド・トランプ氏が第45代アメリカ合衆国大統領に選出された。いずれも政治の世界の出来事ではあるが、世界経済にも大きな影響それもネガティブなインパクトとなって現れるであろうとみられていた。

    しかしながら、今年2017年の先進国を中心とした世界経済はここまで堅調であり、マーケット特に株式市場は米ダウが史上最高値を何度も更新するほどである。トランプ新大統領の経済政策に期待をかける「トランプ・ラリー」だけでは説明がつかないことが多々起きている。こうした背景もあり、アメリカの金融政策はQE(量的緩和政策)から政策金利を段階的に上げる出口戦略を進めることはすでに織り込まれている。こうしたアメリカの政策転換は、途上国・新興国からの資金引き上げと、これらの国・地域の成長鈍化を招くことはこの数年来言われてきたことでもある。またこの数年の原油など世界のコモディティ価格の大幅下落により、資源輸出国の経済パフォーマンスは相当悪化している。そのため、かつてBRICsと表現された高成長新興国市場にも、大きくその陰を落としている。

    その中で、常に世界の成長センターであり続けたのがアジアの経済圏であり、中核となったのは、中国でありASEANであり現在ではインドが成長を牽引し始めている。こうした世界経済の「アジア一本足打法」は、1992年の南巡講話以降の中国高度成長による寄与が大きかった中で、現在が最も顕著であろう。アジア経済のコンスタントな成長は当然ながら望ましいが、1990年代から大きな自律的調整もなく伸び続けてきた特に中国のような国は、社会的にも経済的にも大きな構造調整、リバランスの必要性を抱え続けている。こうした内的要因にアジア通貨危機のような偶発的な外的要因が加わった場合、見えていなかったアジア経済の脆弱性が一気に現れる可能性がある。

    グローバル化の進展により、地域の変動が世界経済へ与える波及効果は大きなものになっている。2007年のサブプライムローン危機に端を発する世界金融危機では、アメリカの市場原理主義の故であるとの声が聞かれた。しかし現在ではアジアの経済規模が格段に大きくなっていることから、アジアにおける危機的な負の事象は世界的な影響をもつだろう。また逆に欧米など先進国でそれが起きた場合にも、アジアの受けるダメージはさまざまな経路で拡散するであろう。今年はアジア通貨危機から20年、世界金融危機から10年が経過している。「ブラック・スワン」はどのような形で潜んでいるか判然としないが、長期におけるその出現の確率は非常に高いことを念頭に入れておくべきだろう。

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  • 国際標準化戦略で日本再生を

    グローバリゼーションによって「競争のルール」が変わったと言われるが、今、現実に起きているのは「ルール(国際標準化)の競争」である。背景には、95年に発効されたWTO/TBT協定がある。これは、制度や規格が貿易上の不必要な障害とならないように、国内規格を国際規格に準拠させることを原則義務付けるものである。さらに、96年発効のGPA協定では、政府調達における技術仕様も国際規格に準拠することを義務付けている。これが問題となったのは、JR東日本が01年、ソニーが開発した国際標準未取得のFelica方式のICカード(Suica)を調達しようとした際のことだ。モトローラからWTO政府調達違反として異議が申し立てられたのである。たまたま、モトローラ方式ICカードの国際標準が成立前であったため、申し立ては却下。その後、Felica方式も国際標準化されたものの、日本の国際標準化への対応の遅れと認識の甘さが露呈されることとなった。

    一方、ヤクルトは2010年、コーデックス委員会に働きかけ、乳酸菌飲料を発酵乳規格の4つ目のカテゴリーとして位置付けることに成功。国際的な認知度が高まるとともに、健康食品としての認定を受けたことで、イタリアでは、付加価値税が20%から10%以下に低減されるなど売り上げ拡大につながっている。

    このように、TBT協定によって、国を問わず、国際標準が競争のルールとなり、国際標準化が各国産業や企業の国際競争力を決定づける重要な要素となったのである。一方、オリンピックやF1の例を挙げるまでもなく、ルール改正を通じて、日本はいつも苦渋を味わってきた。由々しき事態は、企業の海外展開においても起こっている。例えば、タイの自動車税制はこれまで、日本に有利なHV優位の(車両構造に基づく)税制だったが、ドイツ自動車工業会がタイ政府に働きかけた結果、欧州に有利なCO2排出基準ベースの物品税制に変わってしまった事案がある。
    こうしたことから、日本政府は今、国際標準化戦略を通商政策の中心に位置づけている。今後、特に、緊要と思われるのが以下の3点だ。
    (1) 標準化人材の育成
    問題なのは、事の重大さに気づいていない経営層が多いことと、標準化のビジネスインパクトについての評価指標が確立していないことである。これでは、いくら優秀な人材がいたとしても、やる気も起きまいというもの。まずは、経営層の意識を変えていくことだ。
    (2) 日系グローバル認証機関の実現
    国際標準化に際して、第三者認証機関の存在は不可欠だ。そこで、問題視されているのがグローバルな日系認証機関の不在である。海外の巨大な認証機関に比べると、国内の認証機関は規模も小さく海外展開も遅れている。いきおい、グローバルな海外認証機関に依頼せざるを得ないのが実情であろう。ところが、割高なコストや外国語対応への負担に加え、認証取得に時間がかかることで海外展開に遅れを生じるといった問題が報告されているのだ。さらに、性能規定化されている場合には、詳細技術情報が国外流出する恐れもある。このため、ある国内メーカーでは、自社開発製品の国際規格を2つ取った際、リスク分散のため、それぞれ別の国の認証機関に依頼しているという。今後、日本が世界に誇る上下水道や交通システム、エネルギー・プラントといったインフラの海外展開を円滑に進めていくためにも、グローバルな日系認証機関の出現が望まれる。
    (3) 標準化活動におけるアジアへの貢献を通じた連携強化
    新たな国際規格として承認を得るには、数の力が必要である。そのためには、まず、価値観が近いアジアの中でまとまること。わけても、日本との信頼関係が厚いASEAN諸国との連携は不可欠だ。この点において、近年、日本がアジア諸国と連携し、インバータエアコンの性能について適正に評価されるISO規格を制定したこと。さらに、ベトナムがそれに基づく省エネ性能の評価基準を導入しようとした際に、日本が技術支援など環境整備の協力を行ったことは特筆に値する。一方、ASEAN経済共同体における基準認証分野の調和に関しては欧州勢が積極的に支援しており、日本は後手に回っているのが気懸りである。

    こうしてみると、グローバル競争時代においては、たとえ、一企業といえども、ルールに対して受動的ではなく能動的に向き合うことが必要だろう。一方、今日のグローバルルールにはローマ帝国やそれに続く中世ヨーロッパに淵源を持つものが多いと言われるように欧州勢には一日の長がある。しかし、彼らも決して万能なわけではない。EUでは、政策決定の過程に民意が十分に反映されないといった「民主主義の赤字」問題を抱えていることもまた事実である。大事なのは、環境保護、人権擁護、貧困撲滅、自由貿易などといった国際社会が共有する理念や原則を踏まえつつ、日本再生のためのグローバルなルール作りに、今こそ、オールジャパンとして打って出ることではないだろうか。

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