日本の国際競争力の回復に向けて
スイスのビジネススクールIMDが毎年発表している「世界競争力ランキング」によると、2022年の日本の順位は63か国中34位となっており、その凋落ぶりが際立っている。主な原因とされるのが「ビジネスの非効率性」だが、なかでも、「経営管理(management practices)」は最下位となっている。デジタル化とグローバル化に伴う人材(タレント)の育成や多様化の遅れが主な原因とみられる。
関連項目をみると、新たな技術を発見したり理解したり、そしてそれを生み出すために必要とされている「国際経験」が最下位(63位)となっており、中でも、「管理職の国際経験」の無さは突出している。MLBで活躍する大谷翔平やサッカー・ワールドカップで活躍した日本チームが証明しているように、世界と戦うには、普段から世界の中で揉まれることが大事である。今後は、留学や海外研修・派遣の機会をより積極的に増やす取り組みが望まれる。
一方、教育面での問題点として、実際のビジネスに必要な「経営教育」が同60位であるほか、世界経済フォーラム(WEF)が2019年に行った調査では「クリティカル・シンキングに基づく教授法」が141か国中87位となっている。現実の社会では、決して、答えは一つとは限らない。さまざまな側面から考える力を養う教授法がより一層強く求められている。
そこで、重要となってくるのは「多様性」である。文化と経営領域における世界的なパイオニアであるホフステードによれば、日本は、アジアで1位、世界でもスロバキアに次いで第2位の「男性性」文化の国である。そうした国では、北欧系に多い「女性性」文化の国と比べて多様性を受け入れる素地が整っていないとされる。それは「女性の研究者」(同55位)の少なさや「高度外国人材にとっての魅力度」(同54位)の低さにも顕れている。また、日本は「不確実性回避」が強い社会でもある。そのような社会では、失敗を恐れるため、イノベーションが起こりにくいとされる。イノベーションに必要な「失敗を受け入れる文化」の特徴でもある「ビジネス・アジリティ(俊敏さ)」が日本は62位であるのもそのような文化と無関係ではない。因みに、同ランキングで昨年3位から今年1位に躍り出たデンマークは、意見をぶつけ合うことができ(「権力格差」が小さい)、多様性や失敗を受け入れる素地がある(「女性性の社会」で「不確実性の回避」が弱い)など、日本とは異なる文化であると言える。
こうした文化的背景を踏まえると、日本が多様性を高めるには、内からの変革だけでは難しく、外からの刺激が必要と思われる。有効な処方箋として、留学生を含めた「高度外国人材」や日本企業が持っていない技術や経営ノウハウなどを有する「外資」の活用を提案したい。特に、日本の場合、対外直接投資(FDI)のストック(残高)はGDP比で37%に達しているのに対し、対内FDIは同5%に過ぎず、OECD諸国(加盟国平均で同56%)の中でも圧倒的に対内FDIの割合が小さいことが問題視されている。なぜ、これが問題かと言うと、第1に、外国企業の優れた技術や経営ノウハウといった経営資源の移転効果の機会を逸してしまっているからである。米国や中国の経済的活力の背景には世界のFDIがこの2カ国に集中してきたことがある。日本の場合、フローにおいても、対外FDIと対内FDIの差が約10倍あることから、投資を国内から海外に押し出してしまう「クラウディングアウト」のメカニズムが働いている可能性も否定できない。対内FDIは本来、国内で不足している資本を肩代わりしてくれる効果が期待できるのである。たとえば、現在、鯖江にはルックスオティカという世界最大のアイウェア企業が進出しているが、世界トップクラスの福井のめがね製造技術と世界レベルの経営ノウハウの融合による経営の安定化と新たな付加価値の創造に結びついている。
有望な外資の流入を促進するには、日本企業にはないコア・コンピタンスを有する外資には優遇措置を講じるといった政策も場合によっては必要である。チリでは、世界中からスタートアップ企業を募り、審査にパスすれば、4万ドルの無償資金と1年間の滞在パスが付与される「スタートアップ・チリ・プログラム」が実施されているが、今では「チリコンバレー」と言われるほど、スタートアップの集積につながっている。
日本でも、そろそろ異文化アレルギーを卒業する時期に差し掛かっているのではないだろうか。必要な企業や人材に対しては、国籍を問わず、活躍の場と安心できる環境を提供するなど、日本での活動を「不安」ではなく「期待」と「希望」に変えるような政策や取り組みが望まれる。