福井県立大学地域経済研究所

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人口からみた選挙制度と年齢

佐々井 司

諸制度には適応される対象年齢が定められているものが多い。

6月17日に18歳以上に選挙権を与える改正公職選挙法が成立した。安全保障関連法案の議論に隠れてあっさりと可決された感がある。経過はさておき、これによって来夏の参院選では、日本の歴史上初めて18、19歳の未成年者が国政選挙で投票することになる。

来年の18、19歳人口はあわせて約240万人。日本のような先進国では乳幼児ならびに若者の死亡率は低い。さらに、国際人口移動が相対的に少ないわが国では、出生時の人口と数年後、十数年後、少なくとも成人期までの当該年齢人口が概ね一致する。よって、今から17、18年前の出生数(1997年119万人、98年120万人)をみれば、将来人口推計など難しそうなことをしなくても、制度変更によって影響を受ける人口の概数くらいは誰にでも見当がつく。

ただし、地域別には状況が異なる。死亡率には全国的にさほど大きな地域差がないものの、選挙区間を跨ぐ人口移動は激しい。とりわけ大学進学時に移動する若者が多いことは皆さんもお気づきであろう。今日の日本の若者は男女とも半数が大学に行く。地元の高校生が卒業後に域内の大学に行くのか、域外の大学に行くのかによって、地域の人口は大きく変わる。当然のことながら、新たに選挙権を得る18、19歳人口が多い地域と少ない地域が出てくる。大学数の最も多い首都圏、福井県からも近い京都や大阪の大学には全国から多くの若者が集まる。単純に考えれば、今回の選挙制度の変更によって、”一票の格差”はこれまで以上に広がることになる。今回の制度変更は”一票の格差”是正を目的としたものではないことが分かる。では何が目的なのであろう?

人口の年齢構成からすると高齢化が進むにつれて選挙権を持つ人口(現行20歳以上人口)に占める高年齢者の割合が高くなり、若者の声が政治に反映され難くなっていることへの対応とみる向きもあるが、今後18、19歳の新たな参入によって投票状況を含めた選挙の在り方が変わるのか否か、今後の実績をしっかりと検証し見極める必要がある。

ちなみに、選挙権は選挙人名簿に登録されている地域で与えられる。所管官庁の総務省のHPでは、”選挙人名簿に登録されるのは、その市区町村に住所を持つ年齢満20歳以上(※これが今回18歳以上に変更される)の日本国民で、その住民票がつくられた日(他の市区町村からの転入者は転入届をした日)から引き続き3力月以上、その市区町村の住民基本台帳に記録されている人です”と書かれている。要するに、住民票を異動させなければ、域外の大学所在地で生活していたとしてもそこで投票する資格は無い。逆に言えば、投票したい地域に住民票を残しておけばそこに住んでいる実態がなくても投票ができる。なお細かいことを言えば、住民票の異動後3か月以上経っていなければ選挙人名簿に載らないので、来夏の参院選がいつ行われるか、いつ住民票を移すかによって、当地の選挙権が得られるか否かが決まる。

選挙法が改正された日の夕刻NHKの福井県版ニュースを観ていると、福井県知事の西川氏が”ふるさと投票”と言っておられた。福井県外で進学したり就職したりしても生まれ故郷の政治や行政に関心を持ち続ける若者が増えることはとても大切だと思う。”ふるさと納税”同様、地域社会を支えるツールの一つに繋がれば望ましいと考える。余談だが、上述のNHKのニュースでは的外れなコメントがされていた。確か、福井県においては住民票登録人口よりも戸籍簿に登録されている人口が多いので、”ふるさと投票”の知事のアイデアは今後18、19歳の若者の地元関心を高める妙案である、とか。個人の戸籍がどこに置かれているのかと選挙制度とは全く関係がないので、何を言おうとしているのか私にはよく分からなかった。

ちなみに、議員定数は5年に一回行われる国勢調査の結果をもとに更新される。今年の数か月後の10月1日が調査日だ。ただ、国勢調査は現住地で国民の状況を把握するもので、住民登録とは直結していない。選挙で選ぶものと選ばれるものの人数が異質の人口統計をもとに決められている。今回の公職選挙法の変更を機に若者の投票への関心についての議論が盛んに行われているようであるが、わが国の選挙制度には私たち”大人”がまずしっかりと考えなければならない課題が少なくないように思う。