福井県立大学地域経済研究所

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現地化について考えること

齋藤 毅

およそ過去30年、日本からアジアに進出する日本企業(製造業)は海外子会社で管理職を担う幹部人材の「現地化」が遅れていると批判されてきた。しかし、現時点でもなお現地人をマネジメント層に登用するという動きはあまり進展がみられない。この「現地化」という言葉は、その含意として「日本人中心の経営の弊害」、「現地人への事業運営の移管」、「日本人ゼロ」、「現地人の経営参加」といった事柄がイメージされる。しかし、現地化を推進することのリスクも決して小さくない。しかし、国内外の研究者の多くはそのリスクを過小評価し、「日本人中心の経営の弊害」ばかりを指摘してきた。

ここで言う「日本人中心の経営の弊害」とは、海外子会社の主要な意思決定のポストに現地駐在の日本人スタッフがつくために現地人の「モチベーション」が停滞するとか、有能な現地人の「確保・定着」が困難になるとか、あるいは、給与水準の高い日本人スタッフに頼った事業運営は「日本本社側のコスト」の増大につながるとか、「現地適応する」にも敏感に現地の市場ニーズをキャッチできないとか、様々な問題を意味している。

いずれも「日本人中心の経営」特有の問題であるが、逆に、「過度の現地化」(=日本人スタッフを減らしすぎること)にも次のようなリスクが潜んでいるのも事実である。海外子会社がグローバルな視点を持つことが難しくなること、日本人に海外経験を積ませることが難しくなること、日本本社が海外子会社をコントロールすることが難しくなること等がそれである。

つまり、日本の進出企業がマネジメント層の現地化を考える際、「日本人中心の経営の弊害」と「過度の現地化」に潜伏するリスクの両面を勘案する必要があるということである。

この課題に対して日本の進出企業はどのようにして対処しているのか。一例であるが、インドに現地子会社を持つ日系自動車部品メーカーでは、当該子会社の経営トップが「現地人」であり、「労務管理」、「営業」を担当している。それ以外の「技術・品質面と資金面の管理」は「日本人スタッフ」が責任をもつ。つまり、経営トップは「現地人」であるが、同社の場合、管理項目の主要な柱である、品質、財務面については「日本人スタッフ」に責任を持たせることで、海外子会社が本社の意向を無視して独走することに対して一定の歯止めの管理を行っている。したがって、経営トップが「現地人」であると言っても字義通り「現地人」が海外子会社の管理を行う完全な権限を持っているわけではなく、一定の管理権限は「日本人スタッフ」が握っているのである。

このように、「現地化」という言葉は聞こえがよく、「日本人中心の経営の弊害」を意識させ、現地人に経営を任せればうまく行くという考え方の普及に寄与した。しかし、実態は日本人スタッフが担っている高いポジションを現地人に全面的に任せる例はあまりみられない。現下の日本の進出企業の本音をあえて言えば、「経営が上手く行けば、現地人であろうが日本人であろうが、誰が経営しようが、たいした問題ではない」。現地化というよりも、経営管理をしっかりして着実に利益を上げることのほうに注力するという状態が続いているのである。