福井県立大学地域経済研究所

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森林の多面的機能の維持は誰が担うのか?

福井県立大学 地域経済研究所兼担教員、地域政策学部地域イノベーション学科教授、  副学長(学生支援・ダイバーシティ推進担当)、学生部長、保健・学生相談センター長  石丸香苗

 森林は木材以外にも、きれいな水や空気、土砂災害や洪水災害に脅かされない安全な生活など、私たちの生活を支える恩恵を生み出している。この働きを「森林の多面的機能」と呼び、生み出される恩恵は森林が持つ「生態系サービス」と呼ばれる。

 しかし、日本では近年の林業不振から特に人工林の手入れが不足し、森林の多面的機能の劣化が問題となってきている。森林面積の大きな変化は認められないばかりか、森林蓄積量は約50年で約2.6倍の増加を示している(図1)にも関わらず、生態系サービスの劣化は甚だしい。これは、海外産材などとの価格競争や林業人材の不足などによって、伐期を過ぎた人工林が全国的に増えたことに起因する。福井県でも同様の傾向で、全国平均に比べると齢級の高い森林の割合は少ないものの、人工林の7割が主伐期に入っている[i]。

 生態系を構成する生物の競争と相互作用によって動的安定が保たれる天然林に対し、人工林は植生も樹齢も密度も人間が計画するため、人の手が継続的に関与して維持管理を行わないと、健全な林分に育たない。これまで民有林の整備は木材生産等に必要な施業として生産者が担ってきた。つまり民有林の生態系サービスは、市場価値を持つ木材生産のために行われた森林整備によって、副産物的に生じていた市場価値を持たない便益であった。令和6年度から開始された森林環境税は、民有人工林が生態系サービスを発揮するために必要な事業にかかる費用を、生態系サービスの受益者である国民が等しく負担するための税である(図2)。福井県では令和6年度の森林環境譲与税の譲与額は約7200万円で、主に林業人材育成などに活用されている。

 ところで、福井県の森林面積率は74%で、都道府県平均の68%を上回る全国11位に位置する一方、林業産出額は合計15.8億円と全国41位に留まっている[ii]。では福井県は昔から森林を利用してこなかった土地なのかというとそうではない。福井県の植生分類を見るとわかるが、東側山地の大部分は冷温帯代償植生、西側と嶺南は暖温帯代償植生が占める。代償植生とは、人が関与することによって天然の植生分布の代わりに優占している植生である。つまり、福井県の多くの山地は人が利用してきたことでできた森林である。かつて、森林の資源は木材だけではなく、木炭などの燃料、家畜や養蚕の飼料、田畑に漉き込む肥料、山菜や木の実や獣などの食糧、竹や萱などの建築材料、身にまとう蓑や和紙の原料など、生活のすみずみまでを人間に提供していた。そのため、多くの人々が森林と近い山里に住んでおり、製炭業は山里における現金獲得のできる主要産業のひとつであった。そうやって、多様な使い方で人の手が入っていた場所が、所謂里山である。

 現在、県は林業政策として、需要が伸び悩んでいるA材B材の利用促進のため、B材加工工場の誘致やA材の販路拡大などを打ち出している。もちろん、木材の活用を拓くことも大切であるが、森林が人や社会とどう触れ合うかというのも大切なことであると思う。現代の生活では、過去の暮らしのように生活資源をすべて山の資源で補うことは難しい。しかし、過去の利用方法を参考に、現代の新しい森林利用のアイデアを考えることもできるのではないか。例えば、薪ストーブのためのオーナー制薪炭林や、林床のリターを活用した肥料、増加する竹のエコ梱包材利用、下層でのミツマタやウラジロなど文化的材料の栽培など、多様な使い方がもう少し広がれば、多くの人たちの生活に森林を入れ込むことができるのではないか。

 生態系サービスの持続的な享受を可能にするためには、社会や個人の生態系維持への積極的な関わりが必要になる。森林の多面的機能は個別に発揮されるのではなく、複合・重複して発揮されるものである。また、人が期待する機能を森林のみに頼るのではなく、他の方策と補完しあい、人間の行動や社会の取組と共になることで十分な効果を上げられることに留意しなくてはならない。私たち自身が生態系に関与する一要因だという認識を持ち、森林生態系の持つ生態系サービスの維持に対して責任感を持つ意識転換が求められている。

図1. 日本の森林面積および森林蓄積の推移(林野庁『森林・林業統計要覧2025』より作成)

図2. 森林環境税の仕組み


[i] ふくいの森林・林業の未来を切り拓く基本計画 [令和7年~11年度]

[ii] 令和6年林業産出額. 農林水産省