忘れがたい瞬間か、大いなる幻想か
4月に本学に着任して4ヶ月。忘れがたい瞬間に遭遇したのでお伝えしたい。本学では例年8月初めに、高校生や保護者に大学を開放するオープンキャンパスを実施する。地域政策学部では、学部長による学部紹介、教員3名による模擬講義があり、最後に質疑応答がある。今年度は初の新入生を迎えたことから、質疑応答を大学生に担当してもらうこととなり、私がその分掌となった。
新入生74名に参加を呼びかけたところ、アルバイト代が出ることもあってか、19名の応募があった。そのうち6名の学生と私で企画チームを作り、グループトークと名付けた学生主体型質疑応答の企画案を作成した。その内容は、説明会最後の25分間を使って、高校生10人程度の班に学生1人が入って少人数で対話を行うこととなり、「大学生と話せてよかった」と来場者に思ってもらうこと、および参加大学生のコミュニケーション能力を向上させることの2点を目標に定めた。オープンキャンパス2日前の会場設営後に14名が集まり、企画案を共有した。当日朝の直前ミーティングには19名の学生全員が集まり、まず教室の机2列単位ごとの分担場所を確認した。その上で、企画チームメンバーによる模擬グループトークの実演を含め、進め方シミュレーションなどを行った。
説明会は午前と午後に分かれ、同じ内容を2回繰り返した。来場の高校生は2回とも募集上限の150名に達し、教室はほぼ満杯となった。説明会では、分担した机に座った高校生との班づくりに先立って、積極的に話しかけることで歓迎ムードを作るように学生たちに促した。グループトーク本番では、大学生各自が工夫した自己紹介アイスブレークに続き、高校生から出た質問に答えたり、質問がない場合は大学生から話題を振るなどした。活発な高校生がいた班では対話が順調に進んだが、中には沈黙の時間を過ごした班もあったようだ。午前の部が終了後、振り返りを行い、答えに窮した質問に対する対応などの情報共有を行い、昼食休憩となった。
「忘れがたい瞬間」が起きたのは、午後の部の入場前であった。会場ドア前で待機していた大学生たちがいよいよ入場というとき、1人の女子学生が「みんなで手を重ね合わせよう」と声を上げた。そして私に向かって「声だしは先生だよ」と言う。この企画で初めて会ったばかりの学生だったので少し意外だったが、その場にいた10人ほどの学生が次々と手を重ね合うように差し出した。私も手を重ね合わせて、「行くぞ!」と言うと、即座に皆から「おー!」という声が返ってきた。ほんの数秒間の出来事であったが、学生たちが自然発生的に気合いを入れ合うというのは、まさしく主体性・協働性の発露であったと思う。ただし学生目線からすれば単なるノリであり、私の大いなる幻想だった可能性も否定しきれない。気になったので、後日、その場に居合わせた若手事務職員に尋ねたところ、「何かいいなーと思った」とのコメントだった。だとすると、私の思いもあながち幻想ではなさそうだ。何れにしても、教員目線からすると意図せざる形で貴重な瞬間をもたらしてくれた学生たちを誇らしく思う。
教育の場でも、職場でも、構成員の主体性を涵養するのは決して容易ではない。実現困難な目標と言ってもよいかもしれない。私の次の仕事は、どういった条件下で構成員の主体性・協働性が発露されるのかを一般化し、それを大学教育、ひいては地域づくりに活かすという難題に挑むことだ。
