福井県立大学地域経済研究所

お知らせ

  • 新型コロナウイルスもマスクも中国製

     昨年12月,中国・武漢市で発生した新型コロナウイルス感染症COVID-19が世界中に蔓延した。3月11日,世界保健機構(WHO)のテドロス事務局長は世界的な大流行を意味する「パンデミック」と認定した。3月30日現在(※),世界全体で感染者数717,457人,死者33,778人であり,日本はそれぞれ1,866人,54人(クルーズ船感染者含まず)であった。感染者で見れば,米国139,675人,イタリア97,689人,中国81,470人,スペイン80,110人,ドイツ62,095人,フランス40,174人に達している。しばらく世界で感染拡大が続くだろう。
     政府は,感染拡大を防ぐため,イベントや集会の自粛,小中高の臨時休校措置を要請した。大相撲,プロ野球,Jリーグ,プロゴルフなどのスポーツ競技が無観客開催,延期や中止となった。選抜高校野球も中止と決まった。東京五輪の開催に向けて準備が進んでいたが,3月24日,IOCの臨時理事会は東京大会を1年程度延期することを正式に決定した。選手,大会関係者,国民もいろいろな再調整が必要だが,何よりもコロナ感染の収束を望むだけである。
     新型コロナウイルスは見えないだけに始末が悪い。ひとが理性を失って行動する。薬局ではマスクや消毒液が売り切れ,再入荷も分からない。マスクは市民よりも医療現場で必要である。マスク不足は,日本で生産していないのが原因である。1985年のプラザ合意以降,極端な円高ドル安が進む中で,広大な市場と賃金の安さが魅力の中国で生産移転が進んだ。やがて中国は「世界の工場」となった。日本にも中国製品が溢れている。家電製品も日用品も,そしてマスクも中国製である。まさに「軒を貸して母屋を取られる」のごとくである。
     海外生産は,その分だけ国内の生産を不要とする。工場には雇用と技術とノウハウが満載であるが,それが丸ごと海外に移転される。移転した分だけ日本の雇用が減少する。海外子会社を含めた連結売上高が増大し,連結利益が「過去最高!」と報道されても,国内生産が増えなければ,日本の雇用も給料も増える訳ではない。政府や新聞が言うほどに豊かさを実感できないのは,そのためである。
     ここ5年をかけてブルドーザなどの建機メーカで,世界第2位のコマツを調査してきた。連結で売上高2兆7,252億円,営業利益3,978億円に達するグローバル企業である。ちなみに野路國夫会長は福井県出身である。売上高の87%は海外で,日本はわずか13%である。しかし,マザー工場制の下で,日本では基幹コンポーネントを生産し,それを多数の海外子会社に輸出して製品に組み上げる。日本で生産高40%を確保して,雇用と技術と競争力を日本国内で堅持している。「丸投げ型」海外生産とは一線を画するコマツの海外戦略である。
     福井でも,多くの企業が中国に進出した。市場の将来性と賃金の安さが中国進出の決め手だった。中国の成長とともに賃金上昇が続く中でメリットも薄れてきた。「日本回帰」を主張する論者も増えた。そこに今回のコロナ騒ぎである。コロナ収束後,中国進出のメリットを改めて再検討しても良い時期だろう。

    ※ 最新情報はhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00086.html 「新型コロナウイルス感染症の現在の状況について」をご参照ください。

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  • ふくい地域経済研究第30号

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  • 新型コロナウイルスからの教訓

     新型コロナウイルスを巡る日本社会の混乱をみながら、私は3つのことを確認できたような気がします。

    (1).ビッグ・イベント頼みの経済活性化の危うさ

     東京オリンピック及びその開催に照準をあわせた東京大開発事業、リニア中央新幹線、カジノ、大阪万博などなど、日本では今後短期の間に超ビッグ・イベントをいくつも予
    定されています。北陸新幹線の延伸が霞んでみえるほどです。
      これら周辺の環境整備を含め多額の公共投資が行われCool Japanはますます魅力的になるでしょうし、海外からもさらに多くの注目を浴びることになります。日本は再び自
    信を取り戻し、国際的な信用も回復する。景気も上向き、東日本大震災以降の念願だった高い経済成長率を達成する。少子高齢化社会でも持続可能な社会保障制度にも光が見
    えてくる。
      あまりにも出来過ぎたシナリオでした(私のなかでは既に過去形)。私たちの足下には、コツコツと地道に成し遂げねばならないことが山積しているのではないでしょうか。

    (2).不要不急の事業の多さ

     つい先頃まで予定されていた様々なイベントが俄に中止、ないしは延期され始めました。来月初頭に予定されていたある会合の主催者から昨日こんなメールが送られてきました。
    “新型コロナウイルス等に対する感染症対策の準備を進めてまいりましたが、拡大防止の観点より、無観客で開催のうえ、後日、@@@ホームページで動画配信させていただ
    くこととなりました。参加を楽しみにしておられた皆様には誠に申し訳ございませんが、何卒ご理解を賜りますようお願い申し上げます。”
    いえいえ全く問題ありません。ご連絡有り難うございます。
     他方、子ども達が楽しみにしていた社会科見学や卒業式にあわせて行う予定であったお祝いの会なども中止になりました。残念ですがこればかりはしかたがありません。今後の関心事は、どの時点までこの自粛が続くのだろうか、ということです。新年度が始まる春ごろまででしょうか、それともオリンピックの閉会式終了まででしょうか。と同時に、不要不急とみなされる事業や仕事はこれを機に綺麗さっぱり整理しても良いかもしれません。堀江貴文氏は2016年に「99%の会社はいらない」という本を出されています。会社だけでなく仕事の中身を見直す良い機会です。ベーシックインカムの議論とあわせれば、案外、人口減少や労働力不足が杞憂に終わるかもしれません。

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  • 回復力に力強さを欠く日本経済

     早いもので、2020年に入り1か月余りが過ぎた。ここでは、2019年の日本経済を振り返るとともに、本年、2020年の日本経済を展望したい。
     さて、2019年の日本経済を振り返ると、年初来、雇用・所得環境の改善を背景に、個人消費が緩やかな回復を続けたが、輸出は中国経済の減速や米中貿易摩擦のあおりなどから、精彩を欠く幕開けとなった。また、年央以降は堅調を持続した国内消費が冷夏の影響や自然災害の発生により一抹の不安材料を露呈した他、生産活動も自動車工業や生産用機械工業などの不振により不冴えな状況が続いた。ただ、内閣府が12月9日に発表した7~9月期の国内総生産(GDP)改定値をみると、物価変動を除いた実質で前期比0.4%増、年率換算では1.8%増と1次速報値(前期比0.1%増、年率0.2%増)を大幅に上回る結果となっている。この要因は、内需における設備投資の増勢や個人消費の上振れ、とりわけ10月に実施された消費増税前の駆け込み需要の発生による影響が大きく発現したためとみるべきであろう。
     また、秋口に入っては、各種の対策効果から消費増税の最悪シナリオが薄められはしたものの、個人消費の一時的な下振れは避けられず厳しさが増す一方、企業活動では生産面でスマートフォン販売の底入れを受け、電子部品・デバイスが増加基調をたどったとみる見方が有力である。ただ、世界景気が全般的に勢いを欠くなか、輸出全体の力強い回復は期待し難い状況にある。
     一方、2020年の経済情勢について、まず需要部門では、消費増税の個人消費への影響については、今回の税率引き上げ幅が2%と小幅で、軽減税率の導入や教育・保育の無償化などにより家計への影響は軽微で、個人消費への悪影響が最小限にとどまること。さらに、人手不足を背景とした雇用所得環境の改善や各種の政策効果などが下支えに作用するなどから、個人消費は持ち直しの動きを強めるものと考えられる。ただ、新年度以降の実質賃金が伸び悩めば回復力は弱いとみるべきであろう。また、設備投資も企業のキャッシュフローが潤沢な中、人手不足を背景とした合理化・省力化投資、研究開発投資、建設投資などを中心に持ち直しが続くことが期待されるが、米中対立など不確実性の高さなどを考慮すると投資意欲の減退も視野に入れておくべきであろう。一方、供給部門については、外需面で、中国経済の減速を主因に足元の財輸出は伸び悩んでいるものの、中国政府の景気下支えから徐々に持ち直しに向かい、このところの下振れリスクも払しょくされることが期待されるが、引き続き海外経済の不確実性には十分留意する必要がある。そのため、2020年の日本経済は、需要部門、供給部門ともにまだら模様の中、力強さ欠く展開が続く可能性が強いとみるべきであろう。
     ところで、今年に入り特に注目を集めている話題を挙げるとすれば、それは今年3月から日本でも5G移動体サービスが始まる話であろう。ちなみに、広義の意味でのデジタルツール、PC(パーソナルコンピュータ)が初めて日本に登場したのは1970年代初頭のことと記憶している。それから半世紀あまりを経過し、今やPCは時代遅れとなり若者はスマホ、モバイル通信ネットワーク、いわゆる5Gの時代を迎えた。そのほか人工知能(AI)、ICT、ロボット、ビッグデータといった多様なデジタルツールが登場し、今やSociety 5.0の時代。私たちの暮らし、仕事の仕方、経済社会システムそのものが大きく変化しようとしている。こうした変動を技術革新の波からみれば、1970年代以降の2020年代はシュンペーターが定義したコンドラチェフの波(注)が押し寄せている時代のように思える。いずれにせよ時代は大きく変化する。その中で企業はこうした多様なデジタルツールを活用しながら、さらなる経営革新を図ってもらいたいものだ。

    注:景気の循環には特徴的なパターンが見られ、技術革新を主因に約50年の周期で循環している景気循環をいう。

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