福井県立大学地域経済研究所

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回復力に力強さを欠く日本経済

南保 勝

 早いもので、2020年に入り1か月余りが過ぎた。ここでは、2019年の日本経済を振り返るとともに、本年、2020年の日本経済を展望したい。
 さて、2019年の日本経済を振り返ると、年初来、雇用・所得環境の改善を背景に、個人消費が緩やかな回復を続けたが、輸出は中国経済の減速や米中貿易摩擦のあおりなどから、精彩を欠く幕開けとなった。また、年央以降は堅調を持続した国内消費が冷夏の影響や自然災害の発生により一抹の不安材料を露呈した他、生産活動も自動車工業や生産用機械工業などの不振により不冴えな状況が続いた。ただ、内閣府が12月9日に発表した7~9月期の国内総生産(GDP)改定値をみると、物価変動を除いた実質で前期比0.4%増、年率換算では1.8%増と1次速報値(前期比0.1%増、年率0.2%増)を大幅に上回る結果となっている。この要因は、内需における設備投資の増勢や個人消費の上振れ、とりわけ10月に実施された消費増税前の駆け込み需要の発生による影響が大きく発現したためとみるべきであろう。
 また、秋口に入っては、各種の対策効果から消費増税の最悪シナリオが薄められはしたものの、個人消費の一時的な下振れは避けられず厳しさが増す一方、企業活動では生産面でスマートフォン販売の底入れを受け、電子部品・デバイスが増加基調をたどったとみる見方が有力である。ただ、世界景気が全般的に勢いを欠くなか、輸出全体の力強い回復は期待し難い状況にある。
 一方、2020年の経済情勢について、まず需要部門では、消費増税の個人消費への影響については、今回の税率引き上げ幅が2%と小幅で、軽減税率の導入や教育・保育の無償化などにより家計への影響は軽微で、個人消費への悪影響が最小限にとどまること。さらに、人手不足を背景とした雇用所得環境の改善や各種の政策効果などが下支えに作用するなどから、個人消費は持ち直しの動きを強めるものと考えられる。ただ、新年度以降の実質賃金が伸び悩めば回復力は弱いとみるべきであろう。また、設備投資も企業のキャッシュフローが潤沢な中、人手不足を背景とした合理化・省力化投資、研究開発投資、建設投資などを中心に持ち直しが続くことが期待されるが、米中対立など不確実性の高さなどを考慮すると投資意欲の減退も視野に入れておくべきであろう。一方、供給部門については、外需面で、中国経済の減速を主因に足元の財輸出は伸び悩んでいるものの、中国政府の景気下支えから徐々に持ち直しに向かい、このところの下振れリスクも払しょくされることが期待されるが、引き続き海外経済の不確実性には十分留意する必要がある。そのため、2020年の日本経済は、需要部門、供給部門ともにまだら模様の中、力強さ欠く展開が続く可能性が強いとみるべきであろう。
 ところで、今年に入り特に注目を集めている話題を挙げるとすれば、それは今年3月から日本でも5G移動体サービスが始まる話であろう。ちなみに、広義の意味でのデジタルツール、PC(パーソナルコンピュータ)が初めて日本に登場したのは1970年代初頭のことと記憶している。それから半世紀あまりを経過し、今やPCは時代遅れとなり若者はスマホ、モバイル通信ネットワーク、いわゆる5Gの時代を迎えた。そのほか人工知能(AI)、ICT、ロボット、ビッグデータといった多様なデジタルツールが登場し、今やSociety 5.0の時代。私たちの暮らし、仕事の仕方、経済社会システムそのものが大きく変化しようとしている。こうした変動を技術革新の波からみれば、1970年代以降の2020年代はシュンペーターが定義したコンドラチェフの波(注)が押し寄せている時代のように思える。いずれにせよ時代は大きく変化する。その中で企業はこうした多様なデジタルツールを活用しながら、さらなる経営革新を図ってもらいたいものだ。

注:景気の循環には特徴的なパターンが見られ、技術革新を主因に約50年の周期で循環している景気循環をいう。