福井県立大学地域経済研究所

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ウェルビーイングに欠かせない2つの場 ―居場所と舞台

地域経済研究所 准教授 高野翔

 人の幸福、健康、福祉などを広範に包含する“ウェルビーイング(Well-being)”という概念に近年注目があつまっている。ウェルビーイングという言葉が世界的に認知されるようになったのは、WHOが健康を定義する際に「健康とは、身体的・精神的・社会的にウェルビーイングな状態」と表したことが起点。それ以来ウェルビーイングは「身体的・精神的・社会的に良好な状態にある実感する幸せ」と捉えられ、公共政策やまちづくり分野での活用及び研究が世界中で盛んに行われている。

 今回は研究の結果見えてきたウェルビーイング実感に欠かせない2つの場としての居場所と舞台の重要性についてお届けしたい。

 人の幸せを学問するウェルビーイング研究の系譜を辿ると、幸せとは何かを哲学的アプローチにより問うことからはじまっている。古代ギリシャに生きたアリストテレスは、幸せを最高善と呼び、人が生きる上での最上の目的であるとした。以後も多くの哲学者がこの問いを繰り返してきており、私たち人は、紀元前から現在まで2500年もの間、幸せをずっと問うてきている。

 次に、二つ目の社会科学的アプローチ。個々人の価値観を尊重し主観的な視点を重視し、幸せの実感であるウェルビーイングを測定する方法がここ20年で進歩した。これにより、一人ひとりの幸せの状態や集合体としての国や地域の幸福度を数字により見える化することが可能となった。これまで幸せに関しては、哲学や思想による議論が一般的であったが、多様な関係者と合意がとれる科学的な数字を介して幸せを議論することができるようになった功績は大きい。

 しかしながら、実際どうやって人々のウェルビーイングを深めることができるのか。この点は、まだまだ手探りな状態である。そこで、三つ目の新たなアプローチとして、まちづくりアプローチとしての場づくりに私は注目している。

 人々の幸せを深めるプロセスに欠かすことのできない人と人とのつながりや他者との対話や協働が生まれうる最小の空間単位としての場の在り方にヒントがあると考えるためだ。

 先行し、越前市において、居場所と舞台の研究調査を行った。自分の住まう地域にほっとできる居場所があるとおもうか、また、自分を表現したり活躍できる場や機会としての舞台があるとおもうかを尋ねると、居場所と舞台を持てているという実感が高い人ほどウェルビーイング度が高く、加えて、引き続き住み続けたいという定住意思も高いことが分かった。また、男性に関しては居場所と舞台ともに30代に課題があり、女性に関しては10-20代は居場所を持つのが難しく、30代では舞台を持つことが難しいと実感していることが分かった。共通して、若い世代に課題が見られる。

 人々が幸せに人生を生きるためには、自分らしく生きられる尊厳が守られ、だれしもが持っている可能性が花開くことが基盤となるが、 尊厳の保護を支える「居場所」と一人ひとりの人間が可能性を実現する機会と選択肢を支える「舞台」という2つの場所がやはり重要なのだ。

 裏を返せば、自分の住む地域に居場所と舞台を得られない、または感じられないということであれば、その土地を離れてしまう可能性が高まる。

 自分達の地域に、居場所と舞台はととのっているだろうか。同様に、家族の中に、職場の中に、学校の中に、居場所と舞台と感じられる場や機会はあるだろうか。このまなざしが、誰もが幸せを実感できる社会に向けた礎となる。