能登半島地震への地理学者の対応
2024年元旦の午後4時10分に、能登半島地震が発生しました。多くの方がお亡くなりになり、焼失・倒壊した家屋は広範囲に及ぶなど、被害は甚大ですが、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。
私が所属する日本地理学会では、1月6日に災害対応本部を設置し、災害対応委員会のホームページに、会員による調査報告・情報提供を逐次掲載してきている。たとえば、1月14日には変動地形調査グループが、震災直後の航空写真や人工衛星画像をもとに、「令和6年能登半島地震による海岸地形変化の検討結果(第三報)」を公表した。そこでは、能登半島北岸周辺の地盤が隆起したために、北岸に沿って広い範囲で海岸線が沖へ前進したこと、そのため約4.4平方キロメートルの「陸化」が生じたとしている。また、「能登半島北西および北岸では、一部の漁港では海水が入らないほどの隆起が認められ」・・・、「一方、能登半島南部では顕著な変動は認められませんでした」と、隆起域の地域差が指摘されている。こうした地域差の把握は、今後の復興計画を立案する上で、とても重要である。
1月19日には、断層調査グループの鈴木康弘・渡辺満久両教授が、1月13日~14日の現地調査をもとに、志賀町北部の富来川南岸断層に沿う地震断層を発見したと公表した。1976年に、太田陽子(私の恩師でもある)ほかによる論文「能登半島の活断層」で存在が指摘されていた断層が地表に現れたもので、こうした活断層研究の蓄積を踏まえた対応の必要性を改めて痛感する。
このように、まずは自然地理学者が活発な対応を示すが、私が専門とする経済地理学を含め人文地理学の研究者はこれからが重要で、「半島部」という過疎地域特有の地震被害への対応の難しさや地震の被害が大きくなった社会・経済的要因を検討したり、支援や復興に向けた計画策定に関わることが求められる。私自身は、東日本大震災から3年半経過した時点で、「東日本大震災後の東北製造業の回復と産業立地政策」と題した共著論文をまとめたことがある。そこでは、内陸部の機械工業に比べ、沿岸部の素材型工業が大きな被害を受け、復旧にも時間がかかったことをデータで示すとともに、広域的観点から地域間の連携を強める政策の重要性を指摘した。
今回の地震の被害について、経済産業省では、「建物や設備の損傷等の被害が多数発生しているが、被災地域域外のサプライチェーンにも影響を及ぼしうる業種については、約9割が生産を再開又は再開の目処が立っている状況である一方、繊維、工芸品、印刷製造業については、2割強の企業において生産再開の目処が立っていない状況」としている(1月29日時点)。被災状況や今後の回復の見通しに、企業規模や業種の違いが表れていることがわかるが、地域ごとの詳しい実態把握は、まだ先の課題といえそうだ。一方で、鯖江商工会議所による「バーチャルモール」を活用した能登半島復興支援プロジェクトにみられるように、産業集積間ネットワークによる支援といった注目すべき動きが出てきている。
自然科学と人文・社会科学の双方に軸足を置く地理学の利点を活かして、被災状況の実態把握と復旧・復興に向けた政策的支援に取り組んでいきたい。