福井県立大学地域経済研究所

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日本の産業クラスター政策2.0

福井県立大学地域経済研究所長 教授 松原 宏

 2025年10月の第219回国会での高市内閣総理大臣の所信表明演説を読んで、次の一文に目が留まった。「地方に大規模な投資を呼び込み、地域ごとに産業クラスターを戦略的に形成していくことで、『地域未来戦略』を推進します」。

 私は、2013年に『日本のクラスター政策と地域イノベーション』と題した本を刊行しているが、そのはしがきで、「世界に視野を拡げると、クラスターの進化や地域イノベーションの推進を、最重要の政策課題としている国や地域は少なくない。・・・日本でこうした施策(2001年からの経済産業省による「産業クラスター計画」と2002年からの文部科学省による「知的クラスター創成事業」)をやめてしまってよいのだろうかという疑問が大きくなり、本書の刊行にいたった」と述べている。

 2000年代の「第1期のクラスター政策」の問題、そうした過去を振り返る余裕はなく、現政権は、産業クラスター政策を推進することに余念がない。地域未来戦略本部が昨年11月に設置され、12月に第1回の会合が開催され、「地域未来戦略」で取り組む内容について、①「地域ごとに戦略産業クラスター計画を策定」すること、②「知事主導で各都道府県における地場産業の成長プランを策定」することが、両輪として掲げられた。

 その後、2026年3月に開催された関係副大臣等会議(第2回)では、3つのクラスター計画として、①戦略産業クラスター(都道府県域をまたぐ地域ブロック単位のものを主に想定)、②地域産業クラスター(市町村域をまたぐ都道府県単位のものを主に想定)、③地場産業成長プラン(市区町村~都道府県単位のものを主に想定)が示され、クラスターの概要、計画要件、策定プロセスなどが整理されている。さらに、春頃には「戦略産業クラスター計画の素案」の公表、5月には「戦略産業クラスター計画」の策定といった足早のスケジュールが提示されている。

 これに即応すべく北陸では、2025年12月と26年2月に、「北陸戦略産業クラスター」に関する会議が開催され、私も地域経済研究所の地域産業分析の成果を報告した。今後は、戦略産業クラスター計画素案の策定と県からの大規模投資案件のプロジェクト提案へと進んでいくことになる。

 ところで、両輪の一方の「地場産業」という表現に違和感を抱いていたところ、2025年12月下旬に示された「地域未来戦略の策定に向けた考え方(案)」において、知事主導で計画される「地域産業クラスター」が新たに打ち出された。上述の第2回関係副大臣等会議の資料3では、これについて、「知事等主導で形成されるクラスターであって、力を入れる産業分野及び重点支援をすべきコネクター度・ハブ度の高い企業を特定し、複数自治体の連携促進や中堅企業支援策の適用など、政府の施策の戦略的活用をプッシュ型で提案していくことで、その形成・拡大を目指すもの」とされている。また、このクラスターの要件には、有望度、実現可能性、費用対効果、域内への波及、自治体のコミットメント等に加えて、「EBPМメルクマール」が挙げられている点も注目される。資料3は、新たな政策立案の手法を踏まえた優れた文書といえるが、これを理解するにはこの間の産業立地政策についての理解が不可欠と思われる。第1期の産業クラスター政策の反省を活かした新たな施策の展開を期待したい。