福井県立大学地域経済研究所

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■吉田陽介先生による中国現地ルポNo.25 経済回復に必要なのは投資と消費のインタラクション

北京理工大学外国語学部 吉田陽介

第14次五カ年計画期の経済

「内需拡大」がテーマ

今年第3四半期の中国の経済成長率は4.8%で、減速傾向にある。第1~第3四半期(1~9月)の国内総生産(GDP)は5.2%だった。

新華社の報道によると、「雇用・経済の安定化政策措置が相次いで効果を発揮し、主要なマクロ指標は全体的に安定し、経済は安定の中で進展を維持し、質の高い発展が積極的な成果を上げた」のがこの数字になった要因だという。

これまで中国経済を支えてきたともいえる不動産投資は、2025年1~9月の不動産開発投資は前年同期比13.9%減で、うち住宅投資は12.9%減だった。また、固定資産投資は前年同期比0.5%減だった。このことは、中国経済が投資主導型から消費主導型への転換が進んでいることを示している。

中国政府は消費を活性化させるため、「下取り・買い替え」政策などの景気刺激策を打ち出し、一定の効果が見られたが、一般市民レベルでは「景気が悪い」という認識だ。

中国経済はすでに高度成長の時期を過ぎ、中速成長の時期に入っており、「量」より「質」を求める段階に入っている。「質の高い発展」は第14期五カ年計画期から経済政策の基調となっている。それは23日に閉幕した中国共産党第20期中央委員会第四回全体会議(以下、第20期四中全会と略)でも受け継がれる。

第14期五カ年計画期間中の中央経済工作会議の報道文を見ると、最初の二年はコロナ禍の影響もあるが、回復期に入った残りの年も厳しい状況という認識だった。2021年から24年の中央経済工作会議が示した中国経済の問題は以下の通りである。

「わが国の経済発展は需要の収縮、供給の衝撃、期待の弱体化の三重の圧力に直面している。世紀の感染症流行の衝撃のもとで、百年に一度の変局が加速的に進み、外部環境はより複雑で厳しく、不確定になっている」。(2021年度)

「現在、わが国の経済回復の基礎はまだしっかりしておらず、需要の収縮、供給の衝撃、期待の弱体化の三重の圧力は依然として比較的大きく、外部環境は動揺しており、わが国経済にもたらす影響が深まっている」。(2022年度)

「経済の回復を一層推し進めるには、いくつかの困難と試練を克服する必要がある。具体的には主に、有効需要の不足、一部産業の生産能力過剰、社会期待の弱さ、リスクの潜在的リスクが依然として比較的多く、国内の大循環に目詰まりが存在し、外部環境の複雑性、厳しさ、不確実性が高まっていることである」。(2023年度)

「現在、外部環境の変化がもたらす不利な影響が大きくなり、わが国の経済運営は依然として多くの困難と試練に直面している。主に、国内需要の不足、一部企業の生産経営難、大衆の就業・収入増加がプレッシャーに直面しており、リスク・隠れたリスクが依然として比較的多い」。(2024年度)

以上の記述を見ると、中国経済の問題は需要の不足、社会の期待の弱さ、つまり、人々が中国経済の今後について楽観的見通しを持っていないことである。どの年の報道文も、需要ついて言及している。需要の収縮(不足)はデフレを招くことから、内需拡大は大きな課題となっている。

また、経済活動の主体である企業については、2023年の報道文では、「一部産業の生産能力過剰」と述べていたが、昨年は「一部企業の生産経営難」と述べている。生産能力過剰はEV産業などの過当競争を念頭においているものと思われる。その解消には構造改革が必要だが、「受け皿」となる産業が必要だ。そのためには、経済活動が好調である必要がある。

昨年の会議の報道文を見ると、内需の拡大の重要な要素である国民の雇用、所得も厳しい状況にあることを述べている。今年3月、中国政府は消費拡大行動プランを打ち出し、消費活性化のために、国民の所得を引き上げることも述べた。

さらに、昨年の経済工作会議では、「ストック政策」「フロー政策」の概念も見られ、状況に合わせて追加的な景気刺激措置をとる余地を残した。

以上のように、第14期五カ年計画中、中国政府はコロナ後の不況の克服のために、財政・金融手段を動員して、景気回復を図った。これまで、中国政府は財政赤字の拡大に慎重だったが、4%ほどに拡大した。金融についていえば、「実体経済に奉仕する」という原則に基づいて、科学技術金融、グリーン金融、インクルーシブ金融、高齢者ケア金融、デジタル金融に投資しており、バーチャルな分野にカネが流れないようにしている。

また、中国政府は技術革新を推し進め、「新質生産力」を打ち出したが、それは中国社会主義を「発達した社会主義」に進ませるという「政治的」な目的もあるが、サプライサイドを強化し、新たな需要を喚起しようという目的もある。

こうした中で、中国政府は新たな中長期的な経済運営の計画を立案したのである。

投資と消費の相互作用で

国内市場を活性化

日本でも報道されているように、20日から23日まで開かれた第20期四中全会は今後の5年間の経済運営の基調を決める重要な会議だ。25日付『人民日報』社説は、「第15次五カ年計画期は社会主義現代化を基本的に実現する過程において、前を受け継いで後を切り開く重要な地位を持っている」述べている。この全体会議は第14次五カ年計画をもとに、新たな中長期的計画を立てることを目指した。

本稿執筆時点では、会議の決定は発表されていないため、詳しい内容はわからないが、最終日に公表された「公報(コミュニケ)」で示された経済関係の目標は以下の通りである。

1、現代化産業体系を築き、実体経済の土台を固め、強大にする。

2、ハイレベルな科学技術の自立自強を加速し、新質生産力の発展をリードする。

3、強大な国内市場を建設し、新発展の枠組み構築を加速する。

4、ハイレベルな社会主義市場経済体制の構築を加速し、質の高い発展の原動力を増強する。

5、ハイレベルな対外開放を拡大し、協力ウィンウィンの新局面を切り開く。

6、農業・農村の現代化を加速させ、郷村全面振興を着実に推進する。

7、地域経済配置を最適化し、地域のつり合いの取れた発展を促進する。

この7つの目標を見ると、現代的産業体系の構築が始めに述べられており、中国政府の経済関連の取り組みの中で、重要な位置付けにあることを示している。中国国際放送局の国際問題評論「国際鋭評」の24日付けの記事は、この取り組みが「第15次五カ年計画」の最重要戦略的任務である」とし、「中国の伝統産業の最適化・高度化は今後5年間で約10兆元の市場空間を新たに拡大し、今後10年間における新興産業と未来産業の規模の新たな拡大は中国のハイテク産業を再構築することに等しい」と述べ、サプライサイドの高度化を目指している。それには、「新質生産力の発展」が必要となっており、両輪の関係にある。

中国経済の回復に重要なのは、内需の拡大だ。コミュニケの「強大な国内市場の建設」の部分では、「民生(暮らし)改善と消費促進、モノへの投資とヒトへの投資の緊密な結合を堅持し、新需要で新供給をリードし、新供給で新需要を創造し、消費と投資、供給と需要の好ましい相互作用(インタラクション)を促進」すると述べている。ここでは、投資と消費などの相互作用について述べているが、これは投資の質について述べている。これまでは、景気浮揚のために、大規模な財政出動を行ってインフラなどに投資したが、経済回復と引き換えに過剰生産能力を抱えるようにった。首席エコノミストフォーラム研究院院長で中欧国際工商大学教授の盛松成氏は同フォーラムのWeChat アカウントの記事で、今年の第3四半期の中国の生産能力利用率は74.6%で、比較的低い水準にあると指摘し、投資と消費の関係を正しく処理する必要性を説いている。

記事は、投資と消費の「排斥しあう関係」ではないとし、例えば、モノへの投資とヒトへの投資を緊密に結びつけることで、ハイレベルな技術人材など多様な人材を育成し、これらの人材が新しいモノを生み出し、新たな需要が生まれ、需要と供給の良好なインララクションが実現できると述べている。ヒトへの投資については、「AI+」が進む中で、競争から取り残された人々への新たなスキル習得なども重視すべき点であり、関連の教育産業を質量ともに充実させる必要がある。

さらに、「民生改善と消費促進」については、昨年の中央経済工作会議でも取り上げられていた「シルバー消費」、「育児に優しい社会」づくりのための消費を促進するための投資を行い、より良い製品やサービスを提供することで、新たな需要を喚起することができる。

以上のように、今回の四中全会のコミュニケを見ると、国内市場分野では、投資と消費をうまく組み合わせ、生産能力のレベルを高めるとともに、国内消費を活性化させようという中国政府の意図が見える。そのためには、消費マインドの好転につながる減税や給付などの政策もセットで行う必要がある。一方で、地方政府の債務問題など財政サイドの取り組みも重要になってくるだろう。