お知らせ
福井県の産業発展に福井県工業技術センターが果たす役割
以前のコラムでも述べたが、ご存じの通り福井はモノづくりが盛んな地域である。比較的規模が小さな企業が多いにも関わらず、技術力を高め独自の戦略によって競争力の高いモノづくりを行っている。「BtoB」といわれる企業間取引のビジネスが多いことから、一般への知名度は高くないものの、国内あるいは世界シェア1位の製品が多くあることも、大変興味深い点である。
こうした高い競争力を生み出しているのは、真面目で粘り強い県民性や進取の気風がその根底にあることや、中小企業が多いことを逆手にとって、大企業が参入しづらい市場に目を向けてニッチな戦略を採り、独自性のある製品を生み出していることが要因であることは間違いのない事実であろう。但し、実際にそうした製品を生み出していくためには、多くの資金や労力が必要となることから、地方都市の中小企業にとってはなかなか負担が大きいと考えられる。そうした企業の技術的支援を行う機関として、公設試験研究機関(以下、公設試)が存在しており、日本全体及び地方の科学技術政策として重要な機関と位置づけられている。
福井県における公設試に関しては、1902(明治35)年に福井県工業試験場が設立されて既に120年以上の歴史がある。1887(明治35)年に製織が始まった輸出向け羽二重織物の改善を図ることを目的として福井県工業試験場が設立され、その後に設立された工業、窯業、建設に関わる試験場が、1985(昭和60)年に統合されて福井県工業技術センターとして現在の地に設置された。
福井県の主要産業である繊維産業に関しては、前身の組織も含めれば、先述の羽二重織物から人造絹糸そして合成繊維の織物への移行を支援してきており、そこからつながってきた繊維及び化学分野、国内での市場占有率が9割を超える眼鏡枠産業や、繊維機械を基とする機械産業の分野、漆器や和紙などの伝統的工芸品の分野も支援してきている。また窯業の分野では、日本六大古窯のひとつである越前焼の発展を支援してきており、その関連でいえば、窯業試験場時代の場長である千田伸惇氏は、株式会社村田製作所の福井県への誘致に努力し、1951(昭和26)年に同試験場の1室を研究室として貸与して特殊磁器の試作研究を支援し、現在の株式会社福井村田製作所の前身を作り上げることに貢献しているなど、福井県の産業発展に大きく関わっているといえよう。
同センターにおいては、1.技術相談・技術指導、2.各種試験依頼、3.機器設備・施設の利用、4.研究、5.技術情報提供や成果事例紹介、6.講習会・講演会の実施、7.技術研修・人材育成など、その役割は多岐にわたっている。現在においても、繊維、化学、機械、金属、工芸、建設といった分野に加えて、IoTやAIなどいったデジタル化、オートメーション化などの推進を支援しており、同センターが保有する炭素繊維の開繊技術を活かした複合材料の研究やウェアラブル技術、さらには宇宙分野において、県民衛星「すいせん」で知られる福井県民衛星プロジェクトにも関わっているなど、福井県の技術的な発展を支える存在となっている。さらに大変興味深い事例としては、同センターの支援により眼鏡枠製造の技術を転用して、モーターの高効率化を図るという研究成果が発表されているなど、様々な分野の研究が集まる同センターだからこそ、分野を超えた技術的な連携が行われてこのような成果に結びついているといえよう。
また同センターの特徴のひとつとして、広く地域に開かれた公設試であることが挙げられる。福井県内の中学校・高等学校を対象とした「ものづくり先端技術体験」や、一般開放されている「常設展示場」の見学が可能となっている。特に後者の「常設展示場」は、非常に広いスペースに、福井県のものづくり産業が持つ優れた技術や製品が数多く展示されており、産業研究や企業研究などにも役立てることが出来る。私自身も学生と一緒に何度も同センターにお邪魔しているが、スタッフの方々はいずれも大変熱心で、丁寧にわかりやすく説明をしてくださるおかげで、学生も楽しみながら学ぶことが出来て大変感謝している。
公設試は一般の方々にはなかなか馴染みがない組織かも知れないが、地域の産業発展を支援する非常に重要な機関であり、同センターが「縁の下の力持ち」として下支えしてきたことによって、福井県の産業発展につながってきたといえよう。同センターでは、例年一般公開も実施されており、福井県のものづくりの全体像やそれを支える公設試の役割について学ぶことが出来る。小中学生対象の体験コーナーなどもあり、家族で楽しめるイベントとなっているので是非足を運んで頂き、同センターの役割や福井県のものづくりについて関心を持って頂ければと考える次第である。
(参考資料)
福井県工業技術センター編『福井県工業技術センター100年史』福井県工業技
術センター、2002年。
植田浩史・本田哲夫編著『公設試験研究機関と中小企業』創風社、2006年(WWWサイト)
福井県工業技術センターWWWサイト
URL: https://www.fklab.fukui.fukui.jp/kougi/index.html北九州市立大学地域戦略研究所の内田晃所長による地域交通に関する講演会
私ども地域経済研究所と北九州市立大学の地域戦略研究所が連携協定を締結し、シンポジウムの共催や人事交流などを進めていくことになります。協定締結を記念しまして、1月24日(水)10時40分~12時10分に、永平寺キャンパス講義棟にて、北九州市立大学地域戦略研究所の内田晃所長による地域交通に関する講演会を、オンライン併用で開催いたします。詳細とお申し込みはこちら。
海外立地に関するグローバル地域研究セミナーが開催されました。
12月14日(木)の午後に、当研究所1階の企業交流室にて、「海外立地の理論と実態の最前線」をテーマにした「グローバル地域セミナー」が開催されました。大分大学の宮町良広教授からGPN(グローバル・プロダクション・ネットワーク)アプローチについて、詳しく紹介していただき、大阪公立大学の鈴木洋太郎教授からは、関西企業のベトナム進出をサポートする仕組みなどについて、教えていただきました。その後、当研究所の松原所長の報告を含め、北陸3県のなかでの福井県企業の海外進出の特徴と政策的支援の課題について、議論がなされました。
日本税理士会連合会の寄附講座に思う
福井県立大学は、その前身である福井県農業技術員養成課程からは1920年以来103年、経済学部の前身である福井県立短期大学経営学科からは1975年以来48年、そして福井県立大学開学からは1992年以来31年の歴史があり、多くの卒業生が様々な分野で活躍している。県内企業へ調査に伺うと県大経済学部の卒業生を紹介していただくことも多々あり、とても心強くまた活躍している姿を嬉しく思う。
そんな先輩達を含む現場の声を学生に直接届けようと、経済学部では様々な機会を学生に提供している。今年度の後期には、日本税理士会連合会による寄附講座「実務から学ぶ会計と税務~税理士による租税講座」が開講されている。この講義では、実際に税理士として活躍されている方々を講師に迎え、実務家の立場から、税理士の仕事や会計・税務について講義を行っていただいている。
講義の内容は、税理士制度と各種税務の解説(消費税、相続税、所得税、法人税)であり、実務に即したより実践的な学習となっている。また、社会で活躍する税理士が直接学生に声を届けることで、税理士という専門職や、その社会における役割・実際に行っている仕事、その魅力を伝え、税務制度ひいては社会について理解を深めることも目的としている。
講義では、福井県立大学で一番大きな講義室いっぱいの学生が、真剣に話を聞いている。講師の税理士の方には思いや自身の経験・人生を、毎回熱く語っていただいている。今回の租税講義は憲法から始まった。税が国民主権、自由主義・民主主義国家を支える根幹であること、公平性の話、そして具体的な税の話へと展開されていった。「取られる」だけの存在だった税に対する認識を学生は大きく変えている。身近な消費税の話はもちろん、家族の相続にまつわる実体験やアルバイト代の源泉徴収、バイトで発行する領収書など、学生はこれまでの人生の「謎」について理解し、新たな疑問に気づき、毎回多くのことを学んでいる。とても充実した講義である。
講師の税理士の方には、短大や大学院を含め福井県立大学の卒業生も多く、現役の税理士(先輩)から現役学生(後輩)に対して、税理士を目指すアドバイスや、税理士への誘いが、毎回熱く語られている。学生の多くはサラリーマンとして企業に就職する者が多いが、中には起業を考えている者、税理士を志している者(税理士をめざすことを決めた学生も)いる。この講義をしっかり聞いた学生は、税理士・税務を身近な存在として理解を深めるとともに、将来社会で活躍し、また社会に貢献できる人財となるだろう。
さて、学生にはこれから確定申告を行うという課題が課されることになる。一般社会人としては必須の素養であるが、ほとんどの学生にとっては初めての経験であろう。非常に楽しみである。今回は提供中の寄附講座の様子をお伝えさせていただいた。これ以外にも経済学部では学生の学びのため福井の様々な企業にご協力いただいている。最後になりましたが、厚く御礼申し上げます。
<講義の様子>
https://www.fpu.ac.jp/news/d000000zzzzzzp.html
https://x.com/fpu_economics/status/1728984490624610595グローバル地域セミナー
12月14日(木)午後1時30分~5時に、地域経済研究所1階の企業交流室にて、「海外立地の理論と実態の最前線」をテーマに、「グローバル地域セミナー」を開催いたします。コロナ禍で途切れておりましたが、「アジア経済フォーラム」をひきついで、「グローバル地域セミナー」を12月14日(木)午後1時30分~5時に、地域経済研究所1階の企業交流室にて開催いたします。大分大学の宮町良広教授、大阪公立大学の鈴木洋太郎教授、当研究所の松原所長の3名による海外立地の理論と実態に関する3本の講義を予定しております。
詳細とお申し込みはこちら。北陸新幹線の福井延伸に関する地域経済研究フォーラムが開催されました。
11月24日(金)の午後に、福井駅前のハピリンホールにて、「北陸新幹線は福井をどう変えるか?―地域経済・都市構造の変化予測―」をテーマに、第4回地域経済研究フォーラムが開催されました。青森大学の櫛引素夫教授から、新幹線と地域との関係について、日本各地の事例を踏まえてご講演いただいた後。日本政策投資銀行の飯田一之様と宮原吏英子様より、北陸新幹線による地域経済への波及効果について、ご講演いただいた。その後、当研究所の松原宏と原田大暉が、北陸新幹線による福井県地域経済・都市構造の変化予測について、報告を行った。後半のパネルディスカッションでは、武部 衛福井県未来創造部新幹線・交通まちづくり局長、堤宗和敦賀市副市長にご登壇いただき、福井県、敦賀市のこれまでの取り組みをご紹介いただくとともに、前半の講演者を交えて、新幹線延伸に対する福井の課題について、意見交換を行った。当日は、130名の方に熱心に聞いていただくとともに、アンケートの回答のなかで、福井延伸の検討課題としては、「観光ルートの整備と2次交通」と「関係人口の増大と移住・定住施策」を挙げた方が多くを占めた。
脱炭素経営に待ったなし
今年の4月4日、東京証券取引所は「プライム市場・スタンダード市場・グロース市場」と3つの市場区分をスタートさせた。加えて、プライム市場に上場している企業はTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に沿って、企業が受ける気候変動の影響を「ガバナンス」「戦略」「リスクマネジメント」「指標と目標」の4項目で、投資家を含むステークホルダーへの情報開示が実質義務化された。
他方、今月の11日、二酸化炭素(CO2)排出量を取引するカーボン・クレジット市場が、東京証券取引所に開設された。18日現在では、電力会社や金融機関などの民間企業に加えて地方公共団体など206者が市場に参加し、初日から20日までの8営業日で累計10,044t-CO2の(J-クレジット)売買が成立した。ちなみに、24日の「再エネ(電力)」の終値は1トンあたり2777円(初日終値は3060円)となった。
市場で売買され、価格が形成されることで「J-クレジット」価格の透明性が向上する。また、売り手は売却益を得ることができ、得た利益を環境分野に再投資することができるし、買い手は削減が難しいCO2排出量と相殺(オフセット)することで削減目標をクリアできるなど、双方にメリットがある。ただし、低コストでオフセットができるようになれば、企業の排出削減に向けた意識がかえって損なわれるのではないかという懸念も見え隠れしている。ステークホルダーへの情報開示や「J-クレジットは、特定の大企業などが積極的に行う「脱炭素経営」の一環であり、日本の9割以上を占める中小企業は対象外と感じられるかもしれない。
プライム市場企業は情報開示義務を果たすために、例えば、「指標と目標」の開示として「温室効果ガスプロトコルイニシアチブ」の中に設けられているScope1・2・3の区分別に温室効果ガス排出量を算定することになる。Scope1とは「企業自らによる温室効果ガスの直接排出」、Scope2は「他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出」、そしてScope3は「企業の活動に関する他社の排出(サプライヤーの原材料や顧客の製品使用・廃棄に伴う排出)」である。「脱炭素経営」を始める場合、まずは自社でコントロール可能なScope1・2に関する分野の削減に取り組むことになる。しかし、Scope1・2での取り組みによる削減が限界に近づくと、Scope3の分野に焦点を当てなければならない。取引先→自社→顧客と「脱炭素経営」は、サプライチェーン全体を巻き込んだ取り組みになっていく。プライム企業といえども、自社だけで完結できるものではなくなり、炭素排出量の削減目標を達成するためには取引先や顧客の脱炭素への取り組みを評価し、炭素排出量の削減を要請しなければならなくなる。
「脱炭素経営」導入の高まりは、2008年のリーマンショック以降、信用崩壊による経済基盤崩壊リスクの次なる重大なリスクが「気候変動」であると、主としてペンションファンドや金融業界が位置づけたことも背景のひとつである。
ビジネスを、資金の調達→運用・投下→回収→再調達の循環と定義するならば、現時点では対象外の中小企業であったとしても、これらのいずれのフェーズにおいても脱炭素を意識しなければ、いずれ会社や事業の継続・永続が約束されない時代がやってくる。また、SDGsを幼少期から学び、SDGsに関する環境問題や社会課題を自分事として捉え、そのような世の中の課題の解決を目指して取り組むサステナビリティ思考を持つ世代の呼称として「SDGsネイティブ」という用語も誕生している。かつての3K(きつい・汚い・危険)を避けた会社選び、職場選び、職業選びの基準のように、脱炭素経営やSDGsに取り組まない企業は人から選ばれない候補外という時代になったともいえるのではないだろうか。であるならば、脱炭素経営を行っていない企業は、ますます人材確保が困難になっていく。
気候変動が起こった際のBCP(事業継続計画)が説明できる企業への転換、環境分野への積極投資(DX化や環境配慮型の設備導入など)、脱炭素を絡めた事業の構想・創出やリクルートの実施などから目を背けてはいられない。
大企業、中小企業を問わず、脱炭素経営の推進は、待ったなしである。
北陸新幹線は福井をどう変えるか?―地域経済・都市構造の変化予測―
11月24日(金)午後1時30分~5時に、福井駅前のハピリンホールにて、「北陸新幹線は福井をどう変えるか?―地域経済・都市構造の変化予測―」をテーマに、第4回地域経済研究フォーラムを開催いたします。
詳細とお申し込みはこちら。前田陽次郎教授が着任しました。
10月1日付で、農業・農村の活性化や農産物貿易を専門とする専任教員として、前田陽次郎教授が着任しました。
『ふくい地域経済研究』第37号が刊行されました。
機関誌『ふくい地域経済研究』第37号が刊行されました。南保勝特任教授最終講義の講演録、研究論文3本、そして今号より研究所短報に「地域経済の概観」が掲載されています。以下よりダウンロードが可能です。