福井県立大学地域経済研究所

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在宅ケアと地域支援 -家族介護者と支援者を支える「福井県家族介護者等支援推進事業」-

福井県立大学 看護福祉学部 准教授 成田光江

 少子高齢化が進むわが国の総人口は2011年以降14年連続で減少し、2070年には9、000万人を割り込むことが予測されている。福井県の総人口も12年連続で減少し、2025年1月1日現在の人口は、前年から5700人減の74万6690人と初めて75万人を割り込んだ。その一方で、核家族世帯や単身世帯の増加により世帯数が増加している。

 人口減少の影響は、地域社会では労働力不足や地域の活力低下、社会保障制度の負担増加などの社会経済問題を引き起こし、家庭内では家事や育児、親の介護や障害児・者の養育など、一人で多くの役割を担わなければならなくなる可能性がある。全国一勤労女性の比率が高い福井県では、仕事と家庭役割の負担増加で疲弊する女性や、核家族化の影響で高齢の親を介護する単身の成人長男・長女の増加が予測される。

 2019年、福井県内で3件の介護殺人が発生した。内訳は、70代の女性が夫の自営業を継続しながら家庭で義両親と夫の介護を担い、その末に要介護者3名を手にかけた事件、認知症の親と同居・介護する長男による事件、義母と夫の2名を自宅で介護する70代女性による義母の介護殺人と夫の殺人未遂事件である。これらの事件は、いずれも重い介護負担が原因であった。

 事件の再発防止にあたり、福井県長寿福祉課と筆者含む3名の専門職が中心となり、県内の在宅ケアに関わる専門職らと推進するのが『福井県家族介護者等支援推進事業』である。本事業では、家族介護者支援(介護者の状況把握、有識者会議、在宅介護レスパイト支援)、住民支援(普及啓発、住民研修の開催)、支援者支援(支援者研修の開催、アドバイザー派遣・紹介事業)の3支援が推進されている。そのうちアドバイザー派遣は、要支援者や家族への支援方法やかかわり等に困る当該市町の担当職員と地域の在宅ケアチームが県にアドバイザー派遣を要請し、派遣された3名のアドバイザーから相談支援を受ける事業である。また、カスタマーハラスメントの対応等、家族介護者への支援にはあたらない支援チームの困りごとは、アドバイザー紹介事業を活用し相談支援を受けることができる。在宅ケアを支援する多機関・多職種チームに対する相談支援システムは、全国でも例がない先駆的な事業である。

 事業開始から現在もアドバイザーとして相談を受ける筆者は「在宅ケアに関連する負担感や困難感を声にする」「第三者に相談する」ことの重要性を痛感すると同時に、在宅ケアを受ける権利を強く主張する要支援者や家族の増加を感じている。支援する者もされる者も同じ地域に住まい、そこで穏やかな生活の継続を望む住民である。また、自らも家庭で家族を介護・養育し、同時に地域の在宅ケアを支える支援者も、立場を変えれば要支援者である。相談を受けながら、同じ地域に住まう住民同士がお互いを尊重し、気遣い、助け・助けられる関係を大事にしようと思う気持ちが大事ではないかと感じている。

 相手を気遣い支え合う地域の在宅ケアは、住民一人ひとりがつくりだすものであり、それが住民個々の仕事や家庭での負担を軽減する地域支援となる。支援する者・される者の垣根を取り払い、地域の労働力不足や活力低下を乗り越えよう。

【参考資料】 

令和6年度福井県長期ビジョン推進懇話会 第2回懇話会「参考資料2:・福井県の現状データ集」(2024年8月22日)

https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/seiki/vision2024_sakutei_d/fil/2-5.pdf

福井県健康福祉部長寿福祉課 地域ケアグループ「介護者支援有識者会議資料」(2025年2月10日)