平成27年国勢調査を終えて
およそ1か月前に平成27年国勢調査が実施された。今回の調査はインターネットでの回答が大規模に宣伝・実施されたこともあり、これまで以上に注目を集めた感がある。筆者もインターネットで回答したが、調査票に記入するスタイルより時間もかからず、とても簡単であった。皆様はどの方式で回答されただろうか。
国勢調査は、我が国に居住する全ての人を対象として実施する国の最も基本的な統計調査であり、大正9年(1920年)から終戦直後を除いて5年ごとに実施されてきた。平成27年国勢調査は20回目に当たる。そんな国勢調査が抱える最近の課題が、調査結果における不詳の大幅な増加である。従来の国勢調査は調査員が各世帯に調査票を配布し、取集するという方法を取っていた。その際、調査員が調査票の記入状況を確認し、未回答や誤回答をチェックしていたために、最終的な調査結果において不詳の発生が抑えられていた。しかしながら、昨今のプライバシー保護の考えのもと、調査員による記入内容の確認に抵抗感を示す人が多くなり(調査員が近隣住民であることも理由の一つ)、またオートロックのマンション等で調査員が各戸に直接訪問することができなくなるケースが増えるなどの影響等もあって、結果的に不詳が多く発生するという事態となっていた。さらに若年層、単独世帯で調査票の回収率が低いなど、不詳が発生する属性に偏りがあることも問題であった。全数調査である国勢調査の精度が大きく揺らいでいたのである。
こうした変化の中で前回の平成22年国勢調査では、東京都全域をモデル地域としてインターネット回答方式が導入され、ICTの活用による調査の効率化が図られた。インターネット回答方式のメリットは未回答、誤回答があると次のページに進めないため、不詳が発生しづらいということがある。さらに東京都におけるインターネット回答の割合は8.3%で、比較的年齢階級が低い層からの回答が多かった。不詳が発生しづらいこと、若年層を中心とした回収対策として期待されることから、インターネット回答を推進するという方向性になり、今回の平成27年国勢調査のインターネット調査の全国展開に至ったのである。
平成27年国勢調査は、インターネット回答期間(9月10日から20日)が調査票での回答期間(9月26日から10月7日)に先行する「先行方式」がとられた(平成22年調査の東京都では、インターネット回答期間と調査票による回答期間が同期間である並行方式)。調査実施前の総務省によると、インターネット回答数は1,000万世帯を超え、世界的にみても最大規模のオンライン調査になることが想定されていた。後日発表された調査結果ではインターネット回答数は1,918万世帯で、調査前の予想を大幅に上回っており、前回の国勢調査の世帯数を基に計算すると、インターネット回答率は36.9%にのぼっている。このうち、スマートフォンからの回答は12.8%であり、インターネット回答のおよそ3世帯に1世帯に当たる。非常に高いインターネット回答率であるが、都道府県別に見た場合には沖縄県の22.7%から滋賀県の48.4%まで開きがあり、地域差が大きいのも興味深い結果である(スマートフォン回答率は東京都7.8%から滋賀県16.7%)。いずれにせよ、想定以上のインターネット回答率であり、最終的な調査結果を見ての判断にはなるが、次回以降の国勢調査でもインターネット回答が大きく推進されていくことは間違いないだろう。
しかし、一方でオンライン調査における課題も散見された。懸念されていた成りすましサイトが実際に作成されてしまった問題やインターネット回答のIDが記載された用紙が封をされずに不用意にポスティングされていたという管理上の問題、回答時に使用できない漢字がある問題など、小さなものからオンライン調査の信頼性が揺らぐような大きなものまで様々な課題があった。それらが想定の範囲内であるか、新たな対策を練る必要があるのかといったことが、次回国勢調査までに検討されていくことだろう。
繰り返しになるが、国勢調査がオンライン調査に舵を取った大きな理由の一つは、インターネット回答が増えることで調査結果の不詳が減り、より信頼できるデータを得られると考えたことにある。最近の国勢調査では配偶関係、世帯の家族類型、就業状態等の不詳が特に多くなっており、少子化の背景にある未婚率の上昇や高齢化社会の内実を把握するのに必要な高齢者の居住状態、就業状態などが正確な情報として得られなくなってしまっていた。これは現状理解の困難もさることながら、将来に目を向けると、これから多額の予算を投入して実施される予定の人口減少や地方創生に係る一連の施策によって発生してくるであろう、若年未婚率の上昇、女性の労働力率の上昇、アクティブシニアの社会参加状況の変化、若年層や高齢層の人口分布変動(東京一極集中の是正)などの様々な変化を正確に把握できないために施策の効果を測ることが困難になることにもつながりかねない。国勢調査に限らず、様々な公的調査への回答率が下がっており、調査結果に不詳が増加している背景には、プライバシー保護の潮流に加えて、年金情報流出等に見られる政府に対する信頼の低下があるように思われる。政府はこうした国民の疑念を解消するべく行動するとともに、そうした状況において最良の結果が得られるように調査の実施方法を考えていくことが求められる。恐らくオンライン調査がその一端を担っていくことだろう。平成27年国勢調査の結果がどのように集計されるのか、非常に興味深いところである。もちろん不詳が減り、調査結果の信頼性が向上すること、そして次回以降の国勢調査にもつながっていくことを一研究者として願ってやまない。