福井県立大学地域経済研究所

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地域再生とともに進化する計画文化 ― 福井の挑戦

福井県立大学 地域経済研究所 教授 フロレス漆間アンドレア百合

 福井県でも、人口減少と高齢化に伴い、空き家・空きビル・未利用地の増加が地域の持続性を揺るがす課題となっている。かつての都市計画は拡大を前提としていたが、その時代は終焉を迎え、今求められているのは、既存資産の価値を見直し、再生を通じて地域の未来を描く計画文化への転換である。

 2022年の建築基準法改正はこの流れを象徴するものであり、郊外での無制限な新築住宅は難しくなり、制度は既存建物の改修へとシフトしつつある。戦後の旺盛な建築活動は、少子高齢化と人口減少により縮小し、住宅着工数は年間約80万戸に落ち込み、空き家は900万戸を超え過去最多となった。資材高騰や労働力不足も重なり、新築依存の都市成長モデルは限界に達している。さらに、建設業は世界の温室効果ガス排出の約3分の1を占めるとされ、新築抑制とストック活用は気候変動対策としても重要である。政府は2030年度までに温室効果ガスを2013年度比46%削減、2050年にはカーボンニュートラルを目指しており、福井市も「脱炭素化行動計画(2025–2030)」を策定。福井県では、断熱改修や高効率設備導入への補助制度を通じて、既存住宅の性能向上と脱炭素化の両立を図る取り組みが進められている。これらの制度は新築にも一定の支援を含むが、空き家や既存ストックの再生を重視する政策的方向性が強まっている点が特徴的である。こうした再生重視の都市戦略は欧米でも広く共有されており、地域特性に応じた具体的な再生策が展開されている。

 スペインのパンプローナ市の団地改修プロジェクト「Efidistrict」は、エネルギー効率、社会的包摂、参加型計画の観点から、統合的な都市再生のモデルとして世界的に注目されている。断熱性能の向上により、家庭のエネルギー消費は約70%、CO₂排出量は約80%の削減が見込まれている。フランスのポー市では郊外開発ではなく既存地区の再生を進め、歩行者空間や公共広場の整備によって生活の質を向上。ルクセンブルクのエシュ=シュル=アルゼット市では旧製鉄所群を大学や文化拠点に転換し、地域再生につなげた。いずれも官民連携や新たな資金制度が後押ししている。こうした取り組みは、横断的な専門知の統合と制度的支援の柔軟性によって可能となっており、都市再生の実効性と持続性を高めている。

 このような国際的な先進事例は、福井における地域づくりにも示唆を与えている。福井では現在、国内外のグリーンボンドや企業連携などを活用した制度設計を通じて、持続可能な地域開発に向けた実践知の蓄積が進みつつある。これらの取り組みは、単なる模倣にとどまらず、地域の実情に即した計画文化の進化を促す重要な契機となるべきである。今こそ、社会全体を「拡大」や「新築依存」から「再生」へと導く、現代的で不可欠な計画文化の創出が求められている。既存の建物やインフラを最大限に活用し、空間の再編・再生を制度的に支援することで、福井は自らの手で、持続可能で強靭な地域モデルの構築に向けた歩みを着実に加速させることができる。

【参考資料】
・国土交通省「建築基準法の一部改正概要」(2022年)
・日本政府「地球温暖化対策計画」(2021年)
・福井市「脱炭素実行計画(2025–2030)」
・欧州委員会「EU Climate Action and Energy Efficiency Programs」