■吉田陽介先生による中国現地ルポNo.23 買い替え補助金が一部地方で停止⁈政策の息切れか?
家電買い替えの国の補助金が停止?
ネットメディアが騒然
昨年より、中国政府は景気浮揚策として、「下取り・買い替え」補助政策を実施し、個人消費を活性化させようとした。この政策は、3月に発表された「消費喚起特別行動プラン」も盛り込まれた。
ここ数年、わが家のクーラーは調子が悪く、買い替えを検討していた。そこに補助金政策があったので、思い切って買い替えることにした。クーラー自体は3000元くらいだったが、700元ほどの割引があった。
わが家のクーラーはインターネットで購入した。購入画面に進むとリンクがあり、そこから補助金の申請ができるという。
ただ、補助金は購入した地域のものを申請する。例えば、上海の店で買ったら、同地の補助金を申請することになる。また、補助金はいつでも好きなだけ利用できるというものではなく、3回までという制限があるそうだ。
わが家のクーラー買い替えの背中を押してくれた補助金だが、このほど、一部の地方で「下取り・買い替え」補助金の「一時停止」が発表された。この政策の「息切れ」を憶測させるものだった。
中国メディアの報道によると、5月末より、重慶市、江蘇省、湖北省などが補助金の「一時停止」された。
例えば、雲閃付(UnionPay)にある重慶の消費財「下取り・買い替え」の画面では、6月2日より、インテリア、水回り設備の買い替えの補助金を一時停止するといった通知が出されたそうだ。
6月16日にアップされた「桜桃大房子」なるセルフメディアの記事は、この理由として、第一弾の国家補助金予算を使い果たし、まだ予算が下りていないこと、補助金の申請システムのメンテナンスを挙げている。
「下取り・買い替え」補助金が「一時停止」された時期は、中国のEコマース大手「京東」の創立記念日に因んだ「6.18」販促セール行われており、消費者の購買意欲にも影響し、中国の消費促進策とも矛盾すると、同記事は指摘した。
「補助金政策は終わらない」!
公式メディアが「火消し」
周知のように、この政策は、一時的な景気刺激策の性格を持つもので、一部から「需要の先食い」で、「持続不可能」ではないかという指摘もあった。中国の経済評論家の関不羽氏は4月23日に「新浪財経」で発表した記事の中で、次のように述べた。
補助金政策の刺激が長続きするのは難しい。家電は全体的に限界的効果が明らかな消費カテゴリーに属し、補助金による消費刺激の作用は一時的なもので、特に冷蔵庫、洗濯機、テレビなどの「大型家電」は、価格がいくら安くても、家に余分なものを置くことができない。現在、補助金効果の退潮はすでに見えてきた。2025年1〜2月の冷蔵庫、テレビの国内販売は前年同期比5%程度、洗濯機は前年同期比9%増にとどまり、「大型家電」の補助金による牽引はすでに鈍化している。
この指摘の通り、わが家のクーラーもそうだが、一度買い替えたら、あと数年は買い替えの必要がなくなる。買い替え需要をある程度満たしたら、消費は鈍化することは間違いない。
日本でも、消費促進のために、直すよりは買ったほうがいいという空気が社会にあった時期もあった。もちろん、モノをどんどん消費することは、経済にとっては好ましいことだが、その一方で、買い替えを見越した質の低下という問題がある。
これを受けて、中国の主要メディアは関連記事を発表し、「火消し」を図った。「中国経済網(ネット)」は業界関係者の話を引用して、「少数の地域は段階的に「国家補助」実施のテンポを十全化していることから、実際には消費財の「下取り・買い替え」業務が一年を通じて続いている。最近、一部の企業、プラットフォーム、セルメディアはこの機会を捉えて、大げさに宣伝し、なんとしても売ろうとする営業を行なっている」として、「一時停止」が一部企業などによって、「営業の道具」になっていると指摘した。
また、6月19日付の「人民日報」の記事も、「多くの地域の関係責任部門と関係責任者を取材したところ、いわゆる「国家補助金」を廃止するという事実は存在しないことがわかった」と述べ、さらに、「今年に入ってから、消費財下取り・買い替え政策が『強化』され、また『拡大』し、携帯電話、タブレット、食器洗い機などの新品目を増やしただけでなく、計上された超長期特別国債資金規模も2倍になり、昨年の1500億元から今年は3000億元に増えた」と述べ、「下取り・買い替え」政策が当面は続くと強調した。この政策は、「対処療法」的な政策であるため、いつまで続けるか、どのタイミングでやめるかという問題はあるが、まずは消費を活性化して経済の「パイ」を拡大することに中国政府は重点を置いているようだ。
中国の消費活性化は
長期的視点で
補助金などを出して、個人消費を刺激する方法について、中国のエコノミストの洪灏氏は5月27日にWeChatアカウント「中国マクロ経済フォーラム」に掲載した記事のなかで、次のように指摘する。
「政府は消費クーポンを含む刺激策を講じたことで、短期的な消費回復を促進したものの、これらの措置は通常一過性であり、恒久的な所得増加にはつながらない。所得が持続的に増加しなければ、消費も根本的に向上することは難しい。したがって、消費と投資の区分は曖昧になり、消費不足の長期的な解決には所得構造の根本的な改善が必要だ。」
洪氏の指摘のように、商品券などの発行による刺激策は、今後の経済の先行きへの期待(予想)の悪化によって抑えられていた需要を喚起するもので、長期的なものとは言えず、景気の悪化に対して政府が何らかの措置を講じているという姿勢を見せることで、経済の先行きが決して暗くないということを示す効果は期待できる。
長期的な消費活性化には何が必要か。6月13日付の「人民日報」の評論は、以下の点を述べている。
第一に、雇用対策に一層取り組むことである。記事は、「就業は最も基本的な民生(暮らし)であり、社会の構成員が収入源を獲得する主要な手段」であるとして、消費促進と民生の改善を結びつけるには、何よりもまず就業の安定と拡大に取り組むべきとしている。
第二に、賃金所得分配制度の十全化である。記事は、「賃金収入は労働者の主な収入源である」とし、「住民所得の増加と経済成長の同期を促進し、安定した所得期待で住民の消費自信を高め、住民の消費意欲を高める」と述べている。所得分配の中で、賃金収入を増やすようにすることはもちろんのこと、「ヒトへの投資」の理念のもと、労働者の質の向上についても言及している。
第三に、社会保障網をしっかりと張り巡らすことである。記事は、「広範な住民が後顧の憂いなく消費できるようにするには、社会保障網をさらにしっかりと織り込む必要がある」として、年金制度の改革や医療保険の補助の引き上げ、フレキシブルワーカーへの社会保険加入などの措置を挙げている。
この三つの政策のうち、所得分配や社会保障については、「消費喚起特別行動プラン」でも言及されているが、消費の「主力」との一部である「00後」の雇用の見通しが明るいものにすることは大事だ。また、AIの普及によって影響を受ける業種の人々が新たしいスキルをつけて、自分の付加価値をより高める「ヒトへの投資」も重要だ。長期的な消費活性化には、こうした措置が必要だ。
「下取り・買い替え」政策の「一時停止」は目先の問題であり、「消費主導」への構造改革は長いスパンで取り組む必要がある。