ウェルビーイングの視点から見えてくるもの
福井県は、客観指標による客観的幸福度で幸福度日本一であると言われる。しかし、一人ひとりの主観的幸福感を表す主観的ウェルビーイング(SubjectiveWell-being)の観点から人々の暮らしを見つめた場合、見過ごされている課題はないだろうか?
福井県は、一般社団法人日本総合研究所が発表する全47都道府県幸福度ランキングにおいて、5回連続で総合1位と高い評価を得ている。
ただし、全47都道府県幸福度ランキングの調査結果は、各種客観指標による客観的幸福度を統計データから数値化したものであり、県民一人ひとりの主観的な幸福感、すなわち主観的ウェルビーイングを県民に尋ね反映したものではないことに留意が必要だ。
世界の幸福度に関する潮流を捉えると、人々の幸福・幸せへのアプローチのメインストリームは、主観的ウェルビーイングの測定にある。昨今、様々な国際機関・国・地域にてその実践が見られる。
例えば、国連のThe Sustainable Development Solutions Networkは、世界140ヶ国以上を対象にし、人々の主観的ウェルビーイングを測定。国レベルとしては、ブータン王国のGNH政策が有名であり、近年では、ニュージーランド、アイスランド、スコットランドなどウェルビーイングを国家運営の中心概念として据える国々が増える傾向にある。
また、日本の公共政策の現場においても、2021年に政府の重要方針に記載され、ウェルビーイングの視点を重要視する動きが高まっている。
このように人々の幸せや地域の豊かさの状況を、社会基盤に関する客観データばかりでなく、個々人の主観的ウェルビーイングの測定を通じ見える化し、その結果を公共政策に活用していくことが求められているのだ。
そこで、福井県の実施する県民アンケートにおいて、主観的ウェルビーイングに関する調査項目を追加し、ウェルビーイングの視点から福井県の地域づくりの課題と可能性を考察する調査研究をおこなった。
その一部を紹介すると、全47都道府県幸福度ランキングでは、「仕事」分野において、福井県は6回連続の全国1位。雇用領域における客観指標となる、若者完全失業率・正規雇用者率・高齢者有業率・インターンシップ実施率・大卒者進路未定者率は、軒並み全国トップクラスであり、この点から課題点は見られない。しかし、主観的ウェルビーイングの視点から調査すると、“魅力的な職場”であるかや“チャレンジできる環境”であるかなどの職場環境の質的な状況に対しては、必ずしも県民の満足感が高くない現状が見えてきた。
客観的幸福度と主観的ウェルビーイングに関する調査結果を相互比較するこ
とで、あらためて見えてくるものがある。
(本コラムは、下記の研究論文内容の一部を取り上げ編集したものとなります。)
高野翔(2023)「ウェルビーイングの視点からの福井県の地域づくりの課題と可能性―福井県県民アンケートの調査結果からの考察 ―」『ふくい地域経済研究』Vol.36.