お知らせ
地域経済研究所の専任教員1名が着任しました。
当研究所の専任教員として、地域イノベーション政策を専門とする三橋浩志教授が着任しました。新たなメンバーを加えて9名体制となりましたので、研究所の教員と研究内容を紹介するパンフレットを新たに作成いたしました。 パンフレットはこちらから。
産業立地政策はどこへ行く?
先日、東北経済産業局の半導体アドバイザリーボードの研究会で、「東北における産業立地政策の変遷と今後の政策課題について」と題した報告を行った。私と東北局との関係は、2007年に遡る。日本の産業立地政策の歴史でいえば、1997年からの「地域産業集積活性化法」に代わり「企業立地促進法」が施行された年に当たる。東北産業活性化センターの報告書で、2008年に10項目の方向性をまとめたが、第1番目に「新たな自動車産業集積地域を形成する」とした。
2000年代からのデジタル家電ブームと好調な自動車輸出に支えられて、毎年のように企業の立地件数が伸びていき、全国の工場立地件数で「第3の山」が形成された時期だった。こうした時期に「企業立地促進法」が策定されたが、2008年のリーマンショックにより、工場の閉鎖が問題になり、2009年の東北局での研究会では、企業の地域定着策についての議論が中心になった。私自身この頃、立地調整論を打ち出し、生産機能に特化した工場は閉鎖されやすいとして、マザー工場化といった工場の機能変化に着目していた。
2011年に東日本大震災が発生し、被災状況や回復過程に業種や地域による差が顕著だった点を論文で指摘するとともに、東北復興のお手伝いは今も続いている。全国的にも企業立地の低迷が続き、2017年には「企業立地促進法」に代わって、「地域未来投資促進法」が施行されることになる。そこでは、地域の中核企業による地域経済牽引事業への支援が中心に据えられたが、2019年度に東北局の調査研究に関わり、仙台北部から岩手県北上市にかけての地域に、コア技術を活かした「工場の進化」事例がみられる点に注目した。
ところで、全国的には最近、半導体産業を中心に大型投資が相次ぎ、話題になっている。東北局の研究会で、昨年12月にキオクシア北上工場の第2製造棟を見学したが、総投資額1兆円といわれる巨大設備に大変驚いた。経済産業省の「経済産業政策新機軸部会」では、国内投資案件を日本地図に示しているが、熊本県でのJASM(台湾のTSMCとソニー、デンソーなど)、三重県と岩手県のキオクシア、広島県のマイクロン、北海道のラピダスなど、半導体工場の大型投資が目を引く。また、経済産業省のウェブサイトには、「経済安保推進法に基づく半導体・先端電子部品サプライチェーンの強靱化」の名の下で、採択案件リストが公表されている。このように、国際的にも国内的にも政治に左右された立地が目立つ一方で、工場立地件数は横ばいをたどっている。「第4の山」がみえてこない中で、2017年からそろそろ10年が経とうとしている今、日本の産業立地政策の今後が気になり出している。
福井県における繊維産業集積の変化と脱炭素社会に向けた課題
福井県坂井市における中小企業振興に関する調査報告書
北陸新幹線の福井延伸に伴う地域経済・都市構造の変化と政策的対応に関する調査研究報告書(2)
福井県における地域計画の現状と課題 調査研究報告書(1)
ふくい地域経済研究第40号
■中島精也先生による時事経済情報No.115
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「人材不足」解消の新たな選択肢として
2025年2月14日に、地域経済研究所企業交流室で「ふくい企業価値共創ラボ」の修了式が執り行われ、私も、プログラム企画・運営者のひとりとして出席しました。
「ふくい企業価値共創ラボ」とは、都市部(大都市圏)で活躍している人材(以下、都市人材)を福井県の未来を担う企業とマッチングし、県内企業が抱える経営課題の解決、付加価値の向上を図ること、都市人材に関係人口、定住人口として定着してもらうことを目的とした、リカレント教育プログラムであり、地方創生プログラムです。福井県立大学(地域連携本部)、福井県(産業労働部)、福井銀行・福邦銀行(Fプロジェクト)、全国企業振興センター(アイコック)と産官学金のコンソーシアム(共同事業体)を組織し、福井で活躍してくれる都市人材の発掘、県内企業とのマッチング支援を行っています。なお、福井県立大学では、県内企業とのマッチングが成立した都市人材を、半年間(9~2月)、協力研究員に任命したうえで、週4日はマッチング先企業へ派遣し経営課題の整理・解決支援を行ってもらい、週1日は大学で教員による講義、指導、助言を提供し、マッチング先企業での支援に役立ててもらっています。
第2期目になる本年度は、都市人材(応募者)72名、県内企業(エントリー企業)7社に対してマッチングできたのは4社4名でした。都市人材側の倍率は18倍です。一方、県内企業側のマッチング成約率は57.1%ですから、高い成約率であることが分かります。つまり、企業側にとっては、高い確率で、厳選された都市人材と巡り合うことができるわけです。
さて、福井県労働局が毎月公表している「雇用失業情勢」をみると、最新(令和6年12月分)の福井県における有効求人倍率は1.91倍(全国1.25倍)で、81か月(6年9か月)連続して全国で最も高い水準になっています。ここから、長らく県内企業の人手不足状態が続いていることが分かります。福井県では、高齢者や女性の有業率が全国的に高い水準にあるため、必然的に外部(県外)に人材を求めなければならないことも多くなってきます。なお、福井県では、特に「モノを造る、サービスを提供する」といった現場で活躍する人材の不足が目立ちますが、「新規事業を創る、販路を拡大する、生産性を高める」といった経営や管理などの舵取りを行うマネジメント人材(企画構想なども含む)の不足感も増している傾向があります。
労働市場を単純に構造化すると、都市と地方の組み合わせです。労働市場は、地理的制約を受けやすいため、必然的に都市と地方との間に情報の分断や隙間が生まれます。経営学では、こうした隙間を「構造的空隙(ストラクチャルホール)」と呼びます。また、この隙間を埋めることの重要性が指摘されます。両者(都市と地方)の間に存在する隙間を埋め、橋渡しをする役割(バウンダリーキーパー)をコンソーシアムが担っているわけです。
他方「ふくい企業価値共創ラボ」はリカレントプログラムであるため、都市人材の自発的な学び直し(成人学習)を支援することも重視します。シリル・フールは、成人学習者を「目的志向(目標達成の手段として学習を位置づける)」、「活動志向(友人を見つけるなど、学習の活動の中から何かを得ようとする)」、「学習志向(知識の獲得自体に意味を見出す)」の3つにタイプ分けしました。一方で、パトリシア・クロは、成人学習の阻害要因を、制度的(教育機関が生み出している障害)、状況的(職場や家庭の環境が生み出している障害)、気質的(本人の心理的問題)の3つを提示しています。阻害要因を上回る志向性の有無が、都市人材の「ふくい企業価値共創ラボ」へのエントリーを決定づけると個人的には考えています。
そのため、プログラムの設計にあたっては、制度的な阻害要因の解消を意識するとともに、先天的、後天的はともかくとして、3つの志向性(目的、活動、学習)が高まるように工夫もしています。
第2期では、4名(60歳代2名、50歳代1名、30歳代1名)の都市人材・協力研究員が無事にプログラムの修了を迎え、今後もそれぞれマッチング先企業の支援を継続することが決定しています。その意味で、本プログラムの目的(リカレント教育と地方創生)は達成できたのではないかと評価しています。
人材不足解消策の新たな選択肢として「ふくい企業価値共創ラボ」も加えてみてはいかがでしょうか。
■中島精也先生による時事経済情報No.114
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