福井県立大学地域経済研究所

2014年

  • 生活衛生関係営業とは(その現状と課題)

    地域の中でなくてはならない事業の一つに生活衛生関係営業とよばれる業界がある。なんとなく聞きなれない言葉ではあるが、実はこの業界、これまで生活者と密接な関係を持ち地域経済の基盤を支え続けた業界であり、一般には、宿泊業・飲食サービス業(旅館・ホテル、料理業、寿司商、麺類業、喫茶飲食業、飲食業、社交飲食業、氷雪販売業、食肉、中華料理…)と生活関連サービス業・娯楽業(理容業、美容業、クリーニング業、公衆浴場、興行…)など18業種を指して言われている。

    ところで、これらの業界の動向を昨年公表された平成24年経済センサス活動調査から眺めてみると、その売上規模(但し、必要な事項の数値が得られた事業所を対象として集計した数値のみ)は、全国で宿泊業・飲食サービス業が19兆8,933億円、生活関連サービス業・娯楽業が36兆8,581億円にのぼり、北陸3県では、宿泊業・飲食サービス業が、富山県1,535億円、石川県2,064億円、福井県1,180億円で全国の2.4%(総計4,779億円)を、生活関連サービス業・娯楽業が、富山県3,008億円、石川県3,106億円、福井県1,689億円で全国の2.1%(総計7,803億円)を占め、ほぼ北陸3県の経済規模に匹敵する水準にあることが見て取れる。

    しかし、その経営環境を眺めてみると、極めて厳しい状況にあることは言うまでもない。例えば、福井県の場合、前述の平成24年経済センサス活動調査によると、域内にある全事業所数42,918件、全従業者数375,215人のうち、宿泊業・飲食サービス業が5,403件で従業者数33,231人、生活関連サービス業・娯楽業が3,594件で同15,500人、両業界を合わせると、事業所数で全体の21.0%、従業者数でも13.0%を占めているが、全体としてその規模は縮小傾向にあることがうかがえる。また、1事業所当たり売上高も、宿泊業・飲食サービス業が、全国の3,873万円に対し、福井県はその53.6%の2,074万円、生活関連サービス業・娯楽業が、全国の9,862万円に対し、福井県のそれは56.9%にあたる5,611万円に過ぎない。つまり、この業界、全体としては全国に比べじり貧状態にあるとみても過言ではない。

    こうした中、本学地域経済研究所が昨年9-10月に実施したアンケート調査(回答企業数205社)によると、同業界のここ2から3年の売上高は、回答企業の65.3%が「減少傾向」にあると答え、その中で30.7%が「自分の代で事業を閉じる」と答えるなど、極めて悲観的な業界であることがわかった。

    時代の変化とともに、ビジネスモデルも変化する。その中で、生活衛生関係営業の多くの企業が淘汰されていくのも仕方ない。しかし、その半面、時代の潮流とともに息を吹き返す事業、求められる事業があってもいいはずだ。例えば、進展する超高齢化社会の中に生活衛生関係営業の幾つかの業種がベストマッチングしてはいないか。同業界を何とか次の時代に繋ぎたい。その支援策はないものか。例えば、同業界の企業の中に暖簾を次の時代に継がしたいニーズ(経営者側)があるのなら、自立したい人(起業化したい若者)とのマッチング、いわゆる「柔軟なM&A」を試作として支援できないものか。そして、業界内に新しい風(人、モノ、金、情報…)を吹き込んで、何かしら夢、希望の持てる業界に変身させたいものである。

    注:本文は、著者が定期的に寄稿している株式会社帝国データバンク「TDBレポート」への寄稿文を加筆修正したものである。

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  • ふくい地域経済研究第18号

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  • 北陸工作機械メーカーの国際化の課題

    日本における北陸の工作機械メーカーの存在感は大きい。全国の工作機械出荷額に占める北陸のシェアは1割強で、全国製造品出荷額に占める北陸のシェア2.7%と比べて4倍近いシェアを誇る。その工作機械産業は、長い間、構造不況業種といわれ、受注の多くを海外需要に求めてきた。日本工作機械工業会の調べでは、全受注額に占める外需(輸出)比率は、1990年26%から年々上昇し、2012年には69%に達している。今後を展望しても、国内需要の拡大は見込めないほか、日本企業の海外生産シフトや為替リスクの回避などで、工作機械業界の国際化はいっそう進展する方向にある。

    しかし、日本の工作機械メーカーを取り巻く国際環境をみると、韓国、台湾、それに中国が着々と力を付けてきており、海外市場での競争は年々厳しさを増している。工作機械は部品のすり合わせが重要で、かつ主軸など高度な技術を要するコア部品を内製化する必要性から、部品を外部から調達して組み立てるだけのアジア勢に市場を奪われることはないと静観しているわけにはいられない。事実、アジア市場では低価格を武器に攻勢をかけるアジア勢の台頭で、工作機械の低価格化が急速に進み、日本企業のシェアは後退している。

    特に中国では、経済成長と産業発展によって工作機械の需要は急激に拡大し、中国工作機械メーカーの生産額は飛躍的に上昇、2009年には生産額で日本を追い越し、世界最大の生産国となった。今後、中国の国内市場が飽和状態に近づけば、家電製品のようにアジアなど低・中価格帯市場へ輸出を伸ばしてくることは間違いない。

    こうした動きに、北陸工作機械メーカーも黙ってみているだけではない。松浦機械製作所は、アジア市場を米欧と並んで重要市場と位置付け、「低価格の立形MCを用意しなければ高級機種に移行する顧客まで失う」との危機感から、台湾から調達したOEM機に自社製の高品質な主軸などを搭載し、従来機種に比べ価格を3から4割抑えた新機種の販売に踏み切った。高松機械工業も、中国杭州市に設立した子会社がこれまで中国で製造、販売していた低価格機種を今後東南アジアまで販路を広げるために中国での生産体制を強化したほか、本社では日本初のグローバルエントリーモデルを開発、製造し、今年4月から販売する。

    日本の工作機械メーカーは、追随するアジア勢に対して、高精度、高効率、高速度、小型化による高付加価値化あるいは生産工程の自動化・省力化による差別化ですみ分けを図るのも大事であるが、ボリュームゾーンである低・中価格帯市場への参入も必要である。工作機械は、すり合わせの技術が重要であるため、モジュール化は馴染まないと考えている人は多い。しかし、中国の自動車業界では、日系メーカーまでが、自動車をいくつかの複合部品に分けた生産体制を構築(モジュール化)し、部品の共有化を推進する動きが始まっている。日本の工作機械業界においても、国際競争力の強化あるいは高収益体質への転換に向けて、モジュール化と部品の共有化に取り組むことが求められているといえよう。

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  • 協働のまちづくり

    協働型のまちづくりを推進するに当たって、行政側の関与のあり方や姿勢が問われることが多い。一方で、住民側にも一定の組織化や意識改革が必要である。本コラムでは、住民に求められることを中心に、協働のまちづくりに向けた課題について考えてみたい。


    地域代表としてのまちづくり協議会


    まちづくりの推進団体としてはまちづくり協議会が代表的である。まちづくり協議会を中心とした協働のまちづくりが成功しているところでは、いずれも十分な時間をかけてその組織を熟成させている。

    まず、まちづくり協議会について行政が、条例等で自治会や各種団体との関わりを明確に位置づけている。その上で、まちづくり協議会がまちづくりに関わる各種団体等を束ね、様々な経験を共有し積み重ねることによって、地域住民からの信頼を得ていき、そして、まちづくりに関して地域を代表する団体として住民から認知されるのである。

    行政のバックアップのもと、粘り強く継続した取組こそが、協働のまちづくりに向けた唯一の近道である。


    当事者意識を持つ


    まちづくりは、行政からの押しつけや住民からの一方的な要望では成り立たない。また、行政は公平・平等が原則であり、個性的なまちづくりが求められるなか、オーダーメイド型の対応には不向きである。そこで、地域の課題を地域に任せるという発想が生まれてくる。まちづくりに向けた試行錯誤の過程で、課題や改善点が明確になり、行政との連携もとれるようになる。まちづくりは「トライ&エラー」ができる分野である。

    地域の課題には、まずは日頃からその地域に関わり考えを持っている住民が対応する。利害関係を調整し、公共性にも留意しつつ、まちづくり協議会等の組織が中心となって、合意形成を図る。ハード面など住民だけでは解決できない部分や、市一律で取り組んだ方が効果が高い分野を行政がカバーする。お互いの役割を理解した上で助け合う、協働型のまちづくりに意識を変えていく必要があり、住民はなにより、まちづくりの当事者としての自覚が求められる。


    小さなことの積み重ねから


    まちづくりという言葉は、誰でも簡単に使える言葉である。しかしながら、範囲の捉え方は様々であり、「私には関係ない」とか「地域活性化のような大それたことはできない」などと捉えられがちである。しかしながら、まちづくりは本来、身近なものであり、難しく考える必要はない。花の手入れや見守り活動など、「地域のためになる、地域の人に喜ばれる小さいことの積み重ね」が住みよいまちを作る第一歩である。日頃の楽しい活動の延長が、自然とまちづくりにつながっていくのである。

    注)本コラムは、坂井市「広報さかい(平成25年12月号)」に掲載されたインタビュー記事をもとに、筆者が作成したものである。

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